【書評】『日本に殺されず幸せに生きる方法』(谷本真由美)
お薦めの本の紹介です。
谷本真由美さんの『日本に殺されず幸せに生きる方法』です。
谷本真由美(たにもと・まゆみ)さん(@May_Roma)は、システムエンジニアです。
ITベンチャーや経営コンサルティングファーム、国連専門機関の情報通信官などを経て、現在はロンドンの金融機関で情報システムの品質管理とITガバナンスを担当されています。
日本の働き方の常識は、世界の非常識
サービス残業は、当たり前。
うつ病や過労で長期休暇している同僚がいるのも、日常茶飯事(さはんじ)。
年休消化にも、周囲の顔色をうかがう。
日本の会社では、「当たり前」と思われるこの状況。
どうも(というか、やはり)、世界的に見ると、「異常な働き方」のようです。
本書は、外国人間から見た「日本の働き方の問題点」を洗い出し、どのような対応策をとればよいかを提示した一冊です。
イギリスやイタリアなどで長く生活し、昨今の欧州危機を肌で感じている谷本さん。
日本はまだまだ本当の危機ではないし、今の時点で多くの人が「何をすべきか」に気づけば、必ず立ち直れる
と強調します。
「本当の危機」ではないからこそ、過去に深刻な経済危機に陥り、そこから這い上がってきたイギリス、そして、今のまさに危機の最中にあるイタリアやスペイン、ギリシャから日本が学ばなければならないことはたくさんあるはずです。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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会社はそもそも「仕組み」でしかない
キリスト教の影響が強い欧米では、労働は「罰」あるいは「奉仕」です。
「人間が断罪されるため」という考え方が基底にあり、あくまで自分のために行なうことです。
そのため、「会社のために働く」という日本人的な考え方は、理解されません。
谷本さんは、「会社」は、一人や少人数ではなし得ない仕事を、複数の人で集まってするための「仕組み」でしかない
と指摘します。
単なる仕組みに人生を賭けてしまうとは、まるで、「料理よりも料理を作るための包丁のほうが大事だ」と大真面目に言うようなものです。
大事なのは何をやるか、何をなすか、であり、「どの仕組みに所属しているか」ではないのです。しかし、日本のおかしいところは「どの仕組みに所属しているか」を重用視し、それがまるでその人自身であるかのように思い込んでいる人が多いことなのです。
「会社」を気にする人は一度「会社って一体何だっけ?」と考えてみるとよいでしょう。自分がいかに馬鹿げたものにこだわっていたのかがよくわかります。あんなものは、単に給料を稼ぐための「仕組み」なだけで、自分が人生を賭ける場所でも、友達を作る場所でも、帰属意識を確認する場所でもないのです。
「会社のために働く」とか言うのは日本人だけです。『日本に殺されず幸せに生きる方法』 第1章 より 谷本真由美:著 あさ出版:刊
生活するために会社があるのであって、会社のために生活するのではない。
そんなあまりに当たり前の考え方が、多くの日本人からすっぽり抜け落ちています。
「会社をリストラされたから自殺する」
そんなつまらない理由などで、命を落とす人がいない社会にしたいですね。
深い人間関係が重要となる「ラテン圏」の国々
深刻な財政難で、経済危機が現在進行中のイタリアやスペインなどの「ラテン圏」の国々。
これらの国々で重要になるのは、「何ができるか」ではなく「誰を知っているか」。
つまり「コネ」ですね。
人間関係が効率に優先するので、仕事上のことであっても、周囲の人に何かを厳しく指摘したり、激しい議論をしたり、年上の人に歯向かったりは御法度です。激しい議論はイギリスだと割と普通で、あくまで仕事上の意見なので議論後はケロッとしていることも多いのですが、イタリアやスペインでこれをやってしまうと、人間関係に大きなひびが入ります。「アントニオはあんなに性格のよい子で料理も上手なのよ。しかもとっても優しいの。そのアントニオにこんな酷いことを言うなんて許せないわ。なんて冷たい人」と陰で色々言われてしまい、仕事をやってもらえなくなったり、ランチや会社の行事で村八分になってしまいます。仕事上の明らかなミスがあったり、直すべきことも、直球で指摘するのはなかなか難しいのです。
こういう雰囲気があるから、汚職が蔓延(まんえん)したり、どう見ても変な制度がそのままだったりで、斬新なサービスや製品が生まれてこないんじゃないか、と思います。『日本に殺されず幸せに生きる方法』 第3章 より 谷本真由美:著 あさ出版:刊
中身よりも、見た目が大事。
「友人っぽい関係」を構築しながら、ダラダラとなんとなく仕事する。
「よそ者」を受け入れたがらない。
まるで、東洋のどこかの国のことを述べているかのようですね。
その国もいずれ、イタリアやスペインの二の舞になるのでしょうか。
“前近代的”人材採用が日本を没落させる
