【書評】「The Giver 人を動かす方程式」(澤円)
お薦めの本の紹介です。
澤円さんの『The Giver 人を動かす方程式』です。
|
|
澤円(さわ・まどか)さんは、実業家です。
元日本マイクロソフト業務執行役員で、現在は、ご自身の法人(株式会社圓窓)の代表を務められながら、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、Voicyパーソナリティ、セミナー・講演活動を行うなど幅広くご活躍中です。
「Giver」になると、新しい扉が開く!
その人のまわりでは、みんなが協力的で率先して動いている。
その人の周囲ではみんなが楽しそうに仕事をしている。
顧客がとても満足度が高く、向こうから進んで取引の継続を望んでいる。
澤さんは、彼ら彼女らの大半に共通する「ある資質」であり、マインドセット
があり、それがすなわち、「Giver」(与える人)であるということ
だと指摘します。
Giverは、人に惜しみなく与え、相手の利益や幸福を優先し、見返りを求めない人を指します。「人を動かす」ことのできる人は、まず自らが「与える人」なのです。
この用語は、組織心理学者アダム・グラントのベストセラー『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 』(三笠書房)で知られるようになりましたが、その中心的なメッセージは、「成功する人は、自己中心的な人ではない」「むしろ他者に与えることを惜しまないGiver(ギバー)こそが、最も持続的に成功する可能性がある」というものでした。
競争の激しいビジネスの世界では、自己利益を最優先する者が成功を収め、Giverは「お人好し」として利用されるだけ、というイメージとは裏腹に、長期的な信頼や持続可能な協業においてむしろGiverの行動は有利で歩くことを実証研究が明らかにしたのです。
Giverは単なる精神論でも、博愛主義の推奨でもありません。極めて実利的な「利他という武器」なのです。
本書では、アダム・グラントの理論を参考にしつつ、僕の経験知を絡めながら、令和の日本で「人を動かす」即戦力となるスキル、マインドセットを提案したいと思います。利他行動によって好循環をつくり出す現代的なチームビルディング法、組織論にもなっています。
詳しくは本論に譲りますが、現代的なビジネスにおいて、およそひとりでやれることはあまりありません。小さなプロジェクトからイノベーティブな開発まで、複数の分野を横断して人を動かさなくては実装できないものが多く、ことAI時代においては、組織のなかで協働し、有機的に人を動かすことが最重要課題となります。
だからこれからの時代、できる人=Giverである、といっても過言ではないのです。
「人を動かす」ことは何も特別なスキルを要する、難しいことではありません。誰もが本書が示すささやかな実践を通して、まわりの人を命令や強制によらず、“内発的に”動かすことができるようになります。
様々な挫折経験のなかで、いつしか人と関わるのが億劫になったり、コミュニケーションに苦手意識をもったりしている方もいるでしょう。人は思うようには動かないものです。別にビジネスに限らず、「デートに誘っても断られた」とか「頑張って準備したものが全くウケなかった」とか、気落ちする場面もあるでしょう。
しかし、ひとたび「人を動かす」効果的かつ普遍的な手がかりを得ると、これまで失敗と思っていた一つひとつの出来事が、実は学びの機会であることに気づきます。より自分らしく成長していける糧にもできます。
世界の見方が変わると、新しい扉が開くのです。
(中略)
本書との出会いによって、「まわりの人が動いてくれない」苛立ちは確実に減らせ、あなたの言葉や行動に対する周囲からのポジティブなフィードバックもきっと増えていくでしょう。
人が自発的に動かない職場では、みんなが互いに「あいつ使えないよな」と思っているものです。でも実際は、当人の能力が低いというよりは、単に人の動かし方を知らないだけなのです。仲間のことをそう思うのも傲慢ですし、自分がそう思われるのも不愉快ですよね。
Giverという生き方は、働き方を一変させます。
ビジスネシーンにとどまらず、あなたの人生をより豊かな未来へといざないます。他者に開かれた、互いを高め合うハッピーな関係性です。
では早速、新しい時代の「人の動かし方」を、一緒にはじめていきましょう。『The Giver 人を動かす方程式』 はじめに より 澤円:著 文藝春秋:刊
本書は、新しいAI時代の「人を動かす」スキルやマインドセットを、具体例を交えながらわかりやすく解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
スポンサーリンク
[ad#kiji-naka-1]
「人とうまくやっていく」ことが最大の仕事になる!
