本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『勝負に強い人がやっていること』(松本整)

 お薦めの本の紹介です。
 松本整さんの『勝負に強い人がやっていること―ここぞという時に結果を出す考え方・行動の仕方』です。

 松本整(まつもと・ひとし)さんは、元プロ競輪選手です。
 20年以上の間、日本競輪界の第一線でご活躍され、生涯獲得賞金は11億6千万円超にのぼります。
 2004年に45歳で高松宮記念杯で優勝、G1最高齢優勝記録更新で有終の美を飾り、引退されました。

「勝負する」ことは、「人生をどう生きるか」ということ

 受験、就職活動、会社での出世争いなど、人生は勝負の連続。
 その結果は人生を左右するほどの重大事です。
 ところが、勝負に対しての考え方や勝ち方のテクニックなどは、学校では一切教えてくれません。

 松本さんは、ブロ競輪選手として引退するまで、常にトップクラスの競輪選手として、レースの勝ち負けから得る報酬だけで生活をしてきた、正真正銘、本物の勝負師です。

 松本さんは、勝負のプロとして戦っていくために、あらゆる勝負の世界の先人たちの書籍を読み漁(あさ)り、実践する中で、自らの「勝負哲学」を作り上げてきました。
 勝負というものを突き詰めていくと、いかにして勝つかということは、最終的に「人生をどう生きるか」につながります。

 松本さんは、人生の勝負に勝つためには、一人の人間が生まれてから死ぬまでの限られた時間を、いかに生きていくべきなのかを考える必要がありますと述べています。

 本書は、松本さんの経験に基づいて築きあげた「勝負哲学」をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「速い、強い」だけではプロとはいえない

 野球では、すごく速い球を投げる、または抜群の打撃力を持っているなどの特長や強みを持った人たちがいますね。
 このような人たちを「スペシャリスト」と呼びます。

 松本さんは、「スペシャリスト」と「プロ」は似ているような気がしますが、実際に、それぞれに求められる成果は大きく違っていると指摘します。

 それでは、松本さんの考える「プロ」とは、どのようなものでしょうか。

「プロ」は、「スペシャリスト」の専門性に加えて、より職業的な意味合いが多く含まれているのです。
 プロとはその専門分野が職業である以上、一生といわないまでも二十年くらいは、その道のトップで食っていかなければなりません。

 これを製造業に置き換えれば、とても技術的に優れた商品を作っても、その商品が売れなければ、会社は利益を出すことはできません。
 もし売れたとしても、開発費や製造コストを超えた値段で売れなければ、売った分だけ損をします。
 また、ある商品が売れたとしても、他社が同等以上の商品を販売してきたときに新たなヒット商品を作れなければ、売り上げは一気に減少していきます。
 一発屋では会社は存続していけません。つまり、食べていくことはできないのです。
「スペシャリスト」は優れた商品を作ってくれるかもしれませんが、経営の観点から見ればその商品の開発や製造コスト、他の製品との強みや値段の比較、さらにはどう売るかという営業戦略まで考えると、利益を出せる商品以外は経営にとっていい商品とはいえません。
「技術的に優れている商品」と「売れて儲かる商品」は違うのです。
 これにプラスして「スペシャリスト」は専門性が高いがゆえに、得意分野では素晴らしい力を発揮できますが、守備範囲を超えたときには、まったく勝負にならないという危うさも持っています。
 しかし、「プロ」は利益を出し、売れる商品、またはサービスを作り続けたり、不利な状態でも何とか凌(しの)いで、その職業で食い続けることができなければなりません。
 その職業で、継続してトップランナーとして食っていける人です。
 つまり、速い人、強い人ではなく、

「常に勝ち続けることができる人」

 のことをプロというのです。

 『勝負に強い人がやっていること』 第1章 より 松本整:著 Nanaブックス:刊

 プロとは、「勝てる人」というだけでなく「常に勝ち続けることができる人」です。
 そのために最も大事なことは、『自分なりの「勝負哲学」を持つこと』です。

 ちなみに、松本さんの勝負哲学は「最後に勝つために全力を尽くす」です。

リスクを背負う「覚悟」が必要

 松本さんは、勝負師として何より重要なものは「覚悟」だと考えています。
 誰も確信を持って未来を予測することはできません。
 変化の激しい今の世の中では、なおさらですね。

