本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『鬱〈うつ〉に離婚に、休職が・・・ 』(玉村勇喜)

 お薦めの本の紹介です。
 玉村勇喜さんの『鬱〈うつ〉に離婚に、休職が… ぼくはそれでも生きるべきなんだ』です。

 玉村勇喜(たまむら・ゆうき)さんは、うつ克服カウンセラーです。

「うつ」になったとき、どう対処すればいい?

 全国で100万人を超える患者数がいる「うつ病」。
 病院で治療を受けていない潜在的な人数を含めると、その数倍に膨れあがります。

 うつ病は、発生のメカニズムが完全には解明されておらず、予防の難しい病気です。
 単なる気分の落ち込みだ、と放っていたら「うつ状態」に陥っていた、ということもあります。
 うつ病に対する偏見も、うつ症状の発見を遅らせる大きな原因ですね。

「うつ病にかかるなんて、精神がたるんでいるだけだ」
「うつ病だといって、サボりたいだけだろ」

 いまだに、そんなようなこと考えている人も多いです。

 発症した人でないと理解できない病気。
 誰がいつ罹(かか)ってもおかしくない病気。
 それが、うつ病です。

 自分が罹ってしまったとき、どう対処すればいいのか?
 家族の誰かが罹ったとき、周りの人は接すればいいのか?
 そのようなことを考える上で、うつ病経験者の体験談は、大いに役に立ちますね。

 玉村さんは、大学卒業後、大手メーカーに就職しましたが、間もなくうつ病を発症しました。
 およそ三年の闘病生活で、二度にわたる休職、離婚、様々なつらいうつ症状を体験しています。

 本書は、うつ病経験者である玉村さんが、そのときの心境や具体的な症状などの体験を記録した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「うつ」は突然やってくる!

 玉村さんに「うつ」の兆候が出始めたのは、社会人一年目を過ぎた頃。
 その後、だんだんと症状がつらくなっていきましたが、なんとかやりすごしていたそうです。

 しかし、2011年3月11日の東日本大震災がきっかけで、今まで押さえ込んでいたものがいっきに表面化します。

 そのころは忙しさのピークで、毎週休日出勤をしていた。
 がらんとした職場で仕事をしていたが、だんだん頭が回らなくなってきた。
 回路が組めないのである。
 これはどうしたことかと、休憩を挟んだ。
 深呼吸を終えて「さあ仕事に戻ろう」としても、思考回路が停止している。
 これはやばいぞと、腕立て伏せをした。
 体を動かせば頭が回復するのではないかと思ったのだ。
 エアコンのスイッチを触りに行ったり、トイレに行ったりもした。
 なにか体を動かさなきゃと思った。
 それでも、仕事は手につかなかった。
 辛かった。信じられなかった。
 反面、このころにはすでにうつ病の知識もあり、自分はうつだ直感していた。
 でも、まさか自分に降りかかるなんて思ってもみなかった。
 うつになる人はみんな、「まさか自分がなるなんて」と思っていただろう。
 僕もその一人だった。
 認めたくなかった。
 でも、仕事ができない現実を受け入れるしかなかった。
 その翌週も仕事をしていたが、「これでは仕事にならない」と病院に行った。
 案の定、うつ病とのことだった。
 このときは、「うつ状態」と診断された。
 信じられなかった。受け入れたくなかった。
 でも、受け入れざるをえない。自分はうつなのだから。
 うつが現実になるなんて。奥さんになんて言えばよいのだろう。
 仕事の負荷と納期に追われ、
 自分の能力の限界を超えて仕事をしていることは、なかばわかっていた。
 でも、まさかうつになるとは思っていなかった。
 自分は強い人間だと思っていたけれど、ほんとうは弱い人間だったのだ。

 『鬱〈うつ〉に離婚に、休職が・・・・』 第一章 より  玉村勇喜:著  京都通信社:刊

 うつ病は「心の風邪」とも呼ばれているとおり、誰でも罹(かか)る可能性はあります。
「自分は大丈夫」と過信している人ほど危険ですね。

 こじらせると大変なのも、風邪と同様です。
「うつかも・・・・」
 そう感じたら心療内科の先生に診断してもらうなど、早めの対処が必要ですね。

「うつ」は再発する!

 休職を余儀なくされた玉村さん。
 自宅での休養とお医者さんからの処方薬のおかげで、二ヶ月で職場に復帰できるほどに回復します。

 うつの症状も治まり、再びバリバリ仕事を始めましたが、思わぬ落とし穴が待っていました。
 オーバーワークでうつ症状が再び襲いかかり、二回目の休職をせざるを得なくなります。

 一回目のときは一週間くらいで動けたが、
 二回目の休職は動けるようになるまで三週間くらいかかった。
 とにかく一日中をベットで過ごす。
 やることといったら寝ている向きを変えるだけ。
 ひたすらベットで寝返りを打っていた。
 とにかく辛かったのを覚えている。
 季節は冬を終え、きれいな桜が咲くころだった。
 なにもしていないのにこんなに辛いなんて。
 なにかをする気が起こらない。
 ベッドで寝ていると足元にやってきてくれるのだが、遊ぼうという気持ちがしなかった。
 外では華やかな花が咲き誇っているのに、自分は布団にうずくまっている。
 自分がなんだか、ちっぽけな存在に思えた。
 自分で自分を罵(ののし)ることもあった。
「なんてダメなやつだ」
「ちょっと気合を入れただけでこのザマだ」
「ほんとうに情けない」
 そんなことをブツブツ言っていた。
 そして一回目の休職と同じように、また睡眠障害が出た。
 それもまた三日間。
 入眠はうまくゆくのだが、朝早くに目が覚める。
 そこからが眠れない。眠りに落ちない。
 目がパッチリと冴える。
 これには困った。苦しくて辛いのに眠れない。
 辛さに耐えながら起きているしかなかった。
 ずっと悶々(もんもん)としていたと思う。
 ずっと奥さんにくっついて寝ていた。
 朝になって奥さんが起きる。
「おはよう」という元気もなかった。
 うつうつとした気持ちは、それから三週間つづくことになった。
 三週間は地獄だった。辛い、辛すぎる。
 早く症状が改善されてほしい。
 薬を飲んでいたのに、なんでまた悪化したのか。悔しくて、悔しくてしかたがなかった。
 医者のせいでもない。薬のせいでもない。
 それはわかっていたけれど、残念でしかたがなかった。
「いつになればぼくの病気は治るんだろう」
「早く治して職場復帰しないといけない」
 とにかく安静にしているしかなかった。
「怪我をしているわけでもないのに一日中ベットにいるなんて・・・・・」
 情けなくしかたがなかった。

