本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『SINGLE TASK 一点集中術』(デボラ・ザック)

 お薦めの本の紹介です。
 デボラ・ザックさんの『SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる』です。

 デボラ・ザック(Devora Zack)さんは、会社経営者です。
 コーネル大学ジョンソンスクール(経営大学院)の客員教員を15年以上務められ、マネジメントスキルやネットワーキングについて講義を数多くこなされています。

一度に「1つの作業」に没頭する!

 日々、増え続ける一方の仕事を、処理して成果を上げる。

 ザックさんは、そのための唯一の方法が「一点集中術(シングルタスク)だと指摘します。

 同時に、複数の作業を行うことを「マルチタスク」といいます。

 一見、効率が良いようにみえる、マルチタスク。
 実は、意外と生産性が低いことが、わかっています。

 シングルタスクは、マルチタスクより、もっと信頼の置ける、すぐれたやり方です。

 ザックさんの説く「シングルタスクの法則」を以下に示します(下の図1を参照)。

図1 シングルタスクの法則 一点集中術 INTRO
図1.シングルタスクの法則
(『SINGLE TASK 一点集中術』 INTRODUCTION より抜粋)

 たとえば「おカネ」「商品の在庫数」「脈拍」などを数えている最中に、うっかりほかのことを考えてしまい、最初から数えなおすはめにおちいったという経験は、だれにでもあるはずだ。
 途中で数がわからなくなったという経験は、だれにでもあるはずだ。
 途中で数がわからなくなった原因は、たいてい2つに絞られる。
 第1の理由は、あなたの頭のなかにある。つい、ほかのことを考えてしまったのだ。
 第2の理由は、外部にある。外部からの刺激が、あなたの集中力を奪ったのだ。
 前者は、ちょっとほかの考え事をしただけで、ごく単純な作業さえできなくなることを示している。後者は、外からの刺激に負けると、時間を浪費してしまうことを示している。
 いずれの場合も、邪魔が入ったことで集中力が途切れた結果、能率が落ちたのだ。
 結局、「数を数える」というたった1つの重要な作業を、あなたはまた最初から始めなければならない。
 本書は、もっとも重要なことに注意をもどすために利用できる万能の方法を紹介する。
 本書を読めば、集中力を保ち、周囲の環境を管理する方法がわかるし、あなたの足を引っ張ろうとする厄介な人たちへの対処法を学ぶことができる。
「一点集中」を貫けば、濃密で強固な対人関係をはぐくみながら、いっそう成果をあげられるようになるはずだ。

『SINGLE TASK 一点集中術』 INTRODUCTION より デボラ・ザック:著 栗木さつき:訳 ダイヤモンド社:刊

 本書は、1つの作業に専心し、能率を上げ、気が散らないようにする方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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タスクからタスクに「スイッチ」しているだけ

「人間の脳は、一度に1つのことしか集中できない」

 この事実は、神経科学者の間では、なかば常識となっています。

 脳について、少し説明しておこう。
 脳は注意を要するタスクに対処しながら、同時に流れ込んでくる情報を処理することができない。
 スタンフォード大学の神経科学者エヤル・オフィル博士は「人間はじつのところマルチタスクなどしていない。タスク・スイッチング(タスクの切り替え)をしているだけだ。タスクからタスクへとすばやく切り替えているだけである」と、説明している。
 こうした行動を続けているとマルチタスクをしているような気分にはなるものの、現実には、脳は一度に2つ以上のことに集中できない。そのうえ、注意をあちこちに向けていると、効率が落ちる。
 それだけではない。マサチューセッツ工科大学のアール・ミラー博士はこう述べている。「なにかをしているときに、べつのこと(タスク)に集中することができない。なぜなら2つのタスクのあいだで『干渉』が生じるからだ。人にはマルチタスクをこなすことなどできない。『できる』という人がいるとしたら、それはたんなる勘違いだ。脳は勘違いするのが得意である」
 手みじかにいえば、マルチタスクは不可能であり、一般に「マルチタスク」と考えられている行為は「タスク・スイッチング」にすぎない。タスクからタスクへとせわしなく、注意を向ける先を無益に変えているだけだ。タスクの切り替えには0.1秒もかからないため、当人はその遅れに気づかない。
 よって本書では、以降、マルチタスクを「タスク・スイッチング」「マルチタスクをしようとする試み」「いわゆるマルチタスク」といった言葉で言い換えていく。ときに「マルチタスク」という言葉を使う場合があるとしても、便宜上、そう言っているにすぎない。

