【書評】『1分で話せ』(伊藤羊一)
お薦めの本の紹介です。
伊藤羊一さんの『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』です。
伊藤羊一(いとう・よういち)さん(@youichi_itou)は、ヤフー株式会社コーポレートエバンジェリストであり、Yahoo!アカデミア学長です。
人は、あなたの話の80%は聞いていない
「自分が伝えたいことを話せば、人は話を聞いてくれる」
多くの人はそう考えていますが、それは誤解です。
そもそも、「人は、相手の話の80%は聞いていない」もの。
伊藤さんは、自分の話を聞いてほしいなら、まず「みんな人の話を聞いていない」ということからスタートしてほしい
と述べています。
チームの力を最大限活かすためには、自分の主張を相手にしっかり伝え、理解してもらい、動いてもらう力、すなわち「プレゼン力」が必要です。私が言うプレゼン力とは、人前で発表するスキルでも、話すスキルでもありません。人に「動いてもらう」力です。
聞き手はそもそも8割方聞いていないし、理解もしていない。であれば、それをそもそも理解したうえで少しでも相手の頭に残し、相手が動くためにはどうしたらいいか、の勝負になります。そのために必要なのは、
「1分で話せるように話を組み立て、伝えよう」
ということです。これが基本です。私が思うに、
「1分でまとまらない話は、結局何時間かけて話しても伝わらない」
逆にいえば、
「どんな話でも『1分』で伝えることはできる」
ということなのです。
特に忙しい上司や役員などは、「1分」のほうが聞いてくれる確率は高いでしょう。
5分で話すべきことも、30分かけて話すことも、1時間与えられた時でも、まずは「1分で話せるように」話を組み立てましょう。これができれば、格段に「伝える力」がアップします。『1分で話せ』 序章 より 伊藤羊一:著 SBクリエイティブ:刊
本書は、伊藤さんが会得した「1分で伝える」極意を、わかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「てっぺんのないピラミッド」になっていないか?
伊藤さんは、1分で話せない人、頑張って話しているのにさっぱり伝わらない人は、「てっぺんのないピラミッド」になって
いると指摘し、以下のような事例を用いて解説しています。
図1.「てっぺんのないピラミッド」の説明の仕方
(『1分で話せ』 第2章 より抜粋)
ロジカルシンキングを多少なりとも勉強した方は、ピラミッドストラクチャーを学んだ方も多いと思います。
初めて聞く方のために簡単に説明すると、話には結論と根拠があり、その結論を一番上に、根拠をその下に並べたものです。根拠は複数あることが多いので、三角形、つまり、ピラミッドのような形をしているので、「ピラミッドストラクチャー」といいます(下の図2を参照)。38ページのAの人は、ピラミッドでいう「根拠」だけがあり、結論がありません(上の図1を参照)。
「Aさんがいいと言っていた」「数字が上がっている」など事例やデータをいくら重ねても、相手はこのデータや事実から、何を読み取ればいいのかまったくわかりません。だから、「で?」となってしまうんです。
逆にいえば、このピラミッドがしっかり組めれば話が長くなったり、伝わらなかったりすることはなくなります。「これが結論です」
「理由はAでBでCだからです」
「わかった、了解」
これだけです。「1分で考えよ」の根幹はここにあります。まず伝えようとすることの骨組み、つまり、結論と根拠のセットを構築します。これができれば驚くほど説得力を増す伝え方ができます。
そのキーワードはこちら。「ピラミッドでロジカルにストーリーを考えよう」
「ロジカルに考える」と書くと難しそうですが、そんなことはありません。意味がつながっていればロジカル、それだけでかまいません。型にはめて、「ロジカルに」考える癖をつけましょう。これができれば、確実に説得力が増す話をすることができるようになります。
まずは「考える」ということはどういうことかを考え、次に「ロジカル」というはどういうことかを考え、そのうえで、ロジカルに考えてストーリーをどう組み立てるかを探っていきましょう。
『1分で話せ』 第2章 より 伊藤羊一:著 SBクリエイティブ:刊
図2.ピラミッドで主張と結論を整理する
(『1分で話せ』 第2章 より抜粋)
長々と説明されたにもかかわらず、結局、何が言いたいのかわからなかった。
それは、説明が「てっぺんのないピラミッド」になっているからです。
要領のいい話し方を身につける。
そのためには、まず「形」から入ることが大事だということですね。
「根拠は3つ」にする理由
結論を言うからには、根拠(理由)が必ずあります。
根拠は、1つだと、説得力が弱いです。
逆に、たくさんありすぎると、ぼやけてしまい、インパクトに欠けます。
伊藤さんは、目安はオーソドックスですが、3つ
だと述べています。
仕事では、結論がなく人に何かを伝えるということはありません。そして、結論を導き出した理由が重要なのです。ですから、結論と根拠をしっかり述べましょう、ということです。この形が「1分で伝える」の基本形です。
これを絵に描いてみると、次ページのようになります(下の図3を参照)。たとえば「私は田中さんと仕事がしたい」という結論があって、理由が3つあります、1つめは方針がわかりやすい、2つめは私たちを守ってくれる、3つめはお茶目で楽しい、と。こんな形で表現するといいでしょう。
何かを伝える場合、それが5分でも30分でも1時間話すような内容であっても、このピラミッドを使って、一番大事な結論はこうで、その理由は3点あってこうです、と整理してみましょう。このピラミッドがしっかりとできていれば、その通り人に話せばいいのです。「私の主張はこうです。理由は3点あって、1点めはこう、2点めはこう、3点めはこうです」という感じです。
実際、私がこのように、ピラミッドストラクチャーを意識してストーリーをつくってから伝えるようになって、明らかに相手からの反応が変わったところがあります。以前は、なんとなく、理由をだらだら伝えていたのです。そうすると、聞いている方も、なんとなく聞いているわけです。ところが、ピラミッドの通り話すと、相手も「聞こう」という体勢になります。
たとえば、講演なら、「理由は3点あります」と、指を3本出して伝えた瞬間、聞いている人たちは、手元を動かし、ノートにメモを始めるのです。これ、ぜひ皆さん、試してみてください。驚くほど、聞き手は、「3点あります」に反応します。これは、びっくりでした。何回やっても、そうなのです。「3点あります」と言った瞬間に、おそらく、みんな、ノートに、
「理由 1.
