本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』(山口揚平)

 お薦めの本の紹介です。
 山口揚平さんの『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』です。

 山口揚平(やまぐち・ようへい)さんは、事業家・思想家です。

「頭が良い」の定義が変わった!

 私たち日本人が抱えるあらゆる問題の根本は、どこにあるのでしょうか。
 山口さんは、私たち現役世代の、正しく問いを立てる力の低下にあると指摘します。

「頭が良い人」と聞くと、あなたはどのような人を思い浮かべるだろうか。
 20世紀は「頭が良い人」と言えば、高学歴の人や知識が豊富な人を指した。パソコンにたとえればハードディスクの要領の大きい人である。
 だが量販店に行けば1テラバイトのハードディスクが数千円で買える今、知識や情報の物量に価値はない。むしろ過去の思い出や使う予定のない情報がいっぱい詰まったハードディスクはジャンクであり、どんどん捨てていく必要がある。

「頭の良さ」は、20世紀から21世紀で変化している。思考力や想像力が重要になり、情報や知識などのハードディスクは重要ではなくなっているのだ。
 かつてはウルトラクイズなど、知識が豊富であれば人気者になることができたが、これからは情報量より、いつでもグーグルを検索して答えを引き出せる「うろ覚え力」が大切になる。短期記憶力よりも、人に何でも聞ける「愛嬌(あいきょう)力」のほうが必要だ。
 また思考力・想像力を養うことができれば、「問いを問う力」や「つながりを見出す力」、「物事をイメージする力」、さらには「ストーリーテリング力」など、幅広い能力を培うことができる(下の図1を参照)。
(中略)
 20世紀までがハードディスク(情報・知識)主体の時代だったとすれば、21世紀はCPU(思考力・想像力)が主体になる時代である。
 これからの時代はハードディスクから解を抜くのではない。問いそのものを問い直す必要があるからだ。問いを問い直すことはたやすいことではない。常に考え続ける必要があるし、流れに逆らうことでもあるから、苦痛な作業である。

 ここでフォード社の創業者、ヘンリー・フォード氏の逸話を紹介したい。
 あるとき、知識人と呼ばれる人たちがフォード社を訪れた。フォード氏は落ち着いて「皆さん、どのような質問でも良いです。答えてご覧に入れます」と言った。
 小学校しか出ていないフォード氏の無知さを晒(さら)そうと、知識人が次から次へと質問を浴びせると、フォード氏はおもむろに電話を取り上げて、部下を呼びつけた。そしてそれらの質問にあっさりと答えさせてこう言っ。
「私は何か問題が起こったら、非常に優秀な、私よりも頭の良い人を雇い、答えを出させます。そうすれば、自分の頭はすっきりした状態を保つことができますから。そして自分はもっと大事なことに時間を使います。それはたとえば、『考える』ということなのです」
 つまりフォード氏の本当のメッセージは、「考えることは過酷な仕事だ。だからそれをやろうとする人がこんなにも少ない」ということだ。
 常識に果敢に挑戦し、発明や発見を行う人物に共通するのは「考える」ことであり、決して知識や情報の多さではない。

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第1章 より 山口揚平:著 プレジデント社:刊

図1 21世紀の 頭の良さ おだやかに暮らすための思考法 第1章
図1.21世紀の「頭の良さ」
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第1章 より抜粋)

 インターネットや人工知能(AI)などのテクノロジーなどの急速な発達。
 それらにより、知識や単純なノウハウが誰でも簡単に手に入るようになった今の世の中。

 山口さんは、「考える力」は、人間に与えられた最後の武器だと述べています。

 本書は、「考える」ということを新しく定義し直し、その具体的な活用方法をわかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「考えること」こそ最強のスキルだ!

