本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(堀田修)

 お薦めの本の紹介です。
 堀田修さんの『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』です。

 堀田修(ほった・おさむ)さんは、腎臓内科がご専門の医学博士です。

慢性的な不調の原因は「鼻の奥」にあった!

 慢性的に抱える頭痛や肩こり・首こり、消えない倦怠感。
 そんな原因不明の体調不良に悩んでいる人は多いのではないでしょうか。

 これらの症状の「おおもとの原因」は、鼻の奥にある「上咽頭」にあります。

 上咽頭とは、左右の鼻の穴から吸い込んだ空気が合流して下の気管に向かって流れが変わる、中咽頭へ通じる空気の通り道のことです。

 堀田さんは、この上咽頭が、慢性的に炎症を起こしている状態「慢性上咽頭炎」がさまざまな不調の原因となっていると考えられると述べています(下の図1を参照)。

図1 上咽頭のある場所 慢性上咽頭炎を治しなさい はじめに
図1.上咽頭のある場所
(『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 はじめに より抜粋)
 “のど”や“鼻”の専門家である耳鼻科医ではなく、内科医である私がこの本を執筆する理由について、最初にお話させてください。

「唾(つば)をのみ込むときにのどが痛くてつらい
「のど飴をなめても、のどの痛みがいっこうに改善しない」
「風邪(かぜ)は治ったはずなのに、咳がいつまでも続いている」


 このような経験は誰にでもあると思います。なかには、周りに風邪をひいている人がいないのに、季節に関係なく「年中風邪をひいている」ことに辟易(へきえき)している人もいるでしょう。
「鼻水がのどを流れて落ちてくる(後鼻漏(こうびろう))」、あるいは「のどの詰まった感じ」が気になって耳鼻科を何件も受診した。ところが、どの医師からも「異常はありません」「気にし過ぎです」と一蹴(いっしゅう)されて、治ることを途中で諦めてしまった。

 悩みごとがあるわけではないのに「頭痛」「不眠」「全身のだるさ」「首こり、肩こり」「立ちくらみ」「体がフワフワした感じ」などの不快な症状のために、気分がふさぎがちな毎日を送っている。

 胃内視鏡検査では軽い胃炎程度でたいした異常はないのに、いつも「胃がもたれる」、あるいは「下痢」「腹痛」などのおなかの症状に悩まされている。

 風邪やインフルエンザをきっかけに「血尿」が出たり、あるいは「手のひらと足の湿疹(しっしん)」が悪化した。風邪をひいた後に「関節痛」「蕁麻疹(じんましん)」が始まっていつまでも治らない。

 このような悩みを抱えている人も、本書を手に取った方の中にはきっといると思います。

 こうした一見、それぞれが全く関係なさそうな、様々な症状の根本原因が、実は鼻の奥の上咽頭という部位の慢性炎症である「慢性上咽頭炎(まんせいじょういんとうえん)」だと言われたらあなたは驚くでしょうか? 『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 はじめに より 堀田修:著 あさ出版:刊
 本書は、私たちにはあまりなじみのない慢性上咽頭炎の病態と治療法について、わかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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一日2回、上咽頭洗浄を行う

 堀田さんが、個人でできる慢性上咽頭炎の改善に有効な方法として挙げている方法のひとつが「上咽頭洗浄」です。

 最初にお勧めするのは、少量の生理食塩水を用いた上咽頭洗浄(じょういんとうせんじょう)です。
 まず座った状態で頭を60度以上後ろに倒すか、上向きに寝た状態で生理食塩水をそれぞれの鼻にスポイトなどの容器を用いて2cc程度入れます。
 鼻から入れた食塩水は口から出してもいいですが、少量なのでそのまま飲み込んでもかまいません。
 起床時と風呂上りなど、一日に2回は行なってください。

