【書評】『いま君に伝えたいお金の話』(村上世彰)
お薦めの本の紹介です。
村上世彰さんの『いま君に伝えたいお金の話』です。
村上世彰(むらかみ・よしあき)さんは、投資家です。
世の中に必要な「お金の授業」とは?
お金は、私たちの生活にはなくてはならない、大切なものです。
お金は、私たちに自由を与え、やりたいことをやらせてくれます。
上手に使うことで、周りの人を助けたり、世の中をより良い場所にすることもできます。
ただ、気をつけるべきこともあります。
それは、「お金が凶器に変わるとき」です。
村上さんは、「道具」だからこそ、使い方を間違えると自分や周りの人を傷つける凶器にもなってしまう
と指摘します。
僕はお金によって、幸せを得た人もたくさん知っていますが、人生が狂ってしまった人、お金持ちだったのに使い方を間違えて自分も周りも傷だらけになってしまった人、立ち直れないほどのダメージを受けてしまった人も、たくさん知っています。
多くのケースを見て思うのは、早くから「お金」について学んで親しんでいる人のほうがお金との付き合い方が上手で、多い少ないにかかわらず、お金に振り回されない生き方ができているということです。
だからこの本では、そもそも「お金ってなんだろう」というところから、お金を稼ぐ方法、使い方といった、お金との付き合い方、そしてお金の持つ力について話をします。お金の使い方としては、「自分の幸せのために使う」ことと、「社会や人のために使う」ことのふたつを紹介しています。「社会や人のために使う」ことは簡単にはできないし、自分の生活が満たされた次のステップの話です。僕自身、社会や人のためにと積極的にお金を使うことの素晴らしさや意義に気が付いたのは40代になってからです。でも、もっと早くにそういう使い方を知るきっかけがあったらよかったな、とも思います。だからこそ、君たちには、早い段階でそういう使い方もあるということを知っておいてほしくて書きました。この本が、君たちがお金をうまく使って幸せな人生を送るための手助けやきっかけになったらいいなと思っています。『いま君に伝えたいお金の話』 はじめに より 村上世彰:著 幻冬舎:刊
本書は、村上さんがいくつかの学校で行った「お金の授業」のなかから本当に伝えたい話をわかりやすくまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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お金は、社会にとっての「血液」
村上さんは、お金は、道具であると同時に、人間の身体でいう血液のようなもの
だと述べています。
人間の身体は、血液が不足したり、うまくめぐらなくなったりすると、具合が悪くなります。
お金と社会の関係も同じです。
社会の血液となるお金の動きが悪いと、社会も健康ではなくなってしまう
ということです。
日本人がいったいどのくらいのお金を持っていると思いますか? 実はびっくりするくらいお金持ちです。
それぞれの家庭や人が所有するお金の合計は、日本人全体で1800兆円を超えるといわれています(「家計の金融資産」2017年調べ)。1800兆円といっても、大きすぎてよくわからないかもしれません。日本の国家予算がだいたい100兆円なので、その約18倍ものお金を日本人全体で持っていることになります。
これって、日本に住む赤ちゃんからお年寄りまで全員(1億2700万人)に、一人当たり1000万円を配ってもまだまだおつりがくるほどのお金です。すごいと思いませんか?
でもみんなこのお金をどこに隠しているんだろう? 世界でも「日本人は貯金が大好き」といわれているようだけれど、この1800兆円のうち、なんと半分以上を銀行に貯金しているのです。海外では、銀行に預金するするよりも、株式に投資するなどして自分資産を運用する割合が高いのが一般的です。持っているお金を銀行に預けてばかりいることの問題点はあとで詳しく説明しますが、いまは、「日本人はお金を手元に貯め込んでしまうことが多い」ということを覚えておいてください。
これは家計だけではなく、会社も状況は同じです。日本の会社は、本来もっと事業を大きくしたり人を雇ったりするために使うべき資金を貯め込んでいる。その額は、20年くらい前に100兆円ちょっとだったものが、いまや400兆円を超えるほどの状況となっています。
この20年くらい、日本の社会の調子がいまひとつ悪い原因は、この「貯め込み」のせいだと僕は思っています。
血液が全身をくまなくめぐることで人の健康が保たれるように、社会もお金が回ってはじめて健康でいられる。にもかかわらず、日本人も日本の会社も、お金を使うことより、貯め込むほうを優先している。血液をめぐらせずにどこかで大量に貯め込んでしまったら、身体はどうなると思いますか? これを想像すれば、いまの日本が健康な状態ではないことはすぐにわかると思います。
なぜこうした状況が起きてしまうのでしょうか。先行きが見えない。将来が不安だから。・・・・・その原因は、やはりお金が社会のなかでうまくめぐっていないからだと思います。社会のすみずみにまでお金がめぐっていれば、きちんとしたセーフティネットができ上がるため、その先の生活に不安を感じてお金をとにもかくにも「貯め込む」という必要がなくなります。そうすると、お金はもっと大きな流れとなって社会をめぐります。『いま君に伝えたいお金の話』 1章 より 村上世彰:著 幻冬舎:刊
世の中に流通してるお金の量は、十分にある。
でも、「お金が足りない」と感じる人が多いのは、うまく流れていないから。
お金は、持っているだけでは、何の役にも立ちません。
使われて、社会に流れることで、初めて、その価値を発揮します。
お金を貯めるほど、「お金持ち」になるほど、社会にお金がめぐらなくなる。
その結果、不景気になり、ますます生活が苦しくなる。
今の日本の経済状況を理解するには、そのカラクリを知る必要があります。
「無駄遣い」って何だろう?
