本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『「ラクして速い」が一番すごい』(松本利明)

 お薦めの本の紹介です。
 松本利明さんの『「ラクして速い」が一番すごい』です。

 松本利明(まつもと・としあき)さんは、人事・戦略コンサルタントです。

「ラクして速い」が一番すごい!

 松本さんは、世界的な外資系コンサルティング会社で、M&Aや人事制度改革・人材開発に24年以上かかわってきました。

 松本さんが一貫して行ってきたこと。
 それは、「人の目利き」です。

 累計で、5万人を超えるリストラ、そして6000人以上の優秀なリーダー・幹部の選抜を行ってきました。

 今の時代、真面目にコツコツ一生懸命やる人は「いい人」とほめられても、評価されません。課長にもなれません。途中で体調を崩すか、万年(まんねん)平社員です。
 皆さん、薄々気づいているのではないでしょうか。
 実際に活躍しているのは、眉間にシワを寄せて一生懸命働く人ではなく、涼しい顔でサクサク仕事を進めている人です。

 結論を言います。

 努力はいりません。
 ラクに速く仕事をするほうが、結果が出て、さらに人生の選択肢も増えるのです。

 この事実はごく一部の優秀な人しか知りません。
 その人は黙っているので広まらないのです。
「能力があり、仕事ができる」から活躍しているのではありません。「ラクに速く仕事をしている」から能力が上がり、チャンスをつかんでいるのです。
 国内外600社以上のコンサルティングの現場で、例外は1つもありませんでした。

 誤解されやすいのですが、“ラクをする”とは「手抜きをする」「適当にする」ということではありません。力の「入れ所」と「抜き所」を押さえ、ムダな仕事を減らすことです。
 この心がまえを持ち、日々の仕事にとり組めているかどうか。
 それが、リストラされた5万人と選抜された6000人の「差」です。
 本書では、力の「入れ所」と「抜き所」を押さえ、スピーディに仕事を進めるやり方を「ラクして速い」は定義します。

 “ラク”とは、力の「入れ所」と「抜き所」を押さえ、ムダな仕事を減らすこと
 “速く”とは、1秒でも早く仕事を終わらせること

「集中すべきものと、捨てるべきものを正しく取捨選択する」。
 こう言い換えてもいいでしょう。

『「ラクして速い」が一番すごい』 はじめに より 松本利明:著 ダイヤモンド社:刊

 本書は、ラクに速く仕事をするための「現場ですぐできて、結果が出る具体的なノウハウ」を収録した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「60点の出来」で突っ込ませる

 資料をミスなく、完璧に仕上げる。
 もちろん、そういう意識を持つことも、大切なことです。

 それよりも大事なことは、速く確実に仕上げて通すことです。

 松本さんは、最初から100点を目指すのではなく、あえて60点で出し、どんどんフィードバックをもらいましょうと述べています。

 60点で出すメリットは3つあります。
①方向性を確認できる
 ある程度仕事を進めたら、相手に方向性や内容を確認してもらいましょう。やり直しのリスクを減らすことができます。
 しかしストレートに「60点の出来」と言ってしまうと、「ちゃんと仕上げたものを持って来い」と突き返されてしまうでしょう。
 ではどうするのか。調査・分析であれば「速報」、書類であれば「ドラフト」という形にするのです。これなら必ず見てもらえます。要所をしっかり確認しましょう。

②相手に突っ込ませて、ゴールを明確にする
 依頼者が最終形をイメージできないときは、「60点」での提出が効果的です。
 依頼者が常に正解を持っているとは限りません。形さえあれば突っ込むことはできるもの。依頼者の状況を想定し、仮説でもいいので「こんな目的と内容でよろしいでしょうか?」と質問します。
「60点の出来」でも、相手の立場で真剣に考えた質問や提案は、相手の思考を刺激します。あえて相手に突っ込ませることによって、依頼者のイメージがどんどん固まっていきます。
「このやりとりを3回続ければ、相手は断る理由をなくす」とは、三井物産の元副社長池田正雄(まさお)の言葉です。
 6000人を超える優秀なリーダーにインタビューしてきましたが、ほぼ全員が同じことを言っていました。