 山口さんは、「考える」ことの最大のメリットは、対象を俯瞰し、一見関係のなさそうなものの因果関係(有機性)を見抜き、「本質」を捉えることで行うべきことを極力減らし、成果を高めることができることだと述べています。

 社会人に求められるスキルは数多くある(下の図6を参照)。中でも「考えること」こそ人間の持つ最強のスキルだと確信したのは、ある企業買収のプロジェクトに関わっているときだった。
 私は当時、M&A(企業の合併・買収)を専門とするコンサルタントとして働いていた。あるとき、クライアントである投資銀行のトップが私たちコンサルタントの用意した膨大なレポートを前に、こう言ったのだ。
「我々がほしいのは情報や分析ではない。この会社の最もコア(本質的)な価値の源泉はなにか? ただその一つだけだ」と。この問いは奥深い。
 会社中のあらゆる情報を集め、分析しても解は見つからない。それらの情報を分離・結合させ、決定的なポイントを洞察しなければならない。しかも情報として言語化・数値化される以前のもの、つまり従業員の表情や上司の口グセ、オフィスの配置などから「概念レベル」のものを知覚し、細心の注意を払う作業を伴う。
 それら何千にもわたる微細なエネルギーを有機・結合してはじめて会社の全体像が立体的に浮かび上がり、その会社の最もコアな価値が見えてくるのだ。
 投資銀行トップの言葉をきっかけに、私は「考えること」について深く考えるようになった。そしてそれは、私が今でも思考の軸に置く一つの信念につながった。
 つまり「すべてのものは一見、分かれているように見えるが、実は有機的につながっている。そしてそのつながりの中に潜む本質を問い続けることこそ、最も有効な解を見つける手段である」ということである。
 効率的に何かを成し遂げたいのであれば、常に考えて最も本質的なことだけに手をつけるべきである。祖母から「ずつなし(面倒くさがり屋の意)」と言われ続けてきた私にとって、「最も大切なことを一つだけやればいい」と確信できたことは大きな救いになった。

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第1章 より 山口揚平:著 プレジデント社:刊

図6 思考はスキルマップの中核をなす おだやかに暮らすための思考法 第1章
図6.思考はスキルマップの中核をなす
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第1章 より抜粋)

 表面化する個々の問題は、「事象」にすぎません。
 隠れている本質的な「原因」を取り除かない限り、解決することはないでしょう。

 ヤマタノオロチの首のように、切っても切っても、後から生えてくる。
 これでは、いくら時間があっても足りません。

「考える」とは、ヤマタノオロチの急所を探し、一太刀入れる方法を探すこと。
 これほど効果的で、コストパフォマンスが高い作業はありませんね。

「二項対立」で物事を正しく分ける

 物事を考えるためには、「補助線」となるようなツールが必要です。

 山口さんは、物事の関係性を考えるときの大きな武器となるのが、全体を正しく分ける技術であり、物事の分け方を知っておくことだと述べています。

 そのひとつが「二項対立」です。

図16 知っておくと便利な二項対立 おだやかに暮らすための思考法 第2章
図16.知っておくと便利な二項対立
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第2章 より抜粋)

 物事の全体を正しく分けるためには、物事を考えるときにいつも「ペア」を想起し、その相手を考えることである。このペアのことを二項(にこう)対立と言う。「抽象と具体」「長期的と短期的」「効率と効果」「インプットとアウトプット」「量と質」「入口と出口」などのことである(上の図16を参照)。
 こうした普遍的な二項対立を頭に入れておくことで、分解能力は飛躍的に上がる。
 慣れてくると対立する内容を自然と考えるようになるので、ほぼ自動的に一段上の次元から対象を捉えることができる。一段上から捉えることで、新たな視点と選択肢を持つことができるのだ。二項対立は思考家にとってイロハのイであり、これがないと仕事にならない。ちなみに私がいつも使っている二項対立は2つある。
「目的と手段」と「原因と結果」である。
 なお、二項対立は「善と悪」や「重要と非重要」といった価値概念の対立は含まないため、物事を公平に分けることができる。

1 目的と手段

 この分け方が役に立つ理由は2つある。
 一つは「目的はさらに上にある目的の手段となっている」という法則が成り立つためだ。つまり、対象を見たときに「これが手段だとしたら、目的は何だ?」という疑問が湧いてくる。もう一つは「手段は常に代替可能である」という法則があるからだ。ある手段を試して万が一うまくいかなくても、この二項対立の考え方を通じて別の手段を想定しておくとうまくいくことが多い。