『SINGLE TASK 一点集中術』 第1章 より デボラ・ザック:著 栗木さつき:訳 ダイヤモンド社:刊

 両手を使い、空中でたくさんの玉を一度に回す「お手玉」。

 見ている人には、同時に複数の玉を動かしているように見えます。
 瞬間的に見ると、触っているのは、1つの玉だけです。

 お手玉同様、マルチタスクも、同時にこなす作業が多くなるほど、失敗しやすくなります。

 タスク・スイッチングの回数を減らすこと。
 それが生産性を上げるのと同時に、ミスを減らすことにつながります。

「エネルギー」×「集中力」を生み出す

 シングルタスクとは、「『いまここ』にいること」「一度に1つの作業に没頭すること」を意味します。

 2014年、サッカーのアメリカ代表チームはワールドカップブラジル大会の出場権を獲得し、アメリカ国内では熱狂的なサッカーブームが起こった。
 開催地サンパウロで、アメリカは決勝トーナメントに進出。ベスト8を賭けてベルギー戦に臨み、延長のすえ、1対2で敗北を喫した。
 この熱戦のヒーローは、アメリカのゴールキーパー、ティム・ハワードだった。ハワードは好セーブを連発し、1試合16セーブという記録を樹立。その見事なプレーを伝える動画は世界各地で繰り返し再生された。彼はサッカー選手として、アメリカ合衆国が簡単に屈しないことをだれよりも強く示したが、試合後、いいプレーができたのはチームメイトのおかげだと高潔に述べた。
 大会前、アメリカチームの下馬評は低かった。
 ハワードが「世界一流の選手が揃った世界一流のチーム」と表現したチームは、ワールドカップではまず通用しないだろうと考えられていたのである。
 あるコメンテーターがハワードに「120分ものあいだ一瞬も気を抜くことなく、どうやって剃刀(かみそり)のような鋭い集中力を維持したのですか?」と尋ねた。「傍(はた)から見ていると、まるで忘我の境(きょう)に入っているようでしたが」
 するとハワードは、とてつもないプレッシャーに打ち勝ち、数万ものサッカーファンの歓声が聞こえてくるなかで集中力を維持した方法を説明した。
「ゾーンに入るんだよ。いったんホイッスルが鳴ったら、ほかのことはなにもかも消えてしまうんだ」
 すなわち彼は、一点集中術を実践していたのである。

 あなたもハワードのように集中することができる。ハワードは試合に負けはしたものの、堂々と帰国した。そして、いかにもチャンピオンらしい控えめな誇りを漂わせつつ、「ぼくたちに、あれ以上のプレーができたは思えない」と述べた。
 ハワードが身をもって示したように、シングルタスクはぐずぐずと怠けてすごしたり、漫然と仕事をしたりすることを意味しない。オフィスのシュレッダーに書類を1枚ずつ入れる行為を指すわけでもない。

 シングルタスクには「強いエネルギー」と「鋭い集中力」という特徴がともなう。シングルタスクにより見事な成果をあげれば、敬意を得ることもできる。
 あなたは自分の選択に100パーセントの責任をもち、最後までやりとげなければならない。目の前の作業に没頭するのだ。
 シングルタスクをするには、いまという瞬間、ほかの要求にいっさい応じることなく、1つの作業だけに取り組むことが求められる。
 次の作業に着手できるのは、いま取り組んでいる作業を終えてからだ。
 とはいえ、なにも目の前の作業をかならず完了しなければいけないわけではない。「この時刻までは、この作業に専念する」と決めた時刻がくるまで、集中すればいい。
 かたや恣意的(しいてき)にタスク・スイッチングをしていると、それぞれのタスクに時間が余計にかかってしまう。

