本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ボディ・ブレイン』(下柳剛)

 お薦めの本の紹介です。
 下柳剛さんの『ボディ・ブレイン: どん底から這い上がるための法則(ルール)』です。

 下柳剛(しもやなぎ・つよし)さんは、野球解説者で元プロ野球選手です。
 2005年には、史上最年長の37歳で最多勝を獲得するなど長年にわたってご活躍、2013年に引退されました。

「頭で考える」から「全身で考える」へ

 最近、「ゾーン」という言葉が多く聞かれるようになりました。
 ゾーンとは、日頃訓練した脳や身体に調和された精神が重なったとき、自分自身でも驚くようなハイパフォーマンスが発揮されるという、究極の集中状態のことです。

 野球エリートではない下柳さんが、30代後半になってから活躍できたのは、「心・技・体」の“心”に目を向けた結果です。

 心を極限まで研ぎ澄ませると、全身の感覚が鋭くなり、理屈を超えた正解へたどり着けます。
 その状態が「ゾーン」と呼ばれるものです。
 よくスポーツ選手が口にする、「身体が勝手に反応した」というのは、まさにこれですね。
 
「頭で考える」から「全身で考える」へ。

 本書は、心を整えて感覚を研ぎ澄ませることで、「ゾーン」に入るための方法をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「今、この瞬間」に集中すること

 この世で一番言うことを聞いてくれない存在は、『自分自身の“心”』です。

 下柳さんも、以前は、審判の判定や次のパッタ―に気をとられ、目の前のバッターに集中できず、ピンチを広げてしまうこともありました。

 ある日、自分は沢庵(たくあん)の『不動智神妙録』という本に出会った。
沢庵は江戸時代を代表するお坊さんで、将軍家の剣術指南役として有名なあの柳生宗矩(やぎゅうむねのり)の師でもある。剣の達人に禅の心を説いたその本を読み進めていくうちに、あるフレーズが目に留まった。

 前後際断と申す事の候(そうろう)。
 前の心をすてず、又今の心を跡(あと)へ残すが悪敷(あしき)候なり。
 前と今との間をば、きつてのけよと云ふ心なり。是(これ)を前後の際を切て放せと云ふ義なり。心をとどめぬ義なり。
(前後の際を断つという言葉について。
 過去の心を捨てないことや、今の心を未来に残すことは悪いことです。
 以前のことを引きずらぬよう、今の思いが未来に尾を引かぬよう、いまこの瞬間以外を切って捨ててしまいなさい。心をとどめてはいけないのです。)

 心は過去や未来にさまよいがちだ。だけど、過去を悔やんでも現実が変わるわけではないし、まだ見ぬ未来への心配、あとになってみるとそのほとんどが取り越し苦労だ。
 しかし、そんな実体のない後悔や恐れこそが、自分の力を浪費させ、ますます事態を悪化させている。
 人間がコントロールできるのは、今この瞬間のみなのに、自分の過去や未来への思いが大切な現在をおろそかにさせているんだ。

 過去と未来を捨てて、今に生きる。
 自分がこの考え方を取り入れたのは、まさに阪神に移籍した2003年のことだった。驚くほどの成績が残せるようになった理由の一つは、心の負担が激減したからにほかならない。

 ずっと「前後際断」とグラブに刺繍(ししゅう)していた。
 どんなピンチのときも、決して忘れることのないように。

 『ボディ・ブレイン』 第一章 より  下柳剛:著  水王舎:刊

 私たちが抱く怒り、悩み、恐れ、不安。
 その原因のほとんどは、過ぎた「過去」のこと、もしくは、まだ来ぬ「未来」のことです。
 心を平静に保つということはすなわち、「今」この瞬間に意識を集中すること。

「前後際断」

 ベスト・パフォーマンスを出せるよう、つねに意識していたい言葉ですね。

1日5分の「座禅」が人生を変えた!

