本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『ネットフリックスの時代』(西田宗千佳)

 お薦めの本の紹介です。
 西田宗千佳さんの『ネットフリックスの時代 配信とスマホがテレビを変える』です。

 西田宗千佳(にしだ・むねちか)さん(@mnishi41)は、IT、先端技術分野を中心にご活躍されているフリージャーナリストです。

映像・音楽コンテンツの消費形態が変わった!

 近年、日本でも映像・音楽をネット配信するビジネスが展開されるようになりました。
 ただ、まだ本当の意味で一般化するには至っていません。

 一方、海の向こうの米国では、ここ数年で「ネットフリックス」が大ブレイクし、ネット配信によるサービスが一気に広がりました。
 今では、CDやDVDなどのディスクメディア販売を超える状態となっています。

 映像・音楽コンテンツのネット配信化の波は、いずれ日本にも押し寄せてきます。
 ネットで映像・音楽を楽しむことが日常になった国と、そうでない国ではどこが違うのか。
 そうした姿が一般的になった世界では、私たちの生活はどのように変わるのか。

 本書は、「ネットフリックス上陸」という“一大事件”を通し、映像の見方の変化が私たちの生活にもたらす影響をまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「つながっていないテレビ」などありえない!

 自分で見たい番組を選んで見るタイプの映像配信を「ビデオ・オン・デマンド(VOD)」と呼びます。
 ネットフリックスは、全世界50ヶ国で6500万人のユーザーを抱える、世界最大のVOD事業者です。

 VODは日本にもあるが、日常的に使っている人はまだ少ないだろう。ホテルのテレビにあるもの、というイメージの人も多いかもしれない。アメリカでは、有料の衛星放送・ケーブルテレビの普及にともない、1980年代から、家庭でもポピュラーな存在である。特に、注目されるスポーツイベントでは利用が多い。2015年5月におこなわれた、プロボクシングのフロイド・メイウェザー対マニー・パッキャオ戦は、VODだけで3億ドルの収入があったと言われている。
 だが、ネットフリックスが手がけているVODはもう少し日常的なものだ。対象は、映画とドラマ、そしてドキュメンタリー。これまでならレンタルビデオ店に並んでいたような作品が、ほぼすべて網羅されている。アメリカで販売されているテレビ、ゲーム機のほとんどにネットフリックスの視聴機能が内蔵されていて、機器をネットに接続するだけで簡単に使える。リモコンの十字ボタンで見たい映像を選び、「決定」で再生するだけのシンプルさである。アメリカで販売されるテレビの多くには、「ネットフリックス」ボタンがある。衛星放送を見るときのように「ネットフリックス」ボタンを押せば、視聴がはじまる。その流れは日本にも波及し、2015年に入ってから、ネットフリックスがサービスをはじめる前にもかかわらず、テレビメーカーはリモコンに「ネットフリックス」ボタンをつけはじめた。背景には、ネットフリックスがテレビメーカーにしかけた共同キャンペーンの存在があるのだが、それでも、メーカーとして普及に期待していなければ、リモコンの一等地を分け与える必要はない。
 支持されたのは、操作のシンプルさだけが理由ではない。支払い方法も恐ろしくシンプルだ。ネットフリックスの支払いは月額固定制。アメリカの場合、最低7.99ドルですべての映像が見放題になる。何本、何回見ても追加料金は発生しない。日本の場合には650円(税別)からで、画質や同時視聴可能な端末の数により3つの料金バリエーションがある。こうした定額制のVODを、サブスクリプション(定期購読)型ビデオ・オン・デマンド、通称「SVOD」と呼ぶ。
 テレビのなかにレンタルビデオ店が現れたような存在。それがネットフリックスだ。2007年に今のかたちでのビジネスをスタートすると、アメリカ市場では熱狂的に受け入れられた。2015年6月末の、アメリカでの会員数は約4230万人。世帯普及率でいえば約35%にあたる。

 『ネットフリックスの時代』 第1章 より 西田宗千佳:著 講談社:刊

 月々の支払いが1000円に満たない金額で、自宅にいながらにして、あらゆるジャンルの膨大な量の映像を見ることができる。
 その便利さ、快適さは衝撃的なものでしょう。

