【書評】『神社のおかげさま』(和田裕美)
お薦めの本の紹介です。
和田裕美さんの『神社のおかげさま――これがあなたの生きる道』です。
和田裕美(わだ・ひろみ)さん(@wadahiromi)は、コミュニケーションがご専門のコンサルタントです。
コミュニケーションやモチベーションアップのためのセミナーや講演等を中心に、国内外で活躍されています。
幸せの源は「神社」にあり!
和田さんは、時間さえあれば、「神友(じんとも:“神社”というキーワードで仲良くなった人たちのこと)」と日本中の神社へ参拝に行く、というというほどの神社好きです。
本書は、「神社のことを知れば知るほど、神社にお参りをすればするほど、幸せな気持ちが温泉みたいに湧いてくる」、そんな静かな感動を伝えるために書いた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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天は自ら助くるものを助く
「苦しい時の神頼み」
そういう言葉もあります。
自分で「なんとかしよう」と思って行動しない人には、神さまの助けはありません。
「神さま、どうか救ってください!」と叫んだだけでは、何も起こりません。
和田さんは、「神や仏にすがって生きてはいけない」とクギを差します。
あくまで自分の人生は自分の手の中にあるということです。
「じゃ、なんで和田さんは神様を信じるのですか?」と疑問に思われる人がいると思います。
それは、そのほうが強くなれるからです。
約束を守れる人になれるからです。
未来を信じることができるからです。
人が見てないところでも、がんばる自分を持てるからです。
辛いときも「きっとだいじょうぶ」と思って踏んばれるからです。
そして何より、感謝の気持ちを忘れず、傲慢(ごうまん)にならないですむからなのです。人間なんて、一度落ちたらとことんまで落ちます。
ちょっとサボったつもりが、何もかも面倒になって動けなくなったりします。
だらだらしたら、どんどん怠惰になれるんです。
嫉妬で憎しみがいっぱい、真っ黒な心ですべての世界を否定して生きることだって簡単にできてしまいます。
だから私は、強く生きていくには「自己規律」が必要なんだと思っています。
弱い自分に流されてしまうことなく、前向きにがんばって結果を残せる人生にしたい。だからこそ、そこに神さまがいるかのように信じることが、私にとっては必要なのです。
考えてみれば、世の中で成功している人は、誰もが「自分を信じている人」です。
そして、ちゃんと精一杯やった人なのです。
自分のためにも人のためにも、ちゃんと生きてきた人なのです。
天は自ら助くるものを助く。そういうことだと思います。『神社のおかげさま』 序章 より 和田裕美:著 亜紀書房:刊
和田さんの考える神さまは、「サムシング・グレート(偉大なる何か)」としか言いようのない存在のこと。
自然そのものであったり、この宇宙全体だったり。
人間には解明できない人知を超えた巨大なエネルギーみたいなもの
です。
信仰心とは、その「偉大なる何か」に対して、敬意を払うこと。
心からの感謝をし、それに恥じない生き方をすることです。
「おてんとさまが見ている」という気持ち
和田さんにとって、神さまとは、「自分の中に立つ大黒柱のようなもの」です。
目に見えない存在だからこそ、いまもどこかで見られているんじゃないかと思うとのこと。
外資系教育会社で、営業成績世界ナンバー2の成績を残せた。
それも、「神さまが見ているから、手抜きしないでやろう」と思い、頑張った結果です。
小さい頃おじいちゃんによく言われました。
「ひろみ、おてんとさまが見てるから、ちゃんとしなあかんで」
「おてんとさま」とはご存知のとおり太陽のことです。
日本最高位の神、天照大御神(アマテラスオオミカミ)さまは太陽の神とされています。つまり、「おてんとさまが見ている」という言葉には、
「どこで何をしていても神さまは常に見ていらっしゃる。だから、誰も見ていないと思って悪いことをしてはいけない」
という教えが込められているのです。
人前だと分別のあるが、人がいなくなるとゴミをポイ捨てしたり、愚痴をいったりすることがあります。
でも、私はそういう行為を少しうしろめたく感じてしまうのです。
だって「おてんとさま」が見ているんです。(誰も見てないからいいや)と思ってずるいことをすると、きっと罰があたりそうな気がしてなりません。『神社のおかげさま』 第2章 より 和田裕美:著 亜紀書房:刊
「おてんとさまが見ている」という感覚。
それは、日本人に独特の宗教観といえるのかもしれません。
他の誰かが見ていなくても、自分自身を見つめている存在がある。
そう意識するだけで、背筋がピンと伸びます。
「おてんとさまが見ている」
そんな気持ちを、いつも忘れないように心掛けたいですね。
