【書評】『ディズニーのリーダー』(福島文二郎)
お薦めの本の紹介です。
福島文二郎さんの『9割がバイトでも最高の成果を生み出す ディズニーのリーダー』です。
福島文二郎(ふくしま・ぶんじろう)さんは、研修プランナー、インストラクター、コンサルタントです。
東京ディズニーランドがオープンしたときの第一期生で、以降30年にわたり在籍、数多くの研修プログラムを開発された経験をお持ちです。
いくつもの試練を乗り越えてきたディズニーランド
どのような業種・業態であれ、試練を経験しない組織はありません。
とくに事業開始前後には、大きな試練に見舞われるもの。
世界トップクラスの入園者数を維持し、東洋でも随一のテーマパークとして有名な、「東京ディズニーランド」といえども例外ではありません。
オープン前には、「すぐに閉園に追い込まれる」といった悪評にさらされました。
実際、開園した直後には、平日は2000〜3000人のゲストしか入園しないこともありました。
加えて、将来を悲観した正社員が大量に退職してしまうという緊急事態まで発生します。
オンステージ(園内)では、退職した正社員の穴をアルバイトのキャスト(従業員)で埋め合わせるという苦肉の策をとらざるを得ない状況となります。
しかし結果的には、その試練を乗り越えたことが大きなメリットをもたらします。
より合理的なトレーニング方法の開発や、システムの改善・整備につながったからです。
福島さんは、その試練に押しつぶされるか、試練を乗り越えステップアップさせた状況をつくり出すことができるかは、経営陣はもちろん、各部署・職場のリーダー、つまりマネジメントリーダーがいかに的確に手腕を発揮するか
だと述べています。
本書は、9割をアルバイトが占める東京ディズニーランドのフロントラインを中心に「マネジメントリーダー力」とは何かを解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「業績」よりも「人」を重視・優先する
ディズニーでは、「ディズニー・テーマショーの主役は、キャスト(従業員)である」と考えが浸透しています。
「キャストこそが、ゲストを幸福にする最も大きな力」
マネジメントリーダーによるキャスト教育にも、この思想がしっかり反映されています。
オンステージ(園内)のキャストだけでありません。
人事や総務、経理などの内部管理部門のキャストにも、同様の教育がなされています。
たとえば、私がディズニーに在籍していた24年間、新入生社員は内部管理部門に配属される前に必ず3年から5年、フロントライン、つまりアトラクションやショップに配属されました。
その間、一般キャスト、トレーナー、スーパーバイザーを実際に体験することによって、彼らは、自分の組織の本業は何であるかを知ることはもちろん、キャストこそがゲストにハピネスを提供する主役であることを実感するのです。
そして、フロントラインで働くキャストとの人間関係を築くとともに、彼らの苦労を理解します。
このような入社後のフロントライン体験は、その後も内部管理部門のキャストの心に確実に生きています。
たとえば、内部管理部門のキャストは、しくみやルールつくることがあります。そういうとき、特にフロントラインのキャストから「なぜ、こんなルールが必要なの?」といった批判を浴びがちな損な役回りです。
しかし、彼らもゲストに幸福や満足感を与えるフロントラインのキャストを、少しでも応援したいという気持ちでいるのです。だからこそ、たとえばオンステージに雪が積もれば、率先してオンステージの雪かきをします。
つまり、直接ゲストと触れ合う機会はほとんどなくても、バックステージの社員一人ひとりが「自分たちもキャストの一員である」ことを自覚しているのです。『ディズニーのリーダー』 CHAPTER 1 より 福島文二郎:著 中経出版:刊
組織が大きくなればなるほど、内部管理部門の人間が現場の仕事を熟知することが重要となります。
実際に現場を体験したか、しないか。
それは、あとで大きな差となって表れます。
バックステージとフロントラインの信頼関係をしっかり築けるかどうか。
強固な組織をつくるためのポイントになります。
「ストローク」が部下のやる気を高める
キャストのコミュニケーションの特長を表す言葉に、「ストローク」があります。
ストロークとは、「相手を認めること」です。
具体的にいうと、笑顔で挨拶したり、褒めたりする行動のこと。
「人はストロークをもらうために生きている」といわれるほど、重要な要素です。
実際、ストロークを受ければ受けるほど、人は幸福感に包まれるものです。マネジメントリーダーから繰り返しストロークを受ければ、部下は「自分は、リーダーに認められている」と感じて信頼感を抱き、仕事に対するやる気も高まります。
ところが、マネジメントリーダーのなかには、
「ストロークなんて・・・・・特に褒めたりすればつけ上がる」
と言って、ストロークを与えない人がいます。
しかし、褒めるストーロークと叱るストロークのメリハリをきちんとつけていれば、部下が「つけ上がる」ということはありません。
