本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

『企業が「帝国化」する』(松井博)

 お薦めの本の紹介です。
 松井博さんの『企業が「帝国化」する アップル、マクドナルド、エクソン~新しい統治者たちの素顔』です。

 松井博(まつい・ひろし)さん(@Matsuhiro)は、2002年から米国アップル本社の開発本部に在籍し、iPodやマッキントッシュなどのハードウェア製品の品質保証部のシニアマネージャーを務めました。
 2009年に同社を退職、現在はカリフォルニア州で保育園を経営されています。

国を超えた「超巨大企業の存在」

 世界規模で莫大(ばくだい)な利益を上げている企業。
 例えば、アマゾン、グーグル、マクドナルド、エクソンモービルなど。
 それらは、みなアップルに酷似したやり方で会社を経営し、それぞれの市場で強い影響力を持ちます。

 これらの企業は、時代の変わり目に直面してたじろぐ国家を尻目に、新しい秩序を急速に構築しつつあります。
 そして、私たちの生活を根底から変え、政治へも強い影響力を及ぼしています。

 単なる多国籍企業といった枠をはるかに超えた、「私設帝国」とも呼ぶべき存在です。

「私設帝国」が築きあげつつあるビジネスの仕組み。
 そこで働く人々の素顔はどのようなものなのでしょうか。

 本書は、グローバル巨大企業が、どのように「一人勝ち」する構造を創り上げているのかを分析した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「私設帝国」・・・その仕組みとは?

 松井さんがアップルを退職して気づいたこと。
 それは、世の中は「仕組み」を創る少数の人々、「仕組み」の中で使われる大半の低賃金労働者、そして「仕組み」の中で消費を強いられる消費者という三つの側面から成り立っていることでした。

 この“仕組み”に気づき、世界中を着々と支配し始めている「私設帝国」の存在が見えてきました。

「私設帝国」というのは私の造語です。さまざまな業界に「帝国」と呼ばれるのにふさわしい巨大企業が君臨しており、こうした企業がそれ以前のビジネスのやり方を根底から覆し、新しい秩序を創り上げています。逆に言えば、ビジネスのやり方を根底から変えてしまうような企業でなければ、「帝国」と呼ぶに値しないということになります。かつてのマイクロソフトもその巨大な影響力により「帝国」と呼ばれた時期もありました。現在はその頂点の座こそアップルに譲ってしまったものの、巨大な影響力を誇る「私設帝国」であることには変わりありません。
 これらの企業は既存のビジネスのやり方を変えてしまうのはもちろんのこと、顧客にもそれまでとはまったく異なる価値観やサービスを提供し、顧客をガッチリと自らの「仕組み」の中に取り込み、顧客側が「帝国」に依存し続けるしかないような構造を創り上げるのです。

 『企業が「帝国化」する』 第1章 より 松井博:著 アスキー・メディアワークス:刊

「私設帝国」には以下の三つの際立った特徴があります。

  • ビジネスの在り方を変えてしまう
  • 顧客を「餌付け」する強力な仕組みを持つ
  • 特定の業界の頂点に君臨し、巨大な影響力を持つ

 一度取り込んだ顧客を手放すことなく、次々と新たな“領土”を拡大していく仕組み。
 まさに、“帝国”の名にふさわしいものですね。

国家に帰属しない企業

 “帝国”の特徴のひとつに、「さまざまな国籍の人材を雇い入れる」ことがあります。
 これらの企業は、自らを特定の国家に属する組織だとは思っていません。

 松井さんは、企業の中枢を多国籍化することのメリットを、以下のように述べています。

 企業の中枢を多国籍化・多文化化する最大のメリットは、最初から「世界中で通用する製品」を開発したり、「世界中で通用するマーケティング戦略」を練り上げたりできることでしょう。人材に多様性を持たせることで、さまざまな視点をデザインや戦略に取り入れ、どの国でも通用する極めて普遍性の高い製品やサービスを開発することが可能になるのでしょう。アップルではジョナサン・アイブが率いるデザインチームには外国人のデザイナーが大量にいる上、アイブ自身もイギリス人です。これはデザインだけでなく、マーケティングや開発などでも同様です。
 また末端の平社員から幹部まであらゆる階層にさまざまな国籍の人がいることで、国籍、性別、人種不問という雰囲気が形成されます。社会的帰属よりも実力や実績が重視されるカルチャーが形成され、そうした雰囲気がさらに世界中から優秀な人材を呼び寄せる原動力となります。