澤さんは、AI時代には、「人とうまくやっていく」ことが、一番求められるビジネススキルになる
と述べています。
その理由は、今後、企業の組織構造は大きなシフトチェンジを起こすと考えられるから
です。
順を追ってご説明しましょう。ビジネスにおける付加価値の多くは、製品ライフサイクルの「上流」(規格・研究開発)と「下流」(マーケティング・ブランド・サービス)に集中し、「中流の製造工程」は付加価値が低いとする分析があります。
元々台湾Acerの創業者であるスタン・シーが示した概念で、横軸に工程を、縦軸に付加価値を置くと真ん中が低く、両端が高い形になります。これを「スマイルカーブ」といいます(図2参照、下図)。
この上流、中流、下流の工程を、ここではシンプルに「経営」「管理」「現場」と表現しますが、注目したいのは、AIによって管理の大部分が肩代わりされ、経営と現場の付加価値だけが残るというメカニズムです。
管理というのは、先に述べたような資料作成や事務処理だけでなく、いわゆる日本企業において「管理職」と呼ばれる、新たになにかを生み出すわけではない間接業務を指しますが、それらはAIで瞬時に処理できるようになるのです。
すると、残る管理とは、経営におけるミッションやビジョンを本質的かつ的確に理解し、それを現場に伝えるスキルとなります。また、現場の声を経営にフィードバックし、現場にもまたその結果をコミュニケーションする、そんな「経営と現場をつなげる力」が管理(ミドルマネジメント)に求められるでしょう。
そこでは経営側には、「この人のもとで働きたい」と思わせて、多くの人を惹きつけ動かしていく力が必要です。一方、現場側にも、顧客の自由度がますます上がり、「なにを買うか」よりも「誰から買うか」という時代に変化していく流れのなかで、より人間的なコミュニケーション力が求められます。
従来、中流工程で人間が行っていた膨大な作業はAIエージェントが担い、より少ない人数で仕事をしていく時代になるため、「人とうまくやっていく」ことが最も重要なビジネススキルになるというわけです。社内のメンバーや顧客など、「人とうまくやっていく」ことが最優先課題となる局面において、Giverになることが最良の道筋となります。
Giver、すなわち与える人は、まず自分から動きます。自分から自発的に行動し、相手がハッピーになるものを与えます。すると化学反応が起きて相手も動き、互いの幸福度が最大化するーーこの好循環を生むのが、Giverのスタイルです。
仕事において、お金にならないと、業務として命令されないと、自分にとってのメリットが見えないと、ピクリとも動かないという人とは真逆の生き方です。例えば親が子供になにかをしてあげるとき、いちいち自分へのリターンなんて考えずに、子が幸せになることだけを願って有形無形の様々なものを与えているはずです。
シンプルにいえば、損得を考えずに他者にGiveするのが出発点です。ただし、そこで「与えておしまい」ではなく、相手の行動を引き出していることに注目してください。
他者にポジティブな影響を与えることで、「その他者も誰かに対するGiverになっていく」メカニズムがここでのポイントです。Giverの法則
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自ら動き、ハッピーになるものを与える
→人を内発的に動かす(相手もGiverになる)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これが、AI時代における最高の「人を動かす方程式」なのです。
ここで、先述のアダム・グラントの著書『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代 』の定義にそって、今一度整理してみましょう。グラントは人の価値観や対人スタイルを、次の3つに分類しました。❶Giver(ギバー)
特徴 人に惜しみなく与え、相手の利益や幸福を優先し、見返りを求めない。
行動 同僚をサポーとする、ノウハウを共有する、時間や知識を提供する。
成功要因 相手や状況を見極めて、「戦略的に与える力」を持つことで、最も高い成功を収めやすい。ただし、自己犠牲や搾取される可能性がある。❷Taker(テイカー)
特徴 自分の利益を最優先し、他者から最大限を得ようとする。
行動 他人の手柄を横取りする、情報を独占する、恩を返さない。
成功要因 最初は成功しやすいが、信頼を失いやすく、長期的に孤立する傾向がある。❸Matcher(マッチャー)
特徴 与えられた分だけ受け取りたい、フェアでいたいというバランスを重視する。
行動 助けられたら助け返す、見返りを期待する。
成功要因 最も一般的で、GiverとTakerの仲介役としても活躍するこの観点によると、「自分だけが得すればいい」「自分だけが幸せになればいい」というTakerの価値観や行動は、長期的にはマイナスです。Matcherは処世術にたけていますが、「見返り」を前提とするぶん、他者の強い内発的な行動を引き出す力は弱いでしょう。
僕の考える「人を動かす」プロセスは、まず自分がGiverになり、他者にポジティブな影響を与えることで、その人もまた誰かに対するGiverになる。その応答は必ずしも与えた人にダイレクトに返ってくるとは限りませんが、別の誰かへとGiveはパスされる、というものです。
そんな互いにGiveし合うマインドのある組織は心理的安全性が高く、仕事そのものが楽しく創造的で、メンバーの自発的な行動から内外に様々なつながりとチャンスが生まれ、力強く成長していくことかできます。Giverは、時代が求めている新しいリーダー像でもあり、目指す価値のある理想の姿です。
Web3.0という分散型の次世代インターネットの台頭に象徴されるように、いま世界は「個の時代」へとシフトしています。ブロックチェーン技術をはじめとするテクノロジーの進歩により、中央集権的なプラットフォームに依存せず、ユーザー自身がデータを管理・所有できる様式がトレンドになりつつあります。
そんな時代の趨勢を踏まえて組織のあり方を考えるならば、目指すのは、中央集権的なトップダウンの命令や強制ではなく、個々が、自分の特性やスキルを存分に活かしつつ、自分の頭で考えて内発的に動く、幸せな働き方ではないでしょうか。
いまや多くの人々が、強権的な職場環境に甘んじるよりも、「自分の人生を生きたい」という価値観を持っています。力ずくで人を動かそうとするリーダーや強権的な組織体制は、もう古いのです。『The Giver 人を動かす方程式』 第1章 より 澤円:著 文藝春秋:刊

現代的なビジネスにおけるGiverのあり方は、実は庭師のようなものだと述べています。
その理由は、人間関係は、いわば庭
であり、庭師は、そこに植っているさまざまな木や植物の個々の成長や相互の関係性を俯瞰して観察
し、適切なケアをし続ける必要
があるからです。
一人ひとりに、その時必要なことを、必要なもの分だけ提供する。
それができるGiverこそ、これからの時代に必要とされる人材だということですね。
「観察」によって、相手の隠れた才能に気づく!
