本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『挫折を愛する』(松岡修造)

 お薦めの本の紹介です。
 松岡修造さんの『挫折を愛する』です。

 松岡修造(まつおか・しゅうぞう)さんは、元プロテニス選手です。
 現在は、ジュニアの育成とテニス界の発展にご尽力される一方、スポーツキャスターなどメディアでもご活躍中です。

成功だけが続く人生なんてありえない!

 松岡さんは、失敗やつまずきを経験したことのない人よりも、何度も転んでつまずいて、そのたびに立ち上がった人のほうが強くなれると強調します。

「挫折」という言葉を辞書で引くと、「(計画や事業などが)中途でくじけ折れること」(広辞苑)と出ています。やろうとしていたことが頓挫(とんざ)し、そのまま放りだしてしまえば「挫折」になるのでしょうが、ほとんどの人は、途中で壁にぶつかって意欲や気力が衰え、考え方が後ろ向きになっているだけのような気がします。
 そこでほんの少し考え方を変えれば、心も体も前向きになるはずです。そこから盛り返していけば、本当の「挫折」にはなりません。
 僕は「熱血」「気合」「応援」といったイメージを持たれることが多いのですが、いつもポジティブなわけではありません。むしろ、人と比べるとかなり消極的で弱い人間です。
 現役時代に、「決断力のなさがテニスに出ている」とコーチに指摘されて悩んだり、ショットが決まらなくて試合を投げ出したくなったり、けがや病気でテニスができなくなって「なぜ自分だけこんなひどい目に遭うんだ」と運命を呪ったこともありました。
 スボーツキャスターになってからは、緊張のあまり頭が真っ白になって言葉が出てこなかったり、インタビューに失敗して夜も眠れないほど激しく落ち込んだり・・・・・。
 でも、こうした失敗や落ち込み体験が、僕という人間を知る手がかりになり、心を強くしていく原動力になりました。
 オリンピックに出場するようなトップアスリートたちのなかにも、一度の挫折もなく世界のトップまで上りつめた選手はいません。それぞれに何かしら心に弱い部分を抱え、誰もがどこかで限界ギリギリの崖(がけ)っぷちに追い詰められた経験を持っています。
 そこで自分の弱さときちんと向き合い、自分を変えていこうと行動してきたから、焦り、落ち込み、挫折感、絶望感を乗り越えて、心が強くなったのです。
 彼らは、「もうダメだ」と思ったところからの頑張りを、自分の力に変えているのです。
 これは、筋力トレーニングと似ています。たとえば腹筋の運動をするとき、簡単に上半身が持ち上がるあいだは、何回やっても筋肉はなかなかつきません。筋肉がつき始めるのは、「きつい! もう上がらない!」と思ってから。その状態が最初の一歩です。
 今のあなたは「心の筋肉トレーニング」の真っ最中で、「もう無理だ」は、あなたを劇的に変える寸前の最後の苦しみなのかもしれません。だから絶対に諦(あきら)めないでください。

 『挫折を愛する』 はじめに より 松岡修造:著 KADOKAWA:刊

 人生も、テニスのトーナメントと同じで、成功するより失敗することのほうが多いもの。
 誰にとっても、失敗は苦く辛いものです。
 しかし、その体験から学べるものは必ずあります。

 挫折から立ち直る力を養うこと。
「心の筋肉トレーニング」が、人生という“試合”を勝利に導きます。

 本書は、松岡さんがこれまで培った「折れやすい心を強く変えるヒント」をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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自分を過小評価すると恐怖心が生まれる

 人の心のなかには、「二人の自分」が存在しています。
「プラス方向に考える積極的な自分」「マイナス方向に考える消極的な自分」です。
 松岡さんは、どちらを選ぶかは、自分次第だと指摘します。

