本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『運を支配する』(桜井章一 、藤田晋)

 お薦めの本の紹介です。
 桜井章一さんと藤田晋さんの『運を支配する』です。

 桜井章一(さくらい・しょういち)さんは、雀士です。
「勝負師」としてデビューして以降、“二十年無敗”という伝説をつくられ、「雀鬼」の異名を持ちます。
 現在は引退し、雀荘の経営をしながら、後進の育成に力を入れていらっしゃいます。

 藤田晋(ふじた・すすむ)さん(@susumu_fujita)は、起業家・実業家です。
 98年に「サイバーエージェント」を設立、代表取締役社長に就任されています。

「麻雀」と「ビジネス」に共通する『運』とは?

 藤田さんは、大学生の頃、桜井さんが主宰する「雀鬼会」で修行をした時期があります。
 桜井さんから教わったことは少なくなく、麻雀で培った経験は、いまでも仕事をする上で大きく活かされているとのこと。

 実際、麻雀というものをつぶさに見ていくと、ビジネスの縮図ののようなものがあちこちに垣間見(かいまみ)えます。要約すると次のようになります。

  1. どんな牌(パイ)が配られるかわからない「不平等」なところからスタートする。
  2. 一定のルールにのっとり、配られた牌をもとに、いかに人より早く大きく上がれるかの「相対的な競争」になる。
  3. 局の進行、相手との刻一刻との点差棒など刻一刻と状況が激しく変化する中で、冷静で素早い「状況判断力」が問われる。
  4. 4人に1人しか上がれないため、大半の時間は「忍耐力」を要する。

 これらの特徴は、ビジネスとよく似ています。ビジネスは「不平等」でありながら、「相対的な競争」であり、常に「状況判断力」が求められ、最後は「忍耐力」が勝負の分かれ目だからです。本書の中で多く触れていますが、僕はそれらの大半を麻雀から学んだといっても過言ではありません。
 桜井会長から学んだことで、仕事や人生でとくに大きな影響を受けたものは何かと問われれば、「己を律する」ということ、それから「正々堂々と戦う」の2つだと思います。
 麻雀が弱い人は、己の欲望に負ける人です。本書で桜井会長が「洗面器から最後まで顔を上げなかったものが勝つ」と述べているように、麻雀は我慢比べみたいなところがあります。
 ビジネスにおいて早く楽になりたいと勝ちを急ぐ人も、負けが混んで挽回(ばんかい)しようと熱くなる人も、「己を律する」ことができない人は結局、欲に呑(の)み込まれて自滅していきます。
 またビジネスをしていると、ズルをしたり人を騙(だま)して稼ぐほうが得をして、誠実にやっているほうが損をしているようにみえることがあります。
 しかし、卑怯(ひきょう)な手を使う側に回りたくなる誘惑に負けてしまったら、そこでおしまいです。人から信用を失うばかりでなく、たとえ成功しても、幸せを感じることはできないでしょう。僕は「正々堂々と戦う」ことが、最後は一番強いと信じています。

 『運を支配する』 まえがき より  桜井章一、藤田晋:著  幻冬舎:刊

 本書は、“20年間無敗の男”桜井さんが書き記した、運やツキ、勝負勘という合理的に説明しづらいものを、藤田さんがビジネスパーソン向けにわかりやすく翻訳し、まとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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勝負は複雑にすると負ける