人は誰かから何かしてもらう時、どんなことが一番嬉しいでしょうか。
澤さんは、「自分でも気づいていなかった」願望やニーズをぴたりと満たしてくれるサプライズこそが最高のギフト
だと指摘します。
「そうそう、こういうのが欲しかっただよ!」と自分の無意識の願望(インサイト)に気づかされ、応えてもらえると、とてもハッピーな気持ちになりますよね。
これは、チームメンバーと関係性を築いていくうえでも、顧客に対してなにかを提案するうえでも、深く通底する真理だと思います。
なぜなら、「どんなものが欲しいですか」「職場でなにを解決してもらいたいですか」と相手に尋ねたり、1on1ミーティングでヒアリングしても、人は必ずしも自分のニーズを明確に言語化できないからです。相手に聞くことはとても大事ですが、話すことをそのまま受け止めるだけでは、その人に対する理解が浅くなりがちです。
このことを端的に示す例が、馬車から自動車へと、人の移動手段を大きく変化させたフォード・モーターのイノベーションです。
1900年代の自動車の黎明期、もしも当時の顧客にヒアリングしたら「もっと速い馬が欲しい」と答えていたでしょうーー。そう指摘したのは、アメリカの自動車王ヘンリー・フォードです。
彼はそこに対するアンサーとして馬車の性能を上げることではなく、顧客のインサイトを深く観察し、「もっと楽に速く移動したい」という真のニーズを見抜いたのです。そうして開発されたT型フォードは、全世界で1500万台以上の大ヒットとなりました。
顧客の問題を「抽象化」してその本質を取り出すことで、「まさにこんなものが欲しかった」という、画期的で便利な移動手段を提供したのです。ものごとを抽象化して本質を掴む方法については改めて詳述しますが、人がまだ気づいていない隠れたニーズを掘り起こす思考のフレームワークは、Giveの質を飛躍的に高めます。
では相手の隠れた願望やニーズをどう見つけ出したらよいのでしょうか? それにはなによりもまず、相手を丁寧に「観察」することです。
日常のなにげない会話や無意識の言動、周囲とのコミュニケーションの取り方のなかに、その人が本当に欲しているものや解決してほしい課題、隠れた才能や仕事のポテンシャル、人間的な魅力が見え隠れしているはずです。
あまり周囲の人が気づいていない、本人も意識化できていないシャドウの願望や魅力に光をあてるのです。その人のなかにある「当人が知らない」価値を見つけて、ポジティブに「推す」。
実は、この知らなかったことを「知っている状態」にすることが、当人が主体的に動くきっかけになるのです。
参考になるのは、アメリカの心理学者であるジョセフ・ルフトとハリントン・インガムが考案した、自己理解と他者理解を深めるためのモデル『ジョハリの窓』です。この有名なモデルは、自分についての情報を「自分が知っている・知らない」「他人が知っている・知らない」という2軸で整理したものです(図3参照、下図)。
ここで、自分は知らないけれど、他人が知っているのが「盲点の窓」の領域です。例えば、口癖や態度、考え方の癖、無意識の行動などがそれに該当しますが、この領域に、相手の隠れた願望や才能や可能性が潜んでいます。
自分が気づかない場所に宝(自分の魅力)が眠っており、それに「どのような意味があるのか」「どこが素晴らしいのか」を言語化し、ポジティブにフィードバックしてあげることで、その人は大きな気づきを得ることができます。
ひとたび気づきを得ると、人はその願望や才能を開放するための行動へと踏み出しやすくなります。そして行動を継続することで、「自分が知っている・他人が知っている」こととして共有されていき、組織やチームにおいてコミュニケーションも円滑になっていくでしょう。
さらにいうなら、ビジネスシーンにおいて、本人がわかっていることを引き出すことは必須条件ではあるけれど、十分条件にはならない。
「盲点の窓」から「開放の窓」への移行をサポートするために、相手を観察し、勇気づけながら推していくーーそれは他者への最良のGiveとなりますし、特にマネージャーやリーダーの重要な役割といえます。人の隠れた資質に光を当てるにあたって、ひとつ注意点があります。それは、できる限り早い段階で、才能や魅力に気づいてあげることです。
そのことを示す象徴的なシーンが、スタンリー・キューブリック監督の映画『フルメタル・ジャケット』(1987年製作)に出てきます(以下、ネタバレを含みます)。映画の前半で、ベトナムの戦地へ行く前の海兵隊訓練生たちの姿が描かれるのですが、そこに上官にいつも叱られている動きの鈍い訓練生がいて、彼のせいで他のメンバーたちも罰ゲームなどの貧乏クジを引かされ続けます。不満を溜めこんだ訓練生たちは彼にリンチを加え、この出来事が彼にとって大きなトラウマになってしまうのです。
ただ後日、彼には他の者にはないすごい才能が判明します。彼には圧倒的な射撃の才能があるということでした。ここにきて上官は、彼にもようやく才能があったと褒めるのですが、時すでに遅し。彼は精神的におかしくなっていて、最後には上官を射殺したあげく自ら命を絶ってしまうのです。
戦争映画だけにハードなエピソードですが、ここで伝えたいのは、メンバーの才能や特質は、早めに気づいてあげなければうまくコントロールできなくなる場合があるということです。
そうした才能や特質は、コンプレックスで抑圧されて顕在化していない場合も多い。つまり、コンプレックスで押さえ込まれている期間があまりに長引くと、せっかくの才能を引き出すタイミングを失いかねないばかりか、本人も気づかぬうちに才能の悪用に転じてしまうリスクもあるのです。早めに才能を見出されれば、優秀なセールスパーソンになれたところが、闇堕ちして詐欺師になってしまうケースもある、というとわかりやすいでしょうか。
人間の心はとても繊細なもので、いったんついた心の傷はなかなか癒されません。人の才能や魅力を引き出すのにも時間制限があるということを、決して忘れないでほしいと思います。『The Giver 人を動かす方程式』 第2章 より 澤円:著 文藝春秋:刊

つねに、相手の良い部分を探すよう心がける。
そして、ちょっとでも、才能や魅力に気づいたら、すぐに教えてあげる。
Giverの心得として、忘れないようにしたいですね。
ストーリーづくりの「黄金法則」とは?
