本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『俺のイタリアン、俺のフレンチ』(坂本孝)

 お薦めの本の紹介です。
 坂本孝さんの『俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方』です。

 坂本孝(さかもと・たかし)さんは、起業家であり、実業家です。
 オーディオ販売などのいくつかの事業を経て、1990年古本販売「ブックオフ」を設立されました。
 2009年には、「VALUE CREATE」という会社を設立し、飲食業に参入。
 2011年に、超一流の料理人ばかりの格安レストラン「俺のイタリアン」をオープンされました。

「ブックオフ」と「俺のイタリアン」、成功の秘訣は?

 坂本さんが考えるビジネスの戦いに勝つ条件。
 それは、そのビジネスに「競争優位性」があること。そして、参入障壁が高いことです。
 
 浮き沈みの激しい飲食業の中で「競争優位性」をつくるために追求したこと。
 それは、一流の料理人が、一流の料理をつくり、かつてないおいしさとリーズナブルな価格で提供し、そしてお客さまに驚くほどに「おいしい!」「安い!」と感じていただくことでした。

 試行錯誤の末、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は行列ができる大人気となります。
 合わせて10店舗以上、30人以上のミシュラン級の料理人が揃う一大勢力にまでに急成長を遂げました。

 本書は、坂本さんの50年の事業家人生を振り返り、自身のビジネス哲学を書きつづった一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「フード原価率88%」でも赤字にならない業態

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」における、競争優位性を高めるための最大の差別化。
 それは、「回転数」です。

 坂本さんの狙いは、立ち飲みの業態としてお客さんの回転数を上げること。
 原価率(総コストうち、食材の占める割合)を高くしても利益を確保しようと考えました。

 考えてみれば、単純な話です。
 家賃を例に挙げれば、家賃比率が15%というのはよくある数字ですが、これはお店の回転数を1回転と想定しているものです。そして、グランメゾン(ミシュラン三ツ星級の超高級フランス料理レストランのこと)であれば4人席に3人座ることもあるので0.75回転しかしません。
 でも、それが仮に4.5回転すれば客数は6倍となります。売上げが6倍に上がることにより、家賃比率は2.5%まで落ちることになります。普通の家賃比率15%に対して2.5%であれば、12.5%浮くことになり、その分を原材料につぎ込んでも大丈夫ということになるのです。
 また、グランメゾンのフード原価率は18%だとも言われています。料理人の腕がいい分、原価率が低い。内装がきれいな分、内装コストもかかっているのでしょう。
 グランメゾンのフード原価率18%に対して、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」が90%とするならば、価格は5分の1となります。グランメゾンの料理ひと皿3000円の5分の1だと600円です。それより少し安く580円という価格をつけたとします。3000円のものを500円台で売る。そこまでやると、お客さまはいくらなんでもびっくりするでしょう。
「俺のイタリアン」では580円が最多価格帯です。金額の末尾の8と9は安く、3と4は高く感じます。昼食代が500円の時代ですから、10円、20円の差はお客さまにとってはとても大きいのです。
 多少大袈裟に言うと、商品の価格構成の中で、その会社が一番多く打ち出している価格帯に、その会社の精神と宿命は宿っているのではないでしょうか。価格構成の中の最多価格帯に対してどれだけの価値を持てるか、それが企業戦略そのものなのです。

 『俺のイタリアン、俺のフレンチ』 第1章 より 坂本孝:著 商業界:刊

「フード原価率88%でも利益を出す」 。
 しかも「3000円のものを500円台で売る」。

 それを可能にしたのが、立ち飲みにしてお客さんの「回転率」を上げるというアイデアです。

 机上の計算では、たしかにその通りです。
 以前にも、そのようなことを考えた人はたくさんいたことでしょう。
 坂本さんは、それをアイデアに留めずに、実行したことで大きな成功を収めました。

「利他の心」が競争優位性をもたらす

 坂本さんは、自ら設立した「ブックオフ」のフランチャイズ店を1000店舗にまで拡大させています。
 現在も圧倒的なシェアを占めて、他の追随を許しません。

 坂本さんのとったフランチャイズ仕組みづくりの方針は「加盟店第一主義」です。
 その背景には、京セラや第二電電(現KDDI)の生みの親で日本を代表する実業家、稲盛和夫さんの影響があります。

