本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『できるリーダーは、「これ」しかやらない』(伊庭正康)

 お薦めの本の紹介です。
 伊庭正康さんの『できるリーダーは、「これ」しかやらない』です。

 伊庭正康(いば・まさやす)さんは、セールスコンサルタント、ストレスコーピングコーチでです。

部下を「ワクワク」させていますか?

 1流のリーダーの条件のひとつ。
 それは、「部下やチームのメンバーをワクワクさせているか、どうか」です。

 この場合の“ワクワク”とは、部下やメンバーが、挑戦を楽しんでおり、仕事を通じて成長を感じている状態です。

 とはいえ、リーダーに求められる役割が増えている今の時代、部下をワクワクさせるのは、容易なことではありません。

 きっと、あなた自身、ますます忙しくなるばかりではないでしょうか。
 また、残業削減を厳しく要請されてるのではないでしょうか。
 そうなると、部下との会話の時間より、PCと会話(PC作業)をしている時間のほうが多かったりしませんか?
 また、部下との限られた会話も、「業務の指示・確認」ばかりになっていませんか?
 こうなると、ワクワクではなく、ソワソワする職場になってしまっていても不思議ではありません。

 もしそうだとするなら、あなたは「1人で、頑張りすぎている」のかもしれません。
 もっと部下やメンバーに頼ってもいいのです。
 職場の様々な役割を、部下に任せてみてはどうでしょう。
 そのほうが、部下も成長しますし、自分たちの組織だと自覚するはずです。
 ここまで、時短の要請が厳しくなり、しかも管理職としての業務も忙しいとなると、もはや任せるしか方法はないのです。

 そうは言っても・・・。
 たしかに、任せることは簡単ではありません。
 その難しさは、私も骨身にしみて理解しています。リクルートで初めてリーダーになった頃、1人で頑張りすぎたため、かえって部下のやる気や主体性を奪っていたという苦い経験があります。
 その後、猛烈な反省から、数多くのリーダーを観察し、優れたリーダーシップに共通するセオリーを抽出。さらにそれを自ら実践・アレンジし続けた結果、ある組織では当初わずか5%だった従業員満足率を95%に高めることができました。

 何を隠そう、私はリーダーになるのがとにかくイヤで、リクルートで営業リーダーになる(させられる)まで、リーダーになることから徹底的に逃げてきたようにな人間です(小学校時代には、6人グループの「班長」からも逃げていました)。
 そんな私でも、ちょっとしたコツを知ることで、「任せる」ことができるようになり、リーダーほど面白い経験はない、とまで言えるようになりました。
 ですので、今は「任せるのはどうも苦手で・・・」「リーダーなんて向いていない・・・」という人も安心してください。
また、意外かもしれませんが、部下は仕事を任せられたとしても面倒だなとは思いません。任せ方のポイントをおさえておけば、むしろ前向きに頑張ってくれます。

『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 はじめに より 伊庭正康:著 PHP研究所:刊

 本書は、「任せられた部下がワクワクできる」、様々なマネジメント手法をわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「マイクロマネジメント」が、部下のチャレンジ精神を奪う

 リーダーが陥りがちな罠のひとつに「マイクロマネジメント」があります。
 マイクロマネジメントとは、細かく部下に指示をしすぎてしまう状態のことを言います。

「わかっていると思うけど、翌朝までに、この箇所に記入をしておいてね
「企画書ができたら、事前に見せてね。間違いがあったらいけないからね
「お礼の手紙は、すぐにださなきゃダメだよ

 右の傍線を引いた箇所をご覧ください。
「できていないとダメだからね」と言っているわけですから、やさしそうな表現であっても、言われたほうは、かなり窮屈に感じてしまいます。

 窮屈なことを好む人は、そうそういないでしょう。
 だから、自分で考えることが好きな人や、自由さを求める人ほど、マイクロマネジメントをされると、会社を辞めたくなります。言うなれば、過干渉の親の元を飛び出したくなる子供と一緒に考えるといいかもしれません。
 でも、部下が一人前でない場合もあります。
 だから、気になるわけです。
 では、どうすればよいのでしょう。

 責任感がある上司ほど、マイクロマネジメントに陥りやすいものです。
 そこで、その責任感を「目先のこと」ではなく、「部下を成長させること」に向けてみると、マイクロマネジメントを手放しやすくなります。
「やらされた仕事」では成長ができないことは、心理学が実証しています。
「目標は未達成だったけど、上司の言うとおりに電話を30件かけたのでOK」といったように、他責にしがちになるからです。