別れとは失うことでもあり、いただくことでもある
人はみな、いつかは、すべての人と別れを迎えます。
この事実から避けることはできません。
和田さんは、この「別れ」も、いただいたものだと考えています。
別れによって生じる喪失感や、押しつぶされそうな悲しみ。
それらは全部、意味のあることだ、とし、以下のように述べています。
変わったことといえば、あの人はもうこの世にいないということと、悲しみが自分の心に居場所を見つけてどっかり座り込んでいることだけ。
そのとき私は、自分はいま生きているんだということを深く実感しました。
この悲しみは当分心の中に居座りそうだけど、それも一緒に抱えて生きていく覚悟をしないといけないんだ。もしかして、今までよりずっと思いやりのある、やさしくて、強い人間になれたらいいな、と。
死という究極の別れだけではなく、心が離れるという意味での別れも、きっと意味があることです。ときに、生きていく上で大事な成長のステップになってくれます。
たとえば、私は昔の失恋なんかも、いまでは「別れてよかったなあ」と負け惜しみでなく思えます。たしかにあのときは辛かった。でも、あのままずるずるとつき合っていたら、もっと辛かっただろうな。そんなふうにしみじみ思います。『神社のおかげさま』 第3章 より 和田裕美:著 亜紀書房:刊
和田さんは、別れは必ず何かを生み出す、だから、「別れ」とは失うことである一方、いただいていること
だと述べています。
「別れ」の悲しみがあるから、人とのつながりのありがたさが身に沁みます。
そして、新たな「出会い」の喜びも生まれます。
「出会い」も「別れ」も神さまからの贈り物。
大事にしたいものです。
悔しさは未練、未練は力なり
和田さんは、神さまを信じることの“ご利益”のひとつに、「正しい欲」を挙げます。
「悔しい」という感情は、正しく使えば力になります。
しかし、間違って使うと不幸になりかねません。
「あいつは運がよかっただけだ。あいつばかりずるい」と考える。
それとも、「同じ人間なんだから、彼にできたなら自分にもできる可能性がある。次はもっとがんばってみよう」と考える。
どちらにするかで、その後の人生は大きく変わってきます。
「悔しさは未練なり、未練は力なり――」
この言葉は、和田さんが営業の仕事で、目標の数字を達成できなかったときに、上司が教えてくれた言葉です。
自分に対して悔しいと思う気持ちは未練になります。未練は「もう一回がんばってみよう」に変わって、前進する力になります。だから、悔しいと思う気持ちはとても大切なのです。成長のチャンスだからです。
ただ、頭ではそうわかっていても、人間は「悔しい」という気持ちをただの嫉妬に貶(おとし)めてしまいがちです。自分の非や至らないところを認めずに、相手の幸運ばかりをうらやんでいたほうがラクなんです。そうやって結局、自分で自分を不幸にしてしまう。
弱い人間が流されがちなそうした傾向を知り抜いた多くの宗教では、だから「欲や悔しいと思う気持ちを捨てて、いまに満足しなさい」と教えているのではないでしょう。
だけど、「素直な心」さえあれば、一番になれなかったり、目標を達成できなかったりといった、あまり認めたくないような現実も受け止められます。
(失敗したのはやり方が間違っていたせいかも)
(あのときに手を抜いてしまったのがいけなかった)
自分の過ちや努力不足にも気づけます。
「感謝の心」があれば、一位になれなかったけれど、みんなのおかげでがんばれたと周囲の人たちに感謝できます。『神社のおかげさま』 第4章 より 和田裕美:著 亜紀書房:刊
“陽転思考”の和田さんらしい解釈ですね。
欲をもつこと自体が、悪いことではありません。
悔しがることも、未練をもつことも、同様です。
大事なのは、その気持ちを他の誰かではなく、自分にぶつけること。
いかに自分の向上心や原動力に変えていけるか。
そう考えると、身の回りの「思い通りにならないこと」もすべて、神さまからの贈り物になります。
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科学や技術が進歩した現代。
それでも、この世の中には、理屈で証明できないことは、いくらでもあります。
謎だらけといってもいいくらいです。
そう考えると、人智を超えた「偉大なる何か」が存在しないと考えるのは、無理があります。
人間の傲慢さの表れであるとも感じます。
目に見えないものこそ、大事なかけがえのないもの。
目に見えないもの、自分の理解の及ばないことを信じる。
それがができることこそ、本当の謙虚さであり強さです。
神社のある国・日本という国に生まれたことに感謝する。
私たちを見守ってくれている「目に見えない大きな存在」に畏敬の念を忘れず、日々を過ごしていきたいですね。
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