本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』(河野英太郎、田中ウルヴェ京)

 お薦めの本の紹介です。
 河野英太郎さんと田中ウルヴェ京さんの『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』です。

 河野英太郎(こうの・えいたろう)さんは、日本アイ・ビー・エム株式会社の部長です。
 同社において、コンサルティングサービス、人事部門、専務補佐、若手育成部門リーダー、サービス営業などを歴任されています。

 田中ウルヴェ京(たなか・うるゔぇ・みやこ)さんは、日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士です。
 ソウル五輪シンクロ・デュエットの銅メダリストで、車椅子バスケットボール男子日本代表チームメンタルコーチを務められています。

パフォーマンス向上のための「メンタル」

「メンタル」という言葉には、大きく2つの意味があります。

 ひとつは、職場でよく「あの人、メンタルをやられて休職している」というような使われ方をする、どちらかというとネガティブなイメージがある「メンタル」です。

 そしてもうひとつの意味が、スポーツ中継などで「この選手はメンタルが強い」といった文脈で使われる、どちらかというとポジティブなイメージがある「メンタル」です。この場合の「メンタル」は、高いパフォーマンスを出すための基盤となる「心の強さ」を指します。
 このアスリートの「メンタル」に関して印象深い話を聞いたことがあります。

 着々と準備が進められている2020年東京オリンピック・パラリンピック。
 じつは、東京はその4年前にあたる2016年に行われたリオ大会のタイミングでも立候補していて招致活動を行っていました。結果は立候補4都市中3位で残念ながら落選したのですが、その結果が伝わったときのエピソードです。
 招致にかかわったメンバーは、事務方と元オリンピック選手組の混成チームだったのですが、落選が伝わって「ガクッ」と全員が落ち込んだあとの連続写真を見ると、ショックのあまりしばらくうつむいたままの事務方に対し、元オリンピック選手組はすぐに顔を上げて前を向き始めたというのです。
 これが、ものの見事に対照的だったそうです。

 このエピソードはさまざまな解釈ができますが、私は次のように理解しています。
 アスリート、それも元オリンピック選手ともなれば、高いストレスの中で心身を限界まで追い込んで結果を出すことに優れた能力を発揮し続けてきた人たちです。その長い競技生活の中では、勝ったこともあれば、それ以上に負けた回数も多いはずです。
 懸命に目標を追い続け、その結果破れてしまったら、本人は心底悔しいでしょう。しかし、こうしたトップアスリートは、すぐに切り替えて次の勝負に向かうことのできる「メンタル」のコントロールの術を身につけているのではないか、と。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』 はじめに より 河野英太郎、田中ウルヴェ京:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 ホワイトカラーの生産性向上が叫ばれている、昨今。
 私たちの働き方にも、大きな変化が起こりつつあります。

 変化のしわ寄せは、ストレスというかたちで「人」にかかってきます。

 河野さんは、メンタルをいかに管理するかが、これからのホワイトカラーにとっての重要なテーマになると指摘しています。

 本書は、ビジネスパーソンが、「より高いパフォーマンスをあげるためのメンタルマネジメント」の具体的な方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「4つの感情」を知る

 河野さんは、感情の「マイナス面」にも役割があって、それ自体が悪いことではないと述べています。

 自分が今、感じているのは、どのような感情なのか。
 それに「気づく」ことが大切だということです。

 河野さんは、そのためのツールとして、感情の分類の仕方=「感情の四象限」を紹介しています。

 左の図1(下図を参照)にあるように、縦軸を心拍数(ドキドキ↔落ちつき)、横軸を感情の印象(プラス↔マイナス)の二軸で分類します。
 するとそれぞれ次のような領域に分類されます。

 ①第一象限(ドキドキのプラス):「楽しい」「わくわく」「うれしい」
 ②第二象限(ドキドキのマイナス):「むかつく」「恐ろしい」「緊張する」(他の表現として、怒り、ビビリ、焦り、ともいいます)
 ③第三象限(落ち着きのマイナス):「落ち込んでいる」「疲れた」「だるい」(悲しい、つまらない、なども入ります)
 ④第四象限(落ち着きのプラス):「リラックス」「平穏」

 常に「プラス」の状態でありたい、という気持ちは誰にでもあるでしょう。
 しかし物事が進歩する原動力は、じつは②の「ドキドキのマイナス」がきっかけになることが多いのです。
「なんでこの手続きはこんなに複雑なのだろう?」「絶対にこの状態を跳ね返してやる」といった職場での改革や改善の活動は、ここがスタートポイントです。
 これは、闘争本能・逃走本能など行動するための原動力を生みだす感情です。これがなければ発展がないわけです。