 生理食塩水とは水1000ccに食塩が9g入ったものをいいます。使用する水は残留塩素が含まれている水道水ではなく蒸留水か精製水が望ましいですが、自販機やコンビニ等で入手できるミネラルウォーターでも可能です。
 水500ccに小さじ3分の2程度の食塩を(正確に0.9%に調整する必要はありません)加えて溶液を作ったら、一回に使用する量が少ないため冷蔵庫に保存しておくとよいでしょう。
 体には無害でありながら、消炎効果や殺菌効果をうたう物質を加えた上咽頭洗浄液を用いるとさらに上咽頭洗浄の効果が上がる場合があります。

 梅エキスの抽出成分であるMK615(商品名:ミサトール)はその特徴が科学的に評価検討されている物質で、消炎作用はその特徴の一つです。ミサトールを使用した上咽頭洗浄用のものが市販されています(「ミサトールリノローション」アダバイオ社)。
「ミサトールリノローション」の臨床的効果は歴史が浅く未知な点が多いですが、乾癬(かんせん)などの慢性皮膚疾患に効果がある場合があることが英文医学雑誌にも報告されており、鼻から注入したときの違和感も少ないため、生理食塩水で満足いく効果が得られない時には、試みる価値があると思います。

 微酸性電解水(びさんせいでんかいすい)は生体には無害ですが殺菌作用があります。
「プレフィア」は上咽頭洗浄用に作られた微酸性電解水製品です。また、プレフィアを進化させた製品として抗炎症作用(こうえんしょうさよう)に加え、粘膜(ねんまく)の上皮細胞(じょうひさいぼう)を強化する作用のある有機イオウ化合物であるメチルスルフォニルメタンを含有する「MSMプレフィア」が上咽頭洗浄用に発売されています(グローバルアイ社)。 『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第2章 より 堀田修:著 あさ出版:刊
図2 上咽頭洗浄のやり方 慢性上咽頭炎を治しなさい 第2章
図2.上咽頭洗浄のやり方
(『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第2章 より抜粋)
 ミネラルウォーターと食塩だけでできる、気軽な健康法。
 それが「上咽頭洗浄」です。

 自分は慢性上咽頭炎かも・・・・・。
 そう感じている人は、この方法を試してみてください。

寝る前に8分間「歯の手入れ」をする

 堀田さんが日頃、たくさんの慢性上咽頭炎の患者さんを診療して感じること。
 それは、口腔内に問題を抱えている方が多いということです。

(前略)歯周病が動脈硬化や妊婦の胎児発育不全に関連していることは以前からよく知られていますが、最近では十分な歯周病ケアが、慢性腎臓病の予後(よご)や透析患者(とうせきかんじゃ)さんの生命予後を改善することが報告され注目を集めています。
 歯周病菌は空気を嫌う嫌気性菌(けんきせいきん)、空気の通り道である上咽頭の慢性炎症の原因になる可能性は少ないと思われますが、慢性扁桃炎(まんせいへんとうえん)の原因菌としては重要です。
 扁桃はリンパ球が豊富な臓器なので、そこに慢性炎症が生じると免疫を介して全身に悪影響を及ぼします。それゆえ、口腔内の健全な状態を保つことは極めて重要と言えます。
 人間の口腔と咽頭にはワルダイエルの扁桃輪(へんとうりん)と呼ばれる、外界からの侵入者から体を守る関所のようなリンパ装置が備わっています。口蓋扁桃はその関所の一つで、もう一つの重要な関所である咽頭扁桃(アデノイド)は上咽頭の一部です。

 これは私の臨床医としての経験知ですが、慢性上咽頭炎のある患者さんが必ずしも口腔の状態が悪かったり、口蓋扁桃に炎症があったりするわけではありません。一方、口腔の衛生状態に問題がある人は慢性扁桃炎と慢性上咽頭炎の両方を持っていることが実に多いです。
(中略)
 朝と寝る前にしっかりと口腔ケアができれば理想的ですが、朝は忙しくて、せわしなくシャカシャカと歯磨きをするのがやっとという人が多いと思います。そこで、お勧めなのが寝る前に8分間をかけた歯の手入れです。
 まず毛先が柔らかめの歯ブラシを用いて(電動歯ブラシも可)、特に歯の根っこと歯肉を軽いタッチで、しかし、しっかりと5分間磨きます。
 特に下あごの前歯の裏は歯垢(しこう)がたまりやすいので歯ブラシの柄に近い側先端を歯の根っ子に押し付けて歯垢を掻き出す要領で丹念に磨きます。