 まさに、「テレビのなかにレンタルビデオ店が現れたような存在」。
 全世界で、サービスが急拡大しているのも、うなずける話です。

日本でも動き出す「見逃し配信」

 ネットフリックスの上陸を機に、日本でも映像配信サービスが本格的に動き出しました。
 2015年10月より、在京民放キー局5社は、共同で地上波放送番組の無料見逃し配信サービス「TVer(ティバー)」を開始します。

「見逃し配信」とは、テレビで放送された番組を、放送の後にそのままネットで配信するもの。テレビでの放送を見られなかった、すなわち見逃した人のための配信だから「見逃し配信」、というわけだ。TVerは、スマートフォン、タブレット、パソコンを使い、放送された番組が次回に放送されるまで、すなわち1週間のあいだ、無料で視聴できる。視聴中には地上波の民放と同じく、途中でCMが挿入される。ネット配信だがYoutubeとはちがい、CMをスキップすることはできない。広告が見逃し配信の利益源泉だからだ。
 見逃し配信というモデルは、世界的にみれば珍しいものではない。特に進んでいるのがイギリスだ。公共放送であるBBCは、2007年末から「iPlayer」というサービスを展開しており、現在はほぼすべてのテレビ番組とラジオ番組をネット経由でも視聴できる。アメリカでも、プレミアム系ケーブルテレビ局HBOは、契約者向けに「HBO Go」というサービスを用意し、いつでも放映済みの番組を楽しめるようにしている。日本の場合も、HBOを模範にビジネスを組み立てている衛星放送局であるWOWOWが、「WOWOWメンバーズオンデマンド」というサービスで、見逃し配信をおこなっている。
 ネットフリックスのヘイスティング氏は「インターネットテレビは、エンターテインメントにおける大きなブレークスルーだ。いまやBBCやHBOなどの世界の各放送局も、既存のテレビからネットテレビへの移行を加速している。テレビの世界がオン・デマンド型に変わっていくのは大きな流れである」と話す。事実その通り、世界の放送事業者は、放送+ネットでの配信、というモデルに流れている。
 日本の主流である地上波の番組は、正直、諸外国にくらべ動きが鈍い。地上波テレビ局は、2014年後半になって、ようやく見逃し配信に力を入れはじめており、TVerはそのひとつである。ただし、TVerは統一的なプラットフォームではあるが「唯一のプラットフォーム」でもなく、排他的なものでもない。地上波キー局は、それぞれの思惑に応じ、さまざまなかたちで見逃し配信に取り組もうとしている。
 なぜなら、そうしないとテレビを見てもらえなくなりつつあるからである。

