本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『リーダーの「やってはいけない」』(吉田幸弘)

 お薦めの本の紹介です。
 吉田幸弘さんの『リーダーの「やってはいけない」』です。

 吉田幸弘(よしだ・ゆきひろ)さんは、コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・上司向けコーチです。

今の時代の「できるリーダー」とは?

「部下が何を考えているのか、わからない」
「部下が言うことを聞いてくれない」
「部下がなぜ辞めてしまったのか、わからない」

 そんな悩みを抱える上司は、多いのではないでしょうか。

 価値観が多様化し、これまでの「リーダーはこうあるべき」が通用しなくなった今の時代。
 上司は部下と、どのように接すればいいのでしょうか。

「丁寧に計画を立てる」
「チームでミスゼロを目指す」
「いつでも相談してくれ、と部下に言う」

 以上のような行動は、リーダーであれば常に心がけている、という人もいるでしょう。
 事実、多くのリーダー本・部下育成本に書かれていることです。

 しかし、これらの行動が、実は逆効果だと言ったら、驚くでしょうか。
 私は現在、経営者・中間管理職向けに、全国の会社組織などで年間130回以上、部下育成の研修やセミナーを行っています。
 お察しの通り、冒頭で示した心構えは、その中で見てきた「できないリーダー」の共通点なのです。
 このような「やりがちだけど、実はやってはいけない」リーダーの行動は、ここでご紹介した以外にも、まだまだ数多くあります。
 そして、多くのリーダーがその事実に気づくことなく、「やってはいけない」リーダーの行動を取ってしまっています。

 しかしその一方で、聞いた瞬間は「え?」と思うような内容なのに、できるリーダーが共通してやっている行動にも、気づくことができました。冒頭の例に対応させて言うなら、

「適当に計画を立てる」
「リーダー自らミスゼロを破る」
「相談禁止タイム」をつくる」

 といったようなものです。
 これらは、一見変わっているように見えますが、当人のできるリーダーに理由を聞けば、「なるほど!」と思うものばかり。ひと言で言えば、理にかなっているのです。
 このような行動をしているリーダーの下では、チームが活気にあふれ、部下も自ら働き、勝手に育っていきます。

『リーダーの「やってはいけない」』 はじめに より 吉田幸弘:著 PHP出版:刊

 本書は、やりがちだけど「実はやっていない」リーダーの行動と、一見変わっているけど「実はうまくいく」リーダーの行動を、対比形式で紹介した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「ECRS」で業務の簡素化を図る

 吉田さんは、本当にできるリーダーは、続ける前提で考えるのではなく、やらないという選択肢も含めて、検討・判断すると述べています。

 たとえば、記入項目が多く、形骸化した日報にはどう対処すればいいでしょうか。

 仕事の目的は、結果を出すことです。よって、結果につながらない、お客様の満足につながらない仕事は、本来すべきではありません。

 有名な業務効率化のフレームワークに、ECRS(イクルス)というものがあります。
 これは、次の4つの順番で、業務改善の切り口を考えようとというものです。

  • Eliminate(取り除く)
  • Combine(結合する)
  • Rearrange(取り替える)
  • Simplify(簡素化する)

 できないリーダーは、ここでSの簡素化から考えます。
 日報の例でいうと、たしかに形骸化しているが、誰かが見ているかもしれない、あるいは日報がなくなると日々の業務をメンバーがサボるかもしれないと考え、「じゃあ、日報の記入項目を減らそう」と提案します。
 たしかに、先ほどの従業員などの項目がなくなれば、日報を書く時間は削減されるかもしれません。しかし、劇的な業務改善にはならないでしょう。

 一方、できるリーダーは、まずEの取り除くこと、なくすことを考えます。
 ここでいえば、日報の項目を減らすのではなくて廃止することを考えるのです。
 その際、次の3つのステップで検討していきます。

