【書評】『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(山口真由)
お薦めの本の紹介です。
山口真由さんの『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』です。
山口真由(やまぐち・まゆ)さんは、弁護士です。
東京大学法学部に入学、同大学を首席で卒業後、財務省に入省し、主に租税政策に従事されました。
現在は、企業法務と刑事事件を扱う弁護士としてご活躍中です。
「努力」は抽象的な「才能」ではなく、具体的な「技術」の集積
山口さんは、自他ともに認める「努力家」です。
司法試験の口述試験の前の2週間の間、一日24時間のうち睡眠時間や食事の時間などを除いた19時間30分をすべて勉強に注ぎ込んだこともあります。
一方、東大法学部を主席で卒業したり、大学の4年間で162単位を履修してそのすべてが「優」だったため、「天才」のような扱われ方をされることもありました。
山口さんは、自分が一般的な「天才」像とほど遠く、練習したことがないことを一度でやってみせる能力も、ずば抜けた頭の回転の速さも、誰もが考えたことがないような発想力
もないと述べています。
それでも山口さんは、自分が東大を主席で卒業し司法試験や国家一種試験にも受かったことは「偶然」ではなく「必然」であり、実力で掴みとったものだと強調しています。
山口さんには、「努力」というのは、抽象的な「才能」ではなくて、具体的な「技術」の集積だ
という確信があります。
それだけ、自分がやってきた努力に対して決して揺るがない自信があるということ。
山口さんは、まさに「努力を続ける天才」といえますね。
本書は、努力を続けるための習慣、最後まで成し遂げるための方法論について、経験に基づいたノウハウをまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「得意分野」は、たった四分野の評価で見つかる
山口さんは、限られた時間を有効に使って成果をあげるために、とにかく長所を伸ばす努力をして、「とがったプロフェッショナル」を目指すべきだと強調します。
「得意分野でプロフェッショナルになる」といっても、自分の得意分野はどこなのか、わからないという人も多いですね。
それは、誰でも、自分を基準に考えているので、自分がその分野で秀でた才能があると気付か
ないためです。
山口さんは、「自分の得意分野を見つける方法」を以下のように説明しています。
私も、高校生のときには、自分が「特に読むのが速い」と思ったことはありませんでした。自覚したのは、何回かまわりの人に「もうこんなに読んだの?」と驚かれたから。周囲の反応を見ながら、能力について気づいて、それに自信を持つようになっていったのです。自分が得意なことを探すのは、案外難しいのではないかと思います。今いる環境が自分に合っていなければ、見つけることすらもできないかもしれません。得意なものと出会うこと自体、運の要素も大きいと思います。
だから、ここでは自分の「得意分野」を測るための指標を使いたいと思います。ビジネスにおいて求められるのは、「アウトプットする力」です。そして、精度の高いアウトプットをするためには、必ず「インプットする力」を組み合わせる必要があります。「インプットする力」としては「読む」ことと「聞く」ことがあげられ、「アウトプットする力」としては、「書く」ことと「話す」ことがあげられます。
つまり、自分の得意分野を見極めるために、誰もが小さい頃から日常生活の中で行っているこれらの四つの行動について、自分の能力を評価すればいいだけなのです。もし、自分での評価が難しければ、自分のまわりの人と比べるのがよいでしょう。
また、「読む」「聞く」は内向的タイプで「書く」「話す」は外交的タイプと、ここでは便宜的にわけることとします。私を例にすると、私の場合は圧倒的に「読む」ことに特化した人間であるといえます。ここは5段階でいえば「5」です。その次に得意なことは「聞く」ことで、「4」だと思います。次は「書く」ことで「3」くらいとしておきましょう。もっとも苦手なのは「話す」ことでこれは「1」です。
すると、私はやや内向的な方向に寄った、インプット型人間であることがわかります。ですから、私が努力すべきことは、やはりインプット作業を主としたものとなります。『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』 第一章 より 山口真由:著 扶桑社:刊
長所や得意分野は、自分では気づきにくいものです。
