本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『新・独学術』(侍留啓介)

 お薦めの本の紹介です。
 侍留啓介さんの『新・独学術――外資系コンサルの世界で磨き抜いた合理的方法』です。

 侍留啓介(しとみ・けいすけ)さんは、経営コンサルタントです。
 大手商社で金融投資業務を担当後、外資系コンサルティング会社で幅広い業界において経営コンサルティング業務に従事されています。
 現在は、外資系投資ファンドにて投資実行・経営支援をご専門にご活躍中です。

「意識が高い」だけでは、生き残れない

 日本は学歴社会だ、といわれています。
 しかし、その実態は、大学入試時のスコアでその後が決まる偏差値社会です。

 一方、世界のエリート教育は、どんどん高学歴化しています。
「修士号を複数と、できればPh.D.(博士号)」くらいが、エリートビジネスパーソンの標準的な学歴なりつつあります。

 侍留さんは、「社会人になってからどのような知識とスキルを身につけるのか」でその後の人生に大きな差が出てくると指摘します。

 ますます厳しくなる日本経済において先の見えない状況が続いています。そんななか、「せめて自分は、どんな環境でも生き残れるようになりたい」という意識を持ち、ひたすらビジネススキルを磨くことを志向する人が増えているように感じます。
 しかしその一方で、「意識が高い」ことが必ずしも成果に結びついていないと感じる人も多いのではないでしょうか。表面的にさまざまなノウハウを身につけたものの「実践でどのように役立てればいいのかわからない」というケースも多いでしょう。
 本書は、そうしたビジネスパーソンがビジネスに役に立つ知識と論理を磨くにはどうすればよいだろうか、という問題意識から出発しています。
 そして、私たちビジネスパーソンが「どのような知識やスキルを磨くべきか」はもちろん、「どういう方法で身につけ、どのように現場で生かしていくのか」まで含めて解説していきます。付け焼刃的なビジネススキルの向上ではなく、本質的にビジネスに役立つブートトレーニングの方法を提唱します。
 これまではビジネスパーソンがスキルを学ぶには、ビジネス書や技術書をひたすら読むというのが一般的なやり方でした。本書では、独学の具体的なやり方をビジネスの実例を踏まえて詳しく解説しています。その意味で新しい独学術の本といえます。
 使うのは、大学受験用の参考書です。(以下、本書では特段区別していない限り、問題集も含めて「参考書」と表記します)。「ビジネススキルを磨くのに、なぜいまさら巡検参考書を使うのか」と疑問を感じる人もいるかもしれませんが、受験参考書ほど効率よく、ビジネスに必要な学びを得られるツールはないと私は確信しています。

『新・独学術』 第1章 より 侍留啓介:著 ダイヤモンド社:刊

 せっかく手に入れた情報も、使い道を知らなければ、意味がありません。

 知識を体系的にインプットし、戦略的・論理的にアウトプットする。
 それが重要だということですね。

 本書は、ビジネスパーソンとしてパフォーマンスを上げるために知識量を増やし、論理力を磨くにはどうすればいいか、そのノウハウを具体的な事例を交えてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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知識が増えれば「視野」が広がる

 賢くなるために、最も重要なのは「知識」です。
 侍留さんは、社会やビジネス全般に関係する膨大な知識を身につけることは、賢さを身につけるための必須条件だと述べています。