2 原因と結果

 大半の人は「結果」しか見ないが、本質的な課題は常に「原因」にある。
 たとえば今期の売り上げが前年比30%増の20億円になったからと言って、来期の売り上げが25億円になるとは限らない。20億円は結果であり、その数字につながった原因、すなわち何かしらの仕組みがある。もし来期に25億円目指したいなら、分析すべきは原因であるこの仕組みであり、その仕組みを明らかにしたうえでそれが来期も通用するのかという分析を行わなければならない(下の図17を参照)。

 世界最高の投資家であるウォーレン・バフェット氏は、「株式投資の極意は何か?」と聞かれて次のように答えた。
「私は、投資という分野では代数の知識の必要性を感じておりません。企業の価値の源泉を探ることだけが私の仕事なのです」
 世の中の証券マンが上側の世界(結果の世界)で複雑な専門用語を用いながら必死に顧客に株を売りつけようと努力しているとき、バフェット氏は下側の世界(原因の世界)にいて、「その鶏は、来期にどれだけの卵を産むのだろうか?」とゆっくり考えているのだ。

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第2章 より 山口揚平:著 プレジデント社:刊

図17 因果のマトリックス おだやかに暮らすための思考法 第2章
図17.因果のマトリックス
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第2章 より抜粋)

 この世界は「相対性」によって成り立っています。
 すべての事象には、必ず「ペア」となる概念が存在します。

「目的と手段」と「原因と結果」。
 セットで考える習慣を身につけたいですね。

お金を生む「5つの流れ」

 山口さんは、21世紀は個人がお金の代わりになるような信用を創る時代、つまり信用主義経済だと述べています。

 この時代を生きる私たちがすべきこと。

 それは、ネットーワークを広げ、その網の中に信用を編み込んでいくことです。

 お金についてより深く考えるには、お金が生成されるまでに至った仕組みをまずは理解する必要があるだろう。
 お金はお金、信用、価値、時間、健康(エネルギー)の枠組みで構成されている(下の図25を参照)。
 一番上が「お金」だ。そのレイヤーを支えるのが「信用」である。
 信用主義経済が面白いのは、お金を稼ぐ手法が限られていた貨幣経済とは異なり、信用を積む方法が無数に存在するということだ。言葉遣いや品格、教養、外見、おもてなし精神など、クリエイティビティの発揮しどころはたくさんある。
 ただ、くり返しになるが、信用は一朝一夕で作られるものではない。信用は価値の総和であり、価値がP/L(フロー)だとすれば、信用はB/S(ストック)だ。よって「現金化できる信用」を増やすには、日頃から価値をコツコツと積み上げていくしかないのである。
 3層目の「価値」の生み出し方については後述するが、人が価値創造するには何より「時間」が必要である。そしてその「時間」の量を増やし、密度を濃くするには、「健康」に留意してエネルギーを貯めていかなければならない。健康だからこそ色々なことを考える余地が生まれるからだ。
 お金がお金を生むという従来型の金儲けのスキームがなくなるわけではないが、これからの時代は個々が価値創造に対してより能動的に関与していくことが求められる。「身体が資本だ」とよく言うが、文字通り、健康(エネルギー)がお金になる時代がやってくるのだ。
 時間にせよ、健康にせよ、それらは「お金、信用、価値」という3層構造からなる広義のマネーを下支えする「原資」であり、原資であるからこそ私たちはもっとそこに意識を向けなければならない。

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第3章 より 山口揚平:著 プレジデント社:刊

図25 お金の5つのレイヤー おだやかに暮らすための思考法 第3章
図25.お金の5つのレイヤー
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第3章 より抜粋)

「お金」は「信用」から生まれます。
「信用」を生み出すのは、その人自身がもっている「価値」です。

 そして、「価値」を創り出す土台となるのが、「時間」であり「健康(エネルギー)」だということです。

 自己投資がいかに大切か。
 そして、その優先順位は、さらに重要な意味をもつ。

 今の時代を生きる私たちは、しっかり認識しておきたいですね。

正社員はリスクでしかない

 少し前までは、会社に入ることが「スキル」や「信用」をつけるだと言われてきました。
 しかし、今は違います。

 会社に入ることは、逆に「リスク」となりつつあります。
 山口さんは、これからの時代、信用は個人で作っていくものだと強調します。

図40 キャリアの守破離 おだやかに暮らすための思考法 第4章
図40.キャリアの守破離
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第3章 より抜粋)

