本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『第四次産業革命』(クラウス・シュワブ)

 お薦めの本の紹介です。
 クラウス・シュワブさんの『第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来』です。

 クラウス・シュワブ(Klaus Schwab)さんは、ドイツ出身の経済学者です。
 公的機関と民間企業の協力を通して社会課題の解決を推進する国際機関「世界経済フォーラム」の創始者で、現在は会長を務められています。

世の中を根本から変える「第四次産業革命」

 現在、私たちは、あらゆる分野において、大変革の時代に直面しています。

 この大変革は人類がこれまで体験したことのない、規模、範囲、複雑さを伴うものです。
 シュワブさんは、まさに「第四次産業革命」と呼ぶにふさわしいものとなると指摘します。

 だが、私たちはいまだにこの新しい大変革のスピードと広がりを十分に理解できていない。数十億人がモバイル機器で互いに接続可能になったときの、無限の可能性を考えてみてほしい。かつてない処理能力や保存容量、情報や知識へのアクセスがモバイル機器によって実現するだろう。あるいは、エマージングテクノロジー(先端的技術)のブレイクスルーが大量に同時発生していることに思いを馳せてほしい。少し例を挙げるだけでも、人工知能(AI)、ロボット技術、インターネット・オブ・シングズ(IoT)、自動運転車、3Dプリンタ、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、材料科学、エネルギー貯蔵、量子コンピューターなどブレイクスルーは多様な領域に広がっている。これらイノベーションの多くは初期段階にある。だが、現実世界やデジタルの世界、生物学的世界のあちこちで技術が融合し、互いを強化かつ増強しながら、すでに開発は変曲点に達している。
 私たちは新しいビジネスモデルの出現、従来モデルの破壊や生産、消費、輸送、配送システムの再編成に示されるような、あらゆる産業にわたる根本的転換に直面している。社会では、働き方やコミュニケーションの方法、さらには自己表現や学習、気晴らしの方法についても、パラダイムシフトが進行している。教育、医療、輸送の各システムと同様に、政府機関や関係機関も一様に変わりつつある。テクノロジーを使って人間行動や生産と消費のシステムを変えるという新しい方法は、負の外部性という形で隠れたコストを生み出すのではなく、自然環境の再生や環境保全を支援する可能性がある。
 現在起きている変化は、その規模、スピード、範囲のいずれから見ても歴史的なものだ。
 エマージングテクノロジーの開発と実行は極めて大きな不確実性を伴うため、こうした産業革命によって推進される大変革がどの程度起きるかまだわからない、だが、それは複雑で分野を越えて相互に関連するため、グローバル社会のステークホルダーである政府や産業界、学会、市民社会は互いに協力し、新たなトレンドをよりよく理解する責任を負っている。
 共通の目標や価値を反映する「共通の未来」を築くとき、とりわけ重要になるのが理解の共有である。テクノロジーが私たちの生活や将来の若い世代の生活をどのように変えつつあるのか、テクノロジーは私たちの生活の基盤である経済、社会、文化、人間関係の形をどのように作り変えつつあるのか、包括的かつグローバルに共有された展望を持つ必要がある。

『第四次産業革命』 はじめに より クラウス・シュワブ:著 世界経済フォーラム:訳 日本経済新聞出版社:刊

 本書は、第四次産業革命とは何か、何をもたらすのか、私たちにどのような影響をおよぼすのか、わかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「第四次産業革命」とは何か?

 人類は、過去に三度の「産業革命」を経験しています。

 第一次産業革命(1960年代〜1840年代)は、蒸気機関の発明と鉄道建設とによりもたらされ機械による生産の到来を告げるものでした。

 第二次産業革命(19世紀後半〜20世紀初頭)は、電気と流れ作業の登場によってもたらされ、大量生産を可能にしました。

 第三次産業革命(1960年代〜1990年代)は、半導体、コンピューターの開発とインターネットによって推進され、「デジタル革命」とも呼ばれています。

 私たちが今、入り口に立っている、「第四次産業革命」を特徴づけるもの。
 それは、これまでとは比較にならないほど偏在化しモバイル化したインターネット、小型化し強力になったセンサーの低価格化、AI、機械学習です。

 コンピューターのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークを中核とするデジタルテクノロジーは、第三次産業革命で大きく発展したものであり、目新しいものではないが、より高度で統合されたものとなりつつあり、その結果として社会やグローバル経済を変容させている。これこそが、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソン教授とアンドリュー・マカフィ教授がこの期間のことを「第二機械時代(セカンド・マシン・エイジ)」と名づけた理由だ。彼らは2014年に『ザ・セカンド・マシン・エイジ』を刊行し、その中で現在の世界は、自動化と「これまで存在していなかったモノ」も作れるようになったことによって、これらのデジタル技術の影響が「最大限」に現れる変曲点に立っている、と述べている。
 ドイツでは「インダストリー4.0」に関する議論が展開されている。これは、2011年のハノーバー・メッセで、インダストリー4.0がグローバルなバリューチェーン構築にどのような大変革を起こすかを説明するために造られた言葉だ。いわく、インダストリー4.0は「スマートファクトリー」によって、仮想的な生産システムと現実の生産システムとがグローバルかつ臨機応変に互いに協力する世界を構築でき、これにより製品の完全なカスタマイズ化と新たな経営モデルの創出が可能になるという。
 だが、第四次産業革命は、相互接続されたスマートな機械やシステムのことだけに限定される話ではない。範囲ははるかに広い。いま遺伝子配列解析からナノテクノロジー、再生可能エネルギー、量子コンピューターに至る分野で新たなブレイクスルーの波が同時に起きている。第四次産業革命がこれまでの産業革命とは根本的に異なるのは、これらのテクノロジーが融合し、物理的、デジタル、生物学的各領域で相互作用が生じたことである。
 第四次産業革命ではエマージングテクノロジーと幅広いイノベーションが、これまでの産業革命をはるかに凌駕する速度と範囲で普及している。世界の一部では、これまでの産業革命がいまだに進行中のところもあるにもかかわらずだ。いまだ世界人口の17%、約13億人は電気を利用できないため第二次産業革命を十分に経験してさえいない。第三次産業革命についても同じことがいえる。インターネットにアクセスできない人が40億人(世界人口の半分強)もいて、ほとんどが発展途上国に住んでいる。紡績機(第一次産業革命の代表的発明)がヨーロッパ外に普及するのに約120年かかったが、インターネットが世界中に浸透するのに10年もかからなかった。

『第四次産業革命』 1章 より クラウス・シュワブ:著 世界経済フォーラム:訳 日本経済新聞出版社:刊

 次々と、新しいイノベーションが発明される。
 そして、それらが結びつきながら、進化していく。

 それが「第四次産業革命」の実態です。

 世の中が、たった数年で、誰も予想できないほど、劇的に変化する。
 私たちは、そんな歴史的な大改革のさなかに生きています。

今後10年で起こりうる「21のティッピング・ポイント」

 第四次産業革命で生み出されるであろう、数々の実用的な技術・イノベーション。
 それらは、具体的に、私たちの生活を、どのように変化させるのでしょうか。

 2015年9月に公表された世界経済フォーラムの報告書は、将来のデジタルでハイパーコネクティビティな世界を形成する「21のティッピング・ポイント」(特定の技術的変革が社会の主流を転換させる瞬間)を明らかにしている。それらのティッピング・ポイントはすべて、今後10年以内に起きると予想されており、第四次産業革命が引き起こしたディープシフトを鮮やかに捉えている。ティッピング・ポイントは、世界経済フォーラムの「ソフトウェアと社会の未来に関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」(Global Agenda Council on the Future of Software and Society)が行った調査により明らかにされたものだ。この調査には、情報通信テクノロジー分野の800名を超える企業役員や専門家が参加した。
 表1(下表1を参照)は、2025年までに当該ティッピング・ポイントが起きると予想した回答者のパーセンテージを示している。巻末の付章では、各ティッピング・ポイントとそのプラスの影響およびマイナスの影響を詳しく述べた(付章には表1にはないデザイナーベビーとニューロテクノロジーが追加してある)。
 これから待ち受ける大きな変化の先触れであるこれらのティッピング・ポイントは、私たちに重要な背景情報を提供してくれるとともに、最善の準備・対応方法も示してくれる。これらのティッピング・ポイントは体系的な性質を持つので、変化は増幅される傾向がある。次章で検討するように、こうした変革を突き進むためにまずしなければならないのは、現在進行中の転換と今後起こる転換を理解することに加え、グローバル社会の全レベルに対する影響を認識することである。

