【書評】『禅脳思考』(辻秀一)
お薦めの本の紹介です。
辻秀一先生の『禅脳思考』です。
辻秀一(つじ・しゅういち)先生は、日本体育協会公認、日本医師会公認のスポーツドクターです。
応用スポーツ心理学を基本としたメンタルトレーニングによるパフォーマンス向上をご専門とし、年間200回以上のセミナーや講演をこなされるなど、多方面でご活躍中です。
「禅脳思考」がパフォーマンスを上げる!
分野にかかわらず、安定して高いパフォーマンスを発揮している人の共通点。
それは、「心エントリーの生き方」をしていること。
心エントリーの生き方とは、心の状態を大事にして、心の状態を整えるための生き方
です。
つまり、「自分の心をまず整えれば、自分自身のパフォーマンスが高まる」ことをわかっている生き方
。
人間は、優れた認知脳をもち、その機能を働かせて高度な文明をつくり上げてきました。
認知脳には、意味づけし、比較・評価する機能があります
そのため、結果を求めて暴走しやすい性質があります。
辻先生は、認知脳が働けば働くほど、意味づけが行なわれ、どんどん意味づけの意味ダルマが転がっていく
と述べています。
“認知の罠”にから逃れるために必要なのが、辻先生が、「禅脳思考」と名づけた思考法です。
禅脳思考は、目の前で起きたことに対して、ウソで無理に意味を書き換えるのではなく、あるがままに心を整えるメソッド
です。
辻先生は、禅脳思考を身につければ、座禅を組むことなく、座禅をしたときと同じような心の切り替えができる
と述べています。
本書は、「禅脳思考」を身につけ、心の状態を整える具体的な方法を解説した一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「気づく」という脳の使い方がカギ
禅的な思考の基本は、「本来、意味の付いていないものに意味付けしている自分に気づく」と同時に、心の状態である「感情に気づく」ことです。
辻先生は、自分自身の内側に起こったさまざまな心の状態は、感情という形で気づく
と指摘しています。
今の自分の感情は何なのか?
心の状態を表現して、気づくことがとても大切です。
感情に気づくだけで、内側向きの思考のベクトルが脳の中で働くようになり、認知の外向きの思考にバランスを生み出し、心のフロー化を起こすのです。
「不安だ」「イライラしている」「がっかりしている」「落ち込んでいる」「楽しい」「ドキドキしている」「ワクワクしている」「焦っている」「うれしい」など、なぜそうなったかの出来事や意味ではなく、今自分の内側にはどんな感情が存在しているのかに気づくようにします。
そこには、「良い」「悪い」などの意味もなく、「プラス」「マイナス」の評価もありません。感情に気づくことが何より大切で、それを評価するのが目的ではないのです。ただただ、あるがままの自分の感情に気づくのです。
自分の感情に気づける人は“揺らがず”“とらわれず”のフローな心の状態を、自然に自ら生み出すことができます。
私は、この「気づく」という脳の使い方を「禅脳思考」と呼んでいます。
なぜなら、認知的に外界の出来事に対処したり手を加えたりせず、ただ今ここにある自分に気づき、受け入れる思考だからです。『禅脳思考』 序章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
出来事は、私たちにはどうすることもできないし、変えようがありません。
私たちが変えられるのは、出来事のとらえ方だけです。
出来事のとらえ方を変えるには、まず、自分がどう感じているのか、「あるがままの自分の感情」を正確に把握することが重要です。
出来事について「考えて」ばかりいると、「感じて」「気づく」という脳の働き衰えてしまいます。
対策・対処だけでは、心は整わない
「禅脳思考」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
辻先生は、以下のように説明しています。
たとえば、雨が苦手だとします。朝から雨で憂鬱(ゆううつ)です。
