本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ANAの口ぐせ』(ANAビジネスソリューション)

 お薦めの本の紹介です。
 ANAビジネスソリューションの『ANAの口ぐせ』です。

 ANAビジネスソリューションは、ANAグループのノウハウを活かし、主に「研修事業」「人材派遣事業」を行っている、ANAホールディングスの100%子会社です。

ANAに息づく「おせっかい文化」

 ANAグループは、英国スカイトラックス社より定時到着率や欠航の少なさで「世界一」の評価を受ける、世界でもトップクラスの実力を誇る航空会社です。

 その社員三万人の一人ひとりが日々、何気なく使う言葉=「口ぐせ」
 口ぐせの根底には、「TEAM ANA」に脈々と受け継がれている「おせっかい文化」があります。

「おせっかい」という言葉は、仕事では、マイナスの意味で使われることが多いですね。
 ANAでは、この言葉をポジティブに捉えています。
 おせっかいにより、相手に「もう一歩」踏み込むことで、「もうひと言」を加えるだけで、相手との関係は劇的に深まると、その効果を強調しています。
「おせっかい」を一人ひとりが実践することで、『「チーム」でコミュニケーションを活発にとり合う風土』できあがるとのこと。

 本書は、長年、先輩から後輩へ受け継がれてきた「ANAの口ぐせ」と、その裏側にあるしくみやしかけを公開し、チームで成果を出す働き方をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「おせっかい」で成果が上がる

 私たちは、仕事場で気づいたことがあっても、自分に関係ないことは「まあいいか」で済ましてしまいがちです。
 ANAの社員には、この「まあ、いいか」の発想がありません。
どんな小さなことでも、気づいたことを「放置」せず、できるだけ「その瞬間」に伝えるとのこと。

 飛行機のコックピット(操縦室)には、機長と副操縦士がいます。どちらかが、「あれ、おかしいな」と気づいたことがあれば、たとえ相手が立場的に上の機長に対してでも声をかけます。
 飛行中、機長は地上の管制官の指示で高度計をセットします。
 例えば高度計が3000フィート(約900メートル)にセットされたときに、副操縦士は、
「あれ、キャプテン、管制官は高度4000フィート(約1200メートル)と言っていたと思いますが・・・・もう一度確認しますね」
 などと声をかけます。
 機内のCA(キャビンアテンダント、客室乗務員)の場合も同様。たとえ相手が初めてチームを組む社員であっても、お客様への対応で気づいたことがあれば、お客様から見えない裏側で、
「いま、お客様にどう声をかけていたの? すごく楽しそうに話していたね」
 などと確認しています。

 気づいたことがあれば、即伝える。
 これはANAの「おせっかい文化」の現れです。自分自身のことだけに注意を払うのでなく、仕事をいっしょにする仲間のことにも注意を払い、そして気づいたことがあれば口に出して言う。
 そうすることで、運航の安全性をより高めることができる。お客様へのサービスの質をより高めることができる。チーム全体としての力を高めることができる──それらが結果的に、個人の成果にもつながるのです。

 『ANAの口ぐせ』 Chapter 1 より  ANAビジネスソリューション:著  中経出版:刊

 飛行機は、ちょっとした異常でも放っておくと、致命的な事故につながる恐れがあります。
 それを防止するためにも、普段から気づいたことを言い合う習慣を叩き込んでいるわけですね。

「気づいたことがあれば、即伝える」
 ミスの許されない組織ほど、お互いにフォローし合う意識が重要になりますね。

格納庫でパイロットたちは語り合う

 ANAでは、パイロット同士、CA同士が「おしゃべり」や「雑談」などを通じて、積極的なコミュニケーションを図っています。

 会社では、会議などの正式な発言ではない、いわゆる「おしゃべり」「雑談」は、ムダな時間と思われがちです。
 しかしANAでは、同期同士、先輩と後輩、時に上司と部下が、情報共有や意見交換をする何気ない「おしゃべり」の蓄積を、大切なものととらえています。「おしゃべり」や「雑談」だからこその本音や実感が込められている。自分一人では経験できないことを仲間から得る機会になるのです。

 ANAをはじめ、航空会社のパイロットたちの間には「ハンガートーク」と呼ばれる会話の場があります。「ハンガー(Hangar)」とは、飛行機の格納庫のこと。かつて、パイロットたちは天候が悪くて飛行機を飛ばせない状況になると格納庫の片隅に集まって経験談に花を咲かせていました。

パイロットA「ちょっと聞いてくれよ。この間、サンフランシスコ空港の上空で30分も待機することになったんだ。到着時は予想どおり晴れのいい天気だったのに、それでも混雑していて・・・・」
パイロットB「なんで? 天候は良かったんだろう?」
パイロットA「到着予定時刻の一時間前まで雨と霧で、天候が回復した後も混雑がなかなか解消されなかったんだ。幸いその日はベテラン機長のアドバイスで多めに燃料を搭載していたから無事到着できたけど・・・・。他の航空機では燃料が少なくなって、近隣のサンノゼ空港に目的地を変更していたところもあったよ」
パイロットB「そうなんだ。勉強になったよ」

 勤続二十一年、ボーイング777型機機長の鈴木靖彦は、「ハンガートーク」の重要性をこう話します。
「自分がまだ経験していないことを、相手は積極的に話してくれる。自分も、なにか経験をしたら積極的に話す。一人の人が自分の仕事の中で経験できることには限界があるので、他の人の経験を共有できるのは貴重なことです」 

 『ANAの口ぐせ』 Chapter 2 より  ANAビジネスソリューション:著  中経出版:刊

 飛行機は、二十四時間休まずに、世界中を飛んでいます。
 各地の飛行場の天候など、刻一刻と変わっていきます。
 少しでも最新の情報を得ておくことが、安全なフライトを行うためには不可欠です。
「ハンガートーク」は、“現場”の生の声を聞くことができる貴重な場として機能しています。