 『企業が「帝国化」する』 第3章 より 松井博:著 アスキー・メディアワークス:刊

 国という枠組みにとらわれない、発想や風土。
 それらが、優れた人材を呼び寄せ、世界中どこでも受け入れられる製品を創る秘訣です。

 多国籍からなる、“精鋭部隊”の縦横無尽の活躍。
 それが、「私設帝国」の原動力となっているのは間違いなさそうですね。

精肉業を支える違法移民

「私設帝国」は、メディア広告を大量に流すなど優れたマーケティングで、世界中に自分たちの製品を大量に流通させることに成功しました。

 その陰で、「私設帝国」を支えるシステムの底辺で働く人々は、労働環境の劣悪で危険ないわゆる「汚れた仕事」に従事せざるを得ない状況になっています。

 例えば、ファストフードなどで大量に消費される「牛肉」について。
 松井さんは、米国内の食肉加工工場での過酷な労働環境の実体を、以下のように述べています。

 現在アメリカで生産される食牛の大半は大手四社が所有するわずか二十六カ所の精肉所へと運ばれていきます。食肉会社は巨大化するにつれ、工場をアメリカ国内でも特に貧困にあえぐ地域に移し、組合を解体し、安い給与で地元の失業者たちを雇い入れたのです。しかしあまりにきつく危険な仕事のため、やがて地元にすら働く人がいなくなってしまいました。すると次には違法移民を雇い入れたのです。移民たちは英語がしゃべれない、違法で入国している、あるいは教育程度が低いなどのさまざまなハンディキャップによってほとんど仕事を選ぶことができないため、このような低賃金で危険な仕事に就かざるを得ません。またこうした食肉会社に雇用されている移民たちは「独立契約者」という形で雇われるため、会社から健康保険も用意されず、事故が発生した場合にも契約者の自己責任という形で責任を背負わされてしまうのです。

 『企業が「帝国化」する』 第4章 より 松井博:著 アスキー・メディアワークス:刊

 精肉所で最も危険な夜間の清掃作業は、ほぼ全員が違法移民です。
 そこでは、重大な事故も、しばしば起こるそうです。

 そのような労働者の惨劇は、報道されることはおろか、裁判沙汰(ざた)になることもほとんどありません。
「私設帝国」の快適なサービスは、末端の低賃金労働者の多大な犠牲によって支えられているわけです。

「周囲と同じように振る舞う」ではダメ!

 松井さんは、日本企業が新興国でのビジネスに真剣になればなるほど、アップルやインテルなどのように多様な人材を世界各地から採用するようになり、力のある企業は自らの「帝国化」を図っていくだろうと述べています。

 この流れは、日本でも、「使われる側」と「仕組みを創る側」という労働力の二極化を加速させます。

 松井さんは、今後は、自分がどんな人生を歩んでいきたいのか、自分なりの考えを持つことが非常に重要になると強調しています。

 親の世代にはまったく存在しなかった変化が津波のように押し寄せています。そのため年長者の意見もほとんど参考になりません。その上国家さえ当てにならないのです。「誰かの行動様式を模倣(もほう)する」という発想そのものを捨てるときが来ているといってもいいでしょう。
 その時々に自分の頭で考え、判断を下し、自分なりに開拓していく、そんな勇気が必要なのです。例えば日本の財政問題や少子高齢化などをかんがみて、海外に移住したほうが賢明だと考える人もいるでしょうし、国内で医療や福祉の資格を取得するのが賢明だと考える人もいるでしょう。どちらも正解であるかもしれませんし、正解ではないかもしれません。いずれにせよ、自分の頭で考えるしかないのです。
 自分の頭で考え、他人と異なった道へ踏み出していくのは勇気が必要な行動です。特に日本人にとって「他人と異なる行動をとる」ことほど勇気を要するものはありません。しかも自分が考えたことが正しいという保証はありません。不安なことを考え始めればいくらでも浮かんでくるでしょう。収入が減る時期もあるでしょうし、さまざまな困難にも直面するでしょう。海外に暮らすということになるかもしれませんし、職種を百八十度変えなければならないかもしれません。しかしビクビクしていたって何も始まりません。必要なのは、そういった困難に直面したり選択に迫られたときに自分なりに冷静に考え、判断し、そこに賭けてゆく勇気です。

 『企業が「帝国化」する』 第10章 より 松井博:著 アスキー・メディアワークス:刊

「他人と異なった道へ踏み出していく」

 多くの日本人にとって、勇気のいることですね。
 ただ、それができないことには、独自の発想も、自分だけの強みも生まれません。

 松井さんは、「専門的な技能と創造性の有無」と「語学力」が労働力が二極化されるされる際の大きな鍵になると考えています。

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「私設帝国」の存在感は、私たちの想像より、はるかに巨大です。
 すでに、「ひとつの国」以上の影響力を持っています。

「帝国」存在は、社会の在り方さえも、根本的に変えつつあります。
 そのひとつが、「先進国における中産階級の没落」です。

 私設帝国の作り上げる「仕組み」が、仕事が海外へ移ったり、自動化されたりして、中産階級を圧迫し続けています。

 かつては「一億総中流」ともいわれ、現在も他の先進国と比べて貧富の差が少ない日本ですが、他人事ではありません。

 備えあれば憂いなし。
 “帝国”がいつ“侵略”しても慌てることがないよう、しっかりとした備えをしておきたいですね。

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