本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『100年マンション』(長嶋修)

 お薦めの本の紹介です。
 長嶋修さんの『100年マンション 資産になる住まいの育てかた』です。

 長嶋修(ながしま・おさむ)さんは、不動産コンサルタントです。

静かに進行する「廃墟マンション」問題

 これまで「空き家問題」というと、主に一戸建てをイメージしがちでした。
 ただ、今後はマンション、しかもとりわけ都市部に立地するマンションの空き家がクローズアップされます。

 マンションは、コンクリートの壁に阻まれ、内側の実態が掴みにくいです。
 しかし、一戸建て同様、確実に空き家率の上昇が進んでいます。

 長嶋さんは、修繕はできない、かといって建て替えもできず、ただ劣化に任せるしかない「廃墟マンション」が、今後大量に、しかも主に都市部に出現することが容易に予想できると指摘します。

 本書のテーマは「マンションの近未来」です。
 前著『不動産格差』では「これから不動産の市場は大きく3極化する」と申し上げました。その内訳は次の通りです(下の図表2を参照)。

 「価値維持ないしは上昇 10〜15%」
 「徐々に価値を下げ続ける 70%」
 「無価値あるいはマイナス価値 15〜20%」

 この「不動産格差」は主に「中心部からの距離」「駅からの距離」といった立地に焦点を当てた話でした。これはそのまま、マンション市場にもあてはまります。どこで、どんなマンションを買うかによって、居住快適性はもちろん、その資産価値に段違いの格差が生まれていきます。
 上位10〜15%のマンションは、100年以上建物が長持ちし、市場においても高く評価され続ける一方、中位70%の大半のマンションは資産価値をだらだらと下げ続け、築年数が経過するほど修繕に多額のお金を費やす「金食い虫」となります。
 最も悲惨なのは、下位15〜20%のマンションです。こちらは売買や賃貸はもちろん、修繕もままならず、座して死を待つだけの廃墟マンションとなります。
 廃墟マンションと聞くと、街の中心部や駅から遠いなど立地に難のあるマンションをイメージしがちですが、大都市の中心部にも東京都区部にもこうしたマンションが出現します。たとえ一定程度立地が良くても、都市の墓標になり得る理由があるからです。
 資産としてマンションを買うこと、そしてマンションをずっと所有し続けることは、果たして合理的な行動なのでしょうか。あなたが現在所有しているマンション、これから買おうとしているマンションは、どうなっていくのでしょうか。

『100年マンション』 はじめに より 長嶋修:著 日本経済新聞出版社:刊

図表2 マンションは3極化する 100年マンション はじめに
図表2.マンションは3極化する
(『100年マンション』 はじめに より抜粋)

 本書は、これから急激に増えるであろう「廃墟マンション」の実態やその対処法についてわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「マンションの空き家問題」が顕在化する

 急激な人口減少や少子高齢化により、社会問題となっている「空き家問題」。
 空き家の数は1000万戸に迫り、空き家率は15%を超える水準に達しています。

 長嶋さんは、2019年頃からは「マンションの空き家問題」が顕在化するだろうと指摘します。

(前略)マンションは一戸建てと異なり、共同住宅であるがゆえに個人の意思で修繕や解体などの処分ができません。
 空き家の増加に加え、住民の高齢化や賃貸化が進むことによって、本来必要な修繕費用が捻出しにくくなります。修繕も解体もできず、ただ朽ち果てていく「廃墟マンション」の出現可能性が、社会問題として浮かび上がるでしょう。
 全国のマンションストック総数は17年末時点で約644.1万戸です(下の図表7を参照)。マンションの居住人口は約1590万人と推計され、総人口1億2652万人(18年6月1日現在、概算値)の12.6%にあたります。これは東京都の全人口1382万人(18年5月現在、東京都)より208万人も多い水準で、国民のおよそ8人に1人がマンションに住んでいることになります。
 築30年以上のマンションは現在184.9万戸ありますが、うち40%にあたる72.9万戸は築40年以上。これが22年には築40年以上が128.7万戸、27年には184.9万戸、37年には351.9万戸と激増していく見込みです。
 簡単に言えばマンションの築年数分布は、我が国の「人口ピラミッド」と同様、高齢マンションが極端に多い構造となっています(下の図表8を参照)。
 新築マンションに入居すると、住民は管理組合を結成します。入居から当面の間は管理組合の役員に自ら立候補して組合の運営に主体的に関わるなど、住民の意欲は高いことが多いのですが、建物の経年や区分所有者の高齢化、賃貸化、空室化などが進行するにつれて、徐々にその状況は変わっています。
 やがて組合理事のなり手不足、修繕積立金の収支悪化、大規模修繕や建て替えの意思決定ができないなどといった機能不全が見られるようになっていきます。国はこうした「管理不全マンション」が、今後さらに増加していくことを懸念しています。