自分では普通だと思っていても、十分「強み」になることもあります。
「読む」「聞く」「書く」「話す」こと。
まずは、この四つに絞って、周りの人と客観的に比べてみましょう。
努力をするための「最初の一歩」を踏み出す方法
何をするにも、まずは最初の一歩を踏み出すことが大切です。
山口さんは、努力を始めるためにもっとも簡単なのは、努力をしなければならない機会をちょっと無理してでも作ること
だと述べています。
私は、昔から切羽詰まってから何かをやり始めるタイプでした。なので、始めた時点ではまわりの人より一歩も二歩も後ろにいることも多く、「私にはできない!」と感じる機会が多かったのです。
最初に就職した財務省では、ものすごく仕事のできる人がたくさんいましたし、法律事務所でも、ものすごく頭の回転が速い人がたくさんいます。
そういう優れた人だらけの環境の中で劣等感にさらされたからこそ、努力をすることができたといえます。つまり、このような「できない!」と思う機会を作るのは、努力するうえでは効果的なのです。
何かを始めたばかりの頃は、「自分はなんでこれができないのか」「あの人はなぜあんなにもできるのに自分は・・・・・」と思うことが多いでしょう。しかし、日常化してしまったら、緊張感もそういった劣等感も感じなくなってしまいます。そこで、努力を始めるには、とりあえず新しい環境に飛び込んでしまうのがひとつの簡単な方法です。
そういう意味で、何かの習い事を始めるのはとてもいいでしょう。得意だと思っている分野の習い事も、始めたときは、自分が周囲のなかで一番下手なものです。そこで練習を重ねる際に、「できない」と感じ、努力する習慣を身につけられるのです。また、習い事といったような時間が取れない人であれば、様々な資格やTOEICや漢字検定試験を受けてみるのも手です。
このような試験であれば、とりあえずその試験をすることから始めることができます。勉強を始めてみれば、自分がどれだけいろいろなことを知らずに生きてきたのか実感でき、「できない!」状況が作り出せます。『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』 第二章 より 山口真由:著 扶桑社:刊
いつもと同じできることばかりやっていては、それ以上成長することはありません。
努力を始めるには、そのための機会を自分で作ってあげるのが一番の早道。
歌がうまくなりたいのなら、カラオケなど人前で歌う機会をつくってしまうこと。
そうすれば、頑張らざるを得ません。
自分が成長するためにも、未知の世界に自ら飛び込んでいく勇気は持ち続けたいですね。
ハードルは、「質」より「量」
山口さんは、努力を継続するための方法としてハードルを作って努力のレベルをアップさせていくこと
を勧めています。
ここでいう「ハードル」とは、「具体的で、小さな目標」のことです。
ハードルを作ることで、一定時間に一定のタスクをどのくらい終了させるかを決められます。
大事なのは自分で作ったそのハードルを、ほんの少し高く飛び越えること
を心掛けること。
そのためには、ハードルを定性的なものではなく、定量的なものにすること
が肝心です。
「3時間で、集中してこのテキストを精読する」
こういった目標を立ててはいけません。この目標の駄目なところは「集中」「精読」というワードです。これは評価が入るので、ここの加減を主観で変えることができてしまいます。きつくなってきたら、自然とハードルを下げてしまうのが人間というものです。
こういった目標を立ててしまう人は、本来であれば、2時間でそのテキストを読めると思っているのに、そういう目標を立てることが苦しいので、3時間と時間をかさ増しして、怠けている可能性があります。こういった習慣の人が努力を続けるのは難しいのです。
水は低いほうへ流れます。人は怠けてしまうのです。はじめから80%の目標を自分に課すというのは、ついついやってしまいがちなこと。定性的なものは他人に対しても、そして自分に対しても嘘をつきやすいのです。自分が無意識に怠け癖を発揮しているのではないかと常に疑ってかかる必要があります。加えて、ハードルを「ほんの少し」高く飛び越えるときのポイントは、プラス5%という微妙な高さを維持することです。たとえば、これをプラス20%にしたとしましょう。
先程の話をすれば、本書を20ページ書き進めるのが自分の力だと決めた場合、そこからさらに4ページを書き進めるのは、かなり厳しいものです。もし4ページも書き進めることができたのであれば、それははじめの目標を低くしてしまったと考えなおすべきです。それにもし4ページ奇跡的に進めたとしても、その努力は一回で終わってしまいます。