「プラス方向に考える積極的な自分」を選んだときには、ものごとを肯定的にとらえることができるので、新しいことにどんどん挑戦していけます。
「マイナス方向に考える消極的な自分」を選んだときには、自分の力を過小評価し、失敗を前提とした結果を自分のなかで勝手につくりあげてしまいます。そのため、やりたいことがあっても、挑戦するのをやめたり、先延ばしにしてしまうことが多いものです。日頃から漠然とした挫折(ざせつ)感にとらわれている人は、「消極的な自分」ばかり選択しているため、まだ何も行動していないうちから心が折れてしまっているのかもしれません。
 挑戦をためらわせる大きな要因は、「失敗したらどうしよう」という恐怖心です。
 こういう心の弱さは誰にでもあります。僕がそれを自覚したのは、十八歳で単身アメリカに渡り、世界的名コーチ、ボブ・ブレットのもとで毎日ひたすらボールを追いかけていた頃でした。あるときボブが、「腕試しにプロの試合に出てみよう」と言いました。
 当時はプロテニスプレーヤーになるつもりなどまったくなかった僕は、
「えーっ! プロの試合? 僕なんか勝てるわけないよ」
 と尻込(しりご)みしてしまいました。無意識のうちに、「自分はどうせこんなものだろう」と決めつけていたのです。けれどボブは、力を込めて言いました。
「つまらない恐怖心を持つな。人間には思いもよらない力があるんだ」
 たしかにボブの言うとおりかもしれない、と思いました。たとえ負けても、テニス王国アメリカの大会に出れば、日本に帰ってからの土産話にはなるだろう。よし、自分の力がどの程度か試してみよう!
 出場したのは、誰でもエントリーできるサテライトのトーナメント。マッチポイントをとられて負けそうになった試合もありましたが、それを乗り越えると、僕の気持ちは大きく変化していました。以前の僕なら勝てないと思うような相手でも、不思議と対等に戦える気になっていたのです。そうなると、次の試合でも勝つチャンスが生まれる。勝つことによって気持ちがどんどん強くなっていき、予選を突破することができました。
 小さな大会でしたが、僕にとってはプロになるきっかけとなった大きな試合です。ボブに言われなければ、自分の本当の力に気づくことはなかったでしょう。

 『挫折を愛する』 第1章 より 松岡修造:著 KADOKAWA:刊

「案ずるより産むが易し」ですね。
 難しいと思えることでも、実際にやってみると、案外すんなりできてしまうもの。

 物ごとを成し遂げるうえでの最大の障壁。
 それは、自分の心にある「自分はどうせこんなものだろう」という決めつけです。

 人が成長するうえで最も大切なのは、どんなときも失敗を恐れずチャレンジすること。
「プラス方向に考える積極的な自分」を選べるようになりたいですね。

「Why」よりも「How」に意識を向ける

 松岡さんは、若い頃に両膝(りょうひざ)の負傷で二度の手術を受けます。
 この人生最大の挫折を乗り越えたときに実感したのは、挫折や敗北の受け止め方は、自分の心しだいで変わってくることでした。

 立ち直りが早かったのは、一回目の膝の手術のときの失敗から多くを学んでいたからです。手術をするのなら、一刻も早く自分の意思で決断すべきこと。執刀医との意思の疎通と信頼感が大切なこと。落ち込んだって悪い状況がよくなるわけではないということ・・・・・。
 最初の挫折から多くを学べば、二度目、三度目は非常に早く本来の自分に戻ることができるのです。
 このときの僕には、手術を受ければ完治するという確信がありました。時間をかけてリハビリをすればコートに戻れることも、そのリハビリのやり方も、答えはすべて出ていた。頭のなかには自分がツアーに復帰してプレーしている映像まで見えていました。だから自信を失うことがなかったのです。
(中略)
 人が自信をなくすのは、どうすればいいかわからなくなってしまったときです。
 そういう状態では、「なぜ、自分だけがつらい思いをするのか」と後ろ向きの気持ちになりがちです。膝のけがで苦しんだときの僕も、「なぜ膝が痛いんだ」「どうして頑張っているのに勝てないんた」「なんでこうなるんだよ」と、頭のなかは「なぜ?」ばかりでした。
 その経験から、“Why?”ではなく、“How?”に意識を向ければいいのだと気づきました。自分がどうすればいいかわかれば、失いかけた自信を取り戻すことができます。「どうすれば早く復帰できるか」「どうすれば以前のプレーができるか」に意識を集中した僕は、靭帯の手術の翌日から、ベッドの上で上半身を強化するトレーニングを始めました。
(中略)
 どんなピンチにおちいっても、そこでしか学べないものはあります。僕の場合は、二度の大きなけがをした時期に、メンタルトレーニングやイメージトレーニング、食生活の管理などを本格的に勉強しはじめました。けがをしていなかったら、そういう時間はずっとつくれなかったかもしれません。
 この時期は、僕がいちばん成長し、心が格段に強くなったときだと思っています。

