本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『一流の指導力』(立花龍司)

 お薦めの本の紹介です。
 立花龍司さんの『一流の指導力』です。

 立花龍司(たちばな・りゅうじ)さんは、プロのコンディショニング・コーチです。
 近鉄バファローズを皮切りに、日米の球団を渡り歩かれた経験をお持ちです。
 現在は、野球を中心とした幅広い層に対し、コンディショニングの重要性に関する普及活動をされています。

潜在力を最大限に高めるコーチングとは?

 選手が最高のパフォーマンスを発揮するよう、体調(コンディション)やトレーニングを管理する。
 それが、コンディショニング・コーチの仕事です。

 選手のやる気を高め、潜在力を最大限に引き出す、重要な役割ですが、日本の野球界では、きっちりした指導法が確立していません。

「〇〇できなかったら、ファームに行かすぞ!」

 そんな命令絶対服従型の指導が、いまだに幅を利かせています。

 指導法に問題を抱えているのは、野球界だけではありません。
 ビジネスの世界でも、教育の世界でも、家庭のなかにも数多くある問題です。

 本書は、コーチングの最新の知見を踏まえ、潜在力を開花させるための指導法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「〇〇するな」のネガティブ指令はNG

 目をつぶって、「絶対にゾウのことを考えないでください」と指示されたとします。
 しかし、九割以上の人は、逆にゾウのことを考えてしまいます。

「〇〇するな」というネガティブな指示を出される。
 すると、「〇〇したくない」というイメージが鮮烈に脳裏に焼きつき、逆の行動をする。
 そんな心理的なメカニズムのせいです。

 ペナントレースにおいて、AチームとBチームが優勝を懸けた最後のゲーム。
 Bチームの監督のネガティブ指令のせいで、選手が萎縮し、Aチームの優勝が決まった。

 立花さんは、そんな例を引き合いに出し、ネガティブ指令のマイナスの効用を解説します。

 AチームのエースであるC投手の高めのストレートをヒットにできない確率が高いとわかっているなら、監督は「高めに手を出すな」ではなく「低めを狙っていこう」と指示を出すべきなのです。
 そして、ゾウのことを考えさせないようにするには、「ゾウのことを考えるな」ではなく、「自分の好きな動物についてイメージしてみよう。ただしゾウ以外の動物で好きな動物をイメージしよう」という言い方が最適です。
 冒頭でも述べたように、部下の潜在力を引き出せる指導者がいる強い組織の特徴は、「〇〇してはダメ」というネガティブな指令を下すのではなく、「〇〇しよう」というポジティブな言い方ができることです。
 スポーツ界でも芸能界でも「一流」と呼ばれる方々は、たとえネガティブな指示を受けても、それをポジティブに解釈する能力に優れています。
 Bチームの監督だけではなく、日本では「〇〇するな」という指示の出し方が一般的です。その背景には、恥をかくことを嫌い、失敗を恐れる文化的な背景があるのかもしれません。対照的にアメリカでは、「〇〇しよう」という指示をしているケースが圧倒的に多いようです。

  『一流の指導力』 第1章 より  立花龍司:著  ソフトバンククリエイティブ:刊

「〇〇するな」という、否定形の表現。
「〇〇しよう」という、肯定形の表現。

 同じ内容の指示でも、結果において、まったく違った効果を生み出します。
 できる限り、肯定形の表現に直して口にするよう、気をつけたいですね。

コーチングの核は「内から外へ」

 立花さんは、コーチングはこれからも進歩すると思うが、核となるポイントは今後もずっと変わらないと述べています。

 それは、「外から内」へ働きかけるのではなく、「内から外」への働きかけを重視するという点です。

 外から内への働きかけは「〇〇するな」というコマンドであり、「失敗したら二軍に行かすぞ!」という懲罰です。これでは個人の能力を引き出せないことははっきりしています。そして外から内への働きかけは、指示待ち族をつくる原因にもなります。
人間は、自分の内側から外の世界にアンテナを出して、そこから得た情報を元に主体的にアクションを起こすと、前向きな気持ちで何事にも取り組めます。
内から外への働きかけでキーになるのは、コーチの質問です。
指導する側が徹底的に質問を繰り返すと、自分はどうしたいのか、どうあるべきなのかが明確になってきます。
受け手は、コーチの質問に対して返事をする「言語化」のプロセスで、関心が内側に向いて自分自身がどうあるべきかを深く考えるようになり、その結果として「気づき」が生まれます。その気づきを内から外へ出すことで、やる気と継続性が高まるのです。