1.その仕事が、価値を生み出しているかどうかを考える
 この場合、いつか将来価値を生み出す「かもしれない」という考えはやめましょう。この仕事をすることによって、どんな金銭的メリットや、チーム内のメリットが生まれているのか、そもそもの部分に立ち返って考えるのです。

2.その仕事が、誰のための仕事かを考える
 先ほどの日報の例の場合、「部長がたまに見るのに必要だから」といった、それほど全体の価値を生み出していない事ならば、廃止してしまいましょう。当人が困るようであれば、顧客リストなど、代用できるものを考えれば良いだけです。

3.その仕事をやめると、問題が発生するかどうかを考える
 それを廃止したときに、金銭面などで影響はなくても、何か大きな問題が発生しないかどうかは、考えておくべきでしょう。お客様の誰かが困るかもしれない、あるいは担当者自身が不在のときに困ることがないかなどが基準になります。

『リーダーの「やってはいけない」』 第1章 より 吉田幸弘:著 PHP出版:刊

 そもそも、その業務が必要なのか。
 根本的な部分にまで立ち返って、検討することが大切です。

 世の中が大きく変化している今、業務の新陳代謝を早めることは、重要性を増しています。

 業務改善のための「ECRS(イクルス)」。
 ぜひ、覚えておきたいですね。

「勝手に部下が育つ環境」をつくる

 リーダーの役割で、最も大切なものの一つが「部下を育てる」ことです。

 吉田さんは、部下を育てるのが上手なリーダーは、勝手に部下が育つ環境を整えていると述べています。
 具体的に言うと、「部下が部下を育てる仕組み」を作っているということです。

 やり方はこうです。まず、ナンバー2を除いたチームのメンバーを、経験や業務の習熟度に応じて、次の3層に分類します。

  • レベル1・・・・・入社1〜2年目くらい 適切な補助があれば業務を遂行できる人
  • レベル2・・・・・入社3〜5年目くらい ほとんど補助なしで業務を遂行できる人
  • レベル3・・・・・入社6〜10年目くらい 新しい企画など自ら業務を考えられる人

 もちろん、実際はこんなに単純ではないでしょうが、大まかな基準でOKです。分類した後は、それぞれのレベルの層が、1つ下の層に教えていくというルールを作ります。
 たとえば、レベル1の人は、レベル2の人から教わります。同様に、レベル2の人は、レベル3の人から教わり、レベル3の人だけが、直接ナンバー2から教わるのです。
 この方法には主に次の2つのメリットがあります。

1.教えることで成長が加速する
 人に教えることは、その人自身の成長にもつながります。具体的には、プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力のアップにつながります。
 また、全員が若年の頃からリーダーシップの素養を身につけることができるので、より高い視点から仕事に取り組むようになります。
 どんなことであれ、人に教えるためには、現状をきちんと振り返り、分析して、言語化する必要があります。その結果、再現性のあるノウハウが、チームの中で体系化できるようになるケースもあります。

2.年が近い人のほうが色々聞きやすい
 ひと口に「教える」と言っても、それは上から下に一方通行でスキルを伝えるだけではなく、下から上への相談や、一緒に考えて問題を解決するといったことも多くあります。
 そうしたときには、年齢が離れている人より、年が近い人のほうが、お互いをわかり合えるし、相談もしやすいでしょう。

 実は、この仕組みにはモデルがあります。昨年(2018年)、大河ドラマで、西郷隆盛を主役とした『西郷どん』を放映していました。その西郷が生まれ育った薩摩藩は、優秀な人材を多数輩出しています。
 その原動力と言われているのが、「郷中(ごじゅう)教育」という教育制度です。これは、6歳以上の藩士の子弟たちが集まって学問や武芸の鍛錬をする際、年少から年中になったら自分より年少の子どもを教え、今でいう中学生くらいになったら、今度は年中の子どもを教えるという仕組みでした。
 この制度に倣って、あなたの部署でも「部下が部下を育てる仕組み」を導入すれば、おそらくナンバー2だけに部下を育ててもらうよりも、得られるものは多いでしょう。