 『挫折を愛する』 第2章 より 松岡修造:著 KADOKAWA:刊

 この世界で起こる出来ごとは、人間の理解を超えています。
「なぜこうなってしまったのか」と後ろ向きに考えても、答えは出ません。

「それを乗り越えるには、どうすればいいか?」
 そうやって、前を向く姿勢が問題解決を早めます。

 逆境をバネにし、ピンチをチャンスに変える。
 そんなしたたかな強さを身につけたいですね。

朝と夜、鏡のなかの自分に話しかける

 松岡さんが、前向きな気持ちで生きていくために毎日欠かさず行うことがあります。
 それは、『鏡に映る自分に向かって、「誓いの言葉」を言い聞かせる』こと。
 松岡さんの「誓いの言葉」とは、次のようなものです。

  • 独立決断
  • 自分はけが、病気は絶対しません
  • 怒らず、恐れず、悲しまず
  • 正直、親切、愉快に
  • 力と勇気と信念を持て
  • 自己に対する責務を果たし
  • 愛と平和とを失わざる今日一日
  • ◯◯、◯◯、◯◯(家族の名前を入れて)と、厳かに生きていくことを誓います。

 この誓いの言葉は、完全積極を唱えて独自の成功哲学を確立された中村天風(てんぷう)先生の言葉を、自分なりに少しアレンジしたものです。
 この言葉を、朝起きたときと夜寝る前に、鏡のなかの自分に向かって声に出して言います。大声を出すわけではありません。小さな声でも強く言葉を投げかけるイメージです。誓いの言葉を言うだけで、毎回、気持ちが前向きになります。
 でも・・・・・。「けが、病気は絶対しません」と言いながら、内心、「なんか体がだるい、風邪をひいたかな」と思うことがあります。「愛と平和とを失わざる今日一日」を誓った三十秒後に妻とケンカしたこともありました。
 じつは、ここに並べたことは僕の最も弱い部分ばかりなのです。
 たとえば、「けが、病気は絶対しません」。誓いの言葉を言いはじめたのはウィンブルドンでベスト8に入ったときからですが、それ以前の僕は、すでに述べたように二度の大けがと病気による長期入院を経験していました。二度とそんなことがないようにしよう、との思いで誓っているわけです。
「怒らず、恐れず、悲しまず」も僕の弱点です。クルマを運転しているとき、カーナビが道を間違えたせいで遅刻しそうになったりするとカッとして、「お前何やってんだよ!」とカーナビに向かって叫んでいることがあります。講演会で話すときには緊張で手が氷のように冷たくなり、テーブルの上の水差しがカタカタ音を立てるほど体が震えることもあります。そんなとき、体に沁(し)み込んだ誓いの言葉によって冷静になれるのです。
 誓いの言葉は、心の軸をブレさせないためのものなので、朝と夜のほかに、ネガティブ思考にとらわれそうになったときにも鏡の前に行って口にします。
 なぜ鏡の前なのかというと、自分を客観的に見ることができるからです。鏡に映った自分に言い聞かせている僕と、鏡のなかの自分から言われている僕、「二人の自分」が同時に存在する感覚になるので、言葉の内容が、より強く心のなかに入ってきます。
 自分なりの誓いの言葉をつくって毎日鏡の前で唱えると、その言葉が体に染み込んでいき、自然に行動できるようになります。長い言葉にする必要はありません。「できる! できる!」とか、「大丈夫、大丈夫」だけでもいいでしょう。
 朝、鏡の前で唱える時間がない人は、電車の窓に映る自分に言い聞かせても同じ効果があります。ただし、電車のなかで「できる!」と声に出したら周囲の人がびっくりしてしまうので、そのときは心のなかで言うようにしてください。

 『挫折を愛する』 第3章 より 松岡修造:著 KADOKAWA:刊

 誰でも、多少なりとも弱点はあるもの。
 その弱点に立ち向かうため、あえて「誓いの言葉」として選んでいるのですね。

 気持ちを前向きに保ち、いざというとき、自分を支える「誓いの言葉」。
 私たちも、ぜひ、習慣にしたいですね。

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☆    ★    ☆    ★    ☆    ★    ☆

 松岡さんは、現役時代から数多くの挫折を経験し、血のにじむような努力で克服されてきました。
 テレビで見せる、熱血で底抜けに明るいキャラクターからは想像もできない「努力の人」です。

 松岡さんは、挫折のときほど本当の力を発揮できるときはないと強調されています。
 挫折してからが本当の勝負。
 挫折を乗り越えたとき、それまでより一回り大きくなった自分がいます。

 どんなに困難な状況になっても、決して諦めずに勝利を目指して全力を尽くす。
 私たちも、松岡さんのどこまでもひたむきな姿勢を見習いたいところです。

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