【書評】『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン)
お薦めの本の紹介です。
グレッグ・マキューンさんの『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』です。
グレッグ・マキューン(Greg McKeown)さんは、コンサルティング会社のCEOです。
「エッセンシャル思考」の生き方とリーダーシップを広めるべく世界中で講演、執筆するなど、幅広くご活躍されています。
より少なく、しかしより良く!
働きすぎなのに成果が出ない。
どうでもいい作業に追われて仕事ができない。
よく考えずに仕事を引き受け、後悔や不満を溜めこんでいる。
マキューンさんの提唱する「エッセンシャル思考」は、それらの悩みを解消するノウハウです。
エッセンシャル思考とは、「より少なく、しかしより良く」を追求する生き方
。
エッセンシャル思考は、より多くのことをやりとげる技術ではない。正しいことをやりとげる技術だ。もちろん、少なければいいというものでもない。自分の時間とエネルギーをもっとも効果的に配分し、重要な仕事で最大の成果を上げるのが、エッセンシャル思考の狙いである。
エッセンシャル思考とそうでないやり方の違いは、次のページの図(下図)のとおりだ。どちらも同じだけのエネルギーを使っている。けれども左側は、あらゆる方向に努力が引き裂かれている。だからどの方向にも、ほんの少しずつしか進めない。
それにくらべて右側は、努力の方向が絞られている。
だから、とても遠くまで進むことができる。エネルギーの使いどころを必要最小限にすることで、いちばん重要なものごとにおいて最大の成果を上げているのだ。
エッセンシャル思考の人は、適当に全部やろうとは考えない。トレードオフ関係直視し、何かをとるために何かを捨てる。そうしたタフな決断は、この先やってくる数々の決断の手間を省いてくれる。それがなければ、うんざりするほど同じことを問いつづけるはめになるだろう。
エッセンシャル思考の人は、流されない。たくさんの瑣末(さまつ)なものごとのなかから、少数の本質的なことだけを選びとる。不要なものはすべて捨て、歩みを妨げるものもすべて取り除いていく。
要するにエッセンシャル思考とは、自分の力を最大限の成果につなげるためのシステマティックな方法である。やるべきことを正確に選び、それをスムーズにやりとげるための効果的なしくみなのだ。『エッセンシャル思考』 第1章 より グレッグ・マキューン:著 高橋璃子:訳 かんき出版:刊
図.エッセンシャル思考(右)と非エッセンシャル思考(左)の違い
(『エッセンシャル思考』 P23 より抜粋)
本書は「エッセンシャル思考」の考え方を解説し、具体的な応用方法をまとめた一冊です。
マキューンさんは、
本書を読めば、他人の期待に振りまわされず、自分に正直に生きる方法が見つかるだろうと述べています。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「自分で選ぶ」という“最強の武器”を手に入れる
エッセンシャル思考の基礎となる重要な考え方のひとつが、「選択」です。
世の中の意味のない「ノイズ」から、重要なものを正しく見極める必要があります。
行動を取捨選択できるようになると、すべてが変わる。ひとつ上のレベルの生き方が手に入る。不要なものを捨てる生き方は、自由だ。もう誰かの思惑に振りまわされることもない。自分で選べるのだ。
この最強の武器があれば、仕事や生活で最高のパフォーマンスか出せる。それだけではなく、世の中に最高の貢献ができるようになる。
もしも学校のつまらない課題をやめて、もっと世の中の役に立つことをやったらどうなるだろう。世の中を良くするために何ができるかを考え、不毛な競争のかわりに未来を見据えた大人になるとしたら?
もしも仕事から無駄なミーティングが消えて、その代わりに重要なプロジェクトを前に進めることができたらどうだろう。どうでもいいメールや無意味な作業がなくなり、会社の利益と自分のキャリアにとっていちばん役立つ仕事に専念できるとしたら?
もしも世の中が、無駄なものを買えと急(せ)き立ててる代わりに、じっくりものを考える余裕を与えてくれたらどうだろう。好きでもない人のためにいやなことをやったり、いらないものを買ったりすることが、馬鹿げたことだと言われるようになったら?
もしも「たくさん」よりも「少し」のほうが評価されるようになり、忙しいことが有能のしるしでなくなったら? その代わりにじっくりと話を聞き、思索し、心を静め、大切な人たちと時間を過ごすことが評価されるようになったら?
もしも世の中がむやみに多くを求めることをやめて、より少なく、しかしより良いことを選ぶようになったらどうだろう?
