本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『フェイスブック 不屈の未来戦略』(マイク・ホフリンガー)

 お薦めの本の紹介です。
 マイク・ホフリンガーさんの『フェイスブック 不屈の未来戦略 (T’s BUSINESS DESIGN)』です。

 マイク・ホフリンガー(Mike Hoefflinger)さんは、ITエンジニア・起業家です。
 シリコンバレーにある大企業、インテルやフェイスブックなどで25年にわたり、経歴を積まれています。

フェイスブックの奇跡の急成長の秘密とは?

 2012年5月、フェイスブックは、米国の歴史上2番目に大規模なIPO(新規上場)を果たし、華々しい市場デビューを飾りました。
 しかし、その後、状況は一変し、市場の厳しい評価に晒されます。

 フェイスブックの株価は下がり続け、上場から109日後には、上場時の株価の約半分の値(17.73ドル)で大引けを迎えました。

 言い訳が許されるような状況ではなかった。全体の市況は回復していて、グーグルやアップルといった有力なテクノロジー企業の株価は上がっていた。ナスダック総合指数ですらフェイスブックの株価が下落した同じ期間で10%も上昇していたのだ。
 フェイスブックだけが沈んでいた。それに17.73ドルが底値でもなさそうだった。BMOキャピタルは、フェイスブックの株価予測を15ドルにまで引き下げた。これは、痛ましくもフェイスブックがIPO時の時価総額における4分の3を失うことを示すものだった。業界アナリストのイー・マーケター(eMarketer)の定評あるアナリストは、今期のフェイスブックの業績は予想を下回るだろうと発表した。1ヶ月後の2012年10月には、フェイスブックの12億株についてIPO後のロックアップ規制期間が終了する予定でもあった。買い手がつかない状況で、さらに大量の株式が市場に供給されれば、株価のさらなる下落は免れない。
 フェイスブックは、グルーポン、ジンガ、マイスペースといった彗星の如く現れ、急速に衰退していったテクノロジー企業と同じ末路を辿るかのように思われた。

『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第1章 より マイク・ホフリンガー:著 大熊希美:訳 TAC出版:刊

 フェイスブックは、そんな会社存亡の危機といえる状況から、見事に立ち直りました。
 そして、世界有数の巨大IT企業として君臨するまで、急成長を遂げることになります。

 本書は、フェイスブックがいかにして困難を乗り切り、大復活を遂げるに至ったのか、その道のりを詳しく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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世界トップ集団の共通点

 フェイスブックの創業者にしてCEOを務めるマーク・ザッカーバーグ。

 ホフリンガーさんは、ザッカーバーグはこの20年で、何十億人もの人生を変えたコンシューマー・テクノロジー企業を率いるリーダーの仲間入りを果たしたと述べています。

  • アンディー・グローブ(インテルの元CEO)
  • スティーブ・ジョブズ(アップルの元CEO)
  • ジェフ・ベゾス(アマゾンの創業者、CEO)
  • ラリー・ペイジ(グーグルの創業者)

 これらのビジネス界の巨人たちとザッカーバーグには、大きな共通点があります。
 その中のひとつが、「不可能を可能にする」ミッションを遂行する熱意を絶やさないことです。