  『一流の指導力』 第2章 より  立花龍司:著  ソフトバンククリエイティブ:刊

 答えは結局、自分自身の中にしかありません。

 立花さんは、繰り返し質問を受けることで発見があり、自分なりの答えが返せるようになると述べています。

 相手に何かを教えるときや、相手に何かをしてもらうとき。
 内側からのやる気を引き出す働きかけを意識したいですね。

伸びる秘訣は「目標設定」の決め方

 大きな成功体験を一回味わうよりも、小さな成功体験を数多く味わう。
 そのほうがモチベーションは、強化されやすいです。

 立花さんは、小さな成功体験の繰り返しで最終的なゴールの実現に向かって挫折せずに強い心で努力が続けられると指摘します。

 達成感のある目標設定を、ひとつひとつクリアし続ける。
 すると、「もうこのぐらいでいいかな」という地点に達します。

 そこで立ち止まるか、次の目標を目指し、また歩み始めるか。
 そこに、伸びる人と伸びない人の違いがあります。

 プロ野球の選手には、一軍でレギュラーの座を射止め、タイトルを次々に獲得してメジャーリーガーになる選手もいれば、一軍に上がってもレギュラーにはなれず、伸び悩んでトレード要員となって消えていく選手もいます。
 イチロー選手は惜しくも11年連続200本安打は達成できませんでしたが、野球選手がメジャーリーグで10年もトップで活躍することができたら、誰しも満足すると思います。しかし、おそらくイチロー選手はいまだに満足していないはず。作文を書いた小学生の頃と同じように、自らのバッティングや守備、走力を高めるために、日々の努力を怠(おこた)っていないでしょう。
 一度高い山の頂上に立ってから、下山してイチから次の山に向かうのは肉体的にも精神的にも骨が折れる作業です。でも、その繰り返しのなかにしか、人間としての成長はないのです。
 人間は「ここでいいや」と思った瞬間、知らない間に堕落(だらく)が始まります。誰しも長い下りのエスカレーターに乗っているのです。上へ上へと上り続ける努力を止めた瞬間、あとは下っていくだけの人生になります。

  『一流の指導力』 第3章 より  立花龍司:著  ソフトバンククリエイティブ:刊

「ここでいいや」

 そう思った瞬間から、知らない間に堕落は始まります。
 まさに、『現状維持は下り坂』です。

 現状を維持したいのなら、上に登るための努力をしなければいけない。
 ましてや、本当に上を目指したいのなら、目いっぱいの努力が必要です。

 肝に銘じたいですね。

褒めて才能を引き出す「太陽型」の教育を

 日本だけでなく、海外でのコーチ経験も豊富な立花さん。
『イソップ物語』の「北風と太陽」の寓話を持ち出し、日米での教育の仕方の違いを説明します。

 北風型は、子供に厳しく接して「叱って伸ばす」教育。太陽型は、子供に優しく接して「しっかり説明して心を動かす」教育です。
 私の体験からすると、日本では北風型、アメリカでは太陽型が多いようです。野球を例に挙げると、日本の子どもは先ほどのバッティングセンターの例のように「大人に叱られたくないから」という理由で野球の練習に取り組むケースが多く見受けられます。けれど、アメリカでは「大人に褒められたいから頑張る」という子どもが大半です。
 人間誰しも持っている基本的な欲求の一つに、「他人から認められたい」という欲求があります。とくに親や先生のように「認められたい」と思っている存在から褒められると、子どもたちは「褒められたいから」とポジティブな気持ちになり、何にしても上達が早くなります。北風型の「怒られたくないから」というネガティブな姿勢では、好きなことにも夢中になれなくなります。子どもを成長させたいと思う気持ちはアメリカでも日本でも同じでしょうが、「褒めて伸ばす」アメリカ式と「叱って伸ばす」日本式とでは、伸びしろがまったく違うのです。

  『一流の指導力』 第6章 より  立花龍司:著  ソフトバンククリエイティブ:刊

 指導する大人の顔色を見ながら、「叱られたくないから頑張る」。
 好きなことに夢中になりながら、「褒められたいから頑張る」。

 両者の間に、やる気に格段の差ができるのは、間違いありません。

 これからの時代、自分の強みを活かすことが、ますます重要となります。

 悪いところを叱るのではなく、いいところを褒めて伸ばす。
 そんな指導方法が、より広がっていくことでしょう。

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 立花さんが、コンディショニング・コーチという仕事に、情熱を持ち続けている理由。
 それは、「一人でも多くの選手をケガで泣かせないようにしたい」という強い思いです。

 立花さん自身、ケガでプロ野球選手になる夢を絶たれた、苦い経験をされています。
 ケガでリタイヤする選手の気持ちが、痛いほど理解されているのでしょう。

 日本でも早く、いわゆる“シゴキ”的なトレーニング方法がなくなる。
 そして、選手たちのやる気を引き出す指導方法が確立してほしいですね。

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