そんな世界が目に浮かぶ。
他人の期待に合わせるのではなく、自分に正直に生きる勇気を手に入れた人びとの姿。子供も大人も、社員も経営者も、誰もが自分の能力を最大限に生かし、有意義な生活を送っている。
そこでは誰もが自分の本当にやるべきことをやっている。意味のある会話が生まれ、やがて大きなうねりとなっていく。
まだ迷っているなら、人生がいかに短いかを考えてみてほしい。残されたわずかな時間を、いったいどのように使いたいのか。
メアリー・オリバーの有名な詩の一節を引用しよう。
「教えてください、あなたは何をするのですか/その激しくかけがえのない一度きりの人生で」『エッセンシャル思考』 第1章 より グレッグ・マキューン:著 高橋璃子:訳 かんき出版:刊
私たちの毎日は「選択」の連続です。
食べるもの、着るもの、行き先、・・・・。
『人生は「選択」によってつくられる』という人もいるくらい、重要なもの。
にもかかわらず、日々のほとんどの選択を「なんとなく」で決めている人は多いです。
習慣や周りの意見に惑わされずに選ぶ。
一度立ち止まり、必要なことは何なのか、本当にやるべきことは何かを熟慮する。
そのような習慣を身につけたいですね。
人はどれかを選ばなければならない
“最優先”の仕事がたくさんあり、どこから手をつけていいかわからない。
片っ端からやろうと取り掛かったはいいけれど、結局どれも中途半端に終ってしまった。
そのような状況に陥らないためには、「トレードオフ」から目を背けないことが重要です。
トレードオフとは、『一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係』のことです。
つまり、「あちらが立てばこちが立たず」という、利益相反の関係のこと。
トレードオフを考えたくない気持はよくわかる。そもそもトレードオフが起こるのは、どちらも捨てがたいような状況だ。高い給料か、長い休暇か。急ぎのメールに返信するか、大事な会議に出席するか。より速くか、それともより良くか。どちらも望むことなのだから、どちらにも「イエス」と言いたくなる。しかし、それは不可能だ。
非エッセンシャル思考の人は、トレードオフが必要な状況で「どうすれば両方できるか?」を考える。だがエッセンシャル思考の人は、「どの問題を引き受けるか?」と考える。これはタフな問いであると同時に、より大きな自由につながる問いだ。
(中略)
エッセンシャル思考の人は、トレードオフを当たり前の現実として受け入れている。
そんなものなければいいのに、とは考えない。「何をあきらめなくてはならないか?」と問うかわりに、「何に全力を注ごうか?」と考える。小さな違いだが、積み重なると人生に大きな差がついてくる。ユーモア作家デビッド・セダリスの「笑え、ワライカワセミ」という短編のなかに、オーストラリアのアウトドアツアーで出会ったガイドの話が出てくる。
ガイドの女性はマネジメント講座に通っていて、そこで習った話を参加者たちに語った。
「4つ口のガスコンロを想像して」と彼女は言う。「ひとつめのコンロは、あなたの家族。2つめは友人、3つめは健康で、4つめは仕事。成功するためには、そのうちのひとつの火を消さなくてはいけない。
そしてもっと成功するためには、思い切って2つ消すことが必要なの」
もちろん、これは単なるジョークだ。エッセンシャル思考は、成功するために家族や健康を犠牲にするやり方ではない。だが、この問いが真実をついていることも事実だ。家族、友人、健康、仕事。それらの利害が衝突したとき、私たちはこう問わなくてはならない。
「自分はどの問題を引き受けるのか?」トレードオフを無視したり、非難したところで、何もいいことはない。トレードオフとは、戦略的に、そして慎重に選びとるべきものなのだ。
『エッセンシャル思考』 第4章 より グレッグ・マキューン:著 高橋璃子:訳 かんき出版:刊
トレードオフが起こるのは、ほとんどが選択の難しいギリギリの状況においてです。
多くの人は、決心がつかず、つい、決断を先延ばしにしてしまいがちです。
ただ、先延ばしにしたからといって、問題自体が消えるわけでありません。
いずれ形を変えて、必ず目の前に現れます。
トレードオフをしっかり考えた上で、自分の望む方向はどちらかをはっきりさせて決断を下す。
そのような習慣を身につけたいですね。
「90点ルール」を取り入れる
日々増え続ける仕事の山の中から、本当に重要なものだけを選び出す。
マキューンさんは、そのための方法として、「90点ルール」を提唱しています。
この決断のしかたを「90点ルール」と呼ぶことにしよう。最重要基準をひとつ用意し、その基準に従って選択肢を100点満点で評価する。ただし90点未満の点数は、すべて0点と同じ。不合格だ。こうすれば、60〜70点くらいの中途半端な選択肢に悩まされずにすむ。
テストで65点をとったときの気分を思い出してほしい。そんなぱっとしない気分のものを、わざわざ選ぶ必要があるだろうか?