 ザッカーバーグや他のタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた偉人を見ていると、彼らを真似するなんてできるわけないと思うかもしれない。ザッカーバーグの持つ直感やビジョンを真似ることはできないだろう。それらは教わって備わるものではない。
 しかし、彼らがどのように行動しているかはわかる。ザッカーバーグは常にミッションを追求し、世界に変化をもたらす軸からブレることがない(彼は自分が正しくて、他人が間違っていると証明するために働いているのではない)。これを真似るには、高い目標を見定め、力強く、ある意味鈍感になってそれに向かって突き進めばいい。周りの人はこの道を進むあなたを見て傲慢だとか、考えが足りないだとか言うかもしれない。そうした評価を気にせず動じていないように見せるなら、今度は誇大妄想を持つ、社会に馴染まない人物だと思われるだろう。傷つくことがあっても、そのような評価を振り払うことができるのなら、あなたの中にもザックに通じる熱意が燃えたぎっていて、困難な道を進む覚悟があると言えるだろう。それはドグマではなく実践を重んじる道だ。
 ザッカーバーグは誰よりもミッションの達成に熱意を傾けているが、それを周囲には、言葉ではなく、やって見せることで伝えている。フェイスブックの内部にも外部にも、自らの行動でビジョンを示す。ザックネットの開発から、「thefacebook.com」の開発に至るまで、他人がただ黙ってながめているだけの時間、彼はまず自分から動いた。
 フェイスブックの社内に貼っているポスターには「恐れがなかったら何をするか?」と書かれている。ザッカーバーグはこの文章が何を意味するか、自ら体現している。ザッカーバーグは世界中でインターネットを利用できるようにするため、数十億ドルを投資するというリスクを取った。フェイスブックの未来を守るために、インスタグラムやワッツアップのCEOと個人的な関係性を築き、2社を買収した。リスクを取って強く推進したが失敗したプロダクトも多々ある。
 ザッカーバーグはテクノロジー業界でも若いリーダーだが、彼の先を行くリーダーから学ぶことにも意欲的だ。ザッカーバーグは実践し続ける熱意をアンディー・グローブに、長期的な視点を忘れないことをジェフ・ベゾスに、何十億ドルという資金を効率的な慈善活動に充てる方法をビル・ゲイツに教わった。ザッカーバーグはフェイスブックの役員会をまとめているが、企業家を経てベンチャーキャピタリストになり、「ソフトウェアが世界を飲み込む」の提唱者マーク・アンドリーセンやペイパルマフィアのボスでベンチャーキャピタリスト、未来主義者で既存概念を疑い続けるピーター・ティールの話も聞いている。旧来のテレビを刷新したネットフリックスのCEOリード・ヘイスティングス、ワシントン・ポストの前オーナーのドン・グラハムといった独自の視点を持つリーダーの見解に触れる機会も設けている。
 人々の可能性を引き出す取り組みの一環として、ザッカーバーグはメンローパークにある小学校の教壇に立つこともある。彼と彼の妻(サンフランシスコで小児科医を務めるプリシラ・チャン)は精力的に慈善活動も行っている。彼らは最も若くして影響力を持つ慈善活動家だ。彼らは第一子である娘のマックスが生まれた際には、フェイスブックの株式99%を男女平等と人々のポテンシャルを促進する取り組みに寄付すると発表した。世界的にもこれまでで最大級の慈善活動への取り組みと言える。ビル・ゲイツがマイクロソフトの若きCEOだった時、彼とミランダ・ゲイツが慈善活動団体を立ち上げたことを思い起こさせる。これもザッカーバーグの先人から素早く学び、リスクを取ることを恐れず、未来を作るための仕事を後回しにしない姿勢を象徴しているだろう。

『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第2章 より マイク・ホフリンガー:著 大熊希美:訳 TAC出版:刊

 最初に掲げたミッションを追求し続けるのは、大きな困難を伴います。
 さらに、それを行動で示し続けるのは、並大抵の熱意では達成不可能です。

 フェイスブックが、短期間に、これだけの支持を集めた理由。
 それは、ザッカーバーグの絶えざる信念の炎が、その中核に灯り続けていたからといえます。

機能か、プロダクトか、会社か、ミッションか

 リーダーは、ただビジョンを描くだけでは、成功することができません。

 ホフリンガーさんは、そのビジョンを実現させるためには、どのくらいの間、強い意志を維持し続けなければならないかを知る必要があると述べています。

 1年未満でフレンドフィードやカバーフローのような機能が作れる。それだけで数十万、数百万ドルの価値になるだろう。1〜2年かけたのならシリ(Siri)やアンドロイド、インスタグラムといったプロダクトが作れる。それらは最高で数十億ドルの価値になる。リンクトイン(LinkedIn)やサップ(SAP)といった会社を作るというなら、それ以上の期間がかかる。だが、作れる価値の総額も100億ドルから数千億ドル規模になるだろう。そしてミッションを達成すると言うのならば、数十年を見据える必要がある。10年1区切りとした時、フェイスブックとテスラは2巡目、アマゾンは3巡目、アップルは5巡目に突入し、こうした企業は最終的に数兆ドル規模の価値を創造することになると言える。