『100年マンション』 第1章 より 長嶋修:著 日本経済新聞出版社:刊

図表7 分譲マンションのストックの戸数 100年マンション 第1章
図表7.分譲マンションのストックの戸数

図表8 築後30 40 50年超の分譲マン所戸数 100年マンション 第1章
図表8.築後30、40、50年超の分譲マン所戸数
(『100年マンション』 第1章 より抜粋)

 新築のマンションが、需要以上に増えていく。
 一方、築40年を超える寿命が近づくマンションも、そのまま残る。

 その結果、「マンションの空き家」化が進行していくのですね。

 先送りすればするほど、深刻化します。
 防災や防犯の観点からも、見過ごすことができません。

修繕積立金が足りなくなる「からくり」

 マンションが経年劣化し、修理が必要となったときに使うお金が「修繕積立金」です。
 修繕積立金は、所有者全員の積立貯金のようなもので、これを原資として将来の大規模修繕に備えます。

 しかし、実際には、早ければ2回目、遅くとも3回目となると多くのマンションで修繕積立が足りない事態が生じています。

 不足してしまったときに、所有者各々が数十万〜数百万単位の一時金を拠出して穴埋めできればいいのですが、全員が足並みそろえて一時金を拠出できるケースはまれです。管理組合でローンを組んで大規模修繕を行い、修繕積立金を引き上げることによってローンの支払をしていく手もありますが、これもなかなかうまくいきません。
 当初は毎月5000〜1万円程度だった修繕積立金が、いきなり3万円に上がるなどというのは、家計の事情によっては受け入れられません。管理組合の総会で否決されてしまうこともあります。そうなると、今ある手元資金でできる修繕だけ行うか、何もしない選択にならざるを得ません。
 その結果、建物はどんどんダメになっていきます。購入・賃貸予備軍にとって魅力的な建物とならず、資産価値も下がっていきます。適切な修繕をしておけば本来100年以上長持ちする建物でも、寿命は一気に短くなってしまいます。
 どうして、こうした負のスパイラルに陥るのかといえば、原因は「新築マンション販売時の修繕積立金設定」にあります。新築マンション購入時には「売買価格や諸費用」のほか「住宅ローン利用の場合の毎月返済額」「管理費」「修繕積立金」などが提示されます。購入者からすると、毎月家計から出ていくこれらの金額は少ないに越したことはありません。
 そこで住宅ローンについては極力低金利の金融機関やローン商品を探します。一方で管理費や修繕積立金については購入者に選択の余地はありません。あらかじめ売り主に提示された額を容認するかどうかとなります。
 売り主の立場からみれば、管理費を極力高めに設定しておきたいと考えます。というのも、ほとんどの新築マンション販売のケースであらかじめ設定されているのは、売り主系列の管理会社です。管理費のうち「管理委託費」は、引き渡し後もグループ会社に毎月流れてくる売上であり、利益となります。
 一方で修繕積立金は、所有者で構成する管理組合がプールする貯金です。売り主とは直接関係のないお金ですから、積立金を極力低額にして、ローン・管理費・修繕積立金の合計額を下げることによって、購入のハードルを下げる、つまり売りやすくするという意図が働きます。
 大半の購入者は、契約前に提示される「長期修繕計画」をしっかり読んでいません。ちゃんと読んでいても、5年後、10年後には忘れてしまっていることが多いでしょう。あるいは、その後家計の事情に変化があり、修繕金が不足するのはわかっていたけれども支払えないといったケースもあります。
 また、そもそも分譲時の長期修繕計画は、それぞれのマンション用に作られたものではありせません。一般に、マンションの用地取得から販売までの期間は4ヶ月程度です。精度の高い長期修繕計画を立案するためには、現場の建設職人が作成した、工事の具体的なやり方を示す「施工図」が必要です。しかし、販売時には施工図は作成されていません。
 したがって、当初の長期修繕計画は、どのマンションでも使用できるひな型をアレンジして使用します。その結果、必要な項目が抜け落ちていたり、負担する必要のない費用が計上されていたりするなど、「現実離れ」の長期修繕計画となっている例が目立ちます。

