【書評】『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(名越康文)
お薦めの本の紹介です。
名越康文さんの『SOLO TIME (ソロタイム)「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』です。
名越康文(なこし・やすふみ)さんは、思春期精神医学、精神療法がご専門の精神科医です。
「人間関係がすべて」になることは、現代人特有の不幸
名越さんが、精神科医として多くの人と接する中で得られた、ひとつの結論。
それは、「人間関係がすべて」になることが、現代人特有の不幸を生み出している
ということです。
古代から現代に至るまで、人は、「群れ」を作って生活しています。
互いに空気を読みあい、察しあいながら、会話を成立させる。
私たちは、そんなとてつもなく繊細で、高度なコミュニケーションスキルが求められている
社会に生きています。
高いレベルのコミュニケーションスキルそのものは、悪いものではありません。
ただ、それが「当たり前」のように求められてしまう社会は、多くの人を疲弊させてしまう可能性が高い
と、名越さんは感じています。
私は、十数年ほど病院の精神科に勤め、独立してからはクリニックで毎日、たくさんの患者さんを診させていただいてきました。その中で、多くの人が、会社や家族、友人といった当たり前の日常的なコミュニケーションの中で、疲弊しているということに気がつきました。改めて観察してみると、「普通に人生を送る」だけで疲れ果ててしまっても、まったく不思議ではないくらい、高度で繊細な感覚が求められる社会に私たちは生きているということに気づかされます。
私たちは今、誰かに会いたければ地球の裏側まで飛行機で飛んでいくこともできるし、SNSを通じて、有名人から直接言葉を受け取ることまでできる時代に生きています。しかし、そうしたつながりの豊かさは、私たちの胸の奥底の虚しさを癒してくれるというよりは、むしろ深める要因になっていると、私は感じます。
恋人とけんかをしないように、上司を怒らせないように、友人グループから外れないように・・・・・。
私たちは日々、人間関係を維持するためだけに、膨大なエネルギーを費やしています。もちろん、そうやって人間関係を維持することは、無意味ではありません。友人や恋人、家族や同僚との人間関係は、私たちが幸せな人生を送る上で、かけがえのないものです。しかし残念ながら、それだけで、私たちの心が満たされることはありません。
仕事を通して社会で認められたり、沢山の友人に囲まれてパーティを開くことで、私たちの心は表面的には満たされます。しかし、それだけでは、胸の奥底の虚しさは、解消されません。むしろ、人間関係に膨大なエネルギーを費やすことによって、私たちは、自分の人生を満たされたものにするチャンスを失ってしまうことすら、あるのです。『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第1講 より 名越康文:著 夜間飛行:刊
仕事や家族、友人といった人間関係により、疲弊している人たち。
名越さんが、そういう人たちにお勧めするのは、「ひとりぼっちの時間」(=ソロタイム)を過ごすこと
です。
ソロタイムが、私たちにもたらしてくれるもの。
それは、いつもとは違う思考であり、いつもとは違う感情
です。
本書は、ソロタイムの効用と、それを人生に取り入れていくための方法についてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「心の中の他人」の声に翻弄されていませんか?
私たちの心の中には、たくさんの「他人」が棲(す)んでいます。
名越さんは、対人関係のストレスの多くは、実は、現実の相手というよりは、「心の中の他人」によってもたらされるもの
だと指摘します。
「心の中の他人」と言われてても、おそらく、ピンとこない人が多いでしょう。しかし、よく思い返してみれば、ふと気づくと、頭の中で次のような言葉がぐるぐると堂々巡りをしていることはないでしょうか?
「あの人は私のことをどう思っているんだろう?」
「これくらいはがんばらないと、認めてもらえないんじゃないか」
「たぶん、私の気持ちはわかってもらえないだろうな」私たちはいつも、無意識のうちに、他人がどう思うか、他人からどういうリアクションが返ってくるのかということに、心を砕いています。そこにあるのは、現実のコミュニケーションというよりは、あなたの心に棲みついた「心の中の他人」との会話です。
「こんなことして何の意味があるんだろう?」という虚しさも、「誰からも相手にされなくなってしまうかもしれない」という不安も、「なぜ自分の言うことが聞き入れられないのか」という怒りも、すべては実際の人間関係というよりも、心の中の他人との会話によって生じた感情なのです。
ではなぜ、私はいつも、心の中の他人の声に影響を受け、他人からの評価や視線を四六時中、気にしてしまうのか。それはあなたが、「群れ」の一員として、日々を過ごしているからです。
会社でも、家族でも、社会でも、人間が集まるとそこには「群れ」が生まれます。群れの中で過ごしているうちに、私たちの心の中には、家族からの期待、仕事の責任、社会の常識など、さまざまな「声」が聞こえてきます。
こうした心の中の声は四六時中、私たちに「こうあるべき」「こうすべき」「これはやってはいけない」といったプレッシャーをかけてきます。群れの中で過ごす時間(=ソーシャルタイム)の間、私たちはこうした「心の中の他人の声」から自由になることはできません。
心の中の他人を追い払い、自分自身に向き合う「ひとりぼっちの時間」(=ソロタイム)を過ごす。そうすることによって、私たちは、日ごろのさまざまなプレッシャーから解放され、初めて、自分自身と向き合うことができるのです。『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第1講 より 名越康文:著 夜間飛行:刊
私たちは、よく、「他人の目を気にする」といいます。
ですが、本当は「心の中の他人を気にする」というほうが適切かもしれません。
人間社会の中で暮らす以上、ある集団に属することは、避けることはできません。
だからこそ、あえて「ひとりぼっち」になり、群れから離れる時間が、重要になるということです。
「旅に出ること」の効用とは?