『リーダーの「やってはいけない」』 第2章 より 吉田幸弘:著 PHP出版:刊

 リーダーになるほど優秀な人材は、もちろん仕事ができる人でしょう。
 だからこそ、ついつい「自分で全部やってしまおう」と考えてしまいがちです。

 人に教えることは、その人の成長につながる。
 ならば、教えることを「任せる」のも、リーダーの重要な仕事だということが理解できますね。

「なぜ、あなたに頼むのか」を伝える

 吉田さんは、部下に仕事を頼むときには、「なぜその仕事をやる必要があるのか」「なぜその仕事をすることになったのか」といった仕事の理由や背景を伝える必要があると述べています。

 なぜなら、この理由・背景=「WHY」をきちんと伝えないと、部下は「やらされ仕事」だと感じる可能性が高まるからです。

 とある部署のリーダーのAさんは、部下に仕事を頼むとき、必ず「なぜその仕事をやる必要があるのか」を伝えていました。

「〇〇社へのプレゼン資料、頼んだぞ。取れたら大口顧客になるし、会社にとっても部署にとっても大事な案件だからな
「来期の売上予測をまとめたグラフを作ってほしい。来期の部署の予算を多く確保できるチャンスだからな

 部下がその仕事をするべき理由を、Aさんは必ず伝えていました。内容は具体的で、部下の側も明確に理解していました。
 しかし、Aさんの部下が提出してきた資料は、最低限のレベルはクリアしていましたが、何かインパクトが足りない、最高のクオリティというには、ほど遠い状態でした。
 非常に大きな温度差を感じたAさんは、「WHY」もしっかり伝えたのに、なぜ部下が「自分ごと」として受け取ってくれないのだろうかと悩んでしまいました。

 一方、できるリーダーは、同じWHYを伝えるにしても、「なぜ(会社・チームのために)その仕事をする必要があるのか」だけではなく、「なぜあなたに頼むのか」も合わせて伝えるのです。たとえば、

「B君、〇〇社へのプレゼン資料、頼んだぞ。取れたら大口顧客になるし、B君の昇格のきっかけとして社内にアピールできる。だから、この仕事はB君にお願いしたいんだ
「Cさんには、来期の売上予測をまとめたグラフを作ってほしい。来期の部署の予算を多く確保できるチャンスだし、それが実現できれば、Cさんがこの前言っていた新しいサービスの立ち上げも検討できるしね

 このように、部下が育つリーダーは、本人がやる気を出すポイントに即した「WHY」を添えた頼み方をします。
 意識の高い部下であれば、「組織のため」という理由で働く人もいますが、「部下自身のため」という理由ほどには、部下には響きません。
 前者のB君は「昇格したい」というキャリアアップ志向、後者のCさんは「新しいサービスを立ち上げたい」というチャレンジ志向があるわけです。部下が育つリーダーは、このように部下の心に火をつけるポイントを「WHY」にして伝えるようにしているのです。

『リーダーの「やってはいけない」』 第3章 より 吉田幸弘:著 PHP出版:刊

「WHY」を添えて仕事を頼む。
 部下の心に火をつける。

 そのためには、部下の性格や長所・短所をしっかり把握しておく必要があります。

 人を知ること。

 それが人の上に立つ人が真っ先に心がけるべきことなのは間違いないですね。

「信頼・情熱」を大切にする

 今の世の中、「パワハラ」などの問題が取り沙汰されています。
 かつてのような「役職」「肩書き」で人を動かすやり方が難しくなりました。

 では、どうやって部下を動かすのが正解なのでしょうか。

 とあるリーダーAさんは、今の時代、論理的であれば部下は動くと考えました。
 誰が見ても間違いようのない正しいロジックによって、理詰めで部下を説得しようとしました。
 しかし、Aさんのやり方ではうまくいきませんでした。Aさんは、かつてロジカルシンキングの本がたくさん出ていた頃に大量に出現した、論理的に説得すれば、誰が言おうと相手は動くと考える「ロジカルバカ」になってしまったのです。
 Aさんがうまくいかない理由。それは、人は「話の内容」よりも「誰が言っていたか」を重視するという視点が抜け落ちているからです。