『100年マンション』 第2章 より 長嶋修:著 日本経済新聞出版社:刊

 マンションを売る方は、「できるだけ安く売りたい」。
 マンションを買う方も、「できるだけ安く買いたい」。

 先々のことを考えずに、マンションの販売価格を切り詰めていった。
 そのツケが、数十年後の今、回ってきたとということですね。

組合運営は「オンライン中心」で

 マンションの管理状態は、新築時には問題にされません。
 しかし、時間の経過とともに、マンションの資産価値や建物の寿命、そして居住快適性にも、雲泥の差がつきます。

 管理組合が組織として機能しているか、いないか。
 それが、マンションの将来を大きく左右します。

 長嶋さんは、素晴らしい成果を挙げている管理組合の一例として、神奈川県横浜市の「ザ・パークハウス横浜新子安ガーデン」を挙げています。

 管理組合の日常のやり取りは、インターネットを通じて行います。理事は18名。築年数がまだ浅いこともあって、30〜40代が中心です。シニア層も特に抵抗なく、インターネットを通じたやり取りが意外に早く浸透しました。
 理事会の日程調整や出欠確認はもちろん、議事録など資料はすべてデータで保存しています。担当役員の資料の引き継ぎや情報共有の効率が高まり、活動のスピードアップにもつながっています。いまだに多くの管理組合では、資料がそれぞれの理事のパソコンに別々に保存されています。情報の共有ができず、理事交代する際にこれまでの経緯がわかりにくくなっています。
 ITを活用すれば全戸向けのアンケートを取る際にも、住民はスマホやPCから回答できるの回答率が高くなり、手軽に参加できます。将来的には完全ペーパーレス化を目指していますが、ネットが使えない方や抵抗感がある方もいるため、書面でも対応。確認忘れ防止の観点から、現時点では全戸に書面を投函しています。
 1期目には、理事が一度入れ替わって活動が途切れることのないよう任期2年とし、半数ずつ交代となるように規約を改正しました。また、共用部の火災保険について満期返戻金が受け取れる「積立マンション保険」の導入、修繕積立金の一部の「マンションすまい・る債」(住宅金融支援機構)による運用などに取り組みました。
(中略)
 2期目には共用施設の運用改善に取り組みます。共用部分はホテルのような、ゆったりとした「ラウンジ」をはじめ、「ゲストルーム」「キッズルーム」「シアタールーム」「パーティルーム」「スタディルーム」「スタジオ兼集会室」など非常に充実しています。
 しかし、すべての共用施設が住民の役に立っているわけではありませんでした。シアタールームには、大型スクリーンに最新の音響設備があり、防音にも配慮した上で、室料は1時間400円と格安だったにもかかわらず、ほとんど利用されていませんでした。このままでは、維持・メンテナンス費用ばかりかかり、負の遺産となるのも時間の問題でした。
 そこで理事会は知恵を絞り、ポータブルカラオケ機器を購入します。防音が配慮された施設という特性を生かし、映画などを観るだけのシアタールームを、カラオケルームとしても使えるようにしました。この方策が奏功し、利用者が増え始めました。とりわけ小学校低学年や未就学児の子どもを連れた親子連れが増えました。購入したカラオケ機器は、組合総会やクリスマス会などで拡声器としても活用しています。

