本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『投資家が「お金」よりも大切にしていること』(藤野英人)

 お薦めの本の紹介です。
 藤野英人さんの『投資家が「お金」よりも大切にしていること』です。

 藤野英人(ふじの・ひでと)さん(@fu4)は、投資家、ファンドマネージャーです。
 23年間で約5700人の社長を取材し、日本社会や世界経済のあるべき姿を模索し続けておられます。

お金について考える、ということ

 私たちはふだん、当然のように稼いだり、使ったりしている「お金」。
 ところが、「そもそもお金とは何か?」を考えることは、ほとんどありません。
 藤野さんは、お金とは、私たちの人生に必要不可欠なものであるにもかかわらず、ある意味で、いちばん縁遠い存在でもあると指摘しています。

 お金とは、あくまで無色透明な概念にすぎず、ただの数字です。
 色がついていないからこそ、お金には私たちの考え方や態度が100%反映されます。

 藤野さんは、お金を考えることは、まさに人生を考えることに他ならないと強調しています。
 私たちにとってとても大切なものであるにもかかわらず、どこか避けてきたかもしれない「お金」。

 本書は、とらえどころのない「お金」を真正面から取り上げ、その魅力や本当に意味のある使い方を解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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日本人は本当に「真面目」なのか?

 藤野さんは、日本人は真面目ということの意味を履き違えているように思えてならないと述べています。
 広辞苑(こうじえん)で「真面目」の意味を調べると、以下のように書かれています。

「真剣な態度・顔つき。本気。まごころがこもっていること。誠実なこと」

 藤野さんは、言われたことを言われた通りにやることや、ルール・規則を守ったり、常識をわきまえたりすることは、真面目の本来の意味ではないと指摘しています。

 私は、真面目という言葉が真面目に使われてないように思います。
 真面目であることが、単に就業規則を守ったり、時間通りに来ることだったり、会社でいえばコンプライアンスを表面上遵守(じゅんしゅ)することだったりと、どちらかと言うと形式論になっているように感じるのです。
 さらに真面目の語源まで調べてみると、
「柳は緑、花は紅(くれない)、真面目(しんめんもく)」
 という、中国宋代の詩人蘇東坡(そとうば)の詩にいきつきます。
 意訳すると、「柳には柳の色、花には花の色があり、それぞれがそれぞれの個性や役割を発揮している」という意味です。
 真面目は「しんめんもく」と読み、ありのままでいること、本質的であることを表しているんですね。
 真面目とは、本気であり、真剣であり、誠実であること。
 そして、「本質とは何か」ということを、しっかり考えること。

 そのように捉えると、日本人のお金に対する態度や行動は、不真面目であるとしか言いようがないでしょう。
 何も考えていないわけですし、考えているとしても自分のことしか考えていないわけですから。それはけっして誠実ではないし、本質的なことでもありません。

 自分のお金を貯め込んでいるということは、人にお金を出したくないということ。それは、人を信じていないことでもあります。
 日本人ほど、他人を信じていない民族はないということに他なりません。他人にお金を預けたら、もう自分のところに返ってこないと思っているわけですね。
 最近では会社も信じていませんし、政府も信じていません。ましてやNPOやNGOといった非営利組織や非政府組織も信じていない。
 特定の宗教を信じている人も少ないでしょう。

 では、日本人はいったい何を信じているのでしょうか?
 結局、お金しかありません。
 日本人はお金を信じているのだと、私は思います。
 だから、お金を現金や預金として貯め込んでいるのでしょう。他に信じられるものがないため、仕方なくお金を信じているともいえます。
 人を信じられず、お金しか信じられない。それが日本人の本当の姿なのです。ちょっと寂しい気がしますし、日本人として恥ずかしい気持ちにもなります。
「そんなことはない!」とお怒りになる方もいるかもしれませんが、残念ながらそれが現実です。「お金しか信じられない」という思想は、「現金・預金が大好きで、寄付はしない」という実際の行動の結果に、端的に表れているのです。

あなたには、「お金」よりも信じられるものがありますか?
あなたには、「お金」よりも大切なものがありますか?

 その結論にいたるためにも、お金について「真面目に」考えていかなければいけないのです。

 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 第1章 より  藤野英人:著  星海社:刊

 日本人の個人金融資産は総額1400兆円とも言われています。
 そして、そのうちの半分強の800兆円が、「現金」と「預金」です。
 その事実は、日本人が「お金そのもの」が好きで、「お金そのもの」しか信じていないことを物語っています。
 お金の使い方が、その人の生き方そのものを反映しているとすれば、藤野さんの言うように、ちょっと寂しい気がしますね。

誰がブラック企業を生み出すのか?

 長引く不況でデフレが進行、多くの企業が価格競争に走り、消耗戦を繰り広げています。
 社員を過酷な労働条件で働かせる「ブラック企業」の存在も、大きな社会問題となっていますね。