③いじわるな上司対策
 これは、「後からひっくり返すことが仕事」と勘違いしている依頼者対策です。
 このタイプはダメ出しをして影響力を発揮しようとするので、完璧に仕上げてから持っていっても、「そもそも論」を持ち出しすべてひっくり返します。
 対策としては、本筋をズラさずに、依頼者が突っ込みやすいポイントを準備しておくことです。
 このタイプはいくつか突っ込み終えると満足するので、やり直しのダメージを最小限に抑えられます。

『「ラクして速い」が一番すごい』 1章 より 松本利明:著 ダイヤモンド社:刊

 資料作りの目的は、完璧に作ることではありません。
 依頼者(お客様・上司)の要求に応えるレベルのものを、“速く”作ることです。

 最も重視すべきは、「依頼者の意図」であり、「方針」です。
 それを考慮すれば、「60%の出来」で一旦アウトプットする効果は、計り知れないですね。

「やりたい仕事」は捨て、「勝てる仕事」に注力する

 最初は、やりたい仕事ではなかった。
 けれど、やってみたら楽しくて、うまくいった。

 松本さんは、選抜されたリーダーの多くが、やりたい仕事よりも「求められる仕事」で結果を出してきたと述べています。

 ここで2つの疑問が出てくるでしょう。

 ①自分の持ち味はどうすればわかるのか?
 ②自分の持ち味を知ったところで、今の仕事に活かせるのか?

 自分の持ち味を知るのは簡単です。仕事上の「ありがとうの声」を知ればいいのです。この「ありがとうの声」があなたの「提供価値」です。事務職のように一見、提供価値に差が出にくい仕事でも、「ありがとう」の種類はたくさんあります。
「速くてありがとう」
「正確でありがとう」
「締め切り前に出してくれてありがとう」
 数えきれないくらいの「ありがとう」の種類があります。あなたはどんな「ありがとう」を言われていますか? 上司や同僚、メンバー、家族や友達など普段接している人に聞いてみるといいでしょう。自分を客観視するのは難しいですが、他人を客観視するのは簡単です。まわりの人はあなたを客観的に見ているものです。図12は「ありがとう」のサンプルです。参考にしてみてください。
「ありがとう」の理由がわかれば、その「ありがとう」を言ってもらえるように働きかければいいのです。「速くてありがとう」が多いなら、常に速く提出し、「あの人は速い」という評価を拡げていくのです。それもダントツに。「あの人には速くやってもらいたいときにお願いしよう」という評価が拡がれば勝ちです。遅くても正確さが求められる仕事はあなたにこなくなります。
「この仕事ならあの人」という評価を得るには、いつも同じ結果という「一貫性」が必要です。持ち味に沿ったことなら、ラクに速くできるので一貫性を保つのは簡単ですが、ムリをすると長続きしません。
 せっかく「速い」という持ち味があるのに、苦手な「遅くても正確」な仕事までやってしまうから、評価もそれなりになってしまうのです。
「速い」という評価を広めるには、待っているだけではダメです。「たたき台をつくりましょうか」など、長所が活きる仕事をどんどんとりに行くのです。
 あなたの仕事が得意なことでいっぱいになれば、苦手な仕事は入ってこなくなります。
 今日から「ありがとう」と言われる仕事を舞い込ませ、ラクして速く仕事を進めていきましょう。

『「ラクして速い」が一番すごい』 2章 より 松本利明:著 ダイヤモンド社:刊

図12 ありがとう はこんなにある ラクして速い 2章
図12.「ありがとう」はこんなにある!
(『「ラクして速い」が一番すごい』 2章 より抜粋)