そんなとき、「自分は雨の日も憂鬱にならないから大丈夫だ」という人がいます。
そのような人は次のような対策を講じているのです。
「雨の日は、なるべく外出しないようにしている」「雨の日は、傘をさすのが面倒くさいので、タクシーを使うようにしている」「お気に入りの傘やレインコートを用意する」などです。
もちろん、どれも間違いではないのですが、すべて対策的なので、結局は雨に心は影響を受けたまま、雨のための行動を起こしています。
雨が降った日も「やるべきこと」「したほうがいいこと」「したいこと」「できること」などは存在しているのです。雨のために何か対策行動するのではなく、それを機嫌よく、いつもどおりに遂行したいというのが本心なのではないでしょうか。
つまり、雨に“揺らがず”“とらわれず”なフローな心の状態で、今日一日を生きていくことが一番求められているわけです。そのためには、雨対策の思考ではなく、心を自分で整えるための自家発電型の思考が重要になってきます。
いつでもどこでも外界に関係なく、心を切り替え、心にフローの風を吹かせる自家発電のような脳の機能が禅脳思考なのです。
自分の心は、雨に対処してつくるのではなく、むしろ雨と切り離して整えるのです。雨と切り離す思考とは、雨に揺らぎ、とらわれている自分に気づくことであり、本来意味の付いていない雨に自分が意味付けしてしまっていることに気づくことでもあります。
自分への気づきこそが、心にフローな風を吹かせるスペースをつくり出すのです。
対策をしたり、ポジティブ思考で対処するときは、雨そのものと雨に意味付けした感情で心は満たされていて、心に余裕はありません。それでは、フローな風を心に吹かせることも、新しいエネルギーを生み出すことも難しくなります。『禅脳思考』 第1章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
出来事に意味づけをするのは、「認知脳」と呼ばれる脳の機能の働きによるもの。
生きていくためには認知的な思考が必要です。
しかし、パフォーマンスを最大限に発揮するためには、禅脳思考であることが条件です。
すべてを「あるがまま」に受け止めること。
まさに「禅」の世界に通じる思考ですね。
「禅脳思考」は内側に向かう脳
根本的に認知脳は、「外に向かう脳、禅脳思考は内側に向かう脳」です。
辻先生は、禅脳思考は自分自身への気づきの力でもあり、自分の心のための脳
であり、自分に気づくとは、脳と心に気づくこと
だと述べています。
脳に気づくとは、第一の脳である認知脳に気づくことです。すなわち、意味付けしている自分に気づくことなのです。
意味の付いていない外界のさまざまな事象に、自分の認知脳が意味付けしたことに気づくのが、禅脳思考の入口です。
また、「自分はどのような意味付けをしているのか」に気づくことも大切です。
(中略)
自分自身の意味付けの内容はもちろん、日々意味付けして生きていることすら、気づかずにいます。このような脳の習慣は、認知の世界では形成されないので、意識していくしかありません。
そして、自分自身のもうひとつの構成要素である「心」についしても、気づくことが何より大切です。
「心に気づく」とは、すなわち「感情に気づく」ことです。
ただ、多くの人は、認知の暴走により、「自分の感情に気づく力」も失ってしまっています。
自分の感情に気づけないということは、「自分の心の状態に気づけていない」ということです。認知脳は、外の出来事や、外の出来事に対して付いている意味にとらわれていて、自分の感情には気づくことができなくなっているのです。
現代社会では、「今、自分は◯◯な感情なんだ」というような会話など、全くなくなってしまっているのではないでしょうか。
そもそも感情には、「良い」「悪い」という意味はありません。
感情に気づくだけで、内側向きの「禅脳思考」が作動するので、認知脳の暴走が落ち着きます。
あなたの中にどんな感情があるのか、思い浮かびますか?
あなたは、どのような感情に気づけますか?