 私は葉巻(シガー)愛好家なので、葉巻を例にとりましょう。
 仮にあなたが、シガーバーに行ったとします。そこには数多くの葉巻きが置いてあるはずです。1本数百円のものから、数千円のものまであるはずです。
 では、そこで、自分に合った最高の葉巻を選ぶことを考えてみてください。
 どうでしょう。
 もしあなたに葉巻についての知識が一切なければ、そもそもどう選べばいいかすらわからないのではないでしょうか。たとえIQが高かったとしても、品質、味の違いなど想像もできないと思います。複数の葉巻の銘柄を見ても、何がどう違うのかわからないでしょう。
 これが知識のない状態、そしてそれゆえに物事の評価や判断ができない状態です。
 また、「仮にシガーバーに行ったとします」といいましたが、そもそもシガーバーなんてどこにあるのかもわからないかもしれません。あるいは、いつも通っているバーに、最高級のキューバ産葉巻が置かれていることにも気づいていないかもしれません。
 つまり、知識がなければ、現実の物理空間で起こっていることを認識することもできないのです。
 逆に、葉巻について詳しい知識があればどうでしょう。
 入ったバーに葉巻が置いてあるのに気づくことはもちろんのこと、保管状態を見れば、その店がどれくらい葉巻を丁寧に扱っているかを理解することもできます。
 さらに、バーテンダーや隣の客と話すことであなたの葉巻の知識をもっと増やすことできるかもしれません。さらにいえば葉巻ひとつから世界情勢に思いをはせることも可能です。たとえばコイーバ(キューバの最高級ブランド)の入荷状況を知れば、米国とキューバの政治的関係を推察できます。両国の関係が改善すると、日本ではなく米国への流通が増えるため、日本、とくに地方での入手が困難になるからです。
 つまり、知識があればより多くの物事を認識したり適切な判断を行ったりできるだけでなく、そこからさらに深い知識を身につけることも容易になるのです。
 同じことが、ビジネスについてもいえます。基本的な経済や政治用語、哲学や心理学の概念がわかっていなければ、この世の中の動きを正確に把握したり、解釈を加えることはできません。逆にいえば、知識があれば、ほかのビジネスパーソンも読んでいる日経新聞を読んでいても、より深いレベルで理解し、見識を広げ、ほかの人が持ちえない視点で説明することができるわけです。

『新・独学術』 第1章 より 侍留啓介:著 ダイヤモンド社:刊

 知識を増やすということは、「世界」を広げること。

 自分の中の、さまざまな世界が有機的に結びつき、関連づけられる。
 それにより、体系的な知識が得られます。

 好奇心を持って、意欲的に、さまざまな知識を吸収する。
 その意識を忘れないようにしたいですね。

経済思想は「キャリア戦略」に使える

 大学受験の科目としての「倫理」は、哲学、人間心理、宗教などに関する、これまで人類が思考してきたことのエッセンス集です。

 倫理は、人が能動的に考えるための知識や世の中の見方を提供してくれるものです。

 侍留さんは、とりわけ「経済思想」「心理学」「宗教」の3つは、ビジネスパーソンにとって必須の知識だと指摘します。

 たとえば、資本主義を痛烈に批判したマルクスの『資本論』は、じつはキャリア形成にも役立ちます。
 先日、ヘッドハンティングの仕事をされている方と話をしていたときのこと。こんな話が出てきました。
「収入を上げる方法はないかと相談を受けることが多いんだけど、収入を本当に上げることを目的とするのなら、サラリーマンのままでは、いくら転職を繰り返しても限界があると思うんだよね。本当に収入を第一に考えるなら投資家か起業家になるのが最適だと思うんだけど」
「サラリーマンでは収入に限界がある」と言い切れるかどうかはおくとして、このヘッドハンターの発想は、マルクスの『資本論』と親和的です。
 マルクスの『資本論』の中核理論である「剰余価値説(じょうよかちせつ)」に基づけば、労働者の賃金は、労働者とその家族が社会の平均的生活水準を維持するのに必要な経費を意味します。
 つまり、労働者の賃金は、自らが生産した商品の価値に関係なく、それなりの額に抑えられがちになるのです。一方でこの賃金と、商品やサービスの価値の差は、資本家の利潤となります。そこで、高い収入を得たいと思うならば、投資家になるか創業して社長になるべきという話です。

 マルクスに限らず、思想は現実の経済を理解し、キャリアを磨くうえで大きな示唆を与えてくれるものです。
 たとえば、19世紀にハーバード大学から発展した「プラグマティズム」は、とくにアメリカのビジネス思想に大きな影響を与えています。
 プラグマティズムを発展させたジョン・デューイの「道具主義」では、生活上の問題を解決するために必要な知識・概念・理論は「道具」であり、それらは使用を通じて絶えず変化・発展していくものだとしています。その意味ではビジネススキルも「道具」の一種ですが、アメリカのビジネスパーソンにとっては、この、「問題を解決するためのビジネススキルは、問題に合わせてつねに進化し続けなければならない」という考え方が思想の基本になっています。
 たとえば、ある人が大企業からベンチャー企業に転職をしたとします。おそらく、前の職場とくらべると、仕事の仕方から周りの人のタイプまで何もかも異なり、この人は戸惑うはずです。
 そのときこの人は、「大企業で評価されていた自分が、なぜこんな小さい企業でうまくいかないんだ」と不満に思うかもしれません。ですが、道具主義的な発想が頭にあれば、「この会社でうまくいかないのは、自分の知識や考え方がこの会社に合っていないからだ。自分の考え自体を変えよう」と考えることができるはずです。