海外のメディアから、たびたび「日本の産業がダメになっている原因」だと指摘されているもの。
それが、日本企業の新入社員の採用制度です。
グローバル社会において、多国籍企業はどこも世界中から優秀な人材を採用しようと必死です。
もちろん、国籍など関係なくです。
谷本さんは、日本企業にありがちな、日本で教育を受けた日本人のみを採用するという制度は、「ガラパゴス状態の人材採用と管理」で日本を没落させる要因の一つ
だと切り捨てます。
「日本で教育を受けた学生しか採用しない」などという考えは時代錯誤どころか、他の国の人に「頭がおかしい」と言われても仕方がありません。国によっては「人種差別」と思われることもあるでしょう。今や世界の革新的な組織は多国籍なのが当たり前です。何人だから、どこ出身だから、どこの学校を出ているからと言うような馬鹿げた人々はいないのです。
さらに、仕事で必要なことは、事前の合意に沿って、期待された結果を提供することです。組織に馴染むかどうかは関係ありません。仲良しクラブでも、仕事ができなければどうしようもないのです。
転職も当たり前のことです。自分が組織で学び尽くした、やり尽くしたと思うなら、別の組織に行ったり、起業するのはごくごく当たり前のことです。
そういう当たり前のことを「合わない」「馴染まない」「違う」と退けてしまう日本企業は、一体いつの時代を生きているのでしょうか? 世の中が激動しているのに、どうやって他の国の組織と競争していくのでしょうか? 海外に出ても同じような学校を出た日本人とだけ集まってランチをしたり、週末に集まっているような海外駐在員の人々は、他の国の人々から見たら「閉鎖的で現地に溶け込むつもりがない人々」と思われても仕方ないのです。『日本に殺されず幸せに生きる方法』 第4章 より 谷本真由美:著 あさ出版:刊
このご時世、日本の企業同士が、人材の奪い合いをしている状況ではありません。
少子化も止まる気配がありません。
閉じた社会のままでは、どこかで必ず破綻します。
つまらないプライドなどは取っ払い、多くの国々の意欲のある人材を招き入れる。
そうすることで、国全体を活性化させたいですね。
批判を恐れるな。「同調圧力」に勝て!
日本では、人と違う行動を起こすと、すぐに槍玉に挙げられ、批判の的にされることがしばしばです。
それでも谷本さんは、批判を恐れずに行動してみるべきだ
と述べて、現状を変えるために自ら動くことを強く勧めています。
日本で、特に女性に強くあるのが、「同調圧力」です。何か新しいことを始めると言うと「やめなよ。うまくいきっこないから」と言ってくる人が九割です。
それは、本気で心配して言っているのではありません。「自分と同じと思っている人がうまくいって上のレベルに行くのは面白くないから、足を引っ張ろうとしているだけ」なのです。それが意識しての行動か、無意識なものかはわかりませんが、「同じであることを強要する力」は日本に強くあります。
みんな自分が大事で、他人にはさして興味もありませんから、あなたに言ってくることのほぼすべてが自分のために言っているか、適当に思いついたことを言っています。
「自分がいいと思った、信じたからやる」のであれば、他人の声なんてどうでもいいのです。
「会社で波風立てると嫌われて出世に響くから・・・・」と思う人もいるかもしれませんが、そんな内向きな会社に未来はありませんから、こっちから切ってしまえばいいのです。
業績悪化で倒産、外資系企業にでも買われてリストラの嵐が吹き荒れてその時に慌てふためくより、先に動いてしまうことをおすすめします。『日本に殺されず幸せに生きる方法』 第6章 より 谷本真由美:著 あさ出版:刊
「やめたほうがいい」という言葉。
それも、本当にその人のことを思ってのものではない場合がほとんどです。
毎日のように同僚や上司と付き合いで飲みにいって親睦を深める。
そうしたところで、いざという時にその人たちが助けてくれません。
それよりも大事なことは、「自分の身は自分で守る」という覚悟。
まずは、どこでもやっていける実力をつけることです。
英語を含めた、どこでも通じる汎用性の高いスキルを磨く。
その意識を、普段の仕事から持ち続けたいものです。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
日本は毎年3万人の方が自ら命を絶つ「自殺大国」です。
会社での人間関係、パワハラ、セクハラ、リストラなど、仕事上の理由によるものも多いです。
その人たちは、まさに、「日本に殺された」といえます。
谷本さんもおっしゃっていますが、社会の仕組みや空気は、それを構成している人、つまり、私たち自身が変わることによってのみ変えることができます。
幸い、日本にはまだ時間が残されています。
一人ひとりの意識の変化が集まって、大きなうねりとなり社会を変える。
世界を驚く復活劇を演じて、日本人の底力を世界に見せつけたいですね。
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