 古代ギリシャの哲学者、アリストテレスは、「人を動かすには3つの要素がある」と言いました。
 3つの要素とは、「エトス」(信頼)、「パトス」(情熱)、「ロゴス」(論理)です。
 このどれかが欠けても、あるいはこの順番通りに相手に伝えないと、うまくいきません。
 つまり、「ロゴス」(論理)を伝える前に、最初の土台である「エトス」(信頼)、そして「パトス」(情熱)が必要なのです。

 仮に、あなたが次のようにリーダーから言われたとしましょう。
「今期の目標を達成できないと、支店を継続できるかどうかという問題にまで発展するかもしれない。だから、みんなで頑張ってこの危機を乗り切ろう」
 これが、普段から何を考えているのかわからず、言い方もどこか冷めていて形式ばかりを重視するリーダーだったら、「よし頑張ろう」なんて思わないはずです。「今さらそんなこと言われたって、仕方ないじゃないか」と、私なら思います。
 一方で、これが普段から信頼関係を構築できていて、その言い方にも想いが乗ったリーダーだったら、「何としても乗り切ろう」とメンバーも自然と考えるので、チーム一丸となるでしょう。

 アリストテレスの考え方も同じです。
 論理は大切だが、その前に「信頼」「情熱」がないと、人は動かないわけです
 部下から信頼されるリーダーになるためには、次の2点が重要です。

1.小さな約束を守る
 上司は部下より忙しいもの。せっかく部下と約束をしていても、つい延期したり、あるいは口では言っているものの実行されていない約束もあるでしょう。
 それぞれはほんの小さな約束です。
 でも言ったのはリーダーであるあなたです。ならば約束を守っていきましょう。
 お客様や上司との約束はきちんと履行するのに、部下だったら別にいいか。
 そんなあなたの甘えを、部下は思った以上によく見ています。他の用事を延期にしてでも約束したことを実行する、あるいは、部下であっても社交辞令で軽率な約束はしないことです。

2.言行を一致させる
 上司は言った言葉に対しては、行動を伴うようにしなければなりません。
 仮に、あなたが営業マン兼任のプレイングマネジャーで、新規開拓をしようとチームのみんなの前で言っているのに、自身は忙しくてそれほどできていなかったとします。
 そのとき、ミーティングで「みんな、もう少し新規やろうよ」と言ったところで、「リーダーだってやってないじゃないか」と反発されるだけです。

「デスクは常に整理しておけと言っているのに自分は資料だらけで散らかっています」
「書類にはパスワードをつけろと言っているのに、自分はつけないまま送ってくる」

 部下はリーダーであるあなたのことを常に見ています。言行一致に注意しましょう。

『リーダーの「やってはいけない」』 第4章 より 吉田幸弘:著 PHP出版:刊

「あの上司からの頼まれごとだったら、喜んで引き受けたい」

 日頃から部下にそう思われるような関係を築いておくことが大切です。

「エトス」(信頼)と「エトス」(情熱)。
 普段から、この2つが伝わる言動を心がけたいですね。

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 吉田さんは、どれだけ失敗しても、リーダーであることを決してあきらめないでほしいと強調されています。

 何ごとも、最初からうまくいくことはありません。
 失敗や試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ改善していく。
 それが最も効果的な上達法です。

「一流」と呼ばれるリーダーたちも、さまざまな経験を積み重ねて、今の地位を築いているのでしょう。

 私たちも、本書の内容を少しずつ身につけ、自分なりの理想のリーダーを目指していきたいですね。

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