 私の考えるキャリア設計の解の一つは3段階に分かれる(上の図40を参照)。 
10〜20代は「修行期」と捉え、マスターやメンターの側で仕事の技を盗んだり、留学やインターンで海外を経験したり、大学院などでビジネスを学ぶ。
 特に20代は信用をどんどん作っていかなければいけない。その信用を使うのは30〜40代以降。お金と同じで浪費をせず、コツコツ貯めることが大事である。
 信用をスピーディに貯めるためには、求められた仕事に対して必ず相手の期待値に20%上乗せしていくことが重要だ(私はこれを120%ルールと呼んでいる)。
 逆に言えば、自分の思考と知識の限界から8割のレベルで十分な成果を挙げられる仕事を選ぶことが上司やクライアントへの誠意だと思う。研鑽は自分のお金で積むべきである。そうやって信用残高を増やしていくことで見えてくるものがあるはずだ。逆に修行期間である20代にお金や地位や名誉を求めるとうまくいかない
 30代、40代は「孤軍奮闘期」と捉え、起業を経験したりしながらリーダーシップとマネジメントを学ぶ。30歳前後になれば自然と新しいミッションが芽生え、一念発起する人が出てくるはずだ。ただし、業界をまたいで大きな挑戦をしていきたいなら、40歳くらいでようやくちゃんとした価値が出せるようになる(逆に40代にしっかり価値を作れないと、50代以降で後はない)。
 そして50代、60代は一国一城の主(あるじ)となり、会社を率いながら人を守る。
 このように武道で言う「守破離(しゅはり)」の順番に沿って、人生のうち3回は非連続的にキャリアを変えて、出世魚のように生きていくのがベストだと思う。
 大企業のどんな優秀なエースでも、35歳までに会社の外に出て広いマーケットであらゆるリソースの制約の中で戦ってみないと、井の中の蛙(かわず)になる可能性が高い。
 いずれにせよ、そういう意味でも「一つの企業で働き続ける」という発想は捨てたほうがいい
 私のような40代の親世代はよく「正社員になることが安定をもたらす」と言うが、それもない。新入社員の30%が3年以内に、最初に勤めた企業を去る時代である。それが前向きな転職ならいいが、特に若い世代の退職は心を病むことが原因であることが多く、その後のキャリアが低空飛行になることもある。つまり、正社員にこだわることは長期的視点で見るとむしろ不安定になりかねないのだ。
 ならば上意下達で自由度のない職場を選ぶよりも、不安定飛行ながらも時間と人との距離感(ストレス度合い)を自由に選択できる「健康的自立」を最初から選ぶほうが長期的には安定するのではないだろうか。
 ネットワーク社会ではそうした生き方がしやすくなる(下の図41を参照)。

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第3章 より 山口揚平:著 プレジデント社:刊

図41 これらのキャリア おだやかに暮らすための思考法 第4章
図41.これらのキャリア
(『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』 第3章 より抜粋)

 一つの会社、一つのスキルだけで、一本道を進む。
 そういう生き方は、うまくいっているときは問題ないです。

 反面、いったん予期せぬトラブルや問題が起こったとき、リカバリーが難しいです。

 非連続的にキャリアを変えて、出世魚のように生きていく。
 これまでとはまったく違う、新しいキャリアアップを模索する時代に入ったということですね。

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 これからは、組織ではなく、個人が輝く時代だ。
 そう指摘する人は多いです。

 では、輝く「個」になるために、私たちはどうすべきでしょうか。

 山口さんは、スペシャルな存在を目指すのではなく、ユニークな存在を目指そうとおっしゃっています。

 一芸に秀でていなくても、自分なりの長所・得意分野を積み重ねることで、他の誰とも違う個性を磨く。
 そして、それを活かせるチームや人間関係を構築する。

 それが新しい世の中を幸せに生き抜くための秘訣です。

 個の力を高めていかなければ、成功するどころか、生きていくのすら難しくなる時代。
 本書は、そんな私たちに“コンパス”のように、進むべき進路を示してくれます。

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