『SINGLE TASK 一点集中術』 第2章 より デボラ・ザック:著 栗木さつき:訳 ダイヤモンド社:刊

図2 一点集中の作業を続けていると ゾーン に入れる 一点集中術 第2章
図2.一点集中の作業を続けていると「ゾーン」に入れる
(『SINGLE TASK 一点集中術』 第2章 より抜粋)

 1つの作業に集中できる環境に身を置くこと。
 タイムリミットを決め、集中する時間を区切ること。

 それが、「シングルタスク」を成功させるコツです。
 参考にしましょう。

メモすることで「集中」が可能になる

「没頭する」とは、目の前の作業に完全に集中することを意味します。
 これを、「フロー」の状態と呼びます。

「フロー」の状態が生まれると、その行為に完全に集中し、ふだんよりずっと高い能力を発揮できるようになります。

 シングルタスクに取り組む能力を高め、「フロー」状態に入る。
 そのための方法のひとつに、「パーキングロット」(駐車場)があります。

 パーキングロットとは、本来、会議の進行役がホワイトボードに、話題の挙がった、本来の議事とは無関係なテーマを、あとで話しあうために記録しておくことを指します。

 ザックさんは、このテクニックは、ひとりで働いているときにも応用できると述べています。

 1つの作業に集中している最中に、ほかのことについてのアイデアがひらめいたら、あとで考えられるようにそれを書き留めておくのだ。
 なんらかの作業に取りかかる前に、決められた場所に自分専用の「パーキングロット」を用意しておくのがいいだろう。
 それはスマホの「メモ」機能でもいいし、紙のメモ帳でもいい。ただし付箋(ふせん)やレシートの裏側、ダイレクトメールの封筒などに書き留めるのはやめておこう。私自身、こうした手近の紙に走り書きをして、結局、その行方(ゆくえ)がわからなくなったという経験を何度もしてきた。
 アイデアがひらめいたり、なにか重要なことを思いだしたりしても、それが現在の作業と無関係なら、そちらに注意をそらしてはならない。ひとまずそれを書き留め、すぐに本来の作業に戻ろう。
 あとで思いだせる自信があるなら、メモを残す必要などない?
 いや、それは通用しない。なぜなら・・・・・
 メモ帳とちがって、あなたの頭は100パーセント正確に記録を残すことができないからだ。
 ちょっと作業の手をとめ、メモをとるだけなら、シングルタスクの集中力が弱まることはない。
 たとえば、あなたが自然光の下で働いているとしよう。夕方になり、陽が翳(かげ)りはじめ、室内は暗くなってきた。それでもあなたは断固として座ったまま、「いまはこの作業に集中しているから、ぜったいにライトをつけるような真似はしない」と思うだろうか。それとも、ちょっと立ちあがり、ライトのスイッチを入れ、作業にもどるだろうか。
 懸命に目をこらして作業を続けるより、灯りをつけるほうがいいに決まっている。
 暗がりのなかでひたすら作業を続けるのが馬鹿げているように、周囲の環境をととのえてスムーズに作業を進められるようにする努力や、頭に浮かんだアイデアをメモに残して本来の作業に専念する努力は「一点集中」のために欠かせない。

 とんでもない名案がひらめいたら、それを逃したくないからこそ、私はすぐに紙に書き留める――あとで徹底的に考え、可能性を広げるために。
 反対に、書き留めるというただそれだけの行為を怠れば、私はすぐにその名案を忘れてしまうだろう。あるいは、頭の中心にそのアイデアを据えておこうとするだろう。すると結局、本来の作業に集中できなくなる。
 一言、二言を書き留めるだけで、頭のなかがすっきりするし、気も散らなくなる。