 目標を高く設定するほど、それを達成するまでの道のりは長くなり、意志を継続しなければならない期間も長くなる。長ければ長いほど、怠慢が入り込む隙を与える。「これで充分」という緩みが生まれ、「楽観は戦略ではない」と我に返る瞬間が来るだろう。長く事業を続けるほど、すでに得た成功に執着しやすくもなる。いつの間にか悪循環に陥っていて、「これまでやってきたことを繰り返すだけでは、これまでと同じ結果しか得られない」とある日とつぜん事業が停滞していることに気づくかもしれない。

 機能か、プロダクトか、会社か、ミッションか。どれを作るべきかに正解などない。
 イノベーションは様々な形で存在し、それぞれで必要な期間も異なる。「成功」に決まった定義があるわけでもない。しかし、あなたとあなたの持つアイデアにとって、最適なゴールが何かを明確に意識する必要があるだろう。ミッションは数年で実現することはできないし、プロダクトを形にするのに何年もかけてはいられない。
 ザッカーバーグの目標は明確だ。2016年7月のフェイスブックの役員会で、ザッカーバーグが尊敬するアドバイザーであるティールとブライヤーは、フェイスブックをプロダクトとして売却する道を勧めた。ヤフーの買収提案を受け入れれば、ザッカーバーグは個人で2億5000万ドルを手に入れることができるとも言った。
 それに対し、ザッカーバーグはフェイスブックを売却してお金を手に入れたところで、また新たにソーシャルネットワークを立ち上げることに使うだけだと答えた。彼は今あるサービスを気に入っていて、手放すつもりはなかった。2006年にはすでに、ザッカーバーグは何十年がかりとなる、「世界をよりオープンにつなげる」ミッションに挑むと決意していた。そしてこの10年で、ザッカーバーグはグローブの自伝のタイトルのように、ミッションに向かって大海原を泳ぎきるスタミナがあると証明している。

 あなたは何を目指して取り組んでいるのだろうか?

『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第3章 より マイク・ホフリンガー:著 大熊希美:訳 TAC出版:刊

図3−1 目標ごとの達成までにかかる期間と生み出す価値の総額 フェイスブック 不屈の未来戦略 第3章
図3−1.目標ごとの達成までにかかる期間と生み出す価値の総額
(『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第3章より抜粋)

「ローマへの道は1日にしてならず」

 掲げるミッションが大きいほど、達成までの道のりは、遠く険しい。
 そのことを、覚悟しなければなりません。

 困難に耐えられる、タフな精神力。
 遠く将来のビジョンを見通す、洞察力。

 優秀なリーダーになるには、その両方を備える必要があります。

最大の防御は、先に「キャズム」を超えること

 順調に成長を続けたフェイスブックに、試練が訪れます。
 それは、2011年にグーグルが本格的なSNSサービス、グーグルプラス(Google+)を開始することでした。