『新・独学術』 第2章 より 侍留啓介:著 ダイヤモンド社:刊

 変化が激しく、先行きの見通せない現代社会。
 その中で生き残るためには、環境に合わせて、考え方を変えていく必要があります。

 倫理の科目で学んだ知識には、人類が積み重ねてきた「生きるための知恵」が詰まっています。
 ビジネスの世界で生き抜くための“道具”として、ぜひ利用したいですね。

思考のオリジナリティを磨く「そもそも」の視点

 論理力を鍛えるために、うってつけな科目が「小論文」です。

 ビジネスパーソンが、小論文を学ぶべき理由とは、何か。
 侍留さんは、自らの主張を、説得力をもって相手に伝えるトレーニングとして効果的だからだと述べています。

 小論文では、与えられたテーマの中で、いかにして独自の視点を見つけ、説得力のある論を展開させていけるかが見られる科目です。

 では、どうやって「自分なりの視点」「オリジナリティのあるアプローチ」を見つけていくのか。
 ここで大いに活躍するのが「そもそも」の視点です。
 たとえば、格差社会について小論文を書くケースを考えてみましょう。
 このテーマの場合、「格差社会は深刻な問題だ」「格差社会は是正しなければならない」などの主張を書く人は多いでしょう。それが悪いとはいいませんが、それだけではオリジナリティがなく、読み手に対する説得力も不十分です。
 そんなときに「そもそも」の発想を持つと、もっと違った、さまざまな視点が浮かび上がってきます。

①そもそも、格差社会とは何なのか?
②そもそも、格差社会があるといけないのか?
③そもそも、格差社会はなぜ生まれたのか?
④そもそも、格差社会はなくなり得るのか?

 ①の「そもそも、格差社会とは何なのか?」という問いについて考えてみると、たとえば次のような考え方が出てきます。

  • 貧富の差があること自体を格差社会と考える
  • 貧富の差が固定化してしまっている状態を格差社会と考える

 このような発想が出てくれば、「私は格差があること自体が問題なのではなく、格差が固定化してしまっていることにより大きな問題を感じる」などの視点から独自の論を展開していくことができるでしょう。
 あるいは、この視点を②の「そもそも、格差社会があるといけないのか?」という疑問に重ね合わせて考えると、「もし、格差があること自体が問題だというなら、共産主義的な社会を目指すことになる。しかし、本当に問題なのは格差自体ではなく、生まれもっての格差が固定化し、努力しても貧困から抜け出せない人がいることだ」という論陣を張ることも可能でしょう。
 そのほか、「そもそも、格差社会はなぜ生まれたのか?」「それはなくなり得るのか?」という切り口から、「日本では所得税は高いのに、相続税が低い。だから、生まれながらの格差が固定化し、差は広がる一方だ。したがって税制を変えない限り、格差社会はなくならない」などの話を展開していくという方法もあります。
 小論文では、何が正しくて何が間違っているというような意味での「正解」はありません。しかし、評価される小論文を書くためには、多少なりとも「独自の視点と展開」が求められ、そのために役立つのが「そもそも視点」なのです。
 この視点を持つことができるようになれば、小論文の問題だけでなく、日々のビジネス上の問題を考えるうえでも役に立ちます。
 会議や打ち合わせなどの議論において自らの意見を考える役にも立ちますし、企画などを考えるうえでも、「そもそも」から思考を広げていけば、さまざまなひらめきをつかむことができるはずです。

『新・独学術』 第3章 より 侍留啓介:著 ダイヤモンド社:刊

 いきなり真正面からテーマとぶち当たっても、もっともらしい正論しか、出てきません。
 その前に一歩引いて、テーマの裏にある「背景」をしっかり把握することが大切です。

