本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『決定版 インダストリー4.0』(尾木蔵人)

 お薦めの本の紹介です。
 尾木蔵人さんの『決定版 インダストリー4.0―第4次産業革命の全貌』です。

 尾木蔵人(おぎ・くらんど)さんは、大手銀行系コンサルティング会社の国際営業部副部長です。
 企業活力研究所ものづくり競争力研究会の委員も務められています。

「インダストリー4.0」が世界のものづくりを変える!

 今、ドイツやアメリカ、中国などを中心に、21世紀の産業革命ともいえる「インダストリー4.0」の大きな潮流が広がっています。
 これらの国々の政府・企業の間では、新しいビジネスモデルやものづくりのルールを決めてしまおうと動き始めています。

 彼らが目指しているのは、ソフトウェアを使って、産業や社会、企業のビジネスモデルをこれまでとはまったく別の次元、“4.0の世界”に引き上げるというもの。
 これが、世界的スケールで動き始めていて、日本や日本人の生活にも大きな影響を与えようとしています。

 尾木さんは、今私たちがこの潮流を正しく理解して行動を起こさなければ、近い将来、日本を抜きにルールができあがってしまい、手をこまねいて見ていれば、世界の中の日本の立場は大きく弱まってしまう可能性があると指摘しています。

 本書は、「インダストリー4.0」を理解するためのポイントをわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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ドイツが目指す「第4の産業革命」とは?

 インダストリー4.0とは、「第4の産業革命」を指します。
 ドイツが“国家的プロジェクト”として位置づけ、先陣を切って始めました。

 図表1−3(下図を参照)は、ドイツ政府が公表する、産業革命の進展を示しています。
 第1次産業革命は、水力や蒸気のエネルギーとしての活用、自動織機の発明という形で、18世紀末イギリスで始まりました。これが、私たちが世界史で学ぶ「産業革命」です。
 第2次産業革命は20世紀初頭にアメリカで起こったとされます。ポイントは電力の活用でした。自動車工場等で部品がベルトコンベアを流れ、労働者がそれぞれの持ち場で同じ作業を繰り返すことにより、生産効率が大きく引き上げられました。
 次に起こったのが、エレクトロニクスやIT技術を活用することによって自動生産が進んだ第3次産業革命です。産業用ロボットやFA装置等により1970年代初めから始まり、生産効率が大幅に引き上げられました。現在の工場は、この第3次産業革命の技術を活用しています。
 産業革命が起こるたびに、技術革新が社会に大きな影響を与えてきたことがわかります。この第1〜第3の産業革命が第4次産業革命の下地を作ってきたといえます。
 ドイツが取り組むインダストリー4.0では、新たな技術革新によってさらにもう一段、生産効率アップを推し進めようとしています。その結果、社会に革命と呼べるほどの大きな変化が起こる。ドイツはそう考えているのです。

 『決定版 インダストリー4.0』 第1章 より 尾木蔵人:著 東洋経済新報社:刊

第1次 第4次産業革命への発展ステージ 第1章P23
図表1−3.第1次〜第4次産業革命への発展ステージ 
(『決定版 インダストリー4.0』 第1章 より抜粋)


 世界有数の工業国で、「ものづくり」にこだわりを持つドイツらしい取り組みですね。
 政府と企業が一体となって取り組む、まさに、国の命運をかけた一大プロジェクトです。

時代は、「マス・カスタマイズ」生産へ

 ドイツが「インダストリー4.0」を強力に推し進めるのには、いくつか理由があります。
 そのうちのひとつが、「消費者ニーズの多様化」です。

 消費者のニーズが多様化する社会の中で、ドイツが考えるものづくりの変化とは何か。それは、大量生産から、マス・カスタマイズ生産(多品種少量生産)時代へのシフトです。
 これを、「クラウドや人工知能を含むコンピューティングパワーを使いながら、サイバー・フィジカル・システムにより効率的に行う」というのがドイツのスマート工場のコンセプトです。
 図表2−3(下図を参照)を見てください。
 これは、インダストリー4.0プラットフォームに参加しているフラウンホーファー研究所が説明する世界のものづくりの歴史です。縦の軸は、上にいくほど生産量が多くなり、横の軸は、右にいくほど多品種が生産されることになります。右下のスタート地点は、マニュアル生産が主流だった時代です。そのかわりに、多品種の生産が行なわれていました。
 第1次産業革命が起こる前のイギリスも、羊の牧畜に支えられた農業国でした。ものづくりも、マニュアル生産に支えられていました。2012年のロンドンオリンピックの開会式で描かれたのどかな農村風景をご記憶の方もいるかもしれません。