「究極の選択」で現れる会社の底力

 ANAは、何か異常があった場合、それが勘違いだったとしても、報告した社員を尊重します。
「安全第一」の風土が、会社のトップから末端の社員に至る隅々まで浸透しているということです。

 あるCAが、客室の安全を確認してシートに着席すると、ドアの下のほうから普段は聞こえないような「異音」が聞こえてくる。でも、飛行機は滑走路に入る直前・・・・いま、機長に「異音がする」と報告をしたら飛行機は駐機場に引き返すかもしれない。そうしたら、運航に遅れが発生し、たくさんのお客様にご迷惑をかけてしまう──。
 このような状況になったとき、あなたならどうするでしょうか? 離陸前の最も緊張感が高まる時間帯に、わざわざ機長に報告するか、あるいはやめておくべきか。その判断には、強いプレッシャーがかかります。

 ANAの社員たちも、このような状況に直面することがあります。ANAでは、ここでとるべき「正しい」行動を明確に決めています。
 少しでも運航の安全に影響を与えるようなことは、機長に報告しなければなりません。ひと口に異音といってもその原因は様々です。それが安全に影響をあたえるかどうか、判断に迷ったときは報告をすべきとしています。なぜなら、ANAでは、「安全」が経営の基盤であり社会への責務だとしているからです。

  • 〆切か、クオリティか。
  • コストか、お客様満足か。
  • 目先の売り上げか、将来への投資か。

 日々仕事をしていると、様々な「ジレンマ」が私たちの前に立ちはだかります。
 二つを両立できれば言うことはありませんが、それができない場合、頭では「クオリティが大切」「お客様満足が大切」とわかっていても、いざ行動しようというときになって「効率」や「自分の利益」を優先してしまい、大きな問題を引き起こしてしまうこともあり得るのです。
「ANAは航空会社なんだから、安全第一は当たり前じゃないか」と、思うかもしれません。でも社員一人ひとりが、どのような状況でも「安全第一」で行動できるかどうかに、その会社の本当の底力が現れるといっても過言ではありません。

 『ANAの口ぐせ』 Chapter 3 より  ANAビジネスソリューション:著  中経出版:刊

「安全第一」をスローガンに掲げていても、実際には、効率や生産量を優先している会社は多いです。
 不注意からの災害や事故がなくならないのは、安全に対する意識の甘さが最大の理由でしょう。
「安全第一」を本気で取り組み、実際に行動で示しているANAのモラルの高さは際立ちますね。

仕事の大部分は小さくて当たり前のことで成り立っている

「小さいことほど丁寧に 当たり前のことほど真剣に」

 この言葉は、ANA客室部門の社員が日々の業務において、つねに意識して大切にしている言葉です。

 通常、仕事は、

  • 人と対話する
  • 文書をつくる
  • 相手に連絡する

 など、小さな作業の積み重ねで、その結果ビッグイベントが開催できたり、新商品が発売できたりするのです。
 その小さな作業を丁寧に行うことが、ANAが経営の基盤としている安全運航につながるし、お客様に満足いただき自分たちもよろこびを得られる接遇にもつながる。そんな思いが「小さいことほど丁寧に」に込められています。
(中略)
 また、「当たり前のこと」とは仕事の基本です。当たり前なので意識さえしないようなことにも真剣に取り組むことで、仕事の基本をいつまでも忘れない。そんな思いが「当たり前のことほど真剣に」に込められています。

  • 身だしなみを整える
  • あいさつをする
  • 集合時間に遅れない
  • メモを取る
  • マニュアルを確認する
  • ルールを守る

 こうした内容は、社会人であれば「当然のことだよ」と一蹴(いっしゅう)されるような、簡単なことかもしれません。私たちが研修を行う企業のアンケートでも、「そんなこと、もう知ってるよ」「もっと難しいことを教えてもらえるのかと思った」という声をいただくこともあります。

 しかし「小さいこと」「当たり前のこと」をないがしろにしたとき、信頼は崩れます。
 航空会社は、「飛行機をA地点からB地点に飛ばす」という点で、どの会社も業務内容に違いがありません。だから、お客様はなぜANAグループを選んでくださっているのか、選んで利用してくれたお客様がなにをANAに期待しているのかを常に考え、お客様の「信頼」に一つひとつきちんと応えていくことが必要です。
 信頼は、積み重ねるのに何年、何十年の月日がかかります。しかし、失うのは一瞬です。私たちはこのことを、肝に銘じて仕事をしています。

 『ANAの口ぐせ』 Chapter 5 より  ANAビジネスソリューション:著  中経出版:刊

 本当に大切なものほど、その存在のありがたさを実感できないもの。
「信頼」も、そのひとつです。

「小さいことほど丁寧に 当たり前のことほど真剣に」
 その心構えは、私たちもつねに持ち続けたいですね。

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 旅客機の運航は、お客さまの命を預かる仕事です。
 速く、快適に目的地に到着するサービスを提供することはもちろんですが、なにより「安全」であることが最優先とされます。

 技術が進歩しても、大きな事故の引き金となるのは、個人レベルのミスや見落としよるもの。
 一人の目ではなく、多くの目で確認することは、二重三重のチェックとして機能します。
 ANAは、「口ぐせ」を利用することで、個人レベルのミスをうまくチームでカバーする風土をつくり上げています。

「品質」や「安全」の重要性が、今まで以上に叫ばれている昨今。
 ANAの「口ぐせ」そして、それを育む「おせっかい文化」は、チームで動くすべての仕事において参考にすべき貴重なサンプルといえます。

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