 松本さんは、あなたの仕事が得意なことでいっぱいになれば、苦手な仕事は入ってこなくなると指摘します。

 自分の得意な仕事を優先的にして、強みを磨いていく。
 すると、自分の持ち味が周囲からも認知され、得意な仕事ばかりが回ってくる。

 そんな好循環が巡るようになります。
 そうなれば、しめたものですね。

「灯台下暗し」

 長所や強みは、自分自身では、なかなか気がつかないものです。

「ありがとうの声」があなたの「提供価値」。

 まずは、自分自身をじっくり振り返ってみましょう。

「苦手な仕事」より、「得意な仕事」を人に振る

 仕事を抱え込まないようにするには、仕事を誰かに任せることが必要です。

 そのとき必要なのは、得意な人が得意な仕事をできるように、チーム全体で仕事を再配分する発想です。

 誰かが苦手なことは、必ず得意な人がいます。得意な人にやってもらえば、本人も成果を出せるし、モチベーションも上がり、チームとしての生産性も上がります。いいことづくめなのです。
 あなたが手元に残していいのは、「あなたが得意で、あなたしかできない仕事」だけ。その仕事を通じて、「速くなった、質が上がった、量が増えた、停滞から抜け出せた」という今までにない価値を生み出しましょう。
 大事なのは「振り方」です。丸投げや無茶振りは無責任。「あなたの成長のため」と言っても、相手はそうは思いません。相手に「苦手な仕事、やりたくない仕事」と思われたら、仕事は受けてもらえません。
「正義」や「大義名分」が必要です。1人のためでなく、「みんなのため」と言うのです。

「みんなが早く帰れるように、段取りや分担を見直そう」

「みんなのため」という言葉を使うと、途端に反対しにくくなります。「みんなのため」という正義に弱いからです。

 あなたが苦手な仕事は当然ですが、あなたが得意な仕事もどんどん振りましょう。
 あなたから仕事のコツを教われるなら、まわりは喜んで仕事を受けたくなります。得意な仕事こそ、まわりに振るべきです。
 しかし、得意な仕事はなかなか振れないもの・・・・・。
 ここで戦わなくてはいけないのが「私がやったほうが速い」「得意な仕事を他人にとられる」という意識です。得意で評価されていること、自信のあることを他人に渡したくないと恐れがちですが、思い切って手放しましょう。手元に残すのは、「あなたが得意で、あなたにしかできない仕事」だけだからです。
 ただ、手放すには「本当にあなたでなければできないか」「あなたでなければ質を保てないか」をじっくり検証する必要があります。
 得意な仕事を洗い出し、その具体的なノウハウを他人でも使えるようにツールやフォーマットに落とし込んでみましょう。本当にあなたでなくてはいけないかを客観視できます。ツールやフォーマットに落とし込めるものは、他の人でもできます。
 落とし込めたものはどんどん人に振りましょう。あなたの評判が上がるだけではなく、「あなたが得意で、あなたにしかできない仕事」の時間も増えます。
 また、ノウハウを整理して人に教えることで、あなたの理解力もいっそう深まります。あいまいな点や詰めの甘さがハッキリするからです。
 自分にとっての「得意な仕事」をもう一度見つめ直しましょう。「他の人でもできる」なら、どんどん振ったほうがあなたのためになるのです。

『「ラクして速い」が一番すごい』 3章 より 松本利明:著 ダイヤモンド社:刊

図16 得意な仕事こそ どんどん振る ラクして速い 3章
図16.得意な仕事こそ、どんどん振る
(『「ラクして速い」が一番すごい』 3章 より抜粋)