 そして、歯ブラシでは歯と歯の間の歯垢はうまく取れないので歯間ブラシかフロスを使って3分間くらい時間をかけて丁寧に歯と歯の間にたまった歯垢を掻き出します。 『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第3章 より 堀田修:著 あさ出版:刊
図3 8分間の歯のお手入れ法 慢性上咽頭炎を治しなさい 第3章
図3.8分間の歯のお手入れ法
(『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第3章 より抜粋)
 口腔と上咽頭は、気管や食道といった「空洞」でつながっています。

 “上流”である口の中の菌が、“下流”である上咽頭に流れ着いて悪さをする。
 よく考えれば、当たり前のことです。

 一日8分の毎日の歯の手入れ。
 ぜひ、習慣にしたいですね。

「上咽頭擦過療法」の効果

 慢性上咽頭炎に最も効果のある治療法が「上咽頭擦過療法(じょういんとうさっかりょうほう)」です。

 上咽頭擦過療法は、通称「EAT(イート)」と呼び、0.5〜1.0%の塩化亜鉛溶液をしみこませた綿棒を用いて、鼻とのどから直接上咽頭に薬液をこすりつける方法です。

 EATがもたらす一つ目の作用は、亜鉛による収斂作用(しゅうれんさよう)(タンパク質を変性させることにより組織や血管を縮める作用)と殺菌作用です。
 つまり炎症部位の直接的な消炎作用で、炎症が強いほど痛みを伴います。感冒(風邪)の時には急性上咽頭炎が起こりますが、塩化亜鉛を上咽頭に塗布すると痛いけれど早く治るのはこのためです。
 亜鉛は銀、銅、アルミニウムに比べると弱いものの殺菌作用を有し、抗ウイルス作用もあることから海外では咽頭炎の際に亜鉛を含有したのど飴が用いられていると聞いています。
 ここで風邪のメカニズムを確認しておきましょう。
 まず、空気感染によって侵入してきたウイルスや細菌が、体の関所である上咽頭で、体を外敵から守る役目を担うリンパ球や顆粒球(かりゅうきゅう)と戦闘状態になります。
 次にウイルスや細菌が上咽頭で退治されずに、関所を突破してしまうと、血流に乗って体の全身を駆け巡り、ウイルス血症(けっしょう)、菌血症(きんけつしょう)を引き起こし、全身倦怠感(ぜんしんけんたいかん)、関節痛、筋肉痛などの全身症状が現れます。
 こうしたことからもウイルスや細菌が上咽頭という関所に留まっている風邪の早い段階で、塩化亜鉛という強力な武器で敵を叩いてしまうのが効果的です。

 一方、長引く風邪の場合でも、関所での戦いがいつまでも続いているわけですからEATで戦いに決着をつけるメリットは大きいでしょう。
 咳や痰がいつまでも続いている長引く風邪の患者さんには積極的にEATを行うことを勧めています。
 上咽頭は健常者でも戦闘準備状態の活性化リンパ球が活性化リンパ球が繊毛上皮細胞間(せんもうじょうひさいぼうかん)に存在する特異な部位で、炎症の急性期のみならず慢性期の段階でも活性化リンパ球の増殖が認められ、塩化亜鉛の収斂作用により沈静化が期待できます。
 実際、咽頭炎症状が長引いている患者さんにEATを施行すると激しい上咽頭炎があることが確認されますが、その後は速やかに咽頭痛、咳、痰などの咽頭炎症状が改善することを日常臨床でしばしば経験しているところです。