 ゲームや賭け事で初心者が大勝ちすることがあります。
 いわゆる、「ビギナーズラック」です。

 桜井さんは、ビギナーズラックは起こるべくして起こったことで、決して偶然ではないと述べ、以下のように解説しています。

 ビギナーズラックは麻雀というゲームにおいても、しばしば起こる。麻雀の手には難しいものからやさしいものまで多彩なバリエーションがある。だが、ビギナーにとってはどれが難しい手なのか、やさしい手なのかわからない。
 つまり、ビギナーは難しい手が選択肢の中にないので、必然的にシンプルな手をもってくる。それが結果的に勝ちへとつながるのだ。
 勝負には複雑にしたほうが負けるという普遍的な法則がある。「シンプル・イズ・ベスト」なのだ。
 なぜシンプルなほうがいいのか。
 それはシンプルな手にはムダがなく、速く動けるからだ。
 ビギナーズラックをもたらすシンプルさは、「難しく考えない」ことからくる。すなわち、勝負を複雑にせずシンプルにするには、余計なことを考えず、感じたことを大事にすることだ。知識や情報といったものが増えると、どうしても考えが広がって選択肢がたくさん現れる。その分、迷いが生じ、決断に時間がかかることになる。
 ものごとをシンプルにできる人と複雑にしてしまう人の違いはそこにある。
 我々が生きている社会は複雑極まりない。人間の科学文明の進化とは複雑化の過程そのものであって、その最先端が現代である。それゆえに複雑化したり、抽象化することは、この上なく高尚なことだという思い込みを多くの人は持っている。
 そういう社会に生きていれば、おのずと複雑化する思考の習慣や癖が体に沁(し)みこむようについてしまうのは仕方のないことかもしれない。
 雀鬼会(麻雀を通して若者たちの人間力を鍛えることを目的として設立された道場)の道場生たちに、私がシンプルにやんていることを同じようにさせると、あっという間に複雑な操作を加えたりする。つまり、頭で考えたちょっとしたテクニックを入れてしまうのだ。だが、小手先のテクニックなど簡単に見透かされ、崩される糸口を相手に与えるきっかけにしかならない。
 シンプルにするということは簡単にするということだ。勝負を簡単にできれば勝つに決まっている。
 私が「簡単なものが大事」というと、「簡単なものほど、実は難しかったりするんじゃないですか?」と聞いてくる人もいる。しかし、これは考えすぎだ。簡単なものは簡単。そのままなのだ。それを小賢(こざか)しくひねって複雑にするから負けてしまうのだ。

 『運を支配する』 1章 より 桜井章一、藤田晋:著 幻冬舎:刊

 インターネットなどの普及で、得られる知識は格段に増えました。
 その一方で世の中のしくみは、どんどん複雑になっています。

 しかし、世の中がどんなに複雑になろうと、根本的な部分は変わりません。
 だからこそ、本質を見極めて、シンプルに考えて行動することが、運を引き寄せるわけですね。

「不利な状況に強い人」が運を手にする

 勝負強いといわれる人には、ある共通する特徴があります。
 それは、「勝負所に強い」ということです。

(前略)勝負所というと、多くの人はチャンスのことだと思うかもしれない。だが、チャンスと勝負所はまるっきり違う。本当の勝負所というのは、ピンチの中のピンチ、圧倒的に不利な状況のときにこそ訪れる。麻雀でいうと、自分以外の3人がリーチしている状態だ。相手3人からリーチされてもひるむことなく攻め続け、それをしのいで状況をひっくり返す。そのときの達成感は、普通の「勝ち」の中では決して味わえないものだ。
 単にチャンスをとらえ、ここぞとばかり攻めていくのは、私にとっては別に勝負所ではない。やってくるチャンスをものにして勝つことは、私にとっては単純な足し算のようで、あまり面白みがないのだ。
 チャンスをとらえて勝つなんて甘い。真剣勝負をしていたころの私はそう思っていた。好んで自分を厳しい状況に追い込み、そこから逆転して勝利をものにする切所(せっしょ)をあえて好むような精神がなければ、命がけの勝負などする資格はないと心底思っていたのだ。
「相手が3、こちらが7で有利だから勝負に出よう」というのはチャンスであって、もちろん勝負所ではない。「相手が9、こちらが1という極めて不利な状況」のときこそが勝負所なのだ。
 なぜか? そんな絶体絶命の状況には、一步後ろに足を引くだけで奈落に落ちてしまうリスクやハンデが無数に潜んでいるからだ。そうであれば、勝負所では全身全霊で立ち向かっていかなくてはいけない。全身全霊というのは、持てる力を100%出し尽くすことだ。
 通常、人は真剣にやっているつもりでも、100%フルの力は出ていないものだ。よくてせいぜい70%とか80%といったところだろうか。
 勝負所を越えようとするギリギリの力。それは普段なら40キロしか持てない人が、80キロ持てるというような火事場の馬鹿力的なものだ。
 もっとも勝負所をしのぐには、圧倒的に不利な状況をひっくり返すだけの力を持っていなければどうにもならない。力がなければ持てる力を100%出せても、とても太刀打ちできない。
 崖っぷちで発揮される本質的な勝負力というものは、普段から不利な状況でも逃げずに対処するという姿勢で生きていないと鍛えられない。
 苦境にあれば、むしろ好んでその中に飛び込んでいく。そのほうがいろいろな工夫をしたり、やるべきことがたくさんあって私には面白いのである。もちろんそこには「面倒だな」という思いも紙一重であるが、それを覆(くつがえ)したり、克服したときの快感は何ものにも代えがたいのだ。そうやって私は勝負所をしのぐ力を磨いたのである。
 たとえチャンスをつかむのがうまくても、勝負所で逃げの態勢になってしまう人は、最終的には勝つことができない。持続的な勝ち運に恵まれるのは結局、勝負所に強い人なのだ。