 時代は進み、アメリカで少品種大量生産が始まります。T型フォードの生産がこの時代のさきがけでした。
 その後、少品種大量生産時代のピークが過ぎると、多品種少量生産時代へのシフトが始まります。
 グローバルな生産が加速する一方、価値観が多様化し、それぞれの好みに合わせた個別仕様へのニーズが高まってきます。ドイツは、この傾向が今後より加速していくと考えています。
 これが、インダストリー4.0プロジェクトの前提となるものづくりの進化の考え方です。
 ドイツは、この多品種少量生産をデジタル化した工場で実現しようと考えており、これを「マス・カスタマイズ生産」と呼ぶことにしました。

 『決定版 インダストリー4.0』 第2章 より 尾木蔵人:著 東洋経済新報社:刊

世界のものづくりの変化 第2章P54
図表2−3.世界のものづくりの変化 
(『決定版 インダストリー4.0』 第2章 より抜粋)


 すべての工場をインターネットでつなぐことで、あらゆる製品で、『オーダーメイド』を実現してしまおう。
 それが、ドイツの目指す「インダストリー4.0」の究極の目標です。
 マス・カスタマイズ生産は、これからの産業を考える上でのキーワードになりますね。

「インダストリー4.0」で、生活はどう変わる?

 インダストリー4.0が実現すると、インターネットとつながりっぱなしになって、人工知能を用いた音声認識コミュニケーションツールを秘書のように使えるようになります。

 尾木さんは、いつもインターネットにつながっていることでメリットのある分野として、「フィットネスや医療」を挙げています。

 ランニングが趣味の妻は、最近発売されたアップルウォッチを欲しがっています。欲しいのは、時計の機能ではありません。心拍数を確認したいのです。今の走り方は、体の限界まで鍛えるようなハードなものなのか、それとも有酸素運動と呼ばれるゆるやかなものなのか、それがすぐにわかる機能をこの製品は持っています。ランニング中に、それを確認しながら走りたいのです。
(中略)
 たとえば、1週間の運動量をモニターするのも簡単です。もしあなたがダイエットをしているのであれば、その効果や運動量の不足を分析して、教えてもらうこともできます。

 次のようなシーンも、あたりまえになっているかもしれません。

 ある朝、あなたは、ウェアラブルバンドをつけてランニングしています。

 心拍数をチェックし、有酸素運動がうまくできていることを確認します。ダイエットにも効果が出そうです。湿気もあるので、どんどん汗をかき始めました。
「家に帰って、スポーツドリンクで水分補給したい!」
走りながら、あなたはバンドに話しかけます。

すると、自宅の冷蔵庫がスポーツドリンクが必要なことを認識。冷蔵庫にスポーツドリンクが入っていないことをスキャンして、いつものお気に入りのドリンクをオーダー。これをドローンが自宅に運んで来る。もちろん、ドリンクメーカーは、人工知能を使ってビッグデータを分析。最適な量のドリンクをインダストリー4.0の技術を導入したスマート工場で作っているのです。
 ウェアラブルバンドは、健康管理にも有効です。ある講演会でご一緒した医学大学の教授がこう教えてくれました。

「毎日のデータの蓄積ほど、強力な医療データはありません。
 病院に診察に来て医者に診てもらうだけでなく、毎日テータをモニターして、普段と違う異常値を示したタイミングを逃さない。
 こうすれば、医療レベルは飛躍的に向上します」

 高齢者の方がこういったウェアラブルバンドを身につけて、健康状態を医師や人工知能にモニターしてもらうのも有効かもしれません。必要とあれば、薬の処方も指示されます。最適な薬が、製薬会社のスマート工場でオーダーメイドで作られ、スマートロジスティックによって自宅に届けられる。そんな時代がくるのではないでしょうか。

