本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『評判の科学』(ジョン・ウィットフィールド)

 お薦めの本の紹介です。
 ジョン・ウィットフィールドさんの『あなたの仕事も人生も一瞬で変える 評判の科学』です。

 ジョン・ウィットフィールドさんは、英国の科学作家です。
 雑誌『Nature』誌で長年、進化学・生態学・環境問題の記事を担当されていました。
 現在は、『サイエンス』誌、『ディスカバー』誌など、英国や米国を代表する雑誌社からの依頼記事を執筆するフリーランスの科学作家としてご活躍中です。

「評判」の力を利用し、「評判」から身を守る方法とは?

 自分の人柄や性格などがそのまま評判につながるわけではありません。

 評判は、その人のものではなく、他人のものです。
「他人がその人について、本人のいないところで話したこと」がもとで生み出される性質です。

 自分だけではどうにもならないのが、評判を高めることの難しさですね。

 不特定多数の見ず知らずの他人から良い印象をもってもらう。
 それには、評判が成り立つ仕組みを理解し、その力を上手に利用すること。
 それが最も手っ取り早い方法です。

 本書は、評判に磨きをかける方法やうわさを正しく判断する力を身につける方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「名声バイアス」は“諸刃の剣”

 企業がCMで、その製品のイメージに沿った有名人を起用するのは、そのタレントの「名声バイアス」を利用するためです。

 ウットフィールドさんは、人間の場合、名声の力は、どれくらい他人の知識を高く評価するかだけでなく、どれくらい他人の知識を高く評価するかだけでなく、どれくらい自分自身を低く評価するかによって決まりある事柄について知らなければ知らないほど、名声に影響されやすくなると述べています。

 それではどうして人間は、専門家ならすべてが優れていると考えるのでしょうか?
 人類学者のジョセフ・ヘンリッヒとフランシコ・ギル−ホワイトは、名声の起源と機能に関する、説得力のある仮説を立てました。それは、難しい課題をうまくこなすには、さまざまなスキルを組み合わせて、複雑な方法をまるごと作り上げなければならないからだというものです。
 たとえば、優秀なハンターなら、獲物が見つかる場所や追跡して忍び寄る方法、さらには獲物をしとめる方法を知っていなければなりません。狩りの名人を真似しようとする者は、何が成功の鍵なのかを必死に見つけ出そうとします。ただ、名人が優れていることはわかっても、どうして優れているのかはよくわかりません。一番確実なのは、やり方をそっくりそのまま真似することです。この、一つのことをすべてに当てはめる傾向のために、名声バイアスは諸刃の剣となります。そのため、人生の一つの分野で失敗した人は、すべてにおいてドジなやつだと考えられがちです。ドジなやつだと判断されるかどうかは、失敗が成功を上回るかどうか、人生の別の分野にどのくらい関係があるかどうかで決まります。
 タイガー・ウッズの不倫問題が公になったとき、アクセンチュアが彼の契約を打ち切ったのもそのせいです。一方、ナイキはウッズを見捨てませんでしたが、こちらはもともとウッズのゴルフの腕前とタイアップするためにお金を払っていたので、人柄そのものにはあまり関心がなかったからでしょう。

 『評判の科学』 第1章 より ジョン・ウィットフィールド:著 千葉啓恵:訳 中経出版:刊

 評判には、一面的な部分が過大に評価されてしまう部分があります。
 人は、ある一面だけを見て他人を判断する傾向が大きいからです。

 ひとつの分野で秀でている人は、人格や行動のすべてが秀でているに違いない。
 そう考えてしまうのでしょう。

 自分の評判は自分の力になりますが、自分で完全にコントロールできません。

 他人の中にある「自分」が、自分の評判をつくる。
 そのことは忘れないようにしたいですね。

「評判」の力は利他的行動の原動力

 自分が助けを必要としているときに、今度はその人が協力してくれるだろうと期待して取る行動。
 ロバート・トリヴァース博士は、これを「互恵的利他行動」と名づけました。

 ただ、人間の行動には、互恵的利他行動の理論だけでは説明のつかないこともあります。

 人間は協力してくれる人には感謝や友情、信頼を感じ、受け取れるだけで何のお返しもしない人には疑いや怒り、復讐心を感じます。トリヴァースは、「こうした人間の道徳や心理状態の多くは互恵的利他行動を発展させ、強化するために発達してきた」と考えれば説明できると考えています。
 互恵的利他行動は当たり前のことのように思えますし、人間の協力行動の重要な要素であることは間違いありません。ただ、これを実行するのは意外に難しいものです。
(中略)
 人間は血縁者に囲まれ、何度も同じ人に会う小さな集団の中で進化してきました。協力的であれば見返りがあり、別け隔てをしすぎれば見返りはありませんでした。
 そして今は、膨大な数の他人の中で暮らしていても、人間の心理状態はその状況に追いついておらず、親戚かもしれないから、あるいは、また会うかもしれないと無意識で思っているから、他人に親切にするというわけです。
 けれど、この考え方にはあまり納得できませんし、証拠にも合致しないようです。人間は協力的ですが、やみくもに協力するわけではありません。私たちは知人と親類を区別し、自分の親切が報われているかどうかを気にします。自分に向けられたものか他人に向けられたものかに関わらず、悪い行動には批判的です。つまり、「利他的行動」という考え方が正しいとすれば、「よそ者に親切にする」という行為の謎は、ぜひとも解明すべきです。これまで会ったことも再び会うこともない誰かを助けることには、必ず何らかの利益があるはずです。もちろん、利用されるかもしれないという不安は当たり前で、それを乗り越えるには強力な力が必要です。そして、その力となるのが「評判」です。