 フランチャイズを始めて5年間が過ぎた頃、私は稲盛和夫氏の盛和塾に入会しました。そして、稲盛氏に初めてお目にかかった時に、このように言われました。
「あなたは、フランチャイズを行っているようですが、世の中のフランチャイズの会社は自分の利益だけを追って、人によかれかしということができていません。あなたがいま行っているフランチャイズ経営に、是非『利他』という要素を取り入れてください。日本のフランチャイズの模範になるようなことを是非やってください。頼みますよ」
稲盛氏は強く握手してくださいました。その手はとても温かく、大きく厚い手でした。
 少し心が曇っていた時期でしたが、この稲盛氏との出会いで、「人の役に立つことを行うという精神を持ち続けることによって、フランチャイズは立派な事業になる」と確信が持てました。
「元来人間は、良きことを行えば、良きことが起こる」
 この性善説が唱えるように、私はひたすらに良きことを思い、人々の成長を願い、フランチャイズの事業を通じて皆さんが幸せになるように、と取り組んでいきました。
 ブックオフで働く人にとって、難しいことは一切ないように、パート・アルバイトでも一週間で店の運営ができる仕組みづくりをしました。
 会社の中に研修施設をつくりました。ここでは、加盟店の新規出店に際してトレーニングするほか、半年後、一年後など、加盟店の成長に応じた研修プログラムをつくりました。地方から上京して加盟店となる方の負担をできるだけ少なくして、加盟店同士の横のつながりが生まれるようにと、本社のそばに宿泊施設もつくりました。
 私は、ブックオフを日本の5本の指に入るフランチャイズチェーンにしたと自負しています。「加盟店と共に成長して、共に幸せになろう」というフィロソフィが成長を手伝ったといまも思っています。

 『俺のイタリアン、俺のフレンチ』 第3章 より 坂本孝:著 商業界:刊

 誰でも自分の利益だけを追求し、他人をいかに利用するかに目がいきがちです。
 しかし長い目で見ると、それではなかなかうまくいかないものです。

 それよりも「利他の精神」、つまり、「人の役に立つことを行うという精神」を持ち続けることが長期的な成功へ導いてくれる最大の鍵になります。

 結局は、周りを助けることが自分を助けることになるということですね。

競争優位性は、道楽に見える挑戦の賜物

 坂本さんは、現在の成功に甘えることはありません。
 他がマネしようとしてもマネできない一手で、さらなる「差別化」を図る努力を続けます。
 その中のひとつが、「フレンチとジャズライブのコラボレーション」です。

 2012年9月に開店した「俺のフレンチ Table Taku」では、毎晩ジャズライブを開きます。

「ピアノなんか置くよりも客席を増やせ!」
 そういう安田道男常務らの反対を押し切って、社長の坂本さんの独断で始めたとのこと。

 安田さんは、これまで講演に招かれると、このようなことを言ってきました。  
「皆さん、『俺のフレンチ』のようなお店をやろうとは、絶対に思わないでください。うちの社長の道楽です。損益は無視しているんです。損をしているんです」
 ある時、それを聞いていた業態開発を果敢に行うある社長が、こう言ったそうです。
「あの『俺のフレンチ』は坂本社長の道楽らしい。あんな原価かけて儲かるはずがないから、皆さんやらないほうがいい」
 このような方が、安田さんの話を信じきったことで、私は勝利宣言です。
 日本の景気は未だ低迷していると言わざるを得ません。お隣の中国の経済成長にもかげりがでてきています。国際的にも経済分野の話題はあまり芳しくありません。
 となると、外食で大きく影響を被るのは高級レストランです。今やコンビニが取り扱うフードメニューも充実していて、飲食店が扱う弁当・惣菜(そうざい)などの中食はコンビニに奪われてしまうような気もします。
 そういう環境の中で、飲食業における競争優位性とは何でしょうか。
 それは、「コンビニにない」「家庭では食べられない」「通販で買えない」「出前してもらえない」という分野、そういうメニューを提供しているということにほかなりません。
 ですから、「俺のフレンチ」は当初、私が道楽で始めたと思われたかもしれませんが、競争優位性をつくり上げるための大きな挑戦だったのです。そして、ジャズとのコラボもその延長線上にある挑戦なのです。