2.
3. 」
と書き始めるんだと思います。これは、私にとっては、大発見でした。そうか、聞いている人にとっては、こうやって、頭の中に枠組みをつくることができれば、この枠組みに、内容を埋めていけるわけかと。これで、自分の話をよりしっかりと理解していただけるんだ、ということがわかりました。
つまりプレゼンというのは、自分が伝えたいことを「伝えていく」行為ではなく、
「相手の頭の中に、自分が伝えたいことの骨組みや中身を、『移植していく』作業」
なのです。ピラミッドそのものは見せなくても、
「ああ、結論はこうなのだな」
「そしてそこに根拠が3点あって、それぞれこういうことなのだな」
と自分の頭の中にその骨組みをつくり、それを伝えていけばいいのです。『1分で話せ』 第2章 より 伊藤羊一:著 SBクリエイティブ:刊
図3.ピラミッドで主張と結論を整理する
(『1分で話せ』 第2章 より抜粋)
最初に「根拠が3点ある」ことを伝える。
それが、聞き手に対して、集中して聞くことを促すのですね。
プレゼンだけでなく、コミュニケーション全般に役立つノウハウ。
ぜひ、覚えておきたいですね。
意味がつながっていれば「ロジカル」
ピラミッド化して、簡潔に伝えることは、大切です。
しかし、短くすれば、必ず伝わるというものではありません。
大事なのは、このピラミッドを、「ロジカル」に作る必要がある
ということです。
ロジカルとは、主張と根拠の意味がつながっている
ことです。
伊藤さんは、主張と根拠を言う時、聞いている人にとって、意味がつながっているとすぐにわかるようにする
ことが大事だと指摘します。
意味がつながるかということを、例で考えてみましょう。たとえば、「僕は、自分が勤めている会社が大好きだ」という主張があったとします。なんで?と理由を3つ考えてみると、どうでしょう。あなたも考えてみてください。
そこで、①働きやすい、②一緒に働いている人たちが素敵、③会社の業績がいい、と挙げたとします。
「働きやすい職場だから」。意味が通じますね。「一緒に働いている人たちが素敵だから」これも通じますね。では、「会社の業績がいいから」とするとどうでしょう。ここが微妙なところかもしれません。「働きやすいから、この会社が大好きだ」「一緒に働いている人たちが素敵だから、この会社が大好きだ」というのは、意味が通じます。
でも、「会社の業績がいいから、この会社が大好きだ」というのは、意味が通じるようで、改めて考えてみると、よくわかりません。なんで「会社の業績がいい」のと「自分がこの会社が好きである」ということがつながっているのでしょうか。他の2つの理由は、自分にとってのメリットが明確です。でも「会社の業績がいいということは、どうして自分にとってのメリットになるのか、これだけ読んでもよくわかりません。
これが、意味が通じるかどうかの分岐点です。こういう場合は、「ロジックが隠れている」ことが多いのです。たとえば、「会社の業績がいい」から、「給料、待遇が安定している」。したがって「この会社が好きである」ということでしたら、意味はつながります。または、「会社の業績がいい」から、「給料がどんどん上がっていく」から、「この会社が好きである」ということかもしれません。この部分が隠れていても、聞いている側は、なんとなく「会社の業績がいいから、この会社が大好きだ」ということに対し「うんうん、そうだね、わかる」と勝手に、何で好きなのかという部分を自分で補足して、なんとなく意味を解釈しています。で、結果として、話が伝わるようで伝わらない。
こういうことがあるので、「〜だから、〜だ」と言ってみて、他の人に聞いてもらい、「本当に意味が通じるか?」とチェックすることが大事なのです。
意味が通じるかどうかは、聞き手が決めることです。話すあなただけが理解できるのではダメで、聞き手がそう判断できるかどうかが大事です。話し手は、あらかじめ聞き手がどう受け取るかを想像し、「意味がつながっている」と聞き手が判断するように、主張と根拠を考える必要があります。『1分で話せ』 第2章 より 伊藤羊一:著 SBクリエイティブ:刊
図4.「だから」「である」で確認する
(『1分で話せ』 第2章 より抜粋)
自分のなかでは、当たり前であり、常識。
そんなことも、相手にとっては、そうではない。
そういうことは、多々あります。
誰が聞いても、「意味がつながっている」と判断できるか。
説明する前に、自分でも一度、確認する習慣を身につけたいですね。