 『運を支配する』 2章 より 桜井章一、藤田晋:著 幻冬舎:刊

 自分の実力を大きく高められるのは、100%自分の実力を出し切ったときのみ。
「勝負所」を切り抜けることで、人は磨かれるということです。

 どんなに苦しい局面であっても、そこから逃げないこと。
 絶体絶命だと思っても、どこかに突破口はあります。

 勝負所を逃げない強さを身につけるためには、普段からの心構えが肝心です。
 「苦境にあえて飛び込んでいく覚悟」を身につけたいですね。

悪い運気の断ち切り方

 桜井さんは、スランプのときは、その状態から目を転じてまったく別のことを考えたり、やったりするといいと述べています。
 「間」を置くという切り替えをすることで、流れを変えるきっかけをつくるためです。

 藤田さんも、ギャンブルで大負けする人というのは、調子が悪いのにずっとやり続ける人だとし、“「間」をとる”ことの重要性を指摘しています。

 負けを取り返すのは明日でも1週間後でも構わないのだから一度頭を冷やせばいいのに、こういう人は熱くなっていますぐ取り返したいというモードになっています。
 ギャンブルは回収率や期待値で見れば胴元が有利になるようにできていますが、一方でプレイヤーには「いつでも席を立てる権利」と「賭け金を上げ下げできる権利」が与えられています。プレイヤーはこの2つの権利を駆使して勝つしかないのですが、多くの人はその有利な権利をなぜか不利になるように使って、負けてしまうのです。
 プレイヤーはいつでも席を立てるわけなので、ひどく調子が悪いときは、席を立てばよいのです。また賭け金を上下できるので、調子がいいときはたくさん賭けて、反対に調子が悪いときには賭ける金額を低くすればいいのです。
 ところが人間とは不思議なもので、調子が悪いときは粘って負けを取り返そうとたくさん賭け、調子のいいときは利益を早めに確定したくて、まだまだいける流れであっても早々に席を立ってしまうのです。
 そうしたことは、会社の経営においてもよく起こります。たとえば調子の悪い赤字事業をなんとかしようとして、深みにはまってしまうことがあります。調子の悪いときは業績が悪いだけでなく、評判が下がり、社内の空気も悪く、皆が自信を失っています。そんな状況で損を回収しようとさらに追加で資金を投入し続けても、悪化するばかりです。
 こういう流れにあるときは、早めに撤退や事業の再構築などの見切りをつけるしかありません。負のスパイラルにはまると、ろくなことはないのです。
 あるいは悪い成績が続いている営業マンであれば、そのままの状態で仕事を続けても、契約は思うように取れないでしょう。自信のない顔で営業に行っても、相手は勧めてくる人も商品も信用してくれません。そういうときは1週間ほど休みを取るなどして悪いモードを断ち切ったほうがいいのです。
(中略)
 マイナスを取り返そうというときにやりがちな「負の集中」は、いうなれば運の流れを悪くする努力をわざわざしているようなものです。同じ集中をするのであれば、いい流れのときにこそしなくてはいけません。
 一方で、「正の集中」ともいうべき流れがいいときは、集中する手を緩めてはいけません。仕事の調子がよいときは評判が上がり、社内の空気もよく、皆が自信に満ちあふれています。そんなときは次々にいい話が舞い込んできて、やればやるほど間口が広がっていく。流れがいいときは大きな飛躍のチャンスですから、片ときたりとも集中を切らしてはいけないのです。
 集中というのは一つのことにいかにのめり込めるかというより、それ以外に気を取られないでいられるかが問われます。つまり、気を取られそうなものを厳しく切り捨てる能力の差が、そのまま集中力の差として表れるのです。
 勝負所における爆発的な集中力は、普段やっている仕事の何十倍、何百倍もの成果をもたらしてくれるものだと心得ておくべきです。

 『運を支配する』 3章 より 桜井章一、藤田晋:著 幻冬舎:刊

 人の持つ運気には、「流れ」があります。
 いかに悪い流れを早く断ち切って、良い流れを呼びこむか。
 賭け事に限らず、すべてにおいて大事なことです。

 流れが悪い時こそ、一步引いて頭を冷やして冷静になる。
 致命的なダメージを負わずに生き残るための秘訣ですね。

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「麻雀」と「会社経営」。
 棲む世界は違えど、超一流の勝負師であるお二人。
 厳しい環境を生き残ってきた人だけに備わる“感覚”の鋭さに圧倒されます。

 桜井さんは、運やツキはそれを強く欲するものには逆にやってこないものだとおっしゃっています。
 運やツキは目には見えませんが、いつもこの場にあり、つねに流れています。
 掴もうとすればするほど、逃げていきます。

 いかにいい流れに乗ることができるか。そして、いい流れをつくり出すことができるか。
 私たちも勝負師の感覚を研ぎ澄まし、運を支配する力を養いたいものです。

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