本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』(ティモシー・テイラー)

 お薦めの本の紹介です。
 ティモシー・テイラーさんの『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』です。

 ティモシー・テイラー(Timothy Talor)さんは、経済学者、編集者です。
 アメリカ経済学会発行の雑誌の編集に携わられるかたわら、全米各地の大学で経済学の講義も担当されています。
 スタンフォード大学の経済学入門の講義で“学生が選ぶ最優秀講義賞”を獲得されるなど、「話のできるエコノミスト」としてご活躍中です。

経済学を学ぶと、「世の中のしくみ」が見えてくる!

 本書の監訳者・池上さんは、経済学の基礎を知れば、世の中のしくみが見えてくると、経済学を学ぶ意義を強調します。

 マクロ経済学の「マクロ」とは巨視的な味方のこと。単にミクロ経済学を大きくしたものではなく、経済全体を大づかみにする学問です。
 個々の企業や人びとの経済活動を分析するのがミクロ経済学ですが、そうした個々の活動の集大成の結果、一国の経済や世界経済は、思わぬ動きをすることがあります。それを分析するのがマクロ経済学です。
 この本でとり上げられる例はアメリカのものですから、日本とは少し事情が異なる場合もあります。たとえば「リセッション(景気後退)」についてです。
 この本では、GDPの減少が景気後退つまり不景気とされていますが、日本では、かならすしもそういう用語の使われ方はしていません。経済の潜在成長率(本来の成長する力)を下回っているだけで、景気後退や不況と呼ばれます。
 つまり、GDPが減少する場合だけでなく、増加していても、それが期待ほどではないと、日本では不況と呼ばれるのです。

 経済学を学ぶと、世間に流れている俗説の誤りを知ることもできます。
 たとえば「アメリカの経済赤字は、アメリカ製品を締めだして自国の安い製品を売りつけてくる不公平な貿易のせいだ」という意見がありますが、これは正しくありません。その理由についてはこの本をお読みいただくとして、こうした俗説に惑わされなくなるのが、経済学を学ぶメリットでしょう。
 同様に、保護貿易にも経常赤字を減らす効果はありません。日本ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加が大きな政治問題になっています。農業が保護されなくなると、日本の農業は壊滅的な打撃を受けると主張する人たちがいます。
 さて、どうなのか。著者は、国内の未熟な産業を守るために高い関税をかけるなどの保護貿易政策をとったことによって、かえって産業が衰退してしまった具体例を提示しています。
 その一方で、特定の産業を保護する手法を工夫することによって、保護した産業を強化した例も紹介しています。さて、日本の農業は、どちらなのか。経済学を学ぶと、こうした難問について、自分なりの解答を示すことができるようになるのです。

『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 監訳者まえがき より ティモシー・テイラー:著 池上彰:監訳 高橋璃子:訳 かんき出版:刊

 グローバル化が進み、国の枠組みを超えた交流が進む、今の世の中。
 世界全体を、ひとつの大きな経済圏ととらえることの重要性が、ますます高まっています。

 本書は、私たちの生活にも密接に関わる、マクロ経済学の基礎をわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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GDPは経済の大きさを測る道具

 マクロ経済学とは、経済全体を1つの生きものとして捉える俯瞰的な見方のことです。

 マクロ経済学を語るうえで、理解しておかなければならないのが、「GDP(国内総生産)」です。

 GDPは、1年に生産(供給)された最終生産物の総額と定義されます。1年間に国全体でどれだけのものが生産され、売られたかということです。
 一方でGDPは、消費(需要)の面から定義することもできます。1年間にどれだけのものが買われたかということです。
 売られたものと買われたものの総額は等しくなるはずなので、どちらの面から見てもGDPは同じということになります。
 例をあげると、2009年のアメリカのGDPは14.2兆ドルでした。
 これを生産の面から見ると、まず66.2%がサービス、次に13.4%が耐久財(冷蔵庫や自動車など)、同じく13.4%が非耐久財(食べものや衣服など)、そして7.7%が構造物となっています(足し算すると100%を超えますが、これは生産物の約1.1%が売られずに在庫に回されるためです)。
 生産物というとふつう、工場でつくられるような形のあるものがまず頭に浮かびます。しかしそれ以外にも、医療や教育、法律相談、散髪、自動車修理、芝刈り、掃除、保育など、多種多様なサービスが生産物に含まれます。
 実際、サービスはアメリカ経済の半分以上を占めているのです。アメリカがサービス経済であるといわれるゆえんです。GDPのなかでサービスが占める割合は、ここ数十年でどんどん伸びてきています。