言葉で人を動かすにも、「伝える技術」があります。
プレゼンテーション(プレゼン)では、話し手自身が「全体としてなにが伝えたいのか」を整理し、ひとつのストーリーとして統合する意識が必要
です。
澤さんは、聞き手にとってどんなハッピーな未来があるかを設定し、「変化を起こす」ための流れをつくるのがストーリー力の肝
だと述べています。
澤さんが、プレゼンを設計する際に行なっている思考のフロー図「ストーリーづくりの黄金則」は、下の図4の通り、3つのステップで示されます。

①抽象化 「抽象化」すればテーマの本質が腑に落ちる
ポイントとなるのが、「抽象化」というプロセスです。
抽象化とは、プレゼンで扱うテーマや解決したい課題などの(しばしば複雑な)事象を要素分解し、「ものごとの本質を捉える」思考法です。「込み入ってるけど、要するに本質はこういうこと」と、「ひとつ上の次元の概念」として捉え直す頭の使い方です。
僕がよく挙げる例でシンプルに説明すると、僕が大好きなある老舗の一流ホテルがあって、そのホスピタリティ溢れる特別な体験を求めて、高くてもクオリティの高いサービスは高い利益を生む」と言えます。
すると抽象化されたこの概念は、他業種においても応用可能なものになります。
具象と抽象を行ったり来たりする「抽象化思考」ができると、どんなテーマでも話の説明が一気にクリアになりますし、本質を別の要素にたとえて、より印象的にわかりやすく伝えることもできます(たとえ話の方法論については、次章で詳しく説明します)。抽象化のプロセスの実践として、もうひとつ簡単な例を紹介しましょう。
例えば、業務改革の一環として「会議のあり方」をテーマに、プレゼンをするとします。
無駄な会議が多く、多くの社員から不満の声が上がっています。その理由を要素分解していくと、次のようなものが挙げられるかもしれません。
「目的もゴールもなく、議論があちこちに飛ぶ」「いつも意識決定せずに各部署に持ち帰る」「上司対策の“情報共有”アリバイづくり」・・・・・・。
込み入った事象や要素を、一度分解して、小さな要素に分けてみるのです。
そしてこれらを抽象化すると、例えば「目的のない会議は、羅針盤のない航海のようなものです」といって本質を浮き彫りにできます。
会議が機能不全に陥っている会社は、船員たちが日夜あくせくと働くわりに、帆を張っても風を捕まえられず、進路は定まらず、なぜか同じエリアをぐるぐると回って前進できない船のようなもので、推進力がありません。
となると、会議改革のあり方は、
・目的の明確化【羅針盤の導入】
・意思決定できる人の参加【進路の決定】
・現場の業務推進を支援【適切に帆を張る】
・リモート可で参加者の負担軽減【船員の休息】
といった提案で、荒波のなかでも目的地に向かってしっかりと帆走できる力を取り戻そうというストーリーで鼓舞することができるかもしれません(図5参照、下図)。
抽象化で大事なのは、「誰でもわかる」「誰にでもイメージできる」ものであること。本質を抽出して「置き換える言葉」を見つけることに、最初のハードルを感じる人もいると思いますが、これは慣れです。
僕の場合、プレゼンに限らず、人とコミュニケーションするときは、頭のなかで抽象化のプロセスを瞬時に行っています。「これは要するにどういうこと?」「これって別の言葉で言い換えるとしたらなにか?」と常に考えています。普段から「ビジネスで課題を解決する」というアンテナを立てているだけで、類似の構造や置き換える言葉より見つけやすくなるでしょう。②共通化 ストーリーを「自分ごと化」させるペルソナを探れ
次に、顧客にとってより響くストーリーにしていくには、その内容を、顧客に「自分ごと化」してもらうプロセスが重要です。
どれだけわかりやすく内容を伝えても、顧客が自分ごと化できなければ、最終的に「自分でもやってみよう」という実際の行動にはつながらないからです。
顧客の心を動かすためには、やはり顧客についてよく知る必要があります。ここでヒントになるのは、僕が個人的に、米デザインコンサルティング会社ビートラックスCEOのブランドン・K・ヒルさんと話したときに聞いた、「マーケティングデザインは、セグメンテーションからペルソナに変わっていく」という言葉です。
ここでは僕なりに彼の真意を紐解いていくと、まずセグメンテーションとは、「括る」という意味で、「20代男性」というふうに、顧客をざっくりと括って、彼らを対象にしたマーケティングをするイメージです。
ただ、現在はこのマーケティング手法の効果がかなり薄らいでいます。その理由は、インターネットやSNSなどにより、個別最適化された情報が溢れており、大雑把に括るセグメンテーションの意味がほぼなくなっているからです。
かつてはテレビ、新聞などのマスメディアを通して、多くの人が同時代的な共通体験を持っていましたが、いまや細分化が進み、個々の価値観や行動形態、ライフスタイルはまったく異なります。多くの企業が行うセグメンテーションによるマーケティングは、効果が乏しくなっています。
これに対し、ペルソナとは「人格、仮面」の意味であり、マーケティングや商品開発において、理想的な顧客像を具体的に設定します。
ストーリーを伝えたい相手(顧客)を克明に「想像」し、年齢や性別、職業などの属性だけでなく、価値観やライフスタイルまでを含めて設定し、あたかも実在する人物のように捉えて、商品やサービス開発、マーケティング戦略を展開します。
例えば、コーヒーメーカーという商品を訴求する場合、朝の時間にリラックスしてコーヒーを飲む男性であれば、座っているのはどんな椅子でしょうか? あるいはどんなコーヒーを飲んでいるでしょうか? リラックスしながらなにをしているでしょうか? 具体的な行動にフォーカスすることで、ペルソナのディティールが浮かび上がっていきます。
つまり、「コーヒーを飲む20代男性」という括りではなく、朝にリラックスしたいという内面的なニーズやマインドセット、その時間を大切にするライフスタイルまで含めて、対象を定義していくわけです。