 このEATで炎症が治まることによって、関連痛や上咽頭炎の影響を受ける筋肉の緊張がほぐれます。その結果、頭痛(緊張性頭痛)、肩こり、首こり、背部重苦感(はいぶじゅうくかん)などの症状が緩和されます。
 また、炎症が治まることで、上咽頭で免疫細胞が慢性的に刺激されることがなくなります。そして、それがIgA腎症などの糸球体腎炎(しきゅうたいじんえん)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの皮膚炎、関節炎、炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)などの活動性の低下につながると考えられます。 『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第3章 より 堀田修:著 あさ出版:刊
図4 塩化亜鉛がウイルス 細菌を倒す 慢性上咽頭炎を治しなさい 第3章
図4.塩化亜鉛がウイルス・細菌を倒す
(『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第3章 より抜粋)
 EATは、ウイルスや細菌と私たちの免疫システムがせめぎ合っている状態を根本から断ち切ります。
 鼻やのどに慢性的な不調を抱えている人は、ぜひ試してみてください。

なぜ、慢性上咽頭炎が「万病のもと」になるのか?

 堀田さんは、慢性上咽頭炎がさまざまな体の不調をもたらすメカニズムを、以下のように解説しています。

 諺(ことわざ)にも「風邪は万病のもと」とあるように、腎臓病、関節炎、膠原病(こうげんびょう)、皮膚疾患など様々な疾患が風邪をきっかけに発症することは古くから知られています。
 実はこの「風邪」と「万病」を結ぶ重要な役割を果たしている可能性があるが、慢性上咽頭炎です。
 病的炎症によりリンパ球などの免疫担当細胞が活性化されると、活性化されたリンパ球や単球に加え、これらの細胞が産生した炎症物質(サイトカインなど)が血流に乗って全身を駆け巡り、遠くはなれた腎臓、関節、皮膚などに炎症を引き起こすしくみが存在します。

 この場合、上咽頭炎を「病巣炎症(びょうそうえんしょう)」(原病巣)と呼び、病巣炎症によって引き起こされた腎炎、関節炎、皮膚炎などを「二次疾患」と呼びます。
 そして、この現象は本来であれば外敵から自己を守るはずの白血球が、免疫システムに狂いが生じることにより、自らの組織を攻撃する「自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)」といわれる病態とみなすことができます。

 扁桃炎(扁桃病巣炎症)、虫歯、歯周位炎(ししゅういえん)(歯性病巣炎症(しせいびょうそうえんしょう))は代表的な「病巣炎症」として知られていますが、慢性上咽頭炎もこれに加わると私は考えています。
 免疫の異常によって引き起こされる二次疾患には「炎症」という共通点があり、ステロイド剤をはじめとする炎症を抑える薬剤が使用されますが、二次疾患のみに着目した対症治療では症状を軽くできても疾患の治癒にはつながらず、しばしば、生涯にわたる対症治療の継続が必要となります。
 二次疾患の治癒を目指すには対症療法のみでなく病巣炎症の治療を含めた根本治療が必要であることは、このような病気のメカニズムを理解すると非常にわかりやすいと思います。 『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第4章 より 堀田修:著 あさ出版:刊
図5 病巣炎症と二次疾患のしくみ 慢性上咽頭炎を治しなさい 第4章
図5.病巣炎症と二次疾患のしくみ
(『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』 第4章 より抜粋)
 上咽頭から産生される炎症物質が、血流に乗って全身に巡り、悪さをします。
 それが体のあちこちで炎症という症状として現れるのですね。

 つらい炎症を根本的に治すには、やはり「病巣炎症」である上咽頭炎などを治すしかありません。

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 免疫系、自律神経系、内分泌系。
 この3つは、私たちが健康な生活を営むのに極めて重要な「健康の土台」ともいうべきものです。

 堀田さんは、上咽頭はこの三つの調節系の全てに関わっており、まさに上咽頭そのものが「健康の土台」と言えるとおっしゃっています。

 普段、なかなか意識することのない「鼻の奥」。
 そんなところに、私たちの健康状態を大きく左右するキーポイントがあるとは、盲点ですね。

 原因不明の慢性的な不調を抱えている方は、ぜひご一読ください。

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