 しかし、もし職場でさまざまな出来事が起こり、②の状態が続きすぎて、③の「落ちつきのマイナス」状態になってしまったとします。その場合は、意図的に休みを入れるなどして④の「落ちつきのプラス」の状態をつくり出す工夫をしましょう。心の回復を待つのです。
 しかし④の状態では、仕事のパフォーマンスは上がりません。あくまでもここでは回復を目指すのです。そして①や②の刺激があっても耐えられるような心の状態を準備します。

 このように自分の中の4つの感情を知ることで、これを使い分けることが可能になり、あらゆる場面への対処の準備が整います。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』 PART.1 CHAPTER.1 より 河野英太郎、田中ウルヴェ京:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

図1 感情の四象限 たった1 のメンタルのコツ PART1CHAP1
図1.感情の四象限
(『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』PART.1 CHAPTER.1より抜粋)

 マイナスの感情を持っている。
 だからといって、無理にプラス思考をする必要はない、ということですね。

 大事なのは、今、自分の感情が、どの象限にいるか。
 それを知ることが、メンタルマネジメントの基本となります。

目標を「9マスシート」で分解する

 何かに取り組もうとするとき、重要なのは、「具体的な目標を立てる」ことです。

 河野さんは、目標を立てるコツは、頭の中にあるイメージを書き出してみることが有効だと述べています。

 目標を立てて書き出すことの意味は、漠然としている物事を、自分の中で「分解」「可視化」「言語化」することにあります。
 その意味で効果的に目標を立てる手法がありますので、ここでご紹介します。
 プロ野球日本ハムファイターズの大谷翔平選手が実践していたことで注目が集まった「9マスシート」(通称マンダラート)です。左の図2(下図を参照)をご覧ください。
 まず、トータルの目標が真ん中に来ます。大谷選手であれば「8球団から指名される」でしたが、ビジネスであれば将来のキャリアゴールでも、一年を通じて成し遂げたいビジネス目標でもいいでしょう。
 トータルの目標のまわりの8マスに実現のために必要な要素を書きます。この必要な要素が、さらに外側の9マスの中心にくる要素となり、さらに8つに分解されることになります。
 この方法ではプロセス目標と結果目標が混在するのですが、そこは気にせずやってみましょう。「言葉で表出する=可視化、言語化」こそが目的なのですから。
 こうすることで目標が漠然としたものから「分解」「可視化」「言語化」され、実行につながるものになることに重きを置くのです。
 ちなみに、大谷選手はこれを高校生のときにやっていたそうです。その後の活躍は、みなさんご存じのとおりです。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』 PART.1 CHAPTER.2 より 河野英太郎、田中ウルヴェ京:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

図2 9マスシートの例 たった1 のメンタルのコツ PART1CHAP2
図2.9マスシートの例
(『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』PART.1 CHAPTER.2より抜粋)

 ひとつの大目標を達成するのに、いくつかの中目標をクリアする必要がある。
 その中目標を満たすために、克服すべき、いくつかの小目標がある。

 最終的なゴールは、どこにあり、今やるべきことは、何なのか。
「9マスシート」は、それを、ひと目で理解することができる便利なツールです。

 人生の目標を、より具体的にするためにも、ぜひ、取り入れたいアイデアですね。

目を閉じて「音」に集中する

 パフォーマンスを上げるために、欠かせないのが「集中力」です。

 田中さんは、目から入る情報を断って音だけに注意を向けることで集中力を養う手法を紹介しています。

 これはアメリカ合衆国オリンピック委員会のサイコロジストであるピーター・ハバール博士が主導してオリンピック選手の指導に取り入れている手法でもあります。
 特にオリンピックにかかわる試合の出番前のような、あれこれ考えてしまいがちな状況の中でも集中するための取り組みとして、目を閉じて音に集中してみるという手法を実践しています。
 彼は「音だけに集中する自分の状態をつくれ」という表現をします。
 たとえば自宅であれば冷蔵庫や換気扇の小さな音であったり、遠くを走る車、鳥の声や川が流れる音などの自然音など、目を開けていると気がつかないような音に対して集中してみます。オフィスであれば、少し離れたところにあるプリンターや自動販売機、プロジェクターや誰かの足音、キーボードの音などが聞こえてきます。
 ポイントは人間の声や言葉以外の「音」に絞ってみることです。
 実際にやってみると、最初は複数の音が聞こえてきたのに、次第にその音だけが聞こえてくるようになります。そしてそのまま目を開いても、その音に集中していられれば成功です。
 これを繰り返しやってみると、集中するまでの時間が短くなるのを感じるはずです。
 また、続けることで、集中した状態の自分がより身近になり、イメージでいうと「集中筋肉」のようなものが鍛えられてくるのが自覚できるでしょう。
 地味ですが意識して集中の「基礎体力」をつけておくことで、いざというときのパフォーマンスがまったく変わってきます。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』 PART.1 CHAPTER.4 より 河野英太郎、田中ウルヴェ京:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