『SINGLE TASK 一点集中術』 第3章 より デボラ・ザック:著 栗木さつき:訳 ダイヤモンド社:刊

 人の記憶力は、意外と曖昧なものです。
 そのうえ、「覚える」という行為も「作業」ですから、シングルタスクを妨げます。

 脳に余計な不可を与えない。
 そのために有効な「パーキングロット」。

 ぜひ、実践したいですね。

五感を澄まし、「特別な時間」に入る

 人は、何かに専心しているときのほうが、充足感を覚えます。

 ザックさんは、シングルタスクを実践していると、人はより深い幸福を感じられると指摘します。

 幸せと深い相関があるのは、「人生の一瞬一瞬に生きる意味を見いだす能力」です。

 2007年、世界的に著名なバイオリニストのジョシュア・ベルは、ある実験に協力した。彼はワシントンDCの地下鉄に乗り、ランファン・プラザ駅で下車すると、バイオリンケースを広げ、チップをもらえるように床に置いた。そして数百万ドルもの価値のあるバイオリンを45分間、弾きつづけた。
 足をとめて演奏に耳を傾ける人はほとんどいなかった。ベルはチップで32ドル稼いだ。とはいえ、よく立ちどまり、演奏に聴きいる世代がひとつだけあった。子どもたちだ。
 多忙なおとなたちは、場合によっては1分あたり1000ドル支払わなければ聴くことができない音楽家の演奏を無料で楽しむまたとないチャンスを逃したのである。
 つねにあわただしくすごしていると、感動したりよろこんだりする能力が失われてしまう。だがシングルタスクを本気で心がけ、「いまここ」に意識を集中させていれば、思わぬタイミングで意識を向けるべき現象が起こったとき、それに気づくことができる。注意が分散した状態で周囲の世界を眺め、なにがあろうとさっさと通りすぎていると、人生に一度しかないような絶好の機会を逸するのだ。

 脳科学者のグレゴリー・バーンズは、作家のピーター・カミンスキーと話した際、「ハイパーリアリティ」、すなわち次元を超えた現実について、カミンスキーが次のように説明したと綴っている。「心から楽しんでいる時間は、ぼくにとって『特別な時間』なんだ。そこにはべつの現実がある。そのなかで、ぼくは生きることを満喫し、完全に集中している。一瞬一瞬が、はじけて果汁をしたたらせる完熟した果物のように感じられるんだ」
 バーンズは「そうした状況では次元を超越した瞬間が生まれ、脳裏に焼きつく」と述べている。
 いまという瞬間を心から味わう練習を重ねていけば、「生きることを満喫」できるようになる。次元を超えた「特別な時間」を体験する能力を身につければ、幸せを実感すると同時に、もてる能力をもっと発揮できるようになる。

『SINGLE TASK 一点集中術』 第7章 より デボラ・ザック:著 栗木さつき:訳 ダイヤモンド社:刊

 過去や未来のことに心を奪われると、「今」を生きることができません。

 まさに、「心ここにあらず」の状態ですね。
 注意力が散漫になり、絶好のチャンスを失う確率も、大きくなります。

「今、この瞬間」を味わう。

 シングルタスクの習慣を身につけ、「特別な時間」を体験する能力を身につけたいですね。

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 パソコンやインターネットの普及などで、あらゆるワークが効率化されました。
 一方、コスト削減などの影響で、一人当たりの仕事量は増加の一途をたどっています。

 誰もが、意識している、していないに関わらず、「マルチタスク」を強いられている。
 今は、そんな世の中といえます。

 複数の仕事を効率的にこなすには、「マルチタスク」が一番。
 本書は、そんな世の中の風潮に風穴を開ける、衝撃の一冊です。

「少子化問題」や「働き方改革」で、生産性向上が叫ばれる、昨今の日本。
 これからの時代を生き抜くビジネスパーソン必読の一冊といえます。

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