 そこで「自己決定感」に着目してみてください。
 自己決定感とは、「自分がそれを決めた」という感覚のこと言います。
 この自己決定感が高いと、失敗をしても次の成長生かすことができる、というのです。
「目標は未達成だった。こうしておけばよかったな。よし、次はこうしよう」と「反省」をし、次に活かすようになります。

 星野リゾートの星野佳路(よしはる)社長の口ぐせは参考になります。
 同社の会議の光景がテレビのドキュメンタリー番組で放映されていたのですが、最も多かったセリフがこれでした。
「で、どうしますか?」
 まさに自己決定感を誘発するセリフです。社員の方も、こうおっしゃっていました。
「社長は、自分の手柄にしてくれる。やるしかない」と。

 これからはこう考えてみてはいかがでしょう。
 致命的なミスでないなら、それも本人の成長の肥やしだ、と。
 実際、ミスは無意味なものではなく、部下に色々な気づきを与えてくれます。
 言うなれば、一見するとネガティブな存在である「ミス」が、彼らの指導役にもなってくれるわけですから、ミスを逆に利用しない手はありません。
 部下がミスしたら、こう言えばいいのです。
「失敗は次に活かせばいい。で、次はどうしますか?」と。

『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第1章 より 伊庭正康:著 PHP研究所:刊

 部下への指示は、「わかりやすく」出すのが基本です。
 ただ、それが過ぎると、細かすぎて部下が窮屈に感じてしまうのですね。

 相手が指示の内容を明確に理解できること。
 相手が「自己決定感」を持って取り組めること。

 この2つを両立させるための“さじ加減”が重要ですね。

リーダーの「任せる覚悟」が部下を覚醒させる

 部下に仕事を任せるとき、リーダーには「覚悟」が必要となります。

 それは、「この人の可能性にかける」という覚悟。そして、「裏切られてしまったら、その時は自分が悪かったのだ」と受け入れる覚悟です。

 結果をスグに期待してしまうと、任せることができません。

 伊庭さんは、期待すべきは、スグの結果ではなく、その人のノビシロだと述べています。

 NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で紹介されていた、食品スーパー・成城石井の大久保恒夫(当時)のエピソードは、まさにそれでした。
 大久保社長は小売り再建のエキスパートとして、ユニクロ、無印良品、デニーズ等の改革に携わった有名な方。その番組では、苦境にあえぐ成城石井のある店長が、覚醒する瞬間が紹介されていました。

 部下のハートをつかめない不器用で内気な店長。店舗の重要モニタリング指標は最低点。店の雰囲気も活気がなく、最悪の状態。会社によっては降格になってもおかしくない状況です。でも、大久保社長は、降格にするどころかこう語るのです。
「人は、必ず変わる。だから、変わる“きっかけ”を与える。
 私は、変わるまで待つ。私は、人を信じている」

 後日、その店長に「勢いのある店」を見学するという“きっかけ”を作りました。
 その店を見た店長は、自分のやり方との違いに愕然とします。
 悩みぬいた末、店長は覚醒します。店長は部下を集めて、堂々と語ったのです。
「笑顔でお客様と会話ができる店にする、これが私の目標です。
 1人ではできません。どうか、力を貸してください。お願いします!」と。
 その日を境に彼は部下に思いを語り続けるようになり、店に活力が戻った――そんなエピソードでした。
 実は、この店長をよく知る方と話をする機会があり、「このエピソードは本当なのか?」と聞いてみました。「人は本当にこんなにも変わるものなのか?」と。
 本当でした。大久保氏が着任する前の成城石井は活気がなかったそうです。でも、大久保氏が着任してから、社内の雰囲気は一変し、業績も好調に。この店長は10年後の今も立派に活躍されているそうです。
 リーダーが「まだ、任せられない」という場合、業務遂行の視点でしか見ていないからかもしれません。そうではなく、部下を覚醒させる「きっかけ作り」という視点で判断するのが正解です。

 あなたにもパーフェクトでない部下がいるかもしれません。
 でも、「信じて任せてみる」のは、いかがでしょうか。
 それが、部下を覚醒させる、大きな一歩になるはずです。

『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第2章 より 伊庭正康:著 PHP研究所:刊

「できないから」といって任せなければ、いつまでもできないままです。
 初めてのことですから、失敗するかもしれません。
 それでも、その失敗から多くを学び、大きく成長する可能性があります。