 『ネットフリックスの時代』 第3章 より 西田宗千佳:著 講談社:刊

 スマートフォンやタブレットの急激な普及が、私たちの生活を大きく変えました。
 いよいよテレビまでも、これまでのスタイルを変えざるを得なくなったということ。

 昨晩のテレビで放映された番組をネット配信し、翌日の朝、通勤の電車の中で観る。
 あと何年かすれば、そんな生活スタイルも、当たり前になるのでしょう。

ネットフリックスは「レコメンド」に8万のデータを使う

 現在、ネットサービスの多くには「レコメンド」という機能が備わっています。
 レコメンドは、ユーザーの嗜好に合ったコンテンツを推薦してくれる機能のことです。

 ネットフリックスは、このレコメンドにおいても、圧倒的な力を発揮します。
 配信している作品を約8万通りの分類項目に分け、解析に利用しているとのこと。

 なぜそこまで膨大なものになるのか? 手法はふたつある。
 まず、作品名はもちろんのこと、製作者やスタッフなどの情報も、可能なかぎりすべてメタ情報化する。例えば、2013年に日本でも公開された「ゼロ・グラビティ」という作品の場合、ディスク販売で必要になるデータベースの情報は、「2013年公開」「SF映画」「監督はアルフォンソ・キュアロン」「主演はサンドラ・ブロックとジョージ・クルーニー」くらいのものだろうか。だがネットフリックスでは、それに加え「第86回アカデミー賞で、作曲賞・視聴効果賞を受賞」「プロデューサーはデヴィッド・ハイマン」といった情報も裏で付加されているようだ。情報が多くなれば、例えば「アカデミー賞で作曲賞を受賞した作品」だけを抽出することもできるし、「同じプロデューサーの作品」で抽出することだってできる。じつは「ゼロ・グラビティ」のプロデューサーは、「ハリーポッター」シリーズと同じであったりもする。面倒ではあるが、こうした情報は基本的に公開されているものであり、結局は、どこまで詳細に記述するか、という話でしかない。
 つぎに、作品の特性をとにかく詳細に記述する、ということだ。例えば、同じアクション映画でも、「ターミネーター」と「コマンドー」ではテイストが異なる。恋愛映画でも、「ノッティングヒルの恋人」を好む人と「ローマの休日」を好む人、「風と共に去りぬ」を好む人は違うはずだ。そもそも作品は、ひとつのジャンルで表現できるものではない。ジャンルが1項目であるのは、パッケージやカタログの面積にかぎりがあるからだ。きちんと表現するには、複数の要素をメタ情報として組み合わせるべきだ。「ターミネーター」は「SF」と「アクション」と「恋愛」要素があり、「ハッピーエンドではない」と表現できるし、「コマンドー」は「現代物」で「アクション」、そして「ハッピーエンド」だ。「ノッティングヒルの恋人」と「風と共に去りぬ」は恋愛映画としては構成要素が異なるものの、「身分違いの恋」というタグ情報で言えば、「ローマの休日」と「ノッティングヒルの恋人」は同一軸になる。一方、映画の製作時期で分類すると、「ローマの休日」と「風と共に去りぬ」は「恋愛映画のクラシック」という同じ要素でくくれる。ひとつの作品に多数の内容を示すタグ情報を組み合わせることで、作品を見つける手がかりは増えることになる。典型的なジャンル情報はもちろん、その映画を好む人の年代や性別も、同様にデータ化されている。だから、「若者が好む現代を舞台にしたアクション映画で、恋愛要素があってハッピーエンド」とか、「中年女性が好む歴史ものの恋愛映画で、コメディ要素はなくハッピーエンドではない」といった表現が可能になるわけだ。
 ネットフリックスが使う8万の情報というのは、こうした多彩な情報の組み合わせである。重要なのは、こうした情報は表にでることはない、ということだ。多彩な情報があっても、自分で選ぶ場合には、枝葉が多すぎて使えない。シンプルな製作年代やジャンルで把握する方が使いやすい。巨大なメタ情報データは、サービス側が背後で集計するためのもの、言い換えれば、「機械が作品を理解するための情報」なのである。
 では、そうしたものはどうやって使われているのだろうか? ポイントは「視聴という行動」にある。
 我々が作品を見る、という行動は、その作品が好きだ、という意思の反映でもある。例えば「ターミネーター」という作品を見たとすれば、その作品が含むタグ情報、「SF」「アクション」「アーノルド・シュワルツネッガー」「ジェームズ・キャメロン監督作品」「ターミネーター・シリーズ」「荒廃した未来を描いた作品」などの要素を好む可能性が高い、ということになるわけだ。そうした情報が積み重なっていけば、サービス側には大量の組み合わせの情報が残る。その情報こそが、レコメンドの精度アップに寄与するのである。

 『ネットフリックスの時代』 第5章 より 西田宗千佳:著 講談社:刊

 膨大な数の分類項目と、世界最大のユーザー数の利用履歴データ。
 それらの組み合わせの解析により、精細なレコメンドを提供できるということです。

 まさに、ビッグデータ解析の進歩がもたらした革新的な方法といえます。

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 テレビがインターネットに直接つながる。
 いわゆる、「ネットテレビ」が世界的なトレンドとなっています。

「日本のメディアのあり方が大きく転換した年だった」
 ネットフリックスが日本に上陸した2015年は、のちのち、そう言われるかもしれません。

 まさに、“黒船”級のインパクトを与えたネットフリックス。
 今後、業界を揺るがす大変革が巻き起こるのは間違いありません。

 それをきっかけに、日本の放送・通信がどう変わっていくのか。
 注意深く見守りたいですね。

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