 プロ野球のピッチャーは、数万人の大観衆の前で一人で投げることになります。
 マウンドに上がると、どんな人でも緊張や不安が押し寄せ、冷静ではいられません。

 下柳さんは、叫びたくなるようなプレッシャーの中、今やれることにどれだけ集中できるかを競う「心」の戦いの舞台でもあると述べています。

 下柳さんが大舞台でも心を整えられるのは、35歳のときに出会った「座禅」のおかげです。

 阪神移籍後初のキャンプでは、観客の数にただ圧倒された。決してオーバーに言っているのではなく、本当に当時のパ・リーグの公式戦より多かったのだ。この先に待つ、甲子園や東京ドームでの巨人戦を思えば、プレッシャー対策は急務だった。
 そんなとき、オリンピックのメンタルコーチも務める福島大学教授の白石豊先生に相談をしたら、「シモ、座ってみなさい」と示唆された。

 静かなところであればどこでもいい。楽な格好で背すじを伸ばして坐って目を閉じてみてほしい。作法は問わない。
 余計な思いが次々と浮かんできて、「無」になることの難しさを感じるだろう。
 そんなときはまず、自分の呼吸を数えてみるんだ。これは古くからある、「数息観(すそくかん)」というテクニックだ。
 10まで数えたら、また1から繰り返し数えていく。
 それでも雑念は出てくるが、消そうとしないでただ放っておくこと。
 そのうち、息を吐くことだけに集中できるようになる。
 やがて吐く息さえ気にならなくなり、ただ自分の呼吸音だけを聞くでもなく聞いているという境地になってくる。

 坐れるようになると、「まえがき」に書いた“感覚が鋭くなる効果”のほか、あるかけがえのない効果を感じられるようになる。
 人生がシンプルになるんだ。
 数分坐って心を見つめ、雑念を消し去る日々を続けるだけで、自分にとっても不要なものと必要なものの違いが不思議なほどハッキリ見えてくるようになる。
 するとごく自然に、大事なことだけに専念できるようにすべての生活が変わっていくんだ。
「野球人生の中で一番役に立ったトレーニングは、坐ることだった」と言うと、多くの人に驚かれる。でも、あなたも1日5分でいいから、自分の夢につながると信じて坐ってみてほしい。

 自分は毎試合前、必ずロッカーで坐り、呼吸を整え、意識をへその下の丹田に落としてからブルペンに向かうようにしていた。それは何物にも代えがたいトレーニングだった。

 『ボディ・ブレイン』 第一章 より  下柳剛:著  水王舎:刊

 私たちは普段、ただボーっとしていても、ほとんど無意識のうちに何か考えごとをしているもの。
 だからこそ、「何も考えない時間」は貴重であり、大きな効果を与えてくれます。

 1日5分、周囲の雑音から離れて、自分と向き合う時間をつくりたいですね。

「最悪の場面」から想像する

 大事な場面であればあるほど、プレッシャーもまた大きくなってくるものです。
 マウンド上で数々の修羅場をくぐり抜けてきた下柳さんは、心理的な重圧をどのように対処したのでしょうか。

 実は、心の持っていき方にはコツがある。
 目の前の恐怖にたじろぎ、解決手段さえ思いつかないようなとき、自分はまず最悪の場面から想像するようにしていた。
 巨人戦、満塁でバッターボックスにラミレスを迎えたと想像してほしい。絶体絶命の場面だ。そんなとき、まずは「ラミレスが最もホームランを打つ可能性の高いコースはどこだろう」と考えるんだ。答えは、外側から入ってくる甘めのスライダー。それを投げると間違いなくスタンドに運ばれる。
 それを意識し始めるだけで心理的には、「そこにさえ投げなければ大丈夫」という具合に恐怖から安心に焦点が移る。すると、気持ちも自然とゆるみだす。
 そんな風に少しずつ自分を楽にしていくといい。「最悪のコースからちょっと内側に入れるだけでファールになる。そうしたらカウントが稼げるやないか」と思うと、また心が楽になる。このように落ち着いてきたら、「では、ラミレスがヒットを打つ可能性が高いコースは?」といった具合に徐々に基準を高くしていく。「空振りを取るためにどこに投げるべきか」と考えるのは最後でいいのだ。