そこまでペルソナを設定し、メッセージングをしてはじめて、顧客は「これは私のことだ」「この商品は私のセンスに合っている」と感じ、そのストーリーを自分ごととして受け止めることができるのです。ペルソナを想像する過程で、ぼんやりとしかイメージできない部分が必ず出てくるはずです。それらは、現時点であなたがよく理解していないことなので、あらためてリサーチし、情報や知識を集める必要があります。
このとき最良の方法は、その「現場」に行くことです。対象となる顧客が、「生活のなかで実際に体験していること」や、「あたりまえのようにいつもやっていること」をリアルな場で観察し、言語化する。
現場には、貴重な生の情報(一次情報)が集まっています。そこで体験している人にしかわからない、「親しい人にしか話さない」情報の宝庫です。
このリアルな体験がないと、商品やサービスの背景ストーリーを語るときに、いまひとつ顧客の心に響かない曖昧な表現を使いがちになります。例えば、「まるで高原のそよ風のようなエアコン」といった比喩。出せ「高原のそよ風」といわれても、ほとんどの人は漠然としか想像できず、自分ごとになりません。
いまは生成AIによって、誰でも簡単に膨大な情報を得られるようになりましたが、その多くは、既にある情報を組み合わせ、整理して統合したものです。大いに活用できますが、真に「人を動かす」ストーリーをつくりたければ、あくまでも「一次情報」を得ることに時間を使う必要があります。
現場に根ざした共感のあるストーリーだけが、人を自ら動きたい気持ちにさせてくれるもの。いまの社会で人を動かしたかったから、「個別最適化」と「現場主義」の視点は絶対に外せません。補足すると、現場で得た一次情報が大切なのも、相手との「共通認識」を持つことが、伝わる話にするための必須条件だからです。
相手の興味関心や価値観などを掘り下げて、「あなたが見て感じている世界に私も共感します」と伝えられるのが共通認識です。先に紹介した「16の倍数の話」のつかみも、エンジニアの人たちと「同じ目線に立っているよ」という共通認識をつくっているわけです。
「おっ、こいつわかってるな」と思われると、味方になってもらえます。
無論、まったく同じ立場である必要はなく、「相手に対して同意していること」が伝わればいいのです。すると相手は、「この人は私たちのことを誠実に理解しようとしている」と、無意識のガードを外してくれます。少なくとも、自分の敵ではないと認識してくれるようになる。
一例として、僕自身が、工事現場で働く人たちになにかお願い事をしないといけない状況で、シミュレーションをしてみましょう。
まず最初に、相手の立場にたってディテールを想像してみます。すると、夏の日中のものすごく暑いなかで作業をする辛さや、危険と隣り合わせで時間にも追われるという、とても大変な仕事であることが想像できるはずです。
次に、自分の体験を探って、つながる「一次情報」を活用します。
工事現場で直接働いたことはありませんが、僕は以前、自宅マンションの大規模修繕の際に、理事会側の代表者だったことがありました。そのとき、工事現場の人がどのような工程で、いかにして働いているのかを間近に見た経験があります。すると、現場で感じた一次情報として、次のように話すことができそうです。
「僕は、みなさん(工事現場で働く人)に散々お世話になった経験があります。というのも、以前マンションの大規模修繕の際に、理事会代表としてみなさんの働きを間近で見たことがあるからです。みなさんの仕事がどれだけ大変か、どれだけ危険と隣り合わせで、かつ効率的に進めなければならないかも、少しは見知っているつもりです。そこで、皆さんの仕事をわずかでも理解している者として、ぜひこれからお話をさせてください」
このように語りかけると、聞き手の心理的なハードルは一気に下がります。
なぜなら、ただの想像ではなく、自分が実際に体験をした「一次情報」を踏まえて話しているからです。
そこから、「みなさんのこんな姿をよく見かけました」「〇〇の部分がとても大変そうですよね」と自分が観察した結果を共有していくと、「こいつは俺たちのことをわかっているよね」と自分が観察した結果を共有していくと、「こいつは俺たちのことをわかってるな」という気持ちになり、「この人からの頼まれごとなら聞いてやろう」という行動のモチベーションにつながっていくのです。実際の体験や観察によって得られた「一次情報」をともなわない想像は、ただの思い込みや決めつけが多く、それこそ、先に述べたセグメンテーションのバイアスになりかねないので注意してください。
「作業員ならこう考えるもの」「30代の独身女性はみんなこれが好き」といった人の括り方だけではストーリーに真実味がなく、かえって相手の不信感が高まり、信頼関係がいつまでたっても構築されないのです。
この種の決めつけは、マーケティングに限らず、あらゆる打ち合わせでよく耳にするのではないでしょうか? 結局のところ、それでは相手の共通認識が形成されず、人の心が動くこともありません。③課題解決 「as is」から「to be」を示す
抽象化と共通化を踏まえたら、あとはもう「課題解決」です。
僕は、人により気持ちよく主体的に動いてもらうには、その人にとっての「ありたい姿」を示すことが何よりも重要だと考えています。
「as is」(現状)から「to be」(ありたい姿)へ、相手の視点を未来に向けるストーリーを伝えるのです。相手の「as is」を観察し、共感をもって関わり、こうすれば課題解決できて、「よりよい未来に到達できる」というポジティブな変化を提示する。
例えば、将来なりたい自分や、より望ましい人間関係や、理想的な職場環境ーーそんな「あなたがなりたい自分や、望む環境は、実際に実現できる」ことを言語化して、相手に提供するのです。つまり、ビジネスにおけるあらゆるストーリーの結末は、望ましい未来へのビジョンを含んだものではなくてはなりません。