 小論文で重要なのは、オリジナリティのある意見であり、それを論理的に組み立てる能力です。
 仕事でも、大いに役に立つ「そもそも」の視点を、ぜひ身につけたいですね。

「目と手」で学習時間を分ける

 知識には、2つの種類があります。

「宣言的知識」「手続き的知識」です。

 侍留さんは、この2つはそれぞれ学び方が違ってくるので、その違いをきちんと理解することが独学の前提になると述べています。

「宣言的知識」とは、政治・経済の知識のように用語や概念を言葉で説明できる知識のことです。たんに「知っているかどうか」だけなので、目を動かして理解できれば習得できます。
 一方、「手続き的知識」は、身体に染み込まなければものにならない知識です。自転車の運転はできたとしても、人にどう運転するのかを説明したり、理解してもらうのは難しいものです。同様に、小論文の書き方や英語のリスニングなどは、理屈はわかっても、それだけでは成果につながりません。繰り返しの訓練によって身に染み込ませるしかないのです。
 それぞれ、次のように学ぶのがおすすめです。

①「目を動かすもの」は週末に1科目ずつやる
②「手を動かすもの」は5分でいいから毎日やる

「目を動かすもの」、つまり、「宣言的知識」のように知識を詰め込む学習は、一気呵成(いっきかせい)に行ったほうがよいでしょう。もちろん理想的には、長期間、復習を繰り返しつつ学習するに越したことはないのですが、忙しいビジネスパーソンがそのような時間を取り続けるのは難しいかと思います。そこで、「今日は日本史Bの参考書を通読する」などのように、週末などのまとまった時間でまとまった量をこなすことをおすすめします。
 もっもと、ここで一つの問題が浮上してきます。
「一気呵成」に行う集中力を維持できるかどうか、ということです。
 たとえば私の場合は家で学習していると、余計なものが目に入ったり、ついインターネットを見てしまったりして、結局、学習に集中できないということがよくあります。
 そんなときは、参考書だけを持って、1日中カフェにこもることにしています。実際この本で紹介した参考書のほとんどは雰囲気のいいカフェで、休日を楽しむカップルや家族を横目に読み込んだものです。また、ある友人は週末はホテルを借りて、丸1日そこで学習すると言っていました。誰にも邪魔されないですし、非日常の空間で、コストを払っている罪悪感から、学習に集中できるそうです。
 反対に「手を動かすもの」、つまり「手続き的知識」を身につける学習は、5分でいいので必ず毎日することをおすすめします。
 小論文や英語のリスニングのような科目は、短時間で一気に能力が上がることはありません。短期間に集中して身につけようとするあまり、毎日5分だけでもやって、繰り返し身体に染み込ませたほうが効率的です。
 こうした毎日しなくてはいけない学習は、放っておくとしなくなるので、日常のルーティンに織り込むことが大切です。
 英語のリスニングであれば「通勤のバスでディクテーションをする」、現代文の問題なら「風呂に浸かっているあいだに1題解く」など、日常生活のルーティンに紐づけるのです。
 ルーティン化することで、「風呂に入っているときに現代文の問題を解かないと落ち着かない」といった状態になれば、放っておいても毎日学習するようになります。
 また、私は「手を動かすもの」は実行できたかどうかを毎日、手帳に記録しています。いかに自分が「毎日やれていないか」を可視化することで、自分を焦らせているのです。

『新・独学術』 第5章 より 侍留啓介:著 ダイヤモンド社:刊

 日常の生活に、いかに勉強時間を組み込んで、習慣化するか。
 それが忙しいビジネスパーソンが、独学を続けるためのポイントです。

「目を動かすもの」と「手を動かすもの」。

 手に入れたい知識の性質に合わせて、貴重な空き時間を上手に活用したいですね。

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 侍留さんは、型を理解したうえでしか、型破りな思考は生まれませんとおっしゃっています。

 侍留さんが勧める、最高の独学用のテキストは、「大学受験用の参考書」
 その中には、私たちが生きていくうえで、最低限知っておくべき知識が、効率よく収められています。

 わからないことは、インターネットで、誰でも簡単に調べることができる時代です。
 独学をするのに、今以上に快適な時代はないでしょう。

 どんなスキル、ノウハウでも、自分のやる気次第で、マスターすることができます。

「自分には無理」
「時間がない」

 そんな理由で、学ぶことを諦めている人には、ぜひ一度読んで頂きたい一冊です。
 本書は、多くの人に、独学の新たな可能性に目覚めさせてくれます。

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2 thoughts on “【書評】『新・独学術』(侍留啓介)

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