楽しい、うれしい、さびしい、うざい、がっかり、わくわく、ドキドキ、充実感、焦燥、後悔、不安、面倒くさい、好き、嫌い・・・・。
今の自分に、どのような感情が生じているのかに気づくことが、禅脳思考の基本です。このような気づきの力こそ、心を整え、心に“揺らがず”“とらわれず”のフロー状態をもたらせてくれます。『禅脳思考』 第2章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
人の心には、つねに何らかの感情を生じています。
ただ、認知脳が働いてしまうことで、その感情に気づけないことが多いというです。
自分の内側(心)に意識を向けること。
「考える」のではなく「感じる」こと。
普段から意識していたいですね。
「今に生きるとただ考える」
緊張、不安、憂鬱などのフロー状態を妨げる感情。
それらは、すべて外界のさまざまな事象に認知脳が意味づけすることから起こります。
認知脳は、「過去」の記憶をもとに「未来」を思考します。
過去は変えることはできないし、未来は予測不可能です。
それらに焦点を合わせて思考を続ける限り、意味づけが意味づけを呼んで、ノンフロー状態を生み出す
ことになります。
辻先生は、禅脳思考で心を整えるために「今を生きると考える」
ことを勧めています。
「完璧に今に生きてください」と言っているのではありません。それは、認知脳がある限り難しいことです。しかし、過去や未来に思考がいく中で、今に生きると考え、自分を整えることは可能です。
「今に生きるとただ考える」ようになるだけで、これまでのように、外側に持っていかれていた自分の心が、落ち着き、切り替えられるようになります。
「今に生きるには、どうすればいいんですか?」という質問をよく受けますが、禅脳思考とは、ただ思考し、その思考のエネルギーで心に変化をつくることなので、ただ考えるだけでいいのです。
深く考えるというよりも、「今に生きる」と唱えるイメージです。認知脳は、目的語がある思考ですが、禅脳思考はジャストシンキングです。
「今に生きると考える」
以上、終わりです。「まあいいから考えよ」ということです。
そう思考しない自分よりも、そう思考するほうの自分に、フローな心の変化が生じます。この思考を繰り返し意識し、体感してシェアしていると、スキル化されて、自然に「今に生きる」と考えられるようになります。
「気にしない」と思ったり、「ポジティブ思考」をしているときとは違った感覚で、心にフローな風を自ら起こすことができるようになったと感じられるはずです。
「今」という瞬間を「1秒」と考えれば、一日24時間で86400秒もあります。86400回も「今に生きる」と自然に考えられるようになれば、いつも新しい自由な「今」を謳歌(おうか)して、生きることができるでしょう。
しかし、認知脳が過去や未来に思考を馳(は)せる中で、禅脳思考によって今に生きると考える習慣はなかなか身につきにくいのも事実です。
緊張、不安、憂鬱がない人生などありません。それが、人生でもあります。認知脳が常時それらをつくり出そうとしているからです。
それに対策、対応し、それをなくそうともがいたり、あがいたりするのではなく、禅脳思考をただただ意識する習慣をつければ、緊張、不安、憂鬱の海で溺れていたのを、自ら切り替えて、より自由に人生の海で泳ぐことができるのです。
「今に生きると考える」ことのすごさを、ぜひあなたも体感してください。『禅脳思考』 第3章 より 辻秀一:著 フォレスト出版:刊
やるべきことに集中できないのは、雑念が入るからです。
雑念のほとんどは「過去」か「未来」についてのことです。
考えてもどうしようもないことばかりですね。
「今を生きると考える」
頭に刻みつけたい言葉ですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「禅脳思考」というと、なんとなく難しいイメージがあります。
しかし、その本質はとてもシンプルでわかりやすいものです。
禅脳思考とは、「あるがままの自分を感じ、今、この瞬間を生きる」ための思考。
それによって脳にフロー状態をつくり出します。
基本はいつも「自分自身」です。
周りに惑わされることなく、自分の感情に耳を傾けて、ごきげんな状態をたもてること。
「禅脳思考」は、安定して高いパフォーマンスを発揮するためには欠かせないスキル。
ぜひ身につけたいですね。
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