 当時のフェイスブックの年間売上は、約20億ドル。
 それに対して、グーグルの年間売上は、約300億ドル。

 圧倒的なスケールの差に押しつぶされるか、と思われたフェイスブック。
 しかし、この最大の難敵を退けることに成功します。

 ホフリンガーさんは、グーグルプラスとフェイスブックの勝敗はグーグルプラスがローンチする3年前にはすでに決していたと指摘します。

 失敗の原因は、50年以上前に社会学者エベレット・ロジャースの発表した有名な研究で説明できる。これは後にシリコンバレーの作家、ジェフリー・ムーアによってさらに一歩進化している。ロジャースは社会学、文化人類学、地理学にわたる500以上の調査からどのようにイノベーションが社会に波及し、評価され、普及するかを調べ、1962年に発表した『イノベーション普及学(原題:Diffusion of Innovations)』で「イノベーター理論」を提唱した。ロジャースの言う「イノベーション」は多岐にわたる分野の事象を指しており、2010年代のインターネットとソーシャルネットワークの普及など、多くの事象にあてはめることができる。
 ロジャースの研究における最も重要な学びは、イノベーションを取り入れるグループは5つに分類できるということだ。どんなイノベーションであろうと、そのイノベーションが広まる対象となる人口における各グループの割合は驚くほど一定している。イノベーターが25%、アーリーアダプター13.5%、アーリーマジョリティ34%、レイトマジョリティ34%、ラガード16%だ。
 マーケッターでコンサルタントのジェフリー・ムーアは、1992年に出版した『キャズム(原題:Crossing the Chasm)』でロジャースの研究の一部をさらに一歩進める理論を提唱している。ムーアは、イノベーターとアーリーアダプター(最初の普及率16%)の間、そしてアーリーマジョリティとレイトマジョリティの間には深い溝(キャズム)があるとした。彼は、このキャズムを超える難しさを指摘し、また超えることができたのなら、後から追ってくる競合に対する自然な防御になるとした(キャズムは城の堀のような役割を果たすと考えることができる)。
 学術的に聞こえるかもしれないが、フェイスブックというイノベーションが普及対象となるインターネットユーザーの間で広まる様子を検証すれば、この理論通りであったことに気づくだろう。
 図8−4では、フェイスブックは2009年、そのキャズムを超えて16%の普及率を達成したことがわかる(下図を参照)。2011年までに、世界のインターネットユーザーにおけるアーリーマジョリティのおよそ半分に広まった(アメリカでは全インターネットユーザーの68%、メキシコやインドネシアといった国では90%以上の普及率となった)。つまり、グーグルがグーグルプラスというフェイスブックによく似たプロダクトをローンチした2011年の夏、フェイスブックはコンシューマーベースの奥深くまで浸透したと言える。ここまで来ると、ユーザーがフェイスブックから他のサービスに移るのは負担になる。さらに、フェイスブックにはネットワーク効果があり、7億人のコンシューマーから得た数ペタバイトのデータによる知見も蓄積されていた。7年という歳月をかけて実名ユーザーのネットワークを確固たるものにしていたのだ。

『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第8章 より マイク・ホフリンガー:著 大熊希美:訳 TAC出版:刊

図8−4 世界の全インターネットユーザーにおけるフェイスブックの普及率の推移 フェイスブック 不屈の未来戦略 第8章
図8−4.世界の全インターネットユーザーにおけるフェイスブックの普及率の推移
(『フェイスブック 不屈の未来戦略』 第8章より抜粋)

 ビジネスにおいて、先行者の利益がいかに大きいかを示す好例です。

 新たな事業を興すのに、リスクは付きものです。
 ただ、それを乗り越えて、一定の支持を集めることができれば、後発者に対して、強力なアドバンテージを得ることができます。

 フェイスブックは、まさにそれを忠実に実践したのですね。

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 今や、株式時価総額が4400億ドル(48.4兆円、2017年5月現在)で、世界5位の巨大企業に成長したフェイスブック。
 ただ、そこまでの道のりは決して平坦ではなかったことが、本書を読むとよくわかります。

 フェイスブックが成功した、最も大きな要因。
 それは、ザッカーバーグが自ら掲げたビジョンを、忠実に実行し続けたことです。

「世界をよりオープンにつなげる」

 という大目標のために、あらゆる可能性を追求し、変革を継続した。
 だからこそ、今日のフェイスブックがあります。

 生き馬の目を抜くようなIT業界で、フェイスブックが生き残った。
 それは、決して偶然ではありません。

 成長し続ける組織は、いかにして作られるのか。
 これからの時代を生きるビジネスパーソンに、ぜひ読んで頂きたい一冊です。

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