あくまで私の経験上ですが、プラス20%を目標値として設定するのは「ほんの少し」ではなく、高く飛び越えようとしすぎです。
プラス20%を目標値として設定する。これが普通の人の限界であると思います。
こうした小さな達成感は、ひとつの立派な「成功体験」に繋がっていきます。『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』 第三章 より 山口真由:著 扶桑社:刊
今の自分の80%の力で乗り越えられる目標では、達成感もありませんし、成長もしません。
120%の目標だと、途中で息切れをしてしまい、継続することか困難になります。
越えられるか越えられないか。
そのギリギリの線が「プラス5%」です。
自分が継続的にできる“努力の容量”はどれ位なのか。
それを定量的に把握することが重要だということです。
努力した自分を否定してはいけない
山口さんは、一日の終わり、眠りにつく前のひとときに、毎日同じことをやって、その日一日の反省をすること
を勧めています。
山口さん自身、寝る前に1分間空を見続けることを日課としています。
昨日と違う今日を意識し、そして今日とは違う明日を意識できるようになる
とのこと。
山口さんは、一日の反省の際に「自分の理想像を思い描くこと」もつけ加えてほしいといいます。
「こういう自分でありたい」という切実な思いが、一歩前に進む力を与えてくれるからです。
「もう絶対に頑張れない」
「今の私には気力も残っていない」
「これ以上前に進めない」
「前に進みたいと願うのは止め、いま、この場所に留まる生き方に変えよう」
しかし、そう思う度に気づくことがあります。自分だけは、努力した自分を否定してはいけない。
自分の努力に一番期待を掛けていたのは、両親でも、上司でも、他の誰でもない自分自身です。そして、再び、自分の足を一歩前に進めなくてはなりません。
私には、もともと大した能力があったわけではありません。ただ明日の自分に願いをかける切実な気持ちが、他の人よりも少しばかり強かった。自分自身に絶望しても、まだ、明日の自分がいまより前へ進んでいると期待することを止めなかった。
この自分を信じる力、自分自身に期待する力、明日の自分を夢見る力、これだけが、私の中にただひとつキラキラ光って、私をたゆみなく前へ進めてきたのです。これが、私の「努力する力」です。「10年後の自分の理想の姿を思い描いてみてください」
このようにいう人たちも多いですが、私にとって10年などという先のことは見当がつきません。
そんな果てしない、そして抽象的な理想を追い求めるのに意味があるとは思えません。もちろん、現状に甘んじることもよいとは思いません。常にこうありたいと願う自分像を、自分の一歩だけ先において、今の自分を一歩進めるということを繰り返す。努力をする際の理想像とは、自分の一歩先にある理想像なのです。一日の終りに、自分の可能性を決して諦めず、自分に期待を掛けて、明日の自分の理想像を思い描く。
努力を完遂するために必要な理想像は、5年後でも10年後でもない、明日の自分です。『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』 第四章 より 山口真由:著 扶桑社:刊
努力を続けていくうえで最も大切なのは、やはり、自分自身の気持ちです。
「自分だけは、努力した自分を否定してはいけない」
頭に刻み込んでおきたい言葉ですね。
「自分の理想像へ一歩でも近づきたい」
その切実な気持ちが、止まりそうになる足を再び前に進ませてくれる力になります。
一日に1分、寝る前に「明日の自分の理想像を思い描く」こと。
習慣にしたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
世の中で「天才」といわれている人たちは、最初から天才に生まれついたわけではありません。
もちろん生れつきの才能の部分もありますが、それを開花させたのは間違いなく本人の努力です。
自分の得意分野を見極め、それを集中的に磨くことが「本当の努力」なのでしょう。
「努力を続ける」ことは誰にもできそうですが、実際にはそうではありません。
できている人には当たり前のことですが、そうでない人にはどうしていいのか分からないことです。
「努力を続ける」にもやり方があり、それを学べば誰にでも習得できるものです。
本書は、そのための“教科書”のような一冊です。
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