投資家である村上さんが嫌いなもの。
それは、「無駄遣い」です。
とくに投資家にとって「お金」は投資という仕事をするためになくてはならないもの。大工さんにとってのカナヅチとか、コックさんにとっての調理道具とか、そういうものと同じです。投資家だからこそ、そのお金を無駄に使ってしまうことに、普通の人以上に抵抗(ていこう)があるのかもしれません。
でも、実はこれは投資家に限りませんし、僕は投資家になる前から、やっぱり無駄遣いが嫌いでした。無駄遣いが「無駄」であることは誰にとっても同じこと。お金は幸せに生きるための道具ですから、なくてはならないもの。限られたお金のなかで、自分がやりたいと思うこと、「幸せ」と思うことにいかにより多くのお金を回すことができるか。そのためには無駄遣いをいかに減らせるかが大きなポイントになります。それは金額が大きくても小さくても関係がありません。高価なモノでも、その価値が値段に見合っている、自分の目的を達成させてくれるモノであるなら無駄遣いではありません。どんなに安いモノでも、たとえ1円だって、価値が値段に見合っていなかったり、目的を達成させてくれなかったりすれば、それは無駄遣いなのです。
サンマの話でいうと、おいしいサンマが食べたいと思ったとき、100円の丸々太ったおいしいサンマは君を幸せな気分にしてくれるでしょう。でも、不漁の年にスーパーで並ぶ300円のおいしくないサンマは、「おいしいサンマを食べたい」という君の希望を叶えてくれません。この300円なのかを考えたら、これは買わないのが正解。でも、僕のように「秋だし普段食べられないからサンマが食べたい」と思う人には、300円のそれほどおいしくないサンマでも、「食べられてよかった」という満足感をくれるから、300円は無駄ではないのです。同じお金を払って買ったとしても、それが全員に同じ価値、要するに幸せをもたらすわけではない。君に幸せをもたらさないお金の使い方は、無駄遣いなのです。『いま君に伝えたいお金の話』 2章 より 村上世彰:著 幻冬舎:刊
モノの価値は、値札に書いてある額で決まるものではありません。
ある人にとっては「安い」と感じるモノも、ある人には「高すぎる」と感じます。
100円だから「安い」わけでもなく、100万円だから「高い」わけでもありません。
そのモノが値札に見合った価値を、自分にもたらしてくれるか。
そんな投資家的な視点を身につけることは、お金を効率的に使ううえで重要です。
自分で新しい仕事を「創る」
技術革新が進み、世の中が劇的な変化を遂げる現代社会。
日本においても、「働き方」そのものが、大きく変わりつつあります。
村上さんが、「仕事のカタチ」として、とくにここで取り上げておきたい
と述べているのが「起業家」です。
起業とは、新しい事業を起こす
ことで、これまでに存在しなかった新しいサービスやビジネスモデルを創る
ことです。
たとえばアップルのスティーブ・ジョブスやフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、マイクロソフトのビル・ゲイツといった名前を聞いたことがあるでしょう。彼らはみな、これまでになかったものを世に送り出し、大成功をおさめた人たちです。
アップルは、会社の価値を表す時価総額という指標が世界で初めて1兆ドル(約110兆円)を超えた会社ですが、さいしょは小さな会社でした。スティーブ・ジョブスという若者が友人のスティーブ・ウォズニアックとコンピュータゲームの回路を修正する仕事を請け負ったのが、そもそものはじまりでした。彼らがいまの水準から見たらまるでおもちゃみたいな世界さいしょのパーソナルコンピュータ『アップルⅠ』をつくったのは、ジョブズの自宅のガレージだったという話が残っているくらいです。
フェイスブックも、マーク・ザッカーバーグが大学時代に思いついた校内の学生向けのインターネット・サービスがはじまりでした。いまや、時価総額で世界上位です。
彼らがゼロから起業した会社が、短期間で世界有数の大会社に成長したのです。
みんなと同じことをしていたら、みんなと同じものしか得られません。これはお金のことだけではなく、幸福感や喜び、やりがい、達成感、人からの信頼、そういったすべてのことを指します。人よりも社会に役立ったり人を幸せにしたりすることができれば、みんなより多くの幸せを得ることができるのです。
ジョブズやザッカーバーグのような大成功をおさめた人たちは、いずれも人と違うこと、新しいことに挑戦し、これまでになかったものを生み出し、社会を大きく変えました。
起業にはそうした可能性があります。もちろん、簡単に成し遂げられることではありません。新しいアイデアで起業するベンチャー企業だけの数字ではないですが、ここ最近の日本ではだいたい平均すると、年間12〜13万社の新しい会社が設立されています。しかし、投資家から資金を調達することのできるベンチャー企業は国内で、年に1000社程度というデータもあります。こうした数字を見比べてもわかるように、新しい会社を興(おこ)しても、投資家の支援を受けるということはとても難しい。失敗に終わるケースがほとんどなのです。ジョブズやザッカーバーグは、そのなかの奇跡のケースといえます。だからといって、君が奇跡を起こせないというわけではありません。君がこうした奇跡を起こす人かどうかは、やってみなければわからないのです。『いま君に伝えたいお金の話』 4章 より 村上世彰:著 幻冬舎:刊
