本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『不安が力になる 』(ジョン・キム)

 お薦めの本の紹介です。
 ジョン・キム先生の『不安が力になる ─日本社会の希望』です。

 ジョン・キム先生(@kim_passy)は作家です。
 韓国生まれで、19歳の時に日本に留学、以降アジア、アメリカ、ヨーロッパ等三大陸五カ国を渡り歩いた経歴の持ち主です。
 主に若い世代で大きな支持を集めている注目の思想家のお一人でもあります。

日本は沈んではいない!

 日本は、急激な少子高齢化が進み、経済は長期にわたって低迷し続けています。

 中国やインドなどの新興国の台頭により、国際的な存在感も落ちつつあります。
 それに追い打ちをかけたのが、東日本大震災とその後の福島第一原発事故を巡るトラブル。

 このような状況から、多くの国民は「日本はこのまま衰退を続けていくしかない」と悲観的な考えを持っています。

 キム先生は、日本は衰退などしていない。日本人はこれからの時代を生き抜くため、着実に進化を遂げていると強調します。

 表向きに、行動を起こさない態度からは、日本人は進化していないようにみえます。
 しかし、日本人にも大きく変わった部分があり、それは「心のありよう」の進化です。

 具体的には、欲求の対象が進化しているとのこと。

 本書は、不安を乗り越えて、若者を中心に成長至上主義を超えた価値観を身につけつつある日本社会の未来について、日本の素晴らしい点や改善すべき点などを交えながらまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「資本主義的価値観」から抜け出す

 キム先生は、日本人は資本主義に支配された生活スタイルから抜け出し始めている。資本主義の価値観を超えようとしていると指摘します。

 日本では、個人の大切なものが、金銭から、生活、信頼、コミュニティへの貢献という、かたちのないものにシフトしつつある。物質的な欲求を追求し続けても、下降する経済規模と自分の資本主義的な欲求がミスマッチになり、結果として不幸になるという認識を持っている。
 それは、特に若い世代に顕著な傾向だ。日本の若者は、経済の動きによって左右される事柄は、自らの幸せではないと定義しているように見える。大金を稼ぐこと、高級車やブランドバッグを所有することには興味がない。他人、そして他国との競争にはよいイメージを持っていない。シェア争いのようなゼロサムゲームに未来がないことを、本能的に感じ取っているのだ。彼らは日常生活の中で得られる内面的充足に価値をシフトし、自分なりの幸せを感じている。自分で幸せを定義する力が養われているのだ。
 私が慶應義塾大学で受け持っていたゼミでも、就職において金銭面を重視する学生はほとんどいなかった。共に働く仲間とのつながりや社会貢献といった内面の充実を志向し、ソーシャルビジネスに興味を持つ学生が多かった。企業より非営利法人や財団へ就職したいと考えている人があまりにも多く、こちらが少し戸惑ったほどだ。
 若い世代ほど、経済は成長しないものだと考えている。生まれてこの方、好景気だったことがないからだ。現状がピーク。後は悪くなっていくだけ。そんな中で、今現在をどう生きるかということに対する感性が、鋭くなっているのである。

 『不安が力になる』 第一章 より ジョン・キム:著 集英社新書:刊

 今の20代が物心ついた頃には、すでにバブルは崩壊していました。
 厳しい不況を「当たり前」として感じてきた世代です。

 自分がいかに生き残っていくのか。
 それを上の世代よりも真剣に考えざるを得ない環境でした。

 収入を増やそうとするより、今の収入の中でより幸せな生活を求める。
 他人と競争するより、他人と協力して助け合うことを重視する。
 おとなしく、後ろ向きに見える姿勢。

 それらは厳しい環境を生き残るための、彼らなりの戦略であり、したたかさといえます。

挑戦の本質とは?

 日本人は変化やそれに伴うリスクを嫌う風潮があります。

 キム先生は、「内面ではもっと自己実現したい、成長したいという欲求を抱えている人がその気持ちを押し殺してしまっているのでは」と懸念します。

 挑戦した経験がないために、怖れて一歩を踏み出せない。
 そういった若い人たちの背中を押し、表に出てきやすい風土をつくることが大事です。

 私としても、20代で挑戦していたときに成功すると確信を持っていたわけではない。挑戦すれば成長するはずだという勝手な思い込みだけがあったのだ。しかし、それは青春において、ものすごく大切なことだと思う。「根拠のない自信を持て」とよくいわれるが、それは本当の意味で根拠がないこととは違う。
 私は、挑戦を通じて、自分自身が成長できるはずだと信じていた。そこに私の自信の根拠があった。自分が自分に対し、挑戦する許可を出せば、他者の許可など要らないのだ。挑戦する瞬間、今まで生きてきた人生の時間とは全く違う、濃度の集中した時間を過ごすことができる。人生に対する本気度が全く変わる。その時間の分だけ、自分が成長しているという実感が得られるものだ。
 どんなかたちでもいい。自分で自分の未来の可能性を信じた人にしか、挑戦はできない。挑戦する前の時点では、全く想像もつかなかったようなことに出会える。それは出来事も、人も全て含めて、あらゆる世界が広がっていく感覚だ。それらが全て、自分の成長の肥やしになる。挑戦を怖れる若者に、それだけは真理であると、自分の実感から伝えたい。
 挑戦すること自体に意義があるのだ。その先にある、社会的な評価、成功したか失敗したかなどは二次的な問題でしかない。自分を信じて、挑戦に飛び込んだ時点で、自分への信頼は数倍に高まっている。それ自体が意味のあることだし、必ず自分の力になる経験へとつながるのである。