 このような状況下で決断をすることは、常にリスクを伴っています。
 最後の決断を下すには「覚悟」が必要です。

 覚悟の重さとは、自分の目標達成のために、何をどれだけ犠牲にできるか?で測れます。

 タバコもお酒も何も辛抱しないで、アスリートとして成功したいといっても、行く手に大きな困難が立ちはだかったときに乗り越えられる人がいるとは思えません。
 物事は順調なときばかりではありません。逆境に陥ったときこそ、覚悟がものをいうのです。

 僕自身も競輪選手になりたてのころは、落車によってコンクリートの走路に叩きつけられることに、恐怖を感じました。
 また自分への期待が大きすぎて、失敗や負けが怖くなって勝負することが恐ろしく感じてしまったこともありました。
 誰もが勝負することより、勝負の結果が自分の期待を裏切るのが怖いのです。その恐怖が、勝負しない人を増やしていきます。
 競輪では、勝つためには否応なしに勝負しなければなりません。
 僕は、冷静な判断力を持って結果を恐れずに勝負するためには、死人になる覚悟が必要と考えました。
 死人には、体の痛みも死への恐怖もありません。死んでいるのですから結果に対する恐怖もありません。
 そう決めてからは、ファンの方にサインを頼まれたときには、「気魄(きはく)」と書くようにしました。
「魄(はく)」には死んでもこの世に残る魂という意味があります。
 何があろうとも目的を達成する、そして、すでに俺は死んでいる。つまり、命を犠牲にする、命を捨てる覚悟を表したつもりで書いていました。
 それからはレース直前に、恐怖や、自分への期待に押しつぶされ、力が発揮できないということはなくなっていきました。
(中略)
 勝負する以上は「あらゆるリスクに正対する覚悟」が勝負師には必要です。そしてその覚悟の重さが、勝負の行く末に影響します。
 覚悟が決まらなければ、大きな勝負では冷静な判断ができなくなります。
 冷静な判断ができなければ勝利の女神を呼び込むことはできないといえるでしょう。

 『勝負に強い人がやっていること』 第2章 より 松本整:著 Nanaブックス:刊

 勝負ごとに限らず、本番の大事な舞台で本領を発揮するためには、自分のやるべきことだけに集中することが必要です。

「失敗したら」「負けてしまったら」
 そんな余計なことが頭をよぎった時点で、緊張してしまいます。

 どんな場面でも、冷静でいるために必要なのが「覚悟」だということですね。

孤独に耐えられるか?

 自分のレベルが上がるにつれて、参考となる人がいなくなり、自分一人で解決しなければならなくなります。
 松本さんは、どの世界でも、上にいけばいくほど孤独な決断が必要とされると述べています。

 自身の精神的な向上と引き換えに、好むと好まざるとにかかわらず、孤独な決断を下す機会が増えていきます。
 何よりも孤独の本質が持つ特性としては、前記の決断ということにとどまらず、人間というものは、何か大事をなそうとすれば、どうしても孤独に耐えなければならないのです。
 なぜなら、孤独を嫌いすぎるということは、人の評価で、自分の評価を決めるということに繋がってしまうからです。
 本当に何かで勝負をしようとするのであれば、他人が自分をどう思っているかに囚われてはいけません。他人の意見や評価で自分を評価するということでは、勝負どころで極限の状態に置かれたら、その精神はひとたまりもないからです。
 極限を体感して生きる過程では、誰が何といおうと、人に何と思われようとも目指した目標に到達しなければならないときがあります。
 そのための心構えとして、孤独に耐えるということが、どうしても必要となります。
 ドイツの哲学者ショウペン・ハウアーはこういっています。
「我々の生き方が他人の意見の中でどうなっているかということは、我々の性格がもともと極めて弱いためあまりにも高く評価されている」
 そしてこう続けています。
「少し考えただけでも、他人が我々のことをどう思っているかなどということは、それ自身では我々の幸福にとって本質的でないことが分かってくる」
 つまり、弱いから孤独が怖いのです。
 弱いから他人の意見や思惑に振り回されてしまうのです。
 勝ちを目指して生きるということは、孤独なものなのです。いくら傷を舐め合って暮らしていても、死ぬときは一人で旅立たねばなりません。
 この人生で、何かをなそうとするならば、孤独を恐れることなく、信念のために闘わなければならないときが必ずあるでしょう。
 最初から、人を頼りにしているような人間では、極限で味わうような大きなプレッシャーと戦うことができないのは誰でも想像できます。
 極限の自分を乗り越えていくためには、「孤独を恐れない」という心の在り方がどうしても必要だと考えています。

