【書評】『アレルギーの9割は腸で治る!』(藤田紘一郎)
お薦めの本の紹介です。
藤田紘一郎先生の『アレルギーの9割は腸で治る!』です。
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)先生は、ご専門が寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学の医学博士です。
「アレルギー」が起こる仕組みはすべて同じ
アトピー性皮膚炎や気管支ぜんそく、花粉症、食物アレルギーなど。
現在、日本人の約30%がアレルギー性の病気を持っていると言われます。
とくに子どもたちにその傾向が顕著に見られます。
各種アレルギーは、それぞれ原因となる物質や症状の現れる場所が異なるため、個々のアレルギー病は別の病気のように見えます。
しかし藤田先生は、アレルギーが起こる仕組みは、実は全部同じ
だと指摘します。
アレルギー症状を改善させるためには、生活習慣から免疫システムに直接アプローチして、免疫力を高めることが必要です。
本書は、アレルギーの仕組みを明らかにし、治すための方法と生活についてまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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なぜ、急速にアレルギーが増えたのか?
近年、アレルギーが急増している背景には、「社会の清潔志向化」があります。
藤田先生は、「キレイ社会」が免疫力低下を導き、花粉症ばかりでなく、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患を生み出した
と指摘します。
私たち人間の体は、1万年前とまったく変わっていません。体を構成する細胞は同じだし、体に備わっている免疫システムも同じです。
これは、1996年から、医学者や生物学者、遺伝学者、生態学者などが一堂に会して議論を重ねてきた「人類の家畜化現象を考える研究会」で出した結論です。
ではなぜ、1万年前と同じ細胞を持つ人間に、急にアレルギーが増えてしまったのでしょうか。
その大きな原因として、人間が文明の名の下に、より快適でよりキレイな環境をつくってしまったことがあげられます。
1万年前、人類は裸・裸足でジャングルや草原を走り回っていました。自然とともに、体をめいっぱい動かして、元気に生きていたのです。しかし、38億年という生物の歴史から見れば「ほんのまばたきをする一瞬」に過ぎない1万年の間に、人類の生活環境は一変しました。
とりわけ、ここ50~60年の変化は凄まじいものがあります。山奥の土地に住まない限り、現代人は極端な話、清潔でキレイな小屋にこもり、ファストフードやコンビニ食などの便利で安い餌で飼い慣らされた“家畜”のようになってしまったのです。
アレルギーの発症だけではなく、生きる力そのものが弱ってきたと言えるかもしれません。しかし、この流れは今後も続くでしょう。人間は文明を発展させることがいいと思っている、珍しい生き物だからです。
問題は、体のほうが急激な変化についていけないことです。自然と切り離されて、身の回りにあったはずの菌を退治した“キレイすぎる社会”に、体はそう簡単に馴染むことができないのです。『アレルギーの9割は腸で治る!』 第1章 より 藤田紘一郎:著 大和書房:刊
世の中、「殺菌」「除菌」「抗菌」といった類のグッズが大人気です。
「バイキンはすべて悪者」
そのような偏見が行き過ぎて免疫力を弱め、さまざまな病気を生み出しているのは皮肉な現実です。
動物の赤ちゃんはなぜ母親の便をなめるのか
コアラの赤ちゃんは生まれるとすぐ土をなめたり、お母さんの便をなめたりします。
それには、どんな意味があるのでしょうか。
これは、土のなかやお母さんの便のなかにある細菌類をお腹に入れないと、コアラの餌であるユーカリという毒のある葉を無毒化できないからです。
コアラの赤ちゃんは、生まれながらにしてユーカリの葉を無毒化する酵素を持っているわけではありません。だから本能的に、土をなめたりお母さんの便をなめて、自分の腸内細菌を増やそうとするのです。
パンダの赤ちゃんも同じです。パンダの体には餌の堅い笹の葉を消化する酵素がないために、生まれるとすぐに土をなめたり、お母さんの便をなめて細菌をお腹に入れます。腸内細菌が笹の葉を消化してくれるからです。
また、ウサギは下痢をすると、元気なときの自分の便を食べます。私も幼い頃は、飼っているウサギを見て「便なんか食べて、汚い」と思ったものです。
でも、その行為には「腸を元気に保ってくれている細菌を腸のなかに取り入れて、腸内環境を整える」という目的があったのです。
つまり、元気な動物の便に含まれる腸内細菌は、ある意味で「腸内環境を整える薬」と考えることができます。
人間も同じです。でも、誤解しないでください。「便をなめなさい」と言いたいのではありません。「自分の便を汚いからと無視しないで、毎日ちゃんと見てください」、「腸内細菌には重要な意味があるのだから、むやみに悪者扱いしないでください」と、伝えたいのです。『アレルギーの9割は腸で治る!』 第2章 より 藤田紘一郎:著 大和書房:刊
便は行き過ぎにしても、人間の赤ちゃんも、落ちたものを拾って口に入れたり、手当たり次第に掴んで舐めたりします。
しかし、それも腸内細菌を増やすという意味では必要なことです。
同様に、お母さんの母乳の成分にも腸内細菌の繁殖を助け、免疫機能を高める効果があります。
あまり神経質になり過ぎて過保護に育てない。
子どもは、そのほうが体質的にも精神的にも強くなるということでしょう。
「便の量」でわかること
アレルギー症状を抑えるのに、最も大事なのは「腸内環境」を整えることです。
日本人は、昔より便の量が急激に減少しています。
これは食生活の変化によって、口にする食物繊維の量が減ったためです。
藤田先生は、便の量が減ったことも、アレルギー性疾患の患者が急増したことと大きな相関がある