『第四次産業革命』 2章 より クラウス・シュワブ:著 世界経済フォーラム:訳 日本経済新聞出版社:刊

表1 2025年まで起こると予想されるティッピング ポイント 2章P43
表1.2025年まで起こると予想されるティッピィング・ポイント
(『第四次産業革命』 2章 より抜粋)

 どれも、本当に2025年までに起きるのか、信じられないものばかりです。
 しかし、その道の専門家の多くが「実現する」というのですから、その確率は高いでしょう。

「3Dプリンタ」と製造業の今後

 本書では、表1の「21のティッピング・ポイント」を、それぞれ個別に解説しています。

 ここでは、「3Dプリンタによる自動車第1号の生産」を取り上げます。

ティッピング・ポイント:3Dプリンタによる自動車第一号の生産
2025年までに:回答者の84%がこのティッピング・ポイントが到来すると予想

 3Dプリンタ(付加製造)は、デジタル3Dの図面またはモデルから積層印刷することにより、物理的なオブジェクトを造形するプロセスである。一斤のパンを一切れずつ作るところを想像してみてほしい。3Dプリンタでは、複雑な装置がなくても、非常に複雑な製品を制作することができる。いつの日かプラスチック、アルミニウム、ステンレス、セラミックス、さらには高度な合金など、多様な素材が3Dプリンタで使用され、かつては完成に工場全体が必要だったことを3Dプリンタでできるようになるだろう。3Dプリンタは、すでに風力タービンから玩具の制作まで、さまざまな用途に利用されている。
 そのうち、3Dプリンタは、スピード、コスト、サイズといった障害を克服し、さらに普及するだろう。ガートナーは、3Dプリンタのさまざまな性能とその影響を段階的に示した「ハイプ曲線」チャート(図Ⅵ、下図を参照)を作成した。「啓蒙の坂」にさしかかったときに最もビジネス用途がプロットされている。

プラスの影響

  • 製品開発が加速
  • 設計から製造までのサイクルの短縮
  • (以前は不可能または困難だった)複雑な部品を簡単に製作
  • プロダクトデザイナーを用いて学習・理解を促進する教育機関の登場
  • 創作、製造能力の大衆化(いずれもデザインのみに制約がある)
  • コストと最小製造量を減らす方法が見つかることで、従来の大量生産でも課題に対応できる
  • さまざまなオブジェクトを印刷するためのオープンソース「計画」が発展する
  • 印刷素材を供給する新産業の誕生
  • 宇宙空間での起業機会の増加
  • 輸送需要の減少による環境上の利点

 マイナスの影響

  • 処分する廃棄物の増加と環境への負荷の増加
  • 積層プロセスで作るパーツには異方性があること(すなわち、力がどの方向でも同じでないために、パーツの機能が制限されるおそれがある)
  • 衰退産業での失業問題
  • 知的財産が生産性の価値の源泉として最優先される
  • 海賊版の作成
  • ブランドと製品の品質

 未確認、あるいはプラス・マイナス両方の影響

  • 開発した新技術をすぐにコピーできる可能性

『第四次産業革命』 付章より クラウス・シュワブ:著 世界経済フォーラム:訳 日本経済新聞出版社:刊

図Ⅵ 3Dプリンタのハイプ曲線 付章P208
図Ⅵ.3Dプリンタのハイプ曲線
(『第四次産業革命』 付章 より抜粋)

 3Dプリンタの改良で、より多くの素材を、より複雑な形状に加工できるようになる。
 すると、必要なところで、必要なときに、必要なぶんだけ、加工して使うことができます。

 メーカー側は、在庫の心配をする必要がなくなりますから、大きな合理化となります。

「設計図だけをインターネットでダウンロードし、モノの加工は自宅で」

 3Dプリンタが一般家庭に普及すると、そういうケースも増えてくるでしょう。

自動化されるリスクが「最も高い職業」と「最も低い職業」は?