 『不安が力になる』 第二章 より ジョン・キム:著 集英社新書:刊

 成長とは、今までの自分にはなかった考え方、視点を身につけることでもあります。
 それには、今までの自分がしたことのない経験を通して学ぶしか方法はありません。

「挑戦すること自体に意義がある」

 たとえ失敗しても、挑戦したという経験自体から学ぶことはたくさんあります。
 結果にこだわらず、自分のやりたいことにチャレンジしていきたいですね。

日本の若者の間で進む「幸福の革命」

 キム先生は、日本の学生は自分自身と向き合った結果として、自分の将来を選んでいると指摘します。

 私は、日本の若者の中に、自分の人生、そして社会を真剣に考える余裕が生まれているのを感じている。
 かつては組織の責任を自分で担うという意味で、責任感の強い人は沢山いた。その人たちが企業戦士として、高度経済成長期を支えていた。今の若者にそういった気概はあまりない。だから、傍目から見ると無責任な人が増えているように思えるかもしれない。しかし、そうではないのだ。今の若者は自分の人生に対して強い責任感を持っている。他の誰でもなく、自分の人生の責任は自分でとりたいと考えている。
 ゆえに組織に組み込まれることで、自分の人生の指揮権が奪われることにセンシティブなのだ。企業に忠誠を求められ、自由がなくなるくらいなら、契約社員や派遣社員で十分だと考えている人もいる。会社の仕事に自分の生活の全てを捧げるというような感覚は持っていない。自分の中で、仕事、趣味、勉強などでポートフォリオを組み、バランスよく生きることを目指している。ランニングで体を整えたり、休日は農業をしたり、ボランティアに参加したりと、色々な要素で自分の人生をデザインするような感覚を持っているのだ。
 自分自身の人生に責任を持って、欲望や所有を調整しながら生きていく。それが,物質的充足が満たされた時代に適応した、人間の一つのあり方なのではないかと思う。

 『不安が力になる』 第三章 より ジョン・キム:著 集英社新書:刊

「価値観の多様化」という言葉が、さまざまな場面で使われるようになりました。

「幸せ」についても、当然、一人ひとりがまったく違う考えを持っています。
 日本でも、それを認める社会の雰囲気がようやくできつつあります。

 一人ひとりの価値観を認める寛容な社会。
 その先に、成長至上主義を超えた新しい世界が待っているのでしょう。

主体的に考えて表現する

 キム先生は、海外にあり、日本にないものの一つとして、「クリティカル・シンキング」を学ぶ環境を挙げます。

 クリティカル・シンキングとは、批判的にものごとを考えること。
 証拠、正確さ、論理などにもとづいて分析したりすることを指し、議論の基礎になります。 

 今、クリティカル・シンキングの力を育てるにはどうすればよいのか。それには、言語的に表現することが重要だ。頭の中で思考を育てることももちろん必要だが、それを人に伝え、議論して、さらに思考を深めるところまでできて、初めてクリティカル・シンキングの力が育つ。プレゼンテーションができるだけでなく、ディスカッションやディベートなどを通し、他者と自分の意見が違うときにどうするかということも、学んでいかなければいけない。自分はその言葉を使うときに、どういった意味で使っているのか。そういった根本的な問題ついて考える意識を持つことも必要になる。
 日本人は議論を好まず、曖昧な結論になる傾向がある。しかし、欧米人の議論では、それぞれが意見を持っている上に、安易な妥協をしないため、意見がすり合わないまま終わってしまうこともよくある。それを自分勝手だと感じる日本人は多いかもしれないが、むしろそれが世界のスタンダードだともいえる。お互いに対して配慮せず、自分の意見を言って、ぶつかり合う。しこりを残さずに議論を進める力が必要な時代になっている。

 『不安が力になる』 第四章 より ジョン・キム:著 集英社新書:刊

 同調圧力が強く「空気を読む」ことを強いられることが多い日本社会の弊害ですね。
 教えられたことに異議を唱えたり、批判的に考えることを良しとしない。
 そんな旧来の教育環境の影響も大きいです。

 世界経済がひとつとなり、さらなるグローバル化が避けられない情勢です。

 日本から真の国際人をたくさん生み出す。
 そのためにも、クリティカル・シンキングを学ぶ環境の整備を進める必要があります。

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 キム先生は、不安というのは、沈黙の未来を生きなければならない我々人間の宿命であるとおっしゃっています。

「一寸先は闇」の先の見えない時代です。
 日本も社会全体として、かつてないほどの不安に包まれています。

 日本が絶望という暗闇に引き込まれるのか。
 それとも、希望という光が差し込む世界へ押し上げられるのか。

 私たち一人ひとりのこれからの行動にかかっています。
 不安を大きな力に変えて、少しずつでもより良い社会を目指していきたいですね。

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