【書評】『逆転力』(指原莉乃)
お薦めの本の紹介です。
指原莉乃さんの『逆転力 〜ピンチを待て〜』です。
指原莉乃(さしはら・りの)さんは、アイドルです。「さしこ」の愛称で親しまれています。
2008年よりAKB48のメンバーとして活動を始められ、現在は、その姉妹グループのHKT48の中心メンバーとしてご活躍中です。
2013年には、AKB48総選挙でまさかの1位を勝ち取り、話題になりました。
ピンチになるからこそ、逆転できる
挫折は、本人が望もうと、望むまいと人生のどこかで必ず出会うもの。
挫折に出会ったとき、それをどう対処するかで、その人の人生は大きく変わっていきます。
指原さんは、自分の人生は、ピンチからの逆転、の積み重ね
だったと述べています。
中学生時代、ただのネット好きのアイドルオタクだった指原さんが、AKB48のセンターを務めるまでに上り詰めた原動力。
それが、ピンチを自分の力に変える「逆転力」でした。
本書は、指原さんの“ピンチをチャンスに変える”独自の発想の数々を、自らの経験談を交えながらまとめた一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
[ad#kiji-naka-1]
「観客だった頃の自分」を忘れない
小さい頃からアイドルが大好きだった、という指原さん。
小5の頃から2ちゃんねるに入りびたり、コテハン(固定ハンドルネーム)を作って書き込んでいたそうですから、筋金入りの「アイドルオタク」です。
私のアイドルとしての強みのひとつは、私自身がもともとアイドルオタクだったことだと思います。アイドル愛なら、誰にも負けない自信がある。
その愛が完成したのは、初めてアイドルのコンサートを観た時かもしれません。
小学校5年生の時、大分のグランシアタ(現・iichiko総合文化センター)にモー娘。のみんなが来てくれたんです! お母さんに頼み込んで、2人で観に行きました。
席は1階席のちょい上手、28列目だったと思う。かなり後ろのほうだったんですけど、グランシアタはそこまで大きな会場ではないので、豆粒みたいに見えるような距離はなくて、ステージで動いている生のゴマキ、超感動しました。
一発でコンサートにハマりましたね。アイドルオタクには2種類あるんですよ。おもに家で応援する「在宅オタ」と、コンサートに行ったりイベントにも顔を出す「現場オタ」。私は完全に後者でした。コンサートは福岡でやることが多かったので、やっとの思いで入手したチケットを持って、何度も何度も、母親と一緒に特急に乗って・・・・。
アイドルになった今、コンサートのグッズ売り場の列に並んでいる、小さな女の子とお母さんの親子を見ると、懐かしいなって気持ちになります。ファンの女の子から手紙をもらったりするのも、昔自分もやっていたことだから、この子は今、昔の私とおなじ感覚なのかな、だったらすごくうれしいなって。
だから私は、一度出ますと告知した公演を休むのは絶対にイヤだし、コンサートには何があっても絶対出ます。自分がもしも現場に来ているファンだったら、一番応援している子が体調不良で休んだら、心配にもなるけど、せっかく来たのに残念だなって思うから。
現場に来てくれたひとりひとりがそれぞれ、お金を出して来ている、会社を休んで来ている、学校を休んで来ている、部活動を休んで来ている。アイドルオタクだった昔の私がそうだったから、そのことがよく分かるんです。分かるからこそ、私は自分の「現場」で頑張ろうと思えるんですよ。『逆転力』 第一章 より 指原莉乃:著 講談社:刊
指原さんは、中学生の頃、軽いイジメにあって不登校になります。
「誰も自分のことを知らない場所に行って、全部をリセットしたい」
卒業後の進路を決める時期にそう考えて、AKB48のオーディションに応募したそうです。
「自分がアイドルになれば、あこがれの職業につけるし、今いる場所からも離れられて、一石二鳥」
その逆転の発想が、指原さんの真骨頂ですね。
「へたれ」というチャンス
指原さんのイメージといえば、「へたれ」です。
ある番組で、高さ42メートルの橋の上から、バンジージャンプに挑戦した時のこと。
他のメンバーが次々と成功するなか、指原さんだけが跳ぶことができませんでした。
その後、「リベンジします!!」と宣言するも、再度の挑戦で結局跳べず、周りから「へたれ」と呼ばれるようになりました。
普通のアイドルならショックで落ち込んでしまうところですが、指原さんは動じません。
面白がってもらえるなら別にいいじゃんって感じだった
そうです。
本当のことを言ってもいいですか? 当時から「私はへたれじゃないんじゃないかな?」と思っていました。
へたれと言われるようになったきっかけは、バンジージャンプを飛べなかったからですけど、そもそもスタッフの目を恐れず飛ばないっていう時点で、へたれじゃないと思うんですよ。むしろ、ハートが強い。しかも、自分でリベンジしたいって言い出して、大人をさんざん動かしておきながらまた飛ばないって、マジ強いです。
でも、この時のバンジー拒否というピンチから、へたれキャラというチャンスが生まれたことは間違いありません。このキャラが付いて、広まっていったおかげで、自分を取り巻く状況がどんどん変わっていきました。
(中略)
集団の中で自分の居場所を作ったり、目立ったりするためには、キャラ付けが大事だと思います。そのぶん、悩んじゃってる人も多いのかなと。
キャラについて、私なりに出した結論があります。
キャラは自分から作るものではなく、受け入れるもの。
自分から「こういうキャラでいく」と先に決めるのは、避けたほうがいいかもしれません。そのキャラにこだわってしまうことで、集団の中で浮いてしまう危険性がかなり大きいからです。