 人は誰しも自分の身を守るため、生まれつき恐怖心を持っている。つまり、最悪の結果を想像するように元々できているんだ。ならば、無理やりプラス思考を心掛けて「そう考えないようにしよう」とするのは合理的じゃない。考えまいとすると考えてしまうのが人間の性(さが)であるならば、逆に最悪の場面から想起するんだ。
 結婚式のスピーチの際、緊張で言葉に詰まることを恐れているのなら、カッコ悪いけれど小さなカンペを用意して棒読みすることを想像してみるといい。きっと心がほぐれてくると思う。フォークボールのスッポ抜けが絶対に許されない場面なら、まずはワンバウンドを投げることから考えはじめればいいんだ。

 まず、一番やってはいけないことを考える。そこから少しずつ自分を楽にしていく。最初から最善を狙ってはいけないよ。かえって硬くなってしまうから。

 『ボディ・ブレイン』 第一章 より  下柳剛:著  水王舎:刊

 ポイントは、いかに心理的な余裕をつくり出せるか。
 そのためには、最悪の場面を想像して、「それ以外なら御の字」というスタンスをとることです。

 最初からベストの結果を望むと、力みにつながってしまいます。

 跳ぶべきハードルを、最初はできるだけ低く設定する。
 さまざまな場面で、応用が効く方法ですね。

「気」を込めろ!

「挫折の数なら誰よりも多い」と自負する下柳さん。
 這い上がるときにいつも心掛けていたのは、以下のような考え方でした。

「視点を長いスパンに置かず、その試合、その一つひとつの球に意識を集中して全力を尽くす」

「視点を長いスパンに置かず、その試合、その一つひとつの球に意識を集中して全力を尽くす」
 ――気を込める、とでも言ったらいいだろうか。

 ただ投げるんじゃない、気持ちを込めて投げるんだ。不思議と気持ちの乗ってない球ほど打たれてしまう。一つひとつのことを大事にする気持ちからは、考え抜かれた工夫や、勝負の際の気迫が生まれてくる。
 同じ140キロでも気持ちの入った140キロと、ただ投げた140キロとでは、全く違った結果が出た。それが人と人とが勝負する世界の面白さだと思う。
 相手は、自分と家族の生活を守るためにすべてを懸けてバッターボックスに立っているんだ。何も考えずに投げたら、打たれる方がむしろ当然なのではないか。
 野球解説者から、「いい球を投げるけどピッチングが軽い」、「気持ちがこもっていないから勝てない」と言われる投手をじっくりと見ていただくと、気持ちを込めることの大切さがわかってもらえるかもしれない。

 目の前の仕事の一つひとつに、気を込める視点で取り組むだけで、すぐに違った風景が見えてくると思う。相手に気持ちそのものが伝わるから、信頼感が生まれてくる。それだけじゃない、その仕事に込められた奥深い尊さに気づいたり、いつの間にか、考え抜いた末に小さなことにも工夫を重ねようとしている自分自身に気づくはずだ。
 野球同様、ビジネスも相手がいてはじめて成立するものだから、時には負けることもあるだろう。でも、相手がいるからこそ気迫が成否を左右するし、大きな勝負の行方を決めるのは、日々の小さな工夫の積み重ねにほかならない。

 『ボディ・ブレイン』 第二章 より  下柳剛:著  水王舎:刊

「気」を込めることが大事。
 これはピッチングに限らず、料理、歌、文章などすべての行為にいえることです。

「気」は込めようと思っても、すぐに込められません。
 普段からの心掛けが肝心ですね。

 何ごとにも、一回一回全精力を注ぎ込むように行うこと。
 その積み重ねが、「気」のこもったパフォーマンスに結びつきます。

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 下柳さんの現役生活を支えたのは、「大好きな野球を続けたい」という強い気持ちでした。
 何度も挫折を味わいながらも這い上がれたのも、その気持ちを持ち続けることができたからです。

 球が速いわけでも、すごい変化球があるわけでもない。
 それでも、この世界で生きていくにはどうすればいいか。
 下柳さんは、それをつねに考えていたからこそ、「座禅」という答えを見つけ出しました。

「人生を変えたい!」
「行き詰まりを打破したい!」

 そう願うすべての人に読んで頂きたい一冊です。

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