「この人がすすめるように動いてみたら、自分には素晴らしい未来が訪れるかもしれない」という期待が高まるからこそ、人は「動いてみよう」という気になります。
すべてのストーリーの流れは、「to be」への後押しをする形で構築する必要があるのです。これは、シンプルに商品やサービスを売るという、リアルなビジネスシーンにも直結します。例えは僕が見るところ、セールスパーソンが結果を出せず悩んでいる理由の多くは、「自分が売りたいもの」の話ばかりしているからです。実際、僕が顧客の立場でそんな場面に遭遇すると、このように訊いています。
「その商品を使うと、僕の未来はどのようによくなるのですか?」
そう返すと、言葉に詰まって答えられない人がけっこういますが、その商品やサービスを使うと顧客のどんな「to be」が実現できるのか想像できていないのでしょう。少なくともストーリーとして相手に伝わる形になっていない。
この「as is」から「to be」への変化を示すという意識は、対顧客のみならず様々なビジネスの場面で有効で、特にマネージャーやリーダーは身につけておきたい資質です。チームメンバーをよく観察して想像し、「as is」を知って共通認識をつくり、望ましい「to be」の未来を示すことは、リーダーとして必須の仕事だと僕は思っています。
メンバーそれぞれの「仕事においてなりたい姿」をともに考え、勇気づけ、その人にとっての理想的な未来を実現するために貢献する。そこにいたるストーリーを提示し、アシストする。物語のなかのヒーローが如く、その理想へと向かう旅路を生きられるように応援するのです。『The Giver 人を動かす方程式』 第3章 より 澤円:著 文藝春秋:刊

あまりにも現実とかけ離れた内容でも、同様です。
「as is」(現状)から「to be」(ありたい姿)へ、相手の視点を未来に向けるストーリーを伝える。
プレゼンの際には、ぜひ、参考にしたいですね。
「本人が気づいていない部分」を褒める
多くのGiverは、褒める達人
です。
澤さんは、普段から他者に対して興味のアンテナを張っていると、相手のことを丁寧に観察し、その人の本質的な部分をきちんと認めて褒めてあげる
ことができると指摘します。
人が褒められて一番嬉しいのは、本質的かつ「自分でも意識していなかった部分」に光をあてられ、気づきとなったときです。
シャドウに隠れていた資質や無意識の積み重ねなどを評価されると、本人にとって大きな発見となります。
僕の身近にあった例を紹介しましょう。
僕が教えている大学の学生たちとゼミ合宿をしたときのことです。ゼミ生のなかに、毎回必ず出席するけれど、とても無口で、表情も固いある若者がいました。
ところがゼミ合宿の夜、みんなで麻雀がはじまると、彼が「僕、教えられますよ」といって、まったくルールがわからない初心者に教えはじめたのです。そのとき彼はひとこと目に、「まずなにをしたい?」と尋ねました。
「同じ模様を揃えたい」「数字を順番に揃えたい」といった答えが返ってくると、彼は、「この模様は揃えられる」「この数字同士は揃えられないよ」と、相手がやりたいことにルールを紐づけて教えはじめたのです。つまり、いきなり複雑なルールを伝えるのではなく、まず相手の意志を尊重し、それをベースにしてやり方を教えていった。
そんな様子を見たかみさんが彼に聞いたところ、かつて小学生にサッカーを教えていた経験があり、小学生相手に複雑なことを言ってもわからないので、まずなにをしたいかを聞き、それに沿って教えたほうが効率的と感じていたそうです。
感心したかみさんが、「そのやり方はとても効率的だし、本当に教える才能があるね」と褒めたところ、彼は「教え方が上手だなんて初めて言われました」と驚きます。かつての経験はたまたまうまくいったに過ぎないと思っていた彼は、褒められたことで、自分のやり方が普遍性のある方法だっと気づいたのです。
のちに彼は、「あの出来事が自分の大きな成功体験になった」と語ってくれました。
無口なことが影響したのか、それまでの人生で教員などからほとんど褒められたことがなかった彼は、この気づきによって自信をもち、その後の行動がポジティブなものに変わっていきました。希望した企業から内定を得たり、プロジェクト型の授業でリーダーを志願したりするなど、彼はどんどん「キャラ変」したのです。
可視化されていなかった本質的な魅力を褒めることは、当人にとって時に人生が変わるほどのインパクトがあるものなのです。
本人も気づいていないような才能は土に隠れた小さな種で、なかなかわかりません。でも他者からのポジティブなフィードバックでその可能性に気づくと、やがて芽を出し、茎をのばし、花を咲かせます。
最初から咲いている花を、「綺麗だね」と褒めるのは容易でしょう。しかし、どのくらい成長するのか、どれほどの花を咲かせるのか、まったく未知のところにポテンシャルを見出して光をあてるのです。Giverが目指す褒めの実践は、ここにあります。このメカニズムを、先にもふれた「ジョハリの窓」(上の図3を参照)で整理してみましょう。
自分についての情報を「自分が知っている・知らない」「他人が知っている・知らない」という2軸で分類し、「自分が知っている・他人が知っている」部分(「解放の窓」)を褒めてあげれば、相手に納得感が生まれます。「頑張りを認められた」安心感です。
しかしもっと効果的なのは、「自分が知らない・他人が知っている」という「盲点の窓」の領域を褒めることです。
本人すら気づかない美点の多くは、無意識で行っていたことや自然と身についていた価値観などですが、それらを他人から指摘されると気づきとなって、成長の小さな芽が出ます。いったん芽を出せば、本人もそれを意識して行動するようになり、どんどん成長していけます。
僕自身の経験では、かつて営業の仕事でプレゼンをしたときに、顧客から「あなたの話はとてもわかりやすいね!」と褒められることが安心感につながっていました。ITに関して顧客に理解を促すプリセールスが業務であり、その自覚を持って働いていたので、その意味で「自分が知っている・他人が知っている」部分でした。