 月250時間を超える残業などの過労により自殺した旅行代理店の男性社員。
 長時間運転の末に死亡事故を起こした深夜運行のツアーバスの運転手。

 表向きでは、彼らは「ブラック企業に殺された」とされます。
 しかし、藤野さんは、『ブラック企業を生み出している根本の原因は、私たち消費者にある』と強調します。

 このようなデフレ経済にうまく対応するためには、消費者に対する価格を下げなければなりません。
 なぜなら、消費者がより安いものを望んでいるからです。
 生産者や販売者に売値を下げたい動機はほとんどありません。価格を下げるには、厳しい経営努力が必要になるからです。相当なビジネスモデルの工夫が必要ですし、原価を下げるか、従業員やアルバイトに長時間労働をお願いするか、賃金を引き下げるか、従業員の数を減らすしか手はありません。
 このような状況を鑑(かんが)みると、こうは言えないでしょうか?
 従業員の過重労働を強いる「ブラック企業」を生み出しているのは、私たち消費者である、と。
 低価格帯の旅行ツアーが流行るのも、居酒屋チェーン店が朝まで長時間営業しているも、「お客様のため」と言えば聞こえはいいですが、要は、私たち消費者が求めているからです。
 私たちが求めるからこそ、企業はそれに応えようと頑張るのです。
 需要があるから供給が生まれるわけで、その逆はありません。私たちが過剰なサービスを望まなければ、そもそもそういったサービス生まれてこないはずですよね。なぜなら、誰も望んでいないので、商売的に無意味だからです。
ですから、批判も辞さずにあえて言うと、「私たちが男性社員を殺した」のであり、「私たちがバス事故を引き起こした」のではないでしょうか?

 金沢・東京間の片道運賃は、電車であれば1万円強、飛行機であれば約2万円します。それをたったの3500円で行けるというのは、裏をかえせば、必ずどこかに「無理な値下げのしわ寄せ」が来ているということです。そしてその「しわ寄せ」というのは、日本の場合、だいたいにおいて労働者の過重労働に帰結します。
「できるだけ安く!」という考えは、同時に「ブラック企業」を生み出すのです。
 大上段から「◯◯はブラック企業だ!」と言うだけでなく、私たちにも責任があるという議論をもっとすべきだと、私は強く思っています。

 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 第3章 より  藤野英人:著  星海社:刊

 私たちの消費活動は、必ず誰かの生産活動につながっています。
 これを経済用語で「互恵関係」といいます。

 藤野さんは、まわりとの関係で私たちは生かし生かされているのだと認識することが、経済を理解するうえでもっとも重要なことだと指摘しています。

 社会は、お金を通じて、すべてつながっています。
 自分だけでなく、全体を考えて行動することが、結局は自分のためになります。

投資とは、「エネルギー」のやり取り

 藤野さんは、投資とは、いまこの瞬間にエネルギーを投入して、未来からのお返しをいただくことだと考えています。
 つまり、「お金」ではなく、「エネルギー」のやり取りをするのが投資です。
 藤野さんは、エネルギーとは、以下の八つの要素の掛け合わせだと述べています。

エネルギー
   =情熱 × 行動 × 時間 × 回数 × 知恵 × 体力 × お金 × 運

 これは「投資の教科書」に書かれているわけではなく、私がイメージするエネルギーの方程式です。
 これらの組み合わせが、投資における「エネルギー」なんですね。お金はほんのひとつの側面にすぎない、と言った理由がおわかりいただけると思います。

 いくら本を買って読んでも、ただボーッと文字を追うだけではあまり意味はないでしょう。投入するエネルギーが小さいので、投資的に考えると、未来からのお返しも小さくなります。
 一年に100冊読んだとしても、お金と時間だけかかって、特に何も残らないかもしれません。
 授業中に嫌いな科目の教科書を読まされている感じをイメージしてください。
 たしかに、「時間」はかけているかもしれませんが、「情熱」も「知恵」も「体力」もほとんど使っていないので、次の日になれば、きれいさっぱり忘れてしまいますよね?
 それに比べて、自分が興味のあるジャンルの本を読むときは、熱中して何度も何度も読み込んだりします。情熱・行動・時間・回数・知恵・体力・お金のすべてを大きく使っているので、生み出されるエネルギーも強大になるでしょう。
 結果として、大きな知的興奮や深い知見が得られます。

「運」については、少し補足する必要がありますね。
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉があるように、最後の最後は天命というか、運が支配します。絶対にうまくいくと思っても失敗することがあるし、ダメだと思ってもうまくいくことがある。
 そういう意味では、しょせんは運次第でしょう。
 突き放しているわけでも諦めているわけでもなく、そのように考えることで、自分のできることを情熱・時間・回数・知恵・体力・お金のすべてをかけて一生懸命やったうえで、勝っても傲慢(ごうまん)にならず、負けても腐らないマインドが持てるようになれる。そこが重要なのです。
 運に対する考えがないと、努力して失敗したときに大きな失望感を抱くようになるし、成功したときには、他者に対して「お前が失敗したのは努力がたりないからだ」と短絡的に断定するようになってしまうでしょう。
 運については、投資家としてクールに考えるべきなのです。

 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』 第5章 より  藤野英人:著  星海社:刊

 投資には、失敗はつきもの。
 どんなに優良な投資先でも、損をする可能性はあります。
 最後の最後は、「運」頼みの部分があるということです。

 自分の力ではどうしようもないことがあることを知って、最善をつくす。
 たとえ失敗しても、またすぐ次のチャンスを狙う。
 それが投資を成功させる秘訣ですね。

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 藤野さんは、投資で好成績を収めるための秘訣はとてもシンプルで、「成長する真面目な会社」に投資をすること、たったそれだけだとおっしゃっています。

 一見、リスクが大きそうな選び方ですが、実は逆です。

 個人についても同じことが言えます。
 真の安定は、変化と向き合い、それをチャンスだと捉えて実際に動くこと。
 変わり続けることが安定につながるということです。

「成長にかける」ことがいちばんの安全な道。
 結局、最後に生き残るのは、「真面目に成長している」人であり、会社ということですね。

「お金」について考えることは、「人生」について考えること。
 皆さんも本書を読んで、より良いお金の使い方を学び、より充実した人生を歩んでみませんか?

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