 今度は需要の側から見てみましょう。
 2009年のGDPの70%は、個人消費で占められています。また、11%が、企業の設備投資となっています(設備投資は年によって大きく上下する傾向があります)。
 一方で政府支出は、GDPの21%を占めています。
 GDPの3分の1が地方や国の税金として納められていること考えると、21%という数字は少なすぎるように思えるかもしれません。しかしこの数字は、政府の直接的な支出だけを指すものです。たとえば社会保障で人びとに給付するお金などです。
 GDPの残りの部分を占めるのは、輸出入です。輸出は国内で生産されたものを海外に売ることで、輸入は海外でつくられたものを国内で買うことです。輸出は国内でつくったものが売れることなので国内の需要にプラスされますが、輸入の分は国内の需要から差し引くことになります。

『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 第1章 より ティモシー・テイラー:著 池上彰:監訳 高橋璃子:訳 かんき出版:刊

 需要から見たGDPを簡潔に表したのが、下の式です。

 GDP = C(消費) + I(投資) + G(政府支出) + X(輸出) − M(輸入)

 あらゆる人間の活動は、大なり小なり、金銭のやりとりを伴うものです。
 生産(供給)や消費(需要)の伸びは、その国の活力を、ダイレクトに伝えてくれます。

 GDPが、経済規模を表す指標として、最も重要視されるのは、そんな理由からなのですね。

「年間成長率」のわずかな違いが、驚くほどの大きな差を生む

 経済の年間成長率は、「前年度のGDPと比較して、今年度のGDPがどれだけ伸びたか」で示されます。

 テイラーさんは、年間成長率のわずかなちがいが、何十年後もの先の生活水準を大きく左右すると述べています。

 預金が複利で増えていくのと同じように、経済の規模も複利で増えていくのです。
 具体的な数字で考えてみましょう。
 ある国の経済成長率が、年間1%だとします。計算を簡単にするために、現在のその国のGDPを100としておきましょう。単位はある仮想の通貨です。
 10年間経済成長をつづけると、この国のGDPは110になります。複利の効果はまだそれほど目立ちません。ですが、25年後には128になり、40年後には149になります。なかなか大きな数字です。しかし、圧倒的に大きいというわけではありません。

 それでは下の表(下図を参照)のように年間の経済成長率が3%だとしたら、どうなるでしょうか。
 3%というのは、ここ20〜30年間のアメリカの平均的な経済成長率とほぼ同じです。10年後、100だったGDPは134に増えます。25年後には209になり、40年後には326になっています。
 年間3%の成長をつづけると、40年で経済規模が3倍以上になるのです。
 複利の効果が、大きな差を生むということです。

 つづいて年間経済成長率が5%だとしたら、どうでしょうか。
 アメリカで非常に景気がいい年には、そのくらいの数字になることがあります。また、ブラジルやメキシコなど、5%程度の成長を継続的につづけてきた国も少なくありません。
 経済成長率を5%として計算すると、100だったGDPが10年で163に増えます。25年後には339になり、40年間そのペースで成長を続けると、GDPは704になります。40年で実に7倍になるのです。

 さらに年間の経済成長率が8%の場合も考えてみましょう。
 8%というのは、そう簡単に達成できる数字ではありません。少なくとも長期にわたって8%の成長をつづける国はほとんどないでしょう。1960年代から1970年代にかけての日本や、ここ30年間の中国くらいのものです。
 しかし、仮にGDP100の国が年間8%の成長をつづけたとすると、10年後のGDPは216になります。ほんの10年で2倍です。25年後には685となります。若者が中年になる程度の期間で、経済規模が7倍になるわけです。
 仮にそのままの成長を40年後までつづけたとすると、100だったGDPは2172にふくれあがります。新入社員が定年を迎えるまでの期間で、国の経済が22倍もの成長を遂げるわけです。そうなると、人びとの暮らしは劇的に変わっているはずです。