では、「自分が知らない・他人が知っている」領域に関してはどうか。
そこを指摘され、新しい可能性に気づかされたのは、先にも紹介した僕のチームメンバーで、メンターでもあった小柳津篤さんのアドバイスでした。あるとき彼に、「一回限りで話すだけじゃなく、全部コンテンツにして手元に残しておいたほうがいいよ」と言われたのです。そうすれば素材をいつでも再利用できるようになり、もっとクオリティが高いプレゼンができるよ、という励ましでした。
それまでは、わかりやすく話すことにしか意識が向いていなかった僕にとって、それは自分のなかに「芽」が出た瞬間でした。以降、僕は自分が話したすべての素材を即座に取り出せる形で管理し、より意識的にプレゼンを磨いていったのです。
ちなみに、その蓄積で花開いたのが、株式会社THAとともに僕の思考をAI化した社内メンタリングサービス「AI澤さん」です。完全匿名で24時間アクセスでき、組織の枠を超えた中立的な立場から新たな気づきを提供する法人向けサービスで、なかなか好評です。これまでの僕のアウトプットをすべてAIに読み込ませ、「自分をコンテンツ化する試み」が実を結んだのです。誰かを褒める行為は、相手へのささやかなGiveです。組織やチームのなかで互いを褒め合うようにすると、ポジティブな空気感が醸成されていきます。
誰か小さな貢献をしたら、ひとこと目に必ず「いいね!」「助かったよ」という言葉を口にするよう心がけましょう。
普段から、会話のはじまりで褒めたりねぎらう習慣が定着すると、職場の風通しがよくなり、互いの隠れた美点にも気づきやすくなります。
僕が日本マイクロソフトで出会った優れたリーダーたちは、どんなに込み入ったビジネスの取引や難しい交渉の場面でも、ひとこと目は必ず、「毎日一生懸命働いてくれてありがとう」(First off,I just want to say thanks for all your hard work.)と話しかけていました。
すべてのリーダーがそうだったわけではありませんが、こと「褒め合う文化」という観点で見ると、マイクロソフトは「褒める言葉の量」が圧倒的に多い組織だったと思います。日本と比較するなら、もうプールと琵琶湖くらい量が違う。
そんな文化がなぜ根づいていたのかというと、ある意味、“よき強制力”が働いていたからです。
まだハラスメントが広く社会問題となる以前からすでに、普段の発言からメールの文言に至るまで、ハラスメントする者に対して容赦なく対処する(即時解雇する)仕組みが機能していたのです。そんなルールが徹底していたことで、褒め合う文化がより醸成されやすくなっていたのでしょう。
いま思えば先駆的な仕組みですが、大人として常識ある振る舞いをし、互いにリスペクトして仕事をすることが当たり前になっていたのです。
ちなみに松下幸之助の有名なエピソードで、社員からどうしようもないアイデアが説明されたとしても、最初に必ず、「あんさん、それおもろいな」と言っていたというのがあります。「で、どうやってやるんや?」と尋ねて、やり方が固まっていない提案は出直しになったという。
尾ひれが付いている伝説かもしれませんが、どんなときもいったん肯定の言葉で受け止めるのは、さすが「経営の神様」のコミュニケーションです。ひとこと目に「いいね!」を伝えることは、僕の盟友で、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長の伊藤羊一さんが推奨されていることでもあります。
彼は、他人に対してレビューするときは、「グッドもっと」でやろうといっています。
相手のよかった点を「グッド」(いいね!)と指摘し、さらに改善できる点を「もっと」(〜したほうがいいよ)とフィードバックする手法のことです。かつてはヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)でも推奨されていました。メンバーのやる気と改善への意欲を高める効果があります。
ポイントは、「グッドバット」(いいけど、でもね)のように、否定的な表現を使わないこと。よく「いいね」といいながら、結局はダメ出しばかりするケースが見受けられますが、「それはいいね、もっと良くするにはどうすればいいかな?」と、あくまで「いいね!」を前提にしてください。そのうえでさらに改善していくためのアイデアを探る姿勢が大切です。職場で人を褒めるにあたってはいくつかの注意点があります。
関係性の薄い相手に対して、唐突に「今日も素敵だね」「その服かっこいいね」などと褒めたとしても、妙に不自然だったり、場合によってはかえって不快感を与えたりしかねません。大事なのは、基本的な信頼関係があって、普段から相手が「私のことをきちんと気にかけてくれているんだな」と思えること。
そのうえで覚えておきたいのは、基本的に、相手の身体的特徴や服装などを安易に褒めないことです。
例えば、「最近やせたね!」と相手の体型がスリムであることを褒める人がたくさんいます。ごく親しい間柄ならともかく、「前は太ってたってこと?」「しばらく体調が悪くて食が細いだけなんですけど」などとイラッとさせかねません。しかもその言葉は、「太っているのはよくない」という誤った固定観念を暗に含んでいます。
他にも、身長やヘアやメイク、身につけているアクセサリー、服のセンスなどへの言及は際どいので、特に異性に対しては避けてください。また、褒めるときに、「〇〇よりも」と、他のなにかと比較してしまうのもNGです。
「前任よりも、対応が早くていいね」
「同期のなかで一番仕事できるよね」
これは褒めているようで、言われたほうは「評判の悪かった前任よりはマシという程度か」「他の同期は暗にディスられてるのだろうか・・・・・・」などと余分なことが気になってしまい、逆効果です。比較した人のことを尊敬しているかもしれないですし、そもそもなぜ他人と比べる必要があるのか、社会人としての感覚を疑う人もいるはずです。
では、なにを褒めたらいいのか?