 第四次産業革命の荒波は、「雇用」にも、大きな影響を及ぼします。

演算能力の飛躍的な向上により、多くの労働が、ロボットやコンピューターに置き換わります。

 シュワブさんは、大半の予想より早く、弁護士、金融アナリスト、医師、記者、会計士、保険業者、図書館司書といったさまざまな職業の労働も、部分的または完全に自動化されるかもしれないと指摘します。

 オックスフォード大学マーティンスクールの研究者兼エコノミストのカール・ベネディクト・フライトと機械学習を専門にするマイケル・オズボーンは、技術革新が失業におよぼす潜在的影響を数値化している。二人は自動化される可能性に応じて702種類の職業を、自動化されるリスクの最も低い職業(リスクがまったくない場合は「0」)から最も高い職業(コンピューターなどで代替される一定のリスクのある仕事を「1」)までで順位づけしている。表2(下表2を参照)は、自動化される可能性が最も高い職業と最も低い職業をまとめたものだ。
 この研究は、米国における全雇用の約47%が今後10〜20年間に消滅するリスクがあると結論づけた。これは過去の産業革命時に起きた労働市場の変化よりはるかに速いペースで、さらにより広範囲だ。さらにこの傾向は、今後の労働市場をさらなる二極化に導き、高収入の認知的・創造的職業と低収入の単純労働では雇用が増加する一方、中所得の機械的・反復的職業は大幅に減少するだろうと予測している。
 興味深いのは、こうした代替を推進しているのはアルゴリズムやロボット、その他の非人的資産の能力向上だけではないことだ。マイケル・オズボーンは自動化が可能になる背景として、昨今の企業がアウトソーシングやオフショアリング、または「デジタルワーク」(クラウドソーシングのマーケットプレイスであるアマゾンの「メカニカル・ターク[Mターク]などのサービス)を利用するための作業の一環として、仕事の明確な定義および単純化を推進していることを挙げている。こうした単純化によって、アルゴリズムが人間の代わりとして十分機能するようになる。個別かつ明確に定義された業務は、より高度な測定と高品質なデータにつながり、アルゴリズムを設計するよりよい基礎となる。
 自動化と機械による代替現象を考えるうえでは、技術が雇用にもたらす影響や仕事の未来について偏った考えに陥らないようにすべきだ。フライとオズボーンの調査が示すように、第四次産業革命は世界中の労働市場と職場に大きな影響をおよぼすことはほぼ不可避である。しかし、これは人間対機械というジレンマに直面することを意味するものではない。実際、大多数のケースでは、現在の変化を推進しているデジタル技術と物理技術と生物学的技術との融合は、人間の労働および認知の拡大に寄与すると見られている。これは、リーダーは労働者に対して、より優れた機能を持つネットワークに接続されたインテリジェントな機械を使って作業する心構えと、教育モデルを開発する必要がある。

『第四次産業革命』 3章 より クラウス・シュワブ:著 世界経済フォーラム:訳 日本経済新聞出版社:刊

表2 自動化されるリスクが最も高い職業 最も低い職業の例 第3章P59
表2.自動化されるリスクが最も高い職業/最も低い職業の例
(『第四次産業革命』 3章 より抜粋)

 コンピューターによる仕事の代替は、すでに不可避な事実です。
 私たちにできることは、人間がコンピューターより勝っている部分で、勝負することです。

 想像力、創造力、共感力、コミュニケーション力。
 それらの能力を高め、最大限に活用すること。

 それが、第四次産業革命の荒波を乗り越えるカギとなります。

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「十年一昔」

 とはいいますが、最近10年間だけ考えても、私たちの生活は、劇的に変化しました。

 スマートフォンを1人1台持ち、いつでもどこでも、インターネットにつなげる。
 フェイスブックで、遠い場所にいる友だちと、いつでもコンタクトをとれる。
 インターネット・ショッピングで、ワンクリックするで、欲しい商品が自宅まで配送される。

 これらの出来事は、これから本格化する「第四次産業革命」の、前触れにすぎません。
 今後、技術革新のスピードは、さらに増し、新しいサービスが次々と生まれてくることでしょう。

 10年後、世界がどんな姿をしているのか。
 それは、誰にもわかりませんね。

 本書は、まだ見ぬ近未来の世界を、おぼろげながらも映し出す“水晶玉”です。
 興味のある人は、ぜひ覗き込んでみてください。
 衝撃を受けること、間違いなしです。

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