 仕事を他人に振れないばかりに、自分で抱え込んで、身動きが取れなくなる。
 そんな人は、どの会社でも多いでしょう。

 個人の努力だけでは、限界があります。

 適材適所。
 強みを活かし、弱点を補い合う。

 それが成り立ってこそ、チームとして生産性を最高に高められます。

そのまま伝えるより、「欲」に訴えかけて動かす

 相手に気持ちよく動いてもらう。
 そのためには、相手の「欲」をダイレクトに刺激するひと言を最初に言うことです。

 理由は、「自分が得をするか」「自分にとって不利益を避けられるか」という欲が刺激されるからです。

 最初に大した話ではないと思われたら、結論がどれだけすばらしくても話半分にしか聞いてもらえません。
 私は26歳のとき、日系大手の研修会社にいました。これからお話するのは、人事業務のパッケージシステムの開発と導入をめぐる出来事です。
 約20社にパッケージシステムの導入が決まったのですが、私がそのシステムをチェックしたとき、なんと画面にはリンクボタンとデモデータしかありませんでした。
 画面が動いたので当時の経営陣は「できた」と思ったのでしょう。一方、システム開発側はこれからプロセスやロジックを固めるつもりでした。学生時代、私はシステム開発に携わった経験があるので、この事態に気づくことができたのです。
「システムの中身の開発ができていないので、販売を止めるしかない」
 しかし、この仕事に関わる上司や先輩は、経営者がOKを出したものに逆らえないし、どうすればいいかを聞かれても自分たちでは対応できないので何も言えないという状況でした。
「ここは自分が伝えるしかない」と、当時26歳の私には雲の上の人で、今まで一度も話をしたことのない常務に直接根回しをしようと決意しました。
 しかし、「開発が終わっていません。このままでは売れません」と伝えても、私の言うことなど一切聞いてくれません。
「あなたの上司に任せているので、その指示に従え」、返事はこのひと言だけでした。

 そこで私はその常務が食いつくひと言を発しました。
「このままではあなたのクライアントの社長に嫌われます。弊社への信頼がなくなります。うちの社長の顔に泥を塗ることになります」と伝えたところ、「何、それは大変だ。どんな状況でどうすればいいか教えてくれ。俺が社長に根回しする」と前のめりで聞いてきて、実際動いてくれました。
 この常務は当時「社長の腰ぎんちゃく」と裏で呼ばれていて、社長のためなら法律の範囲内で何でもやる人だったので、私はその欲に響く言葉を投げかけたのです。
 大事なことは自分の私利私欲で動かないことです。会社のためであり、あなたのためであるというスタンスを持ちましょう。
 どんなに耳の痛いことでも「味方の提案」だと思ってもらえれば、普段は対立していても意外と素直に聞いてもらえるものです。
 下心を持たず、相手のためを考え、味方として得になることをしてくれる人は陰口をたたかれることなく、誰からも好かれ、自然と人も集まります。

 人の「欲」は普段の言動の中に隠れています。コミュニケーションタイプに応じて欲に訴えかける言葉も決まります。図20は、「上昇志向」「チームワーク志向」の2軸で、上司を4タイプに分類したものです。普段の言動を参考に、ぜひ活用してください(下図を参照)。

『「ラクして速い」が一番すごい』 4章 より 松本利明:著 ダイヤモンド社:刊

図20 上司のコミュニケーションタイプと動かすひと言 ラクして速い 4章
図20.上司のコミュニケーションタイプと動かすひと言
(『「ラクして速い」が一番すごい』 4章 より抜粋)

 人間は、理屈よりも、感情で動く生き物です。

 相手が、最も望んでいるものは何か。
 相手が、最も恐れているものは何か。

 それを知っておくことが、交渉をスムーズに進めるコツです。

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 優秀なリーダーと普通のリーダーの違いは、どこにあるのでしょうか。

 松本さんは、優秀なリーダーは「自分は運がよく、いろいろあっても最後はできる」と根拠のない自信を持っているとおっしゃっています。

 根拠のない自信は、チャレンジをして結果を残すことで積み重ねられます。
 いい結果も、悪い結果も、すべて貴重な経験です。

 酸いも甘いも味わい尽くし、それを糧に成長した人が持つもの。
 それが「根拠のない自信」です。

 結果を多く残すには、とにかくチャレンジの回数を増やすこと。
「ラクして速い」は、そんな貴重な経験を増やすために必須のノウハウですね。

 いたるところで生産性の向上が叫ばれる、今の世の中。
 すべてのビジネスパーソンが、一読に値する一冊です。

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2 thoughts on “【書評】『「ラクして速い」が一番すごい』(松本利明)

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