『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 第2章 より ティモシー・テイラー:著 池上彰:監訳 高橋璃子:訳 かんき出版:刊

GDPを100とした場合の経済成長シミュレーション 第2章P28
図.GDPを100とした場合の経済成長シミュレーション
(『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 第2章 より抜粋)

 8%の経済成長を、40年続ける。
 すると、GDPが、22倍にまで膨れ上がります。

 複利の力の威力が、わかりますね。

 日本の戦後復興期から高度経済成長期にかけての発展。
 それが、いかに猛烈なものだったのかも、知ることができます。

 まさに「奇跡の復興」と呼ぶにふさわしいですね。

インフレ率が高く不安定になると、経済が行き詰まる

 マクロ経済を語ると、必ず話題となるのが、「インフレーション(インフレ)」です。

 インフレとは、物価が上昇している状態で、とくに継続的に上昇し続けたり、上昇率が加速している状況のこと。

 インフレは、物価に対する貨幣の価値を、相対的に下げます。

 例えば、5%のインフレが起こった場合。

 それまで1000円で買えたものが、1005円出さなければ、買えなくなります。
 これは、「貨幣価値が5%下がった」ことと、同じ意味です。

 ところで、なぜインフレはよくないのでしょうか。
 こんなことを問うのは経済学者だけかもしれません。誰だって商品の値段が高くなるのは嫌だからです。でも、本当にそうでしょうか。
 もしかしたら、インフレは悪いものではないかもしれません。世の中のあらゆるところで同時にインフレが起こったら、誰も困らないのではないでしょうか。
 たとえばお金の妖精がやってきて、一夜のうちにあらゆる財布の中身を2倍に増やしたとしましょう。人びとの財布だけでなく、銀行預金も、お店のレジも、給料も、お金のかかわるところすべてで、金額が2倍になるのです。
 そうなると翌朝目を覚ました人びとは、財布の中身を見て大喜びするでしょう。
 人びとはさっそく買い物をしようと街に繰りだします。しかし、お店もやはり、お金が2倍に増えたことを知っています。だから商品の値札をすべて2倍に書き換えます。
 この場合、すべての人の所持金が2倍に増えたわけですが、前日とくらべて暮らしが楽になったり、苦しくなったりすることはありません。

 この話のポイントは、物価、賃金、金利、預金などあらゆる価格がいっぺんに上昇し、それを誰もが知っているとしたら、誰も困らないということです。
 しかし現実には、インフレはすべてのお金にまんべんなく起こるわけではありません。この先物価がどれくらい上がるかを、完全に予測することもできません。
 インフレの影響を具体例で考えてみましょう。
 たとえば、5%の固定金利で住宅ローンを組み、インフレ率が10%に上がった場合、返済はかなり楽になります。お金の価値が下がっているので、同じ金額でも比較的小さな負担になるのです(ちなみに固定金利の借金といえば、政府が誰よりも多くの借金を抱えています。インフレが大幅に進めば、政府の借金〈国債〉も実質的に少なくなります)。
 反対に5%の固定金利でローンを組み、インフレ率が1〜2%だった場合、貸し手である銀行が得をします。また現金をたくさん持っていて、引きだしの中に隠しているような人は、インフレによって損をします。
 インフレ率が比較的低くても、長期的に見れば大きな差が生まれます。
 そのため、インフレ率に応じて価格を調整するしくみがあります。これをインデックス化といいます。
 たとえば変動金利の住宅ローンを組むと、インフレ率に応じて利率が上下します。
 変動金利型の国債も、インフレ率によって支払われる金額がちがってきます。
 また、労使協定によって、物価が上がったら賃金を自動的に引き上げるという取り決めを結ぶこともあります。生計費調整(COLA)と呼ばれる制度です。
 生計費調整のしくみは、社会保障にもとり入れられています。
 消費者物価指数に合わせて、給付額が上下するのです。こうしたインデックス化には、インフレから人びとの暮らしを守る効果があります。

 インフレが急激に進むと、市場がうまく機能しなくなることがあります。
 長期的な生産性の上昇が見込めなくなるからです。さらにインフレ率が1ヶ月に20〜40%に達すると、ハイパーインフレと呼ばれるようになります。
 第一次世界大戦後のドイツでは物価が一気に跳ね上がり、空前のハイパーインフレとなりました。1980年代にはアルゼンチンやイスラエル、ボリビアで、また2000年代にもジンバブエでハイパーインフレが起こっています。