90点ルールは、トレードオフを強く意識させるやり方だ。厳しい基準を設ければ、必然的に、大多数の選択肢を容赦なく却下することになる。完璧な選択肢が現れることを信じて、かなり良い選択肢を切り捨てるのだ。
完璧な選択肢はすぐにやってくるかもしれないし、なかなか現れないかもしれない。だが、厳しい基準を設けるというその行為は、間違いなくあなたに自由を与えてくれる。他人や世の中や偶然に決められるのではなく、自分自身で選ぶ自由だ。「仕方なく」選ぶのではなく、「選びたいから」選ぶ自由だ。
おわかりのように、90点ルールのすぐれた点は、瑣末(さまつ)な選択肢を容赦なく切り捨てられるところだ。しかもシンプルな数字で決めるので、選択が合理的・論理的になる。直感や感情の入り込む余地はない。厳しすぎるルールに思えるかもしれないが、妥協すれば自分が損をするだけだ。非エッセンシャル思考の人はいつも、消極的な基準でものごとを選んでいる。
「上司に言われたからやる」「誰かに頼まれたからやる」、あるいは「みんながやっているからやる」という基準だ。
ソーシャルメディアで多くの人がつながっている現在、「みんながやっているからやる」というのはかなり危険である。世界中の他人の行動が見えてしまう状況でそんな基準を使っていたら、あらゆる瑣末なものごとに手を出すはめになってしまう。『エッセンシャル思考』 第9章 より グレッグ・マキューン:著 高橋璃子:訳 かんき出版:刊
「優先順をつける」程度の選別では、生ぬるいです。
採用の基準を思いっきり上げることで、判断に迷う中途半端な選択肢を排除してしまう。
とても割り切った決断方法ですね。
ときには、選択肢として何も残らない、というような状況も考えられます。
「90点ルール」は、そのリスクを負ってまでも守る価値があるものだということです。
「好印象」よりも、「敬意」を手に入れる
本当に重要なことをやるために、本質的でない依頼をすべて断る。
口で言うのは簡単ですが、実行するのは難しいですね。
マキューンさんは、本質的ではない依頼を上手に断るためには、「好印象よりも敬意を大事にする」ことが大切だと述べています。
ノーを言うことで、短期的に開いてと気まずくなることはある。相手は「これをしてほしい」と思っているのだから、やはり断られたらがっかりする。それは事実だ。だが、長期的に見ればポジティブな面もある。短期的な気まずさと引き換えに、相手の敬意を手に入れられるからた。うまく依頼を断ることは、「自分の時間を安売りしない」というメッセージになる。これはプロフェッショナルの証だ。
有名グラフィックデザイナーのポール・ランドは、スティーブ・ジョブズの依頼にノーを言ったことがある。1985年に立ち上げたNeXT社のロゴを探していたジョブズは、数々の有名企業のロゴを手がけていたランドに連絡をとり、「いくつか候補を出してほしい」と依頼した。けれどもランドは、いくつも候補など出さない、とジョブズに告げた。
「仕事はしますよ。それで気に入らなければ、使わなくてもかまいません。候補がいくつもほしいなら、ほかを当たればいい。私は、自分の知るかぎり最高の答えをひとつだけ出します。使うかどうかの判断は、そちらでしてください」
そしてランドは「これしかない」という答えを出し、ジョブズを感動させた。一度はノーと言われて苛立ったジョブズだが、のちにランドについてこう語っている。
「彼は私が知るなかで最高にプロフェッショナルな人間だ。プロとして、クライアントとの関係のあり方を徹底的に考え抜いている」ジョブズにノーと言ったとき、ランドは熟慮のうえでリスクをとった。そして目先の好印象と引き換えに、長期的な敬意を手に入れたのだ。
エッセンシャル思考の人は、みんなにいい顔をしようとしない。時には相手の機嫌を損ねても、きちんと上手にノーを言う。長期的に見れば、好印象よりも敬意のほうが大切だと知っているのだ。『エッセンシャル思考』 第11章 より グレッグ・マキューン:著 高橋璃子:訳 かんき出版:刊
目の前のことに気をとられ過ぎずに、長期的な視点で判断することが大切。
これは、人間関係においてもいえることです。
一度依頼を断っただけで切れてしまう関係は、それこそ、“本質ではない”こと。
その場の気まずさを恐れず、自分の意志をしっかり伝えるよう心がけたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「大きな成果を挙げるためには、たくさんのことをこなさなければならない」
そう考えている人は、多いのではないでしょうか。
しかし、真実は真逆です。
つまり、「大きな成果を挙げるためには、たくさんのことを捨てなければならない」ということ。
99%の意味のないことの中から、1%の本当にすべきことを探し出す。
そして、その1%の本質的なことに全力を集中する。
99%の無駄を捨てると、自分が本当にすべきことに充てられる時間が100倍になります。
エッセンシャル思考のスキルが身につくと、今までどれだけ無駄なことに多くの時間を割いてきたかを思い知ります。
「これは本当に自分がやるべきことか?」
つねにこの言葉を意識して、本質を見失わなわずにいたいですね。
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