 目を閉じて、聞こえてくる音に集中するだけ。
 どこでも簡単にできます。

 オリンピック選手の指導にも取り入れられている集中法ですから、効果は間違いないでしょう。
 ちょっとした空き時間に、習慣にしたいですね。

能力発揮へと導く「心・戦・技・体」のピラミッド

 実力を100%発揮し、最高のパフォーマンスを引き出す。
 その中で、「メンタル」の役割は、具体的にどのようなものなのでしょうか。

 田中さんは、「実力発揮の理論」として以下のように説明しています。

「心・技・体」という言葉があります。スポーツでもビジネスでも、自分の能力を高めるということは、「自分の心・技・体」それぞれを高めていくということです。この言葉の意味を、「戦(戦術)」も加えて、メンタルマネジメントのつながりとともに説明しましょう。
 スポーツ心理学の領域においての「実力発揮の理論」に当てはめて、わかりやすく説明したのが、次のページの図6です(下図を参照)。

 一番下に平たい円があります。これがベースとなり、その上に4つの要素がピラミッド状に積み重なっています。
 まず、一番下のベースは何かというと、「哲学/フィロソフィカル」。そのすぐ上に「身体・フィジカル」があり、さらに「技術/テクニカル」「戦術/タクティカル」があり、その上の頂点にあるのが「心理/メンタル」という構造です。
 アスリートの場合、この図に沿って、それぞれの競技特性に合ったトレーニングを行います。
 たとえばサッカー選手の場合、「身体/フィジカル」ではサッカーという競技に必要な心肺機能や、体幹、足などを含むさまざまな筋肉を鍛えます。「技術/テクニカル」ではドリブルやシュートといったサッカーの技術を鍛えるでしょう。そして「戦術/タクティカル」では、その鍛えた身体や技をゲームプランにどのように活かすか、ということをトレーニングします。水泳選手であれば、この「戦術/タクティカル」の部分は、400メートル個人メドレーの最初の100メートルをどういうふうに泳ぐかといったレースプランのことが当てはまります。これらはビジネスアスリートも同じですよね。身体の健康維持管理は大事ですし、そのうえで、ビジネスの専門分野によって必要な技術や戦術があります。
 そして、ピラミッドの頂点には「心理/メンタル」があります。これはここまで見てきた「身体/フィジカル」「技術/テクニカル」「戦術/タクティカル」という3つ全部を司る「脳」の領域です。
 身体を司るのも、技術や戦術を司るのも、すべては人の脳です。身体を鍛えているときに脳で「何を感じ、何を考えているのか」によって、鍛えた結果は異なります。どの技術の、どういった戦術のときに、どういう思考が必要で、どういう感情は無駄なのかなど、その人によって、その人の状況によって違う「脳の使い方」=「思考と感情の使い方」を知ることは「心理/メンタル」の基本です。
 そして、この脳の処理能力を高めることが、ピラミッドの頂上にある「心理/メンタル」の領域です。
 メンタルマネジメントの中でも、この領域は、淡々とコツコツと「メンタルスキル」の反復練習によって鍛えていく場所です。

『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』 PART.2 より 河野英太郎、田中ウルヴェ京:著 ディスカヴァー・トゥエンティワン:刊

図6 アスリートの実力発揮に向けた流れ たった1 のメンタルのコツ PART2
図6.アスリートの実力発揮に向けた流れ
(『99%の人がしていないたった1%のメンタルのコツ』PART.2より抜粋)

 鍛えあげた「身体」。
 研ぎすました「技術」。
 練りあげた「戦術」。

 それらを活かすも殺すも、心理(メンタル)次第だということが、よくわかります。

 どんな状況に陥っても、つねに、その時のベストの力を発揮する。
 それには、「メンタルスキル」の反復練習を地道にこなすしかない、ということです。

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