『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 第4章 より ティモシー・テイラー:著 池上彰:監訳 高橋璃子:訳 かんき出版:刊

 日本は今、物価が下がる状態、デフレーション(デフレ)で苦しんでいます。
 その状況を打破すべく、政府が主導し、インフレ2%目標に向けて、さまざまな施策を行っています。

 その裏には、膨大な国の借金(国債)を少しでも減らしたい、という思惑もあります。

 インフレ2%ということは、貨幣の価値が2%減るということ。
 銀行に預けたままのお金は、実質的な価値が、毎年2%ずつ減っていく計算になります。

 私たちは、そういった事情も踏まえて、資産運用を考える必要がありますね。

「自由貿易」はすべての国にメリットがある

 多くの経済学者は、自由貿易を支持しており、テイラーさんもその一人です。

 貿易によって利益が生まれる。
 そのしくみは、大きく以下の3つのタイプに分けられます。

  • 絶対優位
  • 比較優位
  • 長期的な優位

 この中の「比較優位」について、テイラーさんは以下のように説明しています。

 比較優位というのは、その国の強みがもっとも生かせるのはどこか、あるいはその国の弱みがもっとも小さくなるのはどこかという考え方です。
 簡単なたとえ話で考えてみましょう。
 私が2つの仕事を兼業でおこなっているとします。経済記事の編集と、メモをパソコン入力する仕事です。私には秘書がいて、どちらの仕事についても秘書より私のほうがすばやくできると仮定します。私は経済記事の編集とパソコン入力の両方に絶対優位性を持っているわけです。このとき、私は両方の仕事を自分でやるべきでしょうか。
 もちろん、そんなことはありません。
 経済記事の編集について、私は秘書よりずっと効率的に仕事ができます。しかし、パソコン入力に関しては、私と秘書の差はそこまで大きくありません。
 時間は有限ですから、パソコン入力の仕事は秘書にまかせて、編集の仕事に専念したほうが全体的な生産性は大きくなります。自分がもっとも得意な仕事に時間を使い、ほかの人がやってもそれほど変わらないこと他人に任せればいいのです。
 これをアメリカとメキシコのたとえで考えてみましょう。
 メキシコと比較したとき、アメリカはコンピュータの生産が非常に得意で、織物の生産がそこそこ得意だとします。どちらについてもアメリカのほうが生産性は高いのですが、コンピュータのほうが生産性の差が大きいと仮定します。
 このとき、アメリカはコンピュータと織物の両方を自分の国で生産して、メキシコとはまったく取引しないほうがいいのでしょうか。
 先ほどのたとえと同じように考えれば、そうではないことがわかります。
 アメリカがコンピュータの生産に専念し、メキシコが織物の生産に専念したほうが、全体的に生産性は大きくなります。
 そして、できあがった生産物をおたがいに交換すれば、どちらの国も豊かになれます。

『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編』 第14章 より ティモシー・テイラー:著 池上彰:監訳 高橋璃子:訳 かんき出版:刊

 自国の得意分野を、さらに発展させ、経済成長をうながす。
 自由貿易には、そのようなメリットがあります。

 先進国だけでなく、発展途上国も、その恩恵を受けます。
 とくに日本は、国内需要の伸びが期待できませんから、輸出に活路を見出すことが求められますね。

 どれだけ多くの国々と、Win−Winの経済関係を保てるか。
 それらが、日本の将来に大きな影響を与えることは、間違いありません。

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 長引く景気の低迷、相次ぐテロ行為、難民問題。
 それらの影響で、多くの国が輸入を制限する保護貿易政策に、舵を切りつつあります。

 しかし、テイラーさんは、自由貿易に向かう流れはそう簡単に止まらないとおっしゃっています。

 今後、ますます一体化していく、世界経済。
 他国で起こったことも、「対岸の火事」では、すまされません。

 新聞やニュースを読み、「この記事の経済に与える影響は何か」を、より深く分析する。
 そのためには、マクロ経済学の知識は、欠かすことはできません。

 本書と『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 ミクロ編』は、そのための入門書として最適です。
 ぜひ、お手にとってみてください。

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