 『鬱〈うつ〉に離婚に、休職が・・・・』 第二章 より  玉村勇喜:著  京都通信社:刊

 うつ病は、再発しやすい病気です。
「治った!」と思っても、油断していると再び忍び寄ってきてきます。

 社会復帰できても、いきなりアクセル全開にはせず、徐々に体をなじませていくこと。
 それがうつ病再発を防ぐカギですね。

「憂鬱感」に負けるな!

 うつ病の患者は、見た目は健常者と変わりません。
 それでもれっきとした「病気」です。
 何もする気力がなくなり、頭が働かなくって、体を動かそうと思っても動かない。
 そんなつらい状態が続きます。
  本人は精一杯やっていても、周りからは、怠けているように見えてしまうこともあります。
「経験した人でないと、理解できない」部分が多いのでしょう。

 うつ症状のなかで、とくにつらいことのひとつが「憂鬱(ゆううつ)感」です。
 健常者も、落ち込んだりしたときに憂鬱感を抱くことはあります。
 しかし、うつ病で感じる憂鬱感は、それとはまったく違うのだそうです。

 ネガティブなことを感じる憂鬱感とは、なにかが違うのだ。
 ネガティブなことを考えるからではなく、急にガツンと憂鬱感が襲ってくる。
 じわじわと、しかし、気がつくと憂鬱感の波に飲まれている。
 自分ではコントロールできない。
 得体のしれないなにかにとりつかれたような、そんな恐怖を覚えた。
 この憂鬱感に突如として襲われると、死にたくなる。
「電車に飛び込んでもいいかな」という気持ちになる。
「屋上から飛び込んでもいい、道路に飛び出して跳ねられてしまえ」
 そんなことが簡単にできそうな心境になる。
「自分の意志でどうにかする」とか「前向きに考える」という次元を超えていた。
 自分ではない何者かに憂鬱感のヘルメットをかぶせられて、
 機械的に憂鬱感を襲わせている感じ。
 自分の脳みそを別の異常な憂鬱脳みそにむりやり取り替えられた気分。
 健康なときに感じる「なんか憂鬱だな〜」というのと百歩も異なっていた。
 恐ろしくマイナスな気持ちになるのだ。
 この憂鬱感が出たときにはなにもできない。
 本を読むことも、パソコンをすることも、テレビを見ることもできない。
 ひたすら布団に潜り込んで、この憂鬱感が抜けるのを待つしかなかった。
 なぜかわからないが、布団に入ると二時間くらいで憂鬱感はどこかに行ってしまう。
「あれはなんだったのだろう?」、そう思わせるくらい、ふつうに戻ってしまう。
 憂鬱感モードからふつうモードに戻ってしまうのだ。
「先生に訴えて治してもらおう」と強く思っていた気持ちが、ストンとなくなる。
「ゼロか百か」みたいな気持ちだった。
 それでも、憂鬱感が出たときには死にたい。辛い、発狂しそうだという気分になる。
 両親にまでも、辛い気持ちをメールで送ったりしている。
「これは鬼だ、悪魔だ、もう会社なんか行かない、ぼくは死ぬ運命なのだ」
 と悲痛に叫んでいた。
 どうしようもない憂鬱感。罪悪感も後ろめたさもあった。
 憂鬱感が出ると、すべてがマイナスの方向に引っ張られてしまう。
「ぼくは生きている価値がない、死んだほうがマシだ」
「二度と結婚なんてできるはずがない」
 そう本気で思ってしまうのだ。

 『鬱〈うつ〉に離婚に、休職が・・・・』 第三章 より  玉村勇喜:著  京都通信社:刊

 自分ではどうしようもない感情の落ち込みなのでしょう。
 健常者の憂鬱感が小さい波だとしたら、うつ病患者の憂鬱感は大波です。

 力を抜いてしまうと体ごと持っていかれてしまう、そんな恐怖感と戦うことになります。
 この憂鬱感の波をどう乗り越えるかが、うつ病克服の大きなポイントになりますね。

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 うつ病の最も恐ろしいのは、生きる気力を奪ってしまうことです。
 日本では、毎年三万人の人が自ら命を絶っていますが、その理由の多くがうつ病でしょう。

 幸せは、心のあり方が決めます。
 うつ病でつらく苦しい時期を過ごしていても、いずれそれが治まるときがきます。
 受けた苦しみが大きかったぶんだけ、感じられる幸せも大きくなります。
「生きているだけで幸せ」だと思えるようにもなるでしょう。

 死ぬ勇気があるのなら、生きる勇気をもってほしい。
 うつ病に苦しむ人へ、そんな玉村さんの温かいメッセージが込められた一冊です。

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