 『決定版 インダストリー4.0』 第3章 より 尾木蔵人:著 東洋経済新報社:刊

 iWatchに代表される、今話題の「ウェアラブル・デバイス」。
 それらを装着するのが当たり前の世界が、もうそこまで来ています。

 インターネットは、今後、ますます私たちの実生活に入り込んでくることでしょう。
 ネットの世界を「ヴァーチャル(仮想の)世界」と言っていたのも、昔の話ですね。

自動車メーカーとIT企業の主導権争い

 2011年、IT企業のグーグルの自動運転車がアメリカの公道を走り始め、世界に衝撃を与えました。
 グーグルが自動運転車を開発するメリットは、どこにあるのでしょうか。

 現実に走る自動運転車のデータは、ナビゲーションのシステムを介してデジタル上に蓄積されていきます。原則、自動運転車は、インターネットに接続して走行するはずです。
 どんな目的地にどんな頻度で行くのか。電気や水素、ガソリンなどの燃料をどこで補給したか。こういった情報が蓄積されていきます。
 このデジタル上の仮想車を分析することによって、燃料の補給場所やお勧めのレストラン情報など、乗っているヒトに付加価値のある情報を提供することができるようになります。
 これは、広告収入の増加につながるだけでなく、付加価値のある自動運転サービスの提供という新しいビジネスモデルに発展していく可能性があります。この将来のビジネス領域は、自動車メーカーが主導権を取るのか、IT企業が押さえることに成功するのか、まだわかっていません。グーグルはIT企業としてこの部分を狙っているのではないでしょうか。

「それでは、現実に、グーグルは自動車メーカーになることを狙っているのか」という疑問がわきます。「この点はまだよくわかっていない」というのが現状です。
 将来、グーグルが自動運転のソフトウェアと消費者のニーズを把握して、世界各国の製造請負企業に分割して委託生産する。こういったシナリオを、完全に否定することはできません。
 こういうところに、ドイツがインダストリー4.0を国家プロジェクトとして始めるきっかけになったと見られる、アメリカのIT企業の怖さがあるのではないでしょうか。

 『決定版 インダストリー4.0』 第4章 より 尾木蔵人:著 東洋経済新報社:刊

 グーグルが自動車メーカーになる、ちょっと想像はしにくいですね。
 狙っているのは、自動運転車からインターネットに送られてくる、大量の情報の方でしょう。

 今後主流になると思われる電気自動車は、構造がシンプルであるため、部品をモジュール化することができるといわれています。
 つまり、スマートフォンのように、部品の塊であるそれぞれのユニット(モジュール)を組み合わせるだけで車をつくることができるようになるということです。
 さらに自動運転車の中枢である、オペレーション・システムまで握れば、自動車業界を簡単に牛耳ることができるでしょう。

「いずれ、ドイツの自動車メーカーは、アメリカのIT企業の下請けに成り下がるのではないか」

 そんな危機感がドイツを「インダストリー4.0」へと走らせたのも、うなずける話です。

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 インダストリー4.0を象徴する概念のひとつが、「IoT(Internet of Things)」です。
 IoTは、「モノのインターネット」と訳され、モノがインターネットにつながることを意味します。

 IoTの先がけともいえるのが、「スマートフォン」です。
 電話がインターネットにつながることで、利便性が増し、爆発的に普及しました。

 スマートフォンで圧倒的なシェアを占めている「iPhone」。
 そのiPhoneの部品の70%は、実は日本製といわれています。
 しかし、iPhoneから得られる利益の90%は、アップル社が占めているのだそうです。

 インダストリー4.0の大波は、すべての業種を飲み込むことでしょう。
 自動車、家電、重機、電力などの分野で、日本の製造メーカーが巨大IT企業の下請けに甘んじる。
 そんな可能性も否定できません。

 日本に残された時間は、少なくないです。
 官・民えが総力を挙げて知恵を絞り、“21世紀の黒船”ともいわれる「インダストリー4.0」に立ち向かい、「ものづくり大国・日本」の伝統を守りたいですね。

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