「私はこういうキャラなんです」と言い張って前に出て行こうとするのも、あんまり得はないかも。自分ひとりの発信力なんて、弱いです。まずは周りにそのキャラを認めてもらって、面白がってもらうことで、そのキャラは浸透していくものだと思うからです。
最初は無難に、自分は「なんでもない人」という設定にしておいたほうがいいと思いますね。あとは周りが「◯◯はこういうキャラだよね」と言ってきてくれるのを、じっと待つ。で、そのキャラに乗っかっていく。せっかく周りの人にキャラ付けしてもらったものを、否定しないほうが得です。
ただ、いずれ無理がこないように、貫き通せるキャラでいくのが理想です。自分はどれだけそのキャラクターになりきれるかをしばらく試してみて、ちょっとでもイヤだなと思うなら、そのキャラは変えたほうがいいと思う。
例えば、みるきー(渡辺美優紀)くらいしたたかに、キャラとして確立させることができるならぶりっ子キャラもOKだと思うんですよ。でも、中途半端なぶりっ子は、女の子の集団だと「痛い」と思われる。
人に振ってもらったキャラが、自分に合っているかどうかの見極めは、自分でちゃんとやったほうがいいと思います。『逆転力』 第三章 より 指原莉乃:著 講談社:刊
「自分は正統派のアイドルとしてやっていくのは無理」と、早い時点で見切りをつけた指原さん。
「いじられキャラ」を引き受けることで、グループ内で確固たる地位を確立しました。
自分を客観的に見ることができる冷静さ。
方向性を素早く変えられる柔軟さ。
この2つが、指原さんのしたたかな「逆転力」を生み出しているのですね。
好感度を「貯金」する
指原さんは、自分のことを「客観視している冷たい人間」だと表現しています。
頭のどこかで常に、自分の状況を冷静に見ている自分がいる
とのこと。
幼い頃から親しんだネットの影響で、空気を読むことに長け、「人からどう見られているか?」に敏感になった指原さん。
アイドルになった今も、その性格は大きな武器になっています。
そんな、自称、性格悪い
アイドル、指原さんが大事にしていることは、「あいさつ」です。
どんなに疲れていても、できるだけ笑顔で、できるだけ相手の目を見て、しっかりとするとのこと。
例えば大きなコンサートがある時は、初めて会うスタッフさんもいっぱいいます。コンサート終わりはいろんな部屋に顔を出して、「ありがとうございました」と言いに行きます。開けてないドアはないか? 全員にあいさつしたか? 脳内で厳しく、総チェックです。
メンバーの家族と楽屋ですれ違うような時も、気が付いたなら速攻であいさつです。「指原さんとすれ違ったけど、怖そうな顔してたよ」っていう印象を持たれるよりは、「あいさつしてもらった」っていうほうが絶対いいじゃないですか。しかもその姿を、誰かが見てくれているかもしれない。好印象ゲットです。
好感度って、貯金みたいなものだと思っています。ひそかに「好感度貯金」と呼んでいます。
疲れていると、イライラしちゃったり、あいさつする気がなくなったりする。そういう時に「好感度貯金」のことを思い出して、頑張るんです。「ここで貯金を崩さず、貯めよう?」って。
人がグチってる時は、好感度を上げるチャンスだったりします。人のグチってつい同調しちゃいやすいじゃないですか。そういう時こそ同調せずに、いい人っぽいことを言う! もちろん、わざわざ本心とは違うことを言う必要はないんですが。
ポイントは、貯めた貯金の使い道です。
本当に疲れていたり心がいっぱいいっぱいだったりすると、無意識のうちについ不機嫌な態度をしてしまうこともありますよね。それはちょっと違うなという行動をしている人に対して、注意するんじゃなく、怒ってしまったりする。そういう姿を見られてしまったら、マズイです。印象が悪い。
そんな時こそ、好感度貯金の出番なんです。貯金があるから、「さっしーは普段頑張ってるから、たまにはそういう時もあるよね」で収まると思うんです。でも、もし私が貯金のない人だったら、「感じの悪い人」と思われて終わっちゃうかもしれない。そんなの最悪です。
いざという時のために、好感度を貯金する。普段貯金しているから、いざという時がきても大丈夫だと思える。
好感度貯金、かなりおすすめです。『逆転力』 第六章 より 指原莉乃:著 講談社:刊
「好感度を貯めよう」として、頑張ってあいさつをするとは、相当な計算高さですね。
笑顔であいさつをされて、イヤな思いをする人はいません。
人間関係におけるあいさつの効果の大きさを冷静に見きわめての、彼女なりの“戦略”です。
そして、あっさりと本の中で公開してしまうのも、また“戦略”なのでしょう。
自分がどう振る舞えば、ファンの心に刺さり、注目を集めることができるか。
それをちゃんと計算したうえでの発言ですね。
まだ20歳そこそこですが、すでに百戦錬磨の策略家のようです。
[ad#kiji-shita-1]
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
グループの中で、特別かわいいわけでもなく、歌がうまいわけでも、ダンスが得意なわけでもない。
そんな指原さんが、AKB48やHKT48で自分の居場所をしっかり確保し、今ではグループに欠かせない存在となるまで成長を遂げています。
その大きな理由は、
- 自虐ネタをも避けない、いい意味でのプライドの低さ
- 自分を見失わない冷静さと客観視能力の高さ
よく自分を分析して、自分の強みがどうしたら生きるのかをしっかり考えているなというのが率直な感想です。
「たかがアイドル」とバカにできない、したたかさ。
組織の中で自分の立ち位置を確保し、存在価値を高めていくことが求められる多くのビジネスパーソンにも、とても参考になります。
【書評】『 勝負脳の磨き方』(舞の海秀平) 【書評】『「私は私」で人間関係はうまくいく』(和田裕美)