会社に入って、そこで定年まで勤め上げる。
そんな働き方が主流の時代には、「起業する」という考え方は、選択肢にも入りませんでした。
ただ、今では、働き方が多様になり、ネット環境など企業に必要なインフラが整ってきました。
「自分のアイデアをビジネスとしてカタチにしたい」
そう考えて起業する人は、増えてくることは間違いありませんね。
「期待値」という考え方
村上さんは、株への投資を通じてお金を増やして
きました。
そんな村上さんが投資をするときにもっとも重視するのが「期待値」という考え方です。
期待値とは、儲かる確率のこと。100円である株を買ったときに、将来それが300円になる可能性はどれくらいか、逆に50円になってしまう可能性はどれくらいか、ということを自分なりに一生懸命考えて、期待値を割り出します。
たとえば100円で買った株が3倍(300円)になる可能性が10%、0.5倍(50円)になる可能性が90%だとしましょう。その場合、期待値は、3×10%+0.5×90%=0.75となります。
期待値の基本は1です。1というのは、100円が100円のままであるということ。
100円が100円のままである可能性が100%のとき、1×100%+0×0%=1となります。ですから、1を上回るときには期待値が高い、下回るときには期待値が低い、となります。期待値が高ければ高いほど、うまくいったときの儲けは大きくなる。
では、100円で買った株が10倍(1000円)になる可能性が10%、0.5倍(50円)になる可能性が90%だったらどうでしょう。
10×10%+0.5×90%=1.45となります。
大きく1を上回っているから、期待値は非常に高いといえます。期待値は、たとえばじゃんけんを10回やったら自分が何回勝つことができるかという勝率とは別ものです。勝つ可能性が低くても、その少ない可能性のなかで勝つことができたら、どれくらい大きなものを得ることができるのかということを予想する数字です。
また、期待値は、何倍になるか、そして%で表している「可能性」を自分で考えて数字を当てはめなくてはいけないというところが大きなポイントです。
ここで、1章で紹介した「物事を数字でとらえる」ということが生きてきます。国については成長率や現在のGDP、人口、借金、こうした大きな経済指標はもちろんのこと、為替レートや土地・住宅の価格、平均的な所得なども全部数字で見ることができます。まずこうしたものをすべて頭に叩(たた)き込む。こうした多くの数字を自分なりに頭のなかで整理して考えていくと、世界でのその国の位置や今後の予想が自分なりに見えてくる。いろいろな数字を自分の経験や勘などとすり合わせながら、株だったら? 土地だったら? といろいろな期待値の式に当てはてみるのです。こうすることで、どこの国でどのような投資をするべきかがおのずとわかってきます。『いま君に伝えたいお金の話』 5章 より 村上世彰:著 幻冬舎:刊
図1.期待値の考え方
(『いま君に伝えたいお金の話』 5章 より抜粋)
勝率だけを上げても、リターンが増えるとは限りません。
勝ったときに、どれだけの見返りを得ることができるか。
それを予想して、期待値を割り出す必要があるということですね。
より大きな期待値を、正確に割り出す。
それには、あらゆる事象を数字を用いて、具体的に把握する必要があります。
期待値が高い場面だけ勝負をかけ、その他の場面ではじっくり静観する。
どんな場面でも、そんな冷静な判断ができるのが一流の投資家なのでしょう。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「小さい頃に投資の経験をしてほしい」
村上さんが、そうお考えになるのは、社会に出てから、自分の生活費の一部をいきなり投資に回すというのは、とてもハードルが高いことだから
です。
小さい頃に覚えたこと、学んだことは、一生を通じて大きな財産です。
投資について、偏見なしに、違和感なく受け入れる人が多くなるほど、世の中の「お金」のイメージは変わります。
村上さんは、みんなが貯金と併(あわ)せて資産の一部を当たり前のように「投資」する社会になれば、日本もより豊かになる
とおっしゃっています。
社会にとっての血液である「お金」。
お金が、くまなく循環してこそ、ほんとうの意味での豊かな社会が実現します。
本書は、子ども向けに書かれた「お金」の入門書なので読みやすいです。
ですが、中身は充実していて、大人が読んでも十分楽しめます。
親子で読んで、「お金」について話し合ってみる。
そんなきっかけにもなる良書です。
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