  『俺のイタリアン、俺のフレンチ』 第5章 より  坂本孝:著  商業界:刊

「ムリだ」「できない」と他の人が尻込みするくらいの常識外れのアイデア。
 その中に、大儲けのネタが転がっているということです。
 誰もが怖がって足を踏み入れない未踏の地にこそ、「ブルーオーシャン」が広がります。

「本当にムリなのか?」と常識を疑ってかかる。
「やれる!」という確信を得たら、迷わずにそれを実行する勇気を持つ。

 それが、勝敗の分かれ目ということです。

「カイゼン」の積み重ねが、競争優位性を増やす

 坂本さんは、事業づくりの中での「競争優位性」の大切さを繰り返し説いています。
 独自に築いたものを、絶対に次が追随できないような参入障壁をどれだけつくれるか、これがアントンプレナーの唯一のポイントであるとも述べています。

 例えば、トヨタ自動車の取り組みで、世界に認知されている「カイゼン」。
 毎日改善を続けて改善した内容や深さの度合いがある一定量を超えると、誰もまねができないクオリティの製品を作ることができるようになります。

 坂本さんは、同じようなことを飲食業界で挑戦しています。

 いま日本の中で、ミシュランの星付きクラスの料理人が一番在籍しているところはどこですか?」
 それは、高級ホテルでもない、高級レストランでもない、私たちの会社なのです。奇跡と呼べるようなことが続いているのです。一流の料理人が増えていくことによって、当社の料理のクオリティはますます高度に安定してきています。
 ここで、更に競争優位性をつくり上げるというアイデアをお話ししましょう。
「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」では、いま、全店ではありませんが日曜日を休日にしています。
 それを、更なる生産性の向上を考えて日曜日も営業すれば、家賃をはじめ固定費は下がります。そこで更に利益が出て、それを原価率引き上げに使って更にぶっちぎるという作戦に出ます。
 しかしながら、この態勢はシフトがローテーションになるので、当初は非生産的なことが随所に出てくることでしょう。それを認めながら、更に無駄をなくすための努力をしなくてはいけません。それは簡単なことではないことは理解しています。
 こうした、更なる生産性向上のために新しいオペレーションを完成させるのは、時間が掛かることで、チームワークがとても重要になります。いまある中から、無駄を発見してそのすべてを潰していくのです。
 これが「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」のカイゼンです。このカイゼンを毎日継続していくことによって、競争優位性はますます増えていき、参入障壁が高くなっていくのです。

 『俺のイタリアン、俺のフレンチ』 第7章 より 坂本孝:著 商業界:刊

 他を圧倒する技術、誰もマネできない仕組みは、短期間で身につくものではありません。
 日々ちょっとずつ改善を加えて、試行錯誤を繰り返して出来上がっていくもの。

 どの分野でも、超一流といわれる人や企業はこの基本がしっかり叩きこまれています。
 近道はありません。

 毎日毎日、一歩一歩目標に向かって進み続けること。
 それが選ばれる「オンリーワン」になるための秘訣だということですね。

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 70歳を過ぎた今も、ビジネスへの情熱は衰えることを知らない坂本さん。
「俺の〜」の店舗の海外展開や、新たな事業への挑戦も視野に入れられています。

「競争優位性」をつくり、高い参入障壁を築くことで他を圧倒する。
 それが坂本さんのビジネス哲学です。

 そのための仕組みづくりが、このビジネスの生命線となります。
 それを支えているのはまぎれもなく、坂本さんはじめ、一人ひとりのスタッフの熱意です。

 まさに、意思あるところに道あり。
 本書は、これからの時代の「起業のあり方」の成功例として、ぜひ参考としたい内容です。

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