と指摘します。
人間がほぼ毎日排泄(はいせつ)する便の約半分が、生きている、あるいは死んでいる腸内細菌であることをご存じですか。
便1g当たりに約1兆個の細菌がいると言われています。
私たちが食べたものは、食道、胃を経て腸に入り、約7mの“旅”をします。なかでも一番長いのは小腸です。その長さは約6mあり、表面にはたくさんの襞(ひだ)や「絨毛(じゅうもう)」と呼ばれる細かい突起が生えています。切って広げると、その表面積はテニスコート1面分、約200m2もあります。
この小腸で、食品中の成分を認識し、栄養分を吸収しています。そうして“残りカス”が大腸に送られ、ここでも吸収されなかった“残りカス”がさらに直腸にいって溜められます。これが便なのです。だいたい24~72時間ほど直腸で溜められて、量が多くなった時点で脳に刺激が伝わり、排便されます。
現代人の正常な便は150~200gくらいです。戦前は350gほどあったのですが、食物繊維の摂取量が減ったことで、食生活の変化とともに便も欧米化してきたということです。
食物繊維は腸内を掃除してくれます。便の量を増やし、有害物質を吸着して体外に出してくれるのです。それによって腸内を、ビフィズス菌などの腸内細菌が棲みやすい環境に整えるわけです。
私は以前、フィラリア病の調査のために毎年のようにパプア・ニューギニアに行っていましたが、現地の人たちは、1日に1kgもの便をしていました。
彼らは毎日、主食にイモ類、副食に野菜と豆類だけを食べていました。どれも食物繊維が豊富に含まれた食品ばかりなので、免疫力も強くなっていました。私は若々しく元気な彼らを見て、いかに食物繊維が腸内環境に良いかを再認識しました。
便が小さくなっている現代の日本人は、腸内細菌が減っているということが考えられます。食物繊維が少なくなって、腸内細菌のバランスを崩している可能性があります。
つまり、便が小さくて貧弱なのは、腸内フローラが異常をきたしている証拠なのです。事実、小さな便には、ビフィズス菌が非常に少なく、かなりの割合で悪玉菌が増えていることが証明されています。『アレルギーの9割は腸で治る!』 第3章 より 藤田紘一郎:著 大和書房:刊
食物繊維は腸内環境を整える上で欠かせません。
意識して、毎日摂る必要があります。
立派な便は、「つやのある黄土色でバナナのような形状をし、匂いもあまりきつくない」のが特徴。
健康のバロメーターとして、毎日、チェックしたいですね。
腸内細菌は脳に「幸せ物質」を運んでいた!
腸は、精神的な状態をストレートに反映します。
「脳(=心)と腸(=腹)は繋がっている」ということ。
強いストレスを受けると、お腹の具合が悪くなるのはそのためですね。
便通異常を起こすと、腸内細菌が減少することもわかっています。それも、善玉菌が著しく減っていくのです。
免疫反応は大腸に棲む腸内細菌の数や種類が決めていますから、腸内細菌が減少すると当然免疫力は低下します。
逆に、ストレスがない状況では、便通異常は起こらないし、腸内細菌のバランスも保たれて、健康でいられます。腸内細菌のバランスが良ければ、免疫力が上がってストレス耐性が強くなる、という見方もできます。
つまり、ストレスと腸管運動、免疫反応は、トライアングルのように連携して、心身の健康にいい意味でも悪い意味でも循環をもたらすわけです。
そこで重要になってくるのが、免疫力を上げることです。その免疫力は「70%が腸管の働きで、残り30%は心で決まる」とされています。
(中略) まず腸内細菌が喜ぶものを食べることがポイントになります。抗菌剤や防腐剤などが使われている“人工的な食べ物”を極力避けて、日本の伝統食に象徴される食事をするのがベストでしょう。
あと「30%が心」と言いましたが、この部分でも腸内細菌は貢献しています。腸内細菌は「幸せ物質」を脳に運ぶからです。
たとえば、最近増えている「うつ」の原因の一つは、脳のなかのセロトニンという「幸せ物質」が足りないことです。
このセロトニンのもとになるのは、トリプトファンというアミノ酸です。栄養学者などが、
「うつを改善するために、肉や魚、大豆、ピーナッツ、乳製品など、トリプトファンを豊富に含む食品を食べなさい」
と言うのはそのためです。
ただし、いくらトリプトファンを摂取しても、それをきちんと分解して吸収できるようにしてくれる腸内細菌がいないと脳に送られません。腸内細菌が心の部分でも非常に重要だ、ということです。『アレルギーの9割は腸で治る!』 第5章 より 藤田紘一郎:著 大和書房:刊
腸内細菌が少なくなり、腸内環境が悪化する。
すると、アレルギーになる人が増えるだけでなく、「うつ」に罹る人も増えます。
実際、「うつ」とアトピーやぜんそくなどの「アレルギー性疾患」は、ここ10年、同じような上昇カーブを描いており、有病率が2倍以上になっています。
「ストレスと腸管運動、免疫反応は、トライアングルのように連携」しています。
精神的な健康が、いかにアレルギー疾患を防ぐのに大切かが理解できますね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「近年、花粉症の人が増えてきた」
その理由を私たちは、「アレルギーのもととなる杉などの花粉が増えたから」と外部の環境変化のせいにします。
しかし真の原因は、私たちの体自体がアレルギーになりやすい体質に変わったことです。
体質が変わった一番の要因は、腸内環境の悪化です。
いつでもインスタントの食べ物が手に入り、多くのストレッサー(ストレスを与える素)が身近にあふれる現代社会。
私たちは、アレルギー疾患にかかりやすい環境にあります。
私たちが悪者扱いしている「バイキン」とも、仲直りする必要がありますね。
腸内細菌を味方につけ、ストレスやアレルギーを寄せ付けない健康な体を手に入れましょう。
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