慣れ親しんだ群から離れ、心の壁を越えていく。
それは、そう簡単なことではありません。
名越さんは、ただ、一時的にであれば、「群れから離れる感覚」を体験することは誰にでも可能
だと述べています。
そのための一番わかりやすい方法は、「旅に出る」ことです。
一番わかりやすいのは、「旅に出る」ということです。一人で何泊か、できれば三、四泊以上の旅に出る。そうすると、おそらく二泊目か三泊目の旅先のベッドの中で、あなたはふっと心が軽くなり、日頃思い悩んでいたことが、別に大したことじゃない、と感じ始めている自分に気づくはずです。
なぜ、旅に出るだけで、そんなことが起きるのか。それは、あなたの周囲を取り巻く「人」と「環境」が変わるからです。
旅先で、あなたは普段会っている人たちとは違う人々が触れ合います。そして、あなたが普段暮らしている部屋や職場のデスク、行きつけのカフェとは、異なる空気の中で時間を過ごすのです。
先に、私たち人間は常に、周囲の人間からの影響を受けているということをお話しました。しかし実は私たちは、人だけではなく、家具や衣服、食事といった、日常を取り巻くさまざまな環境からも、多大な影響を受けています。
旅に出ることによって、あなたの身体は周囲の人間関係や、さまざまなモノから引き離され、まったく違った「人」や「モノ」から、影響を受け始めます。その結果、あなたの意識は自然と、「群れの中にいる自分」という意識から、引き離されていくのです。
特急列車の車窓から外を眺めている旅行客たちの表情は、どことなく哲学者のように厳(おごそ)かな空気を帯びます。どこか思慮深く、それでいて緊張感もある。それは、日常生活とはまったく異なる「初めての何か」から、五感を通して無意識のうちに、影響を受けているからです。
目に飛び込んでくる未知の風景、いつもとは違う風の香り。そうしたものと感応するうちに、人は群れの中に埋没していた時の身体感覚から離れることができます。農耕を行い、定住するようになるまでの数百万年という長い間、人類は狩猟採集生活を送ってきました。それは言わば「旅をし続ける生活」です。人々は移動し続けてきました。「移動し続ける」ことこそが、人間という種(しゅ)にとって、もっとも自然なありようなのです。
私たちが抱える「群れ」の心理学的問題が誕生したのは、私たちの祖先が農耕を覚え、定住し始めた時からだと言っても過言ではないのです。『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第2講 より 名越康文:著 夜間飛行:刊
一時的に、心理的にも、空間的にも、群れから離れる。
それが人間関係からくるストレスを解消する、手っとり早い方法だということです。
私たちは、知らず知らずのうちに、周りの人や環境から、大きな影響を受けています。
それらを自覚し、いったんリセットすることが、精神衛生上、重要な意味を持ちますね。
「怒り」を手放す方法
私たちは、「ストレス社会」といわれるほど、「怒り」にまみれやすい環境で生きています。
名越さんは、怒りに対するハードルが低い社会では、人は気づかないうちに怒りやすくなるし、自分が怒っていることにも、気づきにくくなってしまう
と指摘します。
しかし、怒りは百害あって、一利なしの感情です。カリカリ怒っている人は判断力を失うし、コミュニケーションだってうまくいきません。暗い気持ちで行動するよりは、さわやかに、明るい気持ちを保っているほうが、仕事もスムーズに進むでしょう。
では、怒りを払っていくには、具体的にどうすればいいでしょうか。まず、大切なことは、怒りを無理に抑え込むという発想をやめることです。怒りというのは無理やり抑え込んでも、必ず心の中でくすぶり続けます。それは下手をすれば、無意識のレベルでマグマのように溜まっていき、ふとした拍子に、脈絡もなく爆発してしまうことになります(それこそ、東京湾に上陸して暴れまわる、ゴジラのように)。
怒りを払う時のコツは、怒りのエネルギーが小さなうちに「さっ」と払ってしまうということです。怒りのエネルギーは、ある臨界点を超えるとコントロールが利かなくなります。そうなる前の「小さな怒り」の段階で、手放しておく。会話の中でちょっと「イラッ」と来た時には、「おっと、ちょっと怒ってしまったな」と気づき、すぐに冷静さをとり戻すようにする。
日常の中の小さな怒りを払う方法についてはさまざまなものがありますが、どなたでも取り入れやすいものをひとつ、ご紹介しておきましょう。それは、スリランカ上座部仏教のスマナサーラ長老から教わった方法です。