 『評判の科学』 第3章 より ジョン・ウィットフィールド:著 千葉啓恵:訳 中経出版:刊

 見ず知らずの人に協力することは、単なる「互恵的利他行動」だけでは説明がつきませんね。

 利他的行動の原動力としての「評判」の力。
 それは私たちが思っている以上に大きなものです。

「視線」が重要な意味を持つ人間のコミュニケーション

 人間が自分自身について考えるとき、言語の果たす役割は大きいものです。
 そのため、私たちは、「目」でどれくらいコミュニケーションするのかを見落としがちです。

 ウィットフィールドさんは、ほかの人が見ているもの、それは人間にとって最も重要で、頻繁に利用されている社会的な情報源だと述べています。

 誰かがあなたを見ているときの視線がとりわけ重要なのは、あなたが相手の環境において「最も重要な存在だ」ということを意味しているからです。また、アイコンタクトによって、共謀や挑戦、譲歩、出て行け、こっちへおいでなど、たくさんの意味を伝えることができます。
 これらのメッセージには、複雑で微妙な違いがあります。目を見つめてくる人は良い人で信頼できると感じますが、ある時点で視線は脅しに変わり、「じろじろ見るのは失礼だ」とか、「何を見ているんだ?」という反応に変わります。
 脳のさまざまな領域は、これらの目の動きをすべて感知し、解釈して情報を送っています。ある脳領域は、単純に人々がどこを見ているのか、それがあなたかどうかを記録します。ほかの脳領域は、視線の意味を分析します。
 扁桃体(へんとうたい)という脳領域は、脳の感情システムの一部で、特に恐怖と関係しており、誰かが自分を見ているのに気づいたときに活性化します。この扁桃体は、見慣れた人が自分を見ているときより、見知らぬ人が自分を見つけたときに活発に反応します。

 『評判の科学』 第8章 より ジョン・ウィットフィールド:著 千葉啓恵:訳 中経出版:刊

 評判のことを「他人の目」ということがあります。
 それだけ、人は「目」で他人を評価するとともに、他人の評価を自分の「目」で判断する部分が多いということです。

評判システムは「ツール・ド・フランス」のようなもの

 急激な進化を遂げるインターネットの評判に与える影響についてです。

 アマゾンやディグ(様々なジャンルのニュースをまとめて利用者に発信する大手ソーシャルニュースサイトの一つ)などで商品やお店に対するレビューを書く行為。
 それらは多くの人にとって、自分の利益というよりも、公共の利益が大きな動機です。

 ネット上の利他的行動から得られるものの代表として、「エゴブー」があります。

 エゴブーとは、「ネットで親切で有益なことをしたときの、あたたかい気持ち」のこと。
 つまり、社会の役に立つ存在であることに対する、内的報酬のことです。

 一部のインターネット評判システムには、意図的にサイトのユーザーが自分の作業から得られるエゴブーの量を増やすことで、彼らを励まそうとしているものもあります。

 アマゾンやディグのような評判システムは、テレビゲームの高得点表の要素を少し混ぜ合わせた、人気コンテストのようなものです。こうしたコンテストと一番良く似ているスポーツは、フットボールではなく、ツール・ド・フランスでしょう。誰が首位かを調べるときには、正直に努力している人が高い順位にいればいいと思うものですが、主力選手の何人かが不正行為をしているのではないかという疑念は、なかなか振り払うことができません。
 人々が評判システムを操作しようとする理由の一つは、時間と努力を要することは何でも、コストリーシグナルになり、一部の人たちはシグナルを送ることに取りつかれてしまいます。たとえばソーシャル・ネットワーキング・サイトで、誰彼構わずに友だちになる「友だち集め(フレンド・ホールディング)」は、サイトで友だちの数があれほど大々的に表示されなければ、そんなに流行らなかったでしょう。世界まばたきチャンピオン大会を始めて、優勝者に優勝カップの代わりに紙コップを進呈することにしたら、一部の人たちは参加するだろうし、中には不正な利益を得ようと、自分の目にタバスコをかける人がいるかもしれません。
 とはいえ、もっと具体的な利益が得られる場合もあります。ディグで、ある出版物のストーリーが高い順に表示されると、普段よりも多くの人たちがリンク先を訪れることで、さらに宣伝効果を得られるため、一部の人たちは仲介者を雇ってディガーにお金を払い、組織的に票数を引き上げようとしました。今では、ソーシャルメディアで非常に意見が尊重されている「実力者」をターゲットとして、彼らにお金を払って特定の商品を宣伝しているマーケティング会社もあります。このことから、個人的な利益は社会貢献を促すだけでなく、腐敗させる可能性もあることがわかります。

 『評判の科学』 第11章 より ジョン・ウィットフィールド:著 千葉啓恵:訳 中経出版:刊

 インターネット上の評判システムは、公正性が保たれている場合、利用者にとってもとても有益な情報となりえます。

 ところが、意図的に操作する意図が加わったとたんに不正や腐敗の温床となります。
 不正が明るみに出た評判システムは、大きなイメージダウンを受けることは必至です。

 評判システム自体も、「評判」の力からは、逃れることはできないということですね。

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 人の評判を気にしながら生きる、見えっ張りな人生はつまらないものです。
 とはいっても、人の評判をまったく気にせず我が道を通す生き方は、大きな落とし穴が待ち構えている可能性が大です。

「評判」は、目に見えず、自分の耳になかなか届かないもの。
 しかし、人生を左右するほどの大きな力を持っているのは間違いありません。

 自分で完全にコントロールできる力ではありません。
 ただ、日頃から注意を払くべき大切なことです。

「評判」を、気にし過ぎず、過小評価せず、味方につけておく。
 その努力を怠らないようにしたいですね。

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