また、「ストロークはあまり与えるものではない」と、ストロークの回数に限度を設けているマネジメントリーダーもいます。しかし、ストロークの回数に限度など設けるべきではありません。その結果、「富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる」ではありませんが、ストロークを積極的に与え続けるマネジメントリーダーは、ますます部下から信頼され、ストロークをしない、あるいはストロークに消極的なマネジメントリーダーは、ますます部下から信頼されなくなります。
マネジメントリーダーにとって、ストローク力は、部下から信頼されるとともに、部下のやる気を高める必須の能力です。『ディズニーのリーダー』 CHAPTER 2 より 福島文二郎:著 中経出版:刊
ストロークは、人の心にとって「燃料」のようなものです。
与えれば与えるほど、エネルギーを発生させ、活性化させます。
リーダーはとくに、出し惜しみせず積極的に与えることを心掛けたいですね。
なぜディズニーは権限移譲がスムーズに行えるのか
ディズニーでは、マネジメントリーダーは積極的に「権限移譲」を行います。
さまざまなリスクが伴う権限移譲を積極的行なう理由は、以下のとおりです。
その理由のひとつは、前述したようにマネジメントリーダーが時と場合によっては権限移譲をしないと自分のほかの業務に支障を来すほど多くのキャストを部下に持っていることがあげられるでしょう。
しかし、もっと重要なのはマネジメントリーダーと部下との間に信頼関係があることです。つまり、マネジメントリーダーは、この部下なら間違いなく自分に代わって役割を果たしてくれると考え、権限を移譲された部下はマネジメントリーダーの期待に応えるために最善を尽くしたいと考える関係ができているのです。
また、見方を変えれば権限を移譲できる人材を育てているということです。
一方、部下もマネジメントリーダーから権限を移譲され、その役割を果たすことで大きな自信を得ることになり、自分の能力アップにつなげることができます。仕事への士気が高まることはいうまでもありません。
もうひとつ忘れてはならないのが、ディズニーでは、たとえ失敗しても、それを成長につなげようと考えることです。つまり、ディズニーには失敗を必ずしもリスクとはとらえず、キャストを伸ばすチャンスととらえる風土があります。
以上のような理由で、ディズニーでは、マネジメントリーダーによる権限移譲が積極的に行われています。それは、まさにディズニーの“強み”といえるでしょう。『ディズニーのリーダー』 CHAPTER 3 より 福島文二郎:著 中経出版:刊
人事の硬直化は、組織の老朽化を招きます。
新陳代謝を早くすることは、組織を若々しく保つためにも重要です。
人の育成に時間と労力を惜しまないこと。
それがディズニーの強さを土台から支えています。
ディズニー式「マンツーマン」トレーニングのメリット
新人に対しての職場業務のトレーニングは、「トレーナー1人 対 新人キャスト1人」で行います。
ディズニーの新人採用人数規模を考えると、信じられないことです。
ディズニーがこのような「マンツーマン」のトレーニングのしくみを採用しているメリット。
そのひとつは、「親密な人間関係ができ、退職率が下がる」ことです。
「1 対 1」の場合、当然、「1 対 複数」の場合よりも、お互いの人間関係が深まります。
また、トレーナーと新人キャストは、2〜4日のトレーニング期間中ずっと一緒に行動するので、トレーナーがほかのキャストに、
「今、トレーニング中の◯◯くんだ、オレの教え子だよ」
といった調子で紹介してくれます。ですから、トレーニング期間中に、どんどん顔見知りの先輩キャストが増えていきます。
また、トレーナーは、アルバイトのなかでもリーダー格なので、ほかのキャストたちは「オレが守っているんだ。仲良くしてくれ」というトレーナーの思いを感じ取ります。
一方、新人キャストは「守られている」という意識を持つので、安心して先輩キャストに接することができます。
このように、「1 対 1」によるトレーニングは、良好な人間関係を築くうえで大いにメリットがあります。
さらに、人間関係がよいと、退職率が低下するメリットも出てきます。『ディズニーのリーダー』 CHAPTER 4 より 福島文二郎:著 中経出版:刊
多くの企業や組織では、リストラや合理化による人員整理が進んでいます。
要員に余裕のないところも多くなりました。
そのしわ寄せは、新人のトレーニングに表れます。
担当となる先輩社員にも余裕がなく、何も教えられないままに、実務に当たる状況もありえます。
とはいえ、結局は、「人を育てるのは、人」です。
人材育成がシステムとして組み込まれていない組織は、先細りになるでしょう。
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開園以来、30年以上にわたり成長を続けてきた東京ディズニーランド。
あれだけ広大なテーマパークで、素晴らしいサービスを行っているにもかかわらず、キャストの9割以上がアルバイトであるという事実には驚かされます。
そのような組織運営は、偶然にもたらされたものではありません。
工夫やアイデアを積み重ね、より効率的な運営方法を模索し、トライし続けてきた結果です。
組織が成長するということは、そこで働く人が成長するということ。
組織における人材育成の重要性を改めて考えさせてくれる一冊です。
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