 リーダーたるもの、部下の失敗の先の可能性、つまり“ノビシロ”に期待して「任せる」覚悟が必要です。

効果的な“ほめどころ”を知る

 部下に気持ちよく働いてもらうには、「ほめ上手」なリーダーになる必要があります。
 とはいっても、「結果」や「努力」そのものをほめても、効果は少ないです。

 伊庭さんは、行動に変化をもたらすぐらいに、モチベーションを高めるのは、「能力」や「内面」をほめた時だと述べています。

 ほめる対象で子供のモチベーションはどう変わるか、そんなほめどころの違いが与える効果を研究した調査があります。
 ゲーム中、おはじきを他人に分け与えた子供に対して、以下の2通りのほめ方をした時、どちらの子供がたくさんのおはじきを分けたのでしょうか。

 A:「他の人に分けてあげたのは、ホント素晴らしい」とほめられた子供。
   これを「外的帰属」といい、出来事や結果をほめる方法。
 B:「分けてあげたんだね。その思いやりが、ホント素晴らしい」とほめられた子供。
   これを「自己帰属」といい、その人の能力や考え方をほめる方法。

 結果は、B。「自己帰属」でほめられた子供のほうが分けたおはじきの数が多く、また2週間後もほめられたことの影響は維持されていたというのです。

 これは、「ポジティブポライトネス」というものを知ると、整理がつきます。
 ポジティブポライトネスとは、他人から認められたい、好意を持たれたいという欲求。
 想像してみてください。仕事の現場は当然成果を求められますので、部下がポジティブポライトネスを満たせる機会は少ないと思いませんか。
 だからなのです。結果を厳しく求められる職場だからこそ、部下の内面をほめると効果てきめん。
 冒頭のケースを使って、「自己帰属」でほめてみるとこんな感じになります。

  • 手伝ってくれて、ありがとうね。いつも、優しいね。助かるよ。
  • 彼がお願いしたことをやってくれたんだね。思いやりが嬉しいよ。ありがとう。
  • 目標達成、おめでとう。本当に頼りになるよ。ありがとう。

 どうでしょう。上司から、こんなほめ方をされたら、「もっと、頑張ってみようかな」と思いませんか?
 参考までに、面白い調査結果をご紹介しておきます。どんなほめ言葉をよく使うかやどんなほめ言葉の好感度が高いかを、性別・年代別に調べたものです。
 それぞれ人気度の上位5項目は以下の通り。
《10〜20代 男性》「優しい」「明るい」「楽しい」「話しやすい」「元気」
《10〜20代 女性》「優しい」「明るい」「楽しい」「話しやすい」「かわいい」
《50〜60代 男性》「優しい」「明るい」「思いやりがある」「元気」「頼りになる」
《50〜60代 女性》「優しい」「明るい」「思いやりがある」「元気」「頼りになる」
 多少の違いがありますが、ほぼ同様の結果です。
 ほめる言葉が出てこない時に、参考にしてみてください。
 ほめるスキルは、できる上司の必修科目。なかでも、「結果」や「努力」だけでなく、「能力」や「内面」をほめることはぜひ覚えておきたいポイント。そうすれば、「この上司は認めてくれている。もっと頑張りたいな」と思ってもらえることでしょう。

『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第3章 より 伊庭正康:著 PHP研究所:刊

 ほめられて嫌な気持ちになる人は、いないでしょう。
 誰でも持っているポジティブポライトネスを上手に刺激してあげることが、部下のやる気を高めます。

 力ずくで従わせるような強権的なやり方は、今の時代難しいです。

「結果」や「努力」そのものではなく、「能力」や「内面」をほめる。

 ぜひ、覚えておきたいですね。

「特にやりたいことはない」という部下へのアプローチ

 動機づけの法則に「Will-Can-Must」の方程式というものがあります。
 これは、Will、Can、Mustの3要素が交わる時、モチベーションを最大限に引き出せるという法則です(下の図1を参照)。

図1 Will−Can−Must の法則 これ しかやらない 第4章
図1.「Will−Can−Must」の法則
(『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第4章 より抜粋)

 Willとは、本人の「欲求(動因)」。どうなりたいのか、どうありたいのかといった欲求のことです。
 Canとは、本人の「能力」。自分ならできるという確信。強みを活かせる期待のことです。
 Mustとは、本人が従事する「仕事(業務)」のことです。