「超一言」で包み込む
人は、聞いた話の内容を、自分が思っている以上に覚えていないものです。
しかし、伊藤さんは、印象に残るストーリーをしっかりと話し、相手に覚えてもらうための仕掛けを作ることによって、相手にずっと覚えてもらうことは可能
だと述べています。
では、そのためにどうするのか。
話のストーリーすべてを覚えてもらうことはあきらめましょう。全体のストーリーは、資料などを見れば思い出せるくらいでよいかと思います。というか、それくらいしか期待できません。ではどうするか。
「自分の伝えたいことを、一言のキーワードで表す」
そうすることで、その一言に、自分の伝えたい内容を「包み込む」のです。私はそれを、「めちゃくちゃ大事な一言」という意味を込めて「超一言」と言っています。これを強く感じたのは、2011年、私がソフトバンクアカデミアという、「孫正義の後継者を発掘し育てる」ことを目的とした学校の中で、私が最初に孫さんにプレゼンをした時のことです。
私は、Eコマースの戦略を話しました。
今、Eコマースでは、「明日お届けする」から「今日中にお届けする」というように、どんどん納期が短縮化してきているが、本当は、今日、明日のお届けでなくてもいい商品がたくさんある。しかしそれを「1週間後くらいにお届けする」「10日後くらいにお届けする」と曖昧な期日で伝えると受注率は上がらない。そうではなく「◯月◯日にお届けします」と、きちんと納期を明快にすれば、受注率は上がるはずだ、と提案しました。そして、
「で、これは、きっちりくるから『キチリクルン』というモデルです」
と言いました。
この言葉を孫さんは覚えていて、私の後、15人ほどプレゼンしたのですが、全員のプレゼンが終了した後、「君のキチリクルン、いいねぇ〜」と、キチリクルンというキーワードとともに声をかけてくれました。ある意味、ウケを狙って名づけたキーワードだったのですが、人はキーワードで覚えてくれるんだなということを、私はこの瞬間に理解しました。それ以来私は、自分自身のプレゼンに「超一言」のキーワードを入れるようにしました。この例でもわかるように、「超一言」のキーワードは、自動車の名前のように、カッコいいネーミングにする必要はなく、
「覚えやすく、その一言で、プレゼン全体を表現するようなキーワード」
にできれば最高です。たとえば私のプレゼンでいえば、
「今日くる、明日くる、ではなくて、きっちりくる、だから『キチリクルン』です」ということで、それがプレゼンのテーマそのものだったわけです。孫さんは、私のプレゼン内容を、その「キチリクルン」というキーワードに「包み込んで」認識してくれました。「キチリクルン」だけ覚えておけば、「そうそう。きっちりくるんだな」と思い出してくれるのです。「超一言」のキーワードの威力は実に大きいのです。このプレゼンを行ってもう何年もたっていますが、その場にいた聴衆の方々は皆、私がどんなプレゼンをしたか、今でも、「キチリクルン」という言葉とともに、鮮明に覚えてくれています。もし「キチリクルン」がなかったら、おそらく「あの時の伊藤さんのプレゼンはよかったね」くらいの記憶だったと思います。
「超一言」のキーワードを加えるだけで、聞き手は、びっくりするほど、あなたの話を覚えてくれます。
『1分で話せ』 第5章 より 伊藤羊一:著 SBクリエイティブ:刊
「超一言」は、聞き手にとって、記憶をたぐり寄せるための“フック”になります。
自分の言いたいことを、一言で表わす。
しかも、一度聞いたら忘れない。
そんなインパクトある言葉を、用意したいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
今、「聞く力」の重要性が叫ばれ、そのノウハウを語る本やセミナーが人気です。
聞く力は、組織の中のコミュニケーションに欠かせない能力です。
身につけようとする人が多いのも、うなずけます。
一方、この事実は、「聞くこと」の難しさを物語っているといえます。
コミュニケーションは、伝える側と伝わる側がいて、成立するもの。
話し手が、簡潔に要領よく、わかりやすく伝えることで、意思の疎通は驚くほど改善します。
「聞く力」をつけるだけでは、片手落ちです。
本書を片手に、「1分で伝える」技術も身につけて、コミュニケーションの達人になりましょう。
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