 『勝負に強い人がやっていること』 第4章 より 松本整:著 Nanaブックス:刊

 孤独を嫌わないこと。
 最初から人を頼らず、自分の力でプレッシャーに立ち向かうこと。

 どの分野でも、“超一流”という山の頂に立つためには、誰も登ったことのない道を、自分の信念だけを頼りに、たった一人で進まなけばならないということです。

「〜たら」「〜れば」とは縁を切れ

 勝ち続けようとするなら、決してしてはならないことがあります。
 それは、「〜たら」「〜れば」という言い訳です。

「俺だって努力すればあのくらいやれる」
 そんな台詞は、現実にはやれない、やるだけの能力がない人が、無能を隠すためのものです。
 それよりも、「自分にはできない」ということを素直に認めて、進歩に挑戦することが大事です。

 松本さんは、勝ち続けるに人になるには、まず挑戦する姿勢を身につけなければならないと述べています。

 最初から、強い奴はいないのです。
 自らを奮い立たせて挑戦するうちに、実力を上げて強くなっていくのです。
 まず、戦う前から逃げ口上をいわないようにしましょう。

 プロなら、事前にあらゆる事態の可能性を検証しておくことが必要となります。
 たとえば、僕の場合では、レースのメンバーが発表されたときに、最低九通りの展開を考えます。その中から、最も有利に展開が運んだときにはどうすれば勝ち切れるかを考えます。
 いくら展開が有利でも、最後に勝ち切るには相手とラインの選手の脚力のロスまで計算して、勝ち切る走法をシミュレーションしておきます。
 そして一番大事なのは、最も不利なときです。
 これも、その展開の中でどのように走れば最もチャンスがあるかを緻密に想定しておかなければなりません。
 このように作戦を考えると、十数通り以上の仮説を一度はざっと立てることになります。その中からいくつかのパターンだけを熟考し、あとは頭の隅に置いておくのです。
 下位のクラスの選手と話をしていると、こういった作業が非常に雑です。想定パターンが少ない上に勝ち切るところまで考えていません。
 商売でいうと、売ることは考えていますが、集金については考えていないようなものです。これでは、チャンスが来ても勝つ確率は低くなってしまいます。
 そしてこうした選手に限って、勝負を避けます。
 想定が甘いので、どういう勝負をすることが必要かさえ決められないのです。
 そうしてレースが終わってから、「ああすればよかった」「今回は自信がなかった」とやらなかった理由を並べたてます。
 いつ見てもそういう選手は、同じことをいっています。
「もう少し上手くいけば、俺も何とかなる」といいたいのでしょうが、そういう問題ではありません。
 たぶん100年経っても同じような言い訳をいっていると思います。
 やらない人は、やらない理由を考えるだけの人なのです。
 この、自分をごまかす感覚から脱出しない限り、勝利をつかむことはできません。

 『勝負に強い人がやっていること』 第5章 より 松本整:著 Nanaブックス:刊

 負けたときの言い訳を考えていては、勝てる勝負も勝てなくなります。

 最初から逃げ道をつくらず、あらゆる展開を想定して対策を練って最大限の準備すること。
 それが、勝つチャンスを最大限に高めることにつながります。

 言い訳をせず、結果をそのまま受け入れて、それをバネに成長できる人だけが勝ち続ける人になれるということです。

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 松本さんは、有限な時間を悔いなく生きるためには、「挑戦」という行動を切り離しては考えられませんとおっしゃっています。

 挑戦には、失敗がつきものです。
 失敗の多い人生は、それだけ多くの挑戦をした証でもあります。
 逆に、失敗の少ない人生は、するべき挑戦、勝負から逃げてきただけともいえます。

 本当に勝負強い人は、多くの「負け」という経験を積み重ねながら、それを糧に成長し続けた人。
 人生の勝負は最後の最後までわかりません。

 勝っておごらず、負けてくさらず。
 日々精進していきたいですね。

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