 さて、この「Will–Can-Must」を進める際には、まず、最初に部下のWillを聞くことから始めます。問題は「やりたいことは、特にないです」と言われた時。
 私の経験では、「ある」と回答する人は、10%前後しかいません。
 この場合、部下にWillがないのではなく、整理ができていないだけ。
 時には部下の勘違いもあります。「野望かぁ・・・・・」と大げさに考えすぎる人もいます。
 まず、整理をしてあげましょう。Willを3つのレベルに分けて聞いてみてください(下の図2を参照)。
 1つ目は、「直近のWill」。今の業務でやってみたいことを聞きます。
 例えば、早く主任になりたい、後輩を教える役割がほしい、表彰されたい、といったことです。早く帰る、というのでもOKです。
 2つ目は、「将来のWill」。将来やってみたいこと、理想の未来を確認します。
 例えば、「いつか自分で商売をしてみたい」「ワークライフバランスを大切にしながら家族と過ごしたい」といった理想像を語ってもらいます。

 でも、実は、この2つのWillを聞いても、出てこない場合は多いものです。
 そんな時は、3つ目のWill。「仕事で大事にしたい価値観」を確認します。
 まず、「仕事で大事にしたい価値観を教えてもらっていいですか?」と尋ね、5個程度、挙げてもらいます。そして、その中から1位を選んでもらい、その背景を聞きます。そこにWillを見出す方法です。
 実例を紹介しましょう。1位に「時間の効率化」を挙げた人がいました。その背景をたどると、「子供の時、親と一緒にいる時間が少なかったので、自分は家族を大事にしたい」といったような温かいWillが出てきたりします。
 では、Willを聞く流れを整理しておきましょう。
 まず「直近」と「将来」のWillを尋ねます。それでも出てこない場合は、「価値観」を聞いてみてください。そうすることで、必ずWillを見出だせるようになります。

 Willを聞いた後、必ずやっていただきたいのが、背景を”深く”聞くことです。
 なぜそう思ったのか、エピソードなどを知ると、Willを正確に把握できます。
 具体的には「なぜ」を繰り返し、聞いていきます。
 例えば、価値観を尋ねた際、「収入が大事」と回答する部下は少なくありません。
 でも、その背景はそれぞれ異なります。ある人は、こういうことでした。
「色々な経験をしてみたいから」
 →(なぜ)→「10万円、1万円のホテル、どちらも選択できるようになりたい」
 →(なぜ)→「故郷の人は、山に囲まれて一生を終える。都会には出てこない人が多い。世界が狭い。人生には様々な選択肢があることを村に伝えたい」

 一見、無味乾燥に思える「収入」というWillですが、その背景を深く聞くと、そこに「温かな思い」「ちょっと悔しかった思い」など、色々なWillが隠れています。
 そして「今の仕事(Must)」が、これらのWillに近づくイメージがあるかを、本人に考えてもらいます。10%でも30%でも紐づいている部分があれば、それで充分。本人にとって、今の仕事が、未来を作る努力に変わるのです。

『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第4章 より 伊庭正康:著 PHP研究所:刊

図2 Willを3つに分けて聞くと答えやすい これ しかやらない 第4章
図2.Willを3つに分けて聞くと答えやすい
(『できるリーダーは、「これ」しかやらない』 第4章 より抜粋)

 仕事のパフォーマンスを左右する最も大きな要因のひとつが「モチベーション」です。
 上司の仕事は、「いかに部下のモチベーションを上げることができるか」だといっても過言ではありません。

 モチベーションは、「油」のようなもの。
 最初は小さくても、一度火がつけば、すぐに大きく燃え広がります。

 部下をやる気にさせるきっかけとしての「Will–Can–Must」。
 ぜひ、試してみたいですね。

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 一人あたりの仕事量が増え、生産性向上が叫ばれている現代社会。
 どの会社でも、リーダーに与えられる役割も、当然のように増えています。

 組織を動かし、日々の業務をこなすだけで精一杯。
 とても部下一人ひとりの面倒は見る時間はない。

 そんな悩みを抱えているリーダーは、多いのではないでしょうか。

 リーダーがすべきこと。
 リーダーがすべきでないこと。

 この両者の区分けが明確になれば、それだけでリーダーの負担は大幅に削減できます。

 リーダーの負荷が減るだけでなく、部下のやる気が増し、モラルも上がります。
 最終的には、組織全体の生産性が大幅に向上します。

 最小限の労力で、最大限の効果を発揮する。
 本書には、そんな今の時代にマッチした、新しいリーダーシップの在り方がふんだんに盛り込まれています。

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