ささやかなことでいいので、シンプルに相手の行動を褒めることです。
「議事録のまとめ方、わかりやすくてよかったよ」「リマインドメールくれて助かりました」「書類、間に合わせてくれてありがとう」など、行動や仕事そのものに対する感謝を伝えればいいのです。
僕はある懇親会で幹事をやった際、先輩から「澤くんが場を和ませてくれたおかげで、みんなすごく楽しそうだったよ。本当にありがとう」と言われて、すごく嬉しかったことがあります。単に「幹事お疲れ様」ではなく、気配りをしている僕の行動をみて褒めてくれたからです。
こうした声かけが習慣化して褒める力がついてくると、先に述べたような、相手をしっかり観察し、本質的な部分を言語化して、非常にポジティブで大きなエネルギーを与えることができるようになります。
僕の経験のなかでは、かつて日本マイクロソフトを立ち上げた古川享(すすむ)さんに褒めてもらった言葉が強烈に残っています。数年前、あるイベントをきっかけにお仕事でご一緒する機会が増えていた頃、ふとこう言われたのです。
「澤さんって上を見て仕事をしないで、天を見て仕事をしているよね」
自分の実績を上げるといった私利私欲ではなく、社会貢献という大きな視点から仕事をしていると評価してくれたのです。
無論、僕はまだまだ足りない部分だらけですが、自分が大切にしている本質的な部分を褒めてもらえたのは、大きなエネルギーになりました。これぞまさに、人の心に火をつける褒め言葉のお手本です。人を褒めるとき、公の場で声をかけたほうがいいのか、個別に伝えたほうがいいのかとよく訊かれます。僕がおすすめする使い分けはシンプルで、「再現性のあるものは公に褒め、関係性を深めたいときは個別に褒める」というもの。
「彼はこんな方法で素晴らしいことをしました。ぜひみなさんもやってみてくださいね」と、伝搬させると個人の評価のみならず会社の評判も上がるような再現性の高いものは、みんなの前で褒めたほうがいい。
一方、他の人は見ていないけれど自分は見ていますよ、と信頼関係をより深めていきたいときは、1on1ミーティングなとで伝えるのがとても効果的です。
ただし、いつどのような形で褒めようか逡巡しているくらいなら、「迷ったらサクッと自分から声をかける」ーーこれを徹底してください。
そのマインドを持てるかどうかが、マネージャーやリーダーには特に重要です。なぜならこれは、「あなたの仕事に関心を持っている」「あなたのために時間を提供する用意がある」というわかりやすい意思表示だからです。
部署内でGiveの好循環が生まれやすくなりますし、そもそもビジネスの基本は、自分から率先して声をかける人のもとにチャンスが巡ってくるからです。声のかけ方を迷っているうちに褒め言葉が流れていってしまうほうがよっぽど勿体ない。
なにもしなければその場は平衡状態のままですが、自分からアクションを起こすと場に変化が生じます。自分の言動に対して相手がどんなリアクションをとるかもわかる。
自分からあえて場の均衡を破ることで、相手の貴重な「一次情報」が得られるというわけです。そうするなかで、相手の隠された長所や個性に気づける可能性も高まります。
また、褒める力のベースとなる観察力を鍛えるいい方法があります。それは「幹事をやる」ことです。
昭和っぽいなと、馬鹿にするなかれ。ここでの幹事とは、職場の飲み会や懇親会に限らず、社内外のイベントや交流会など様々なコミュニティで「場をつくる」役割を進んで担うという意味です。
若い世代のなかには、そのような役割は“業務外”と嫌厭(けんえん)する人もいるかもしれませんが、幹事は人間の一次情報を豊富に得られる、最良のチャンスなのです。
確かに幹事をやると時間も手間もかかりますが、半ば強制的に人を観察する機会となります。身近な職場ですら、親しい人以外、メンバーたちの抱えた諸事情や背景はあまりわからないもの。しかし幹事を務めると、Aさんは未就学児を子育て中、Bさんは家が遠くて終電が早い、Cさんはお酒が嫌いでノンアルコール派など、様々なバックグラウンドを知ることができるでしょう。「あの人が来るなら遠慮したい」といった、水面下の人間関係を知ることだってあるかもしれません。
こうした他者の一次情報を得ることで、ゆくゆくはチームをまとめたり、部署を横断して連携したりするような場面で、マネジメント力に大きな差が生まれるのです。
様々なコミュニケーションにおいて「場をつくる」機会に、なるべく自ら手を挙げるーーそんな経験の積み重ねは、Giverとしての人間力の土台ともなります。『The Giver 人を動かす方程式』 第5章 より 澤円:著 文藝春秋:刊
褒められて、嫌な気分になる人はいません。
それも自分でも気づかない部分を指摘してくれるのなら、なおさらです。
褒めるときは必ず「観察」が先。
土の中に隠れている、才能の“種”に気づいてあげることが、最大のGiveになります。
スポンサーリンク
[ad#kiji-shita-1]
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
Giverという生き方は、決して難しいものでなく、与えることで、自分もより豊かになる実利的な方法
です。
澤さんは、Giveの循環は必ずしも自分に直接返ってくるわけではなく、「ペイ・フォワード(Pay It Forward)」の形をとる
こともよくあるとおっしゃっています。
ペイ・フォワードとは、受けとった親切を、それをくれた相手ではなく別の誰かに渡して、善意の連鎖を広げていくこと
を意味します。
与えたものは、巡り巡って結局、自分自身に返ってくきます。
日本にも「情けは人の為ならず」という言葉がありますね。
見返りを求めず、与えて与えて、与え続ける。
Giverになることで、自分の周りもGiverが集まります。
新しいAI時代にふさわしい「人を動かす」マインドセット。
皆さんも、ぜひ本書を手にとって身につけてください。
|
|
【書評】「巡りの法則」(渡邉有優美) 【書評】「なぜ、J-POPは世界の心をつかむのか」(久道りょう)