やり方は簡単です。心に怒りがよぎった瞬間に、ゆっくりと三回、「私は怒っています」と唱える。たったこれだけです。実にシンプルな方法ですが、やってみると誰もが効果を実感できるはずです。皆さんも是非、試してみてください。
怒りや、暗い感情に囚われた時に「私は怒っています、私は怒っています、私は怒っています」と三回唱える。たったそれだけのことで、驚くほど速やかに、怒りから手を放すことができるのです。
こうした方法を用いて、こまめに怒りを払うことが、私たちが感情という暴れ馬を制御するための、第一歩なのです。『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第3講 より 名越康文:著 夜間飛行:刊
感情は、その場その場でうまく処理しないと、どんどん中に溜まっていくものです。
もちろん「怒り」も、例外ではありません。
「自分は怒っている」
その事実を認識し、怒りと正面から向き合う。
それが、アンガー・マネジメントの基本ですね。
火災を防ぐには、初期消火が命です。
「怒り」の感情の火も、こまめに消し止めましょう。
十秒×十回呼吸で心を落ち着ける
私たちの「心」と「身体」は、つねに一体です。
心のバランスが取れていなければ、身体のバランスも取れない。
心に緊張があれば、身体の緊張として現れます。
逆にいえば、体に働きかけることで、心の状態をコントロールすることができるということです。
名越さんは、「数息観」というテクニックを紹介しています。
では次に、身体に生じた緊張を取り除いしてみましょう。まず、背筋を伸ばして座ります。この時、背もたれにもたれないよう、真っすぐに背筋を伸ばします。そして、十秒間かけて、ゆっくりと息を吐いてください。
鼻から自然に息を吸い、もう一度、十秒かけて息を吐く。この時「ひとつ、ふたつ・・・・・」とゆっくりと呼吸のたびに数を数え、十回、丁寧に繰り返してみてください。〈エクササイズ 数息観(すそくかん)のテクニック〉
(1)背筋を伸ばして椅子に座る
(2)十秒かけて息を吐き、自然に鼻から息を吸う
(3)呼吸の数を数えながら、十回繰り返すこのように呼吸の数を数えるのは、仏教の瞑想における「数息観」と呼ばれるテクニックです。
(中略)
姿勢を整えて、しっかりと息を吐くことは、身体を通して心を落ち着ける基本といってもいいエクササイズです。デスクワークを長時間続けて、集中力が落ちてきた時にも効果的ですので、試してみてください。『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第4講 より 名越康文:著 夜間飛行:刊
図.簡単な瞑想の方法。
(『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』 第4講 より抜粋)
感情を整えて、落ち着いた状態を保つこと。
それが、「ひとりぼっち」の状態に耐えうる、必要条件といえます。
ぜひ、試してみたい方法ですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
名越さんは、ひとりぼっちで(Alone)生まれ、ひとりぼっちで死んでいくことを心から受け入れることができた時、ソロタイムを心の底から楽しめるようになった時、人は群れからの評価や称賛を気にすることなく、心から他人に貢献できる
ようになるとおっしゃっています。
人は、本能的に、関係性を求める生き物です。
グループやコミュニティに属することで、安心したり、心が落ち着いたりします。
ただ、その状態に慣れてしまうと、自分の属している群れの集団意識が、自分の意識であると勘違いすることが、少なくありません。
自分は、何をしたいのか。
自分は、どう考えているのか。
「本当の自分」を見失わないためにすべきこと。
それが「ひとりぼっちの時間」(=ソロタイム)を過ごすことです。
「ひとりぼっち」を経験してこそ、戻るべき場所のある、ありがたさも、実感できますね。
「つながる」ことが、簡単で手軽になった現代社会。
だからこそ、「つながらない」ことが、より重要となっています。
私たちも、本書を読んで、上手に「ひとりぼっち」になるスキルを磨きたいですね。
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