『100年マンション』 第3章 より 長嶋修:著 日本経済新聞出版社:刊

 管理組合の理事は、そのマンションに住む住人が中心。
 仕事や家事など、普段の生活が忙しい人がほとんどです。

 理事会の仕事は、何より手間がかからず、時間の拘束が少ないこと。
 それが管理組合を円滑に、活発に進めるための秘訣ですね。

大規模修繕工事の「談合」をなくす

 一般的な長期修繕計画では、12年目、24年目、36年目といった12年のサイクルで「大規模修繕工事」の実施が予定されています。

 大規模修繕工事の前には、業者を選定するために、数社の調査業者に見積もりを依頼するケースが多いです。

 その際、調査会社と施工会社が裏で手を組み、修理費用を水増しする。
 いわゆる業者間の「談合」が、問題となっています。

 では、業者間の談合をなくし、見積もり費用を抑えるには、どうすればいいでしょうか。

 お勧めしたいのは、各工事会社の提案力を比較できる「プロポーザル(提案)方式」による工事会社選定です。
 大規模修繕工事において、癒着やバックマージン、談合といった比較会社や設計会社が作り上げた巧妙な負のスパイラルに、知らないうちに陥っている管理組合は少なくありません。
 公共工事などで問題となる、建設業界における談合や賄賂などの不正が、マンションの改修工事においても常態化しているのは、これまで述べてきた通りです。このような現状に対して、17年1月、国土交通省から大規模修繕工事の発注で設計コンサルタントを活用する際の注意を促す通知が出されています。
 プロポーザル方式は、設計会社やコンサルティング会社が入るのは設計・監理方式と同じですが、第三者性を担保するために、工事会社などの選定代行、見積もり依頼代行、設計業務および修繕工事の受注・斡旋はせず、その上で、複数の工事会社から工事範囲や工事内容の提案を受けます。
 またその際、工事の仕様書を作らずに「要望書」を作り、その要望を満たす工事方法や数量・金額などを提案してもらいます。この方式は、見積もりを出すのに手間がかかることもあって、談合をしにくい方式です。
 業者の比較・選定に一定の時間と手間のかかるものの、工事会社の提案力・企画力を比較でき、より適切な工事方法を選択し、コストダウンもできる可能性が高くなります。
 神奈川県横浜市の「リブゼ横浜ブライトスクエア」では、大規模修繕に際し、管理会社の工事部に見積もりを依頼したところ、約8000万円の見積もりが出てきました。しかしその時点で積立金が7000万円しかなかったため、1000万円の借入が必要となります。管理会社は「しっかりお金をかけて修繕すべきだ」と主張しています。
 そこで、理事会は第三者のコンサルティング会社を立て、関係会社間の談合の恐れがなく、提案内容と価格が優れている会社を選ぶことができるプロポーザル方式によって工事会社を選択します。業界紙で工事会社を公募し、応募があった20社程度から、書類選考で集約した8社にヒアリングを行い、4社に絞ります。
 それぞれにマンションを見てもらったうえで、提案型の見積もりを作成、提案してもらい、1社を選択しました。4社の提案額の幅は4000万弱〜6000万円でした。結局工事を依頼したのは最安値だった4000万円弱の会社で、追加で依頼した工事も含め4500万円で収まりました。当初の管理会社経由の見積もりと比べると、3500万円の削減でしたが、必要十分な工事が行え、残った修繕積立金は、次回の大規模修繕のためにとっておくことができました。

『100年マンション』 第4章 より 長嶋修:著 日本経済新聞出版社:刊

 修繕工事の見積もりなどは、面倒なので、つい業者に丸投げしてしまいがちです。

 いちいち中身も確認しないから、必要な工事がまぎれこんでいても気がつかない。
 本当に必要な工事なのか、やり方は適切なのかがわからない。

 結局、業者の言いなりの法外な額を受け入れざるを得なくなります。

 金額が金額ですから、多少手間でも、自分たちで納得できる「プロポーザル方式」を採用したいですね。

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 マンションといえば、一昔前は、一戸建てを購入するまでの「つなぎ」として住むもの、というイメージがありました。
 しかし、今では、働き手世代を中心に「終の棲家」として購入する人も多くなりましたね。

 一戸建てに住むと、補修や周囲の清掃などを全部自分たちでやる必要があります。
 マンションでは、共用部分を共同で管理するため、そんな煩わしい手間が少ないです。

 ただ、マンションには「共同住宅」であるための “落とし穴”もあります。

 管理組合の運営や修繕費の積み立て具合などに無関心。
 マンションの劣化状況、補修の必要性などを知らない。

 そんな状況で住んでいたら、いつの間にか居住性が悪くなり、資産価値もガタ落ちになっていた。

 問題が明るみになるのは、マンションが建築されてから数十年経ってからです。
 そのときになって、「こんなはずじゃなかった」と後悔しても、後の祭りです。

「転ばぬ先の杖」

 マンションの購入を考えている人は、その前に、ぜひ本書を一読することをおすすめします。

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