本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『腸内フローラ10の真実』(NHKスペシャル取材班)

 お薦めの本の紹介です。
 NHKスペシャル取材班(丸山優二さんと古川千尋さん)の『腸内フローラ10の真実』です。

 丸山優二(まるやま・ゆうじ)さんは、NHK大型企画センターのディレクターです。

 古川千尋(ふるかわ・ちひろ)さんは、NHKエデュケーショナルの科学健康部ディレクターです。

「腸内フローラ」を知れば、人生が変わる!

 私たちの腸の中には、100兆個ともいわれる、膨大な数の細菌が住み着いています。
 それら腸内細菌たちは、人間が食べたものをエサにして、互いに競い合い、助け合いながら生きる“生態系”を作っています。
 その細菌の生態系のことを「腸内フローラ」と呼びます。

 腸内フローラの細菌たちが、便通をよくし、お腹の調子を整える。
 その事実は、古くから知られていました。
 しかし最近、一般常識をはるかに超えたレベルで、腸内フローラは全身の健康と美容、日々の暮らしに深く関わっていることがわかってきました。

 著者は、腸内フローラに住み着く細菌たちのことを私たちが人生を楽しく快調に生きるために欠かせない、もっとも重要なパートナーであり、家族や親友と同じくらい大切にすべき、自分の体のなかにいる“もうひとりの私”だと指摘します。

 本書は、腸内フローラの最新研究で得られた事実と、それが私たちの健康にどう関わっているのか、わかりやすくまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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“天然のやせ薬”短鎖脂肪酸

 腸内フローラの乱れは、肥満体質の原因となることが、科学的に証明されています。
 肥満の人の腸内フローラには、「肥満を防ぐ細菌(バクテロイデスなど)」が極端に少ないです。

 腸内細菌と肥満の関係を語るうえで欠かせないのが、「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」です。
 短鎖脂肪酸は、“天然のやせ薬”ともいわれ、肥満をコントロールしていることがわかってきました。

 肥満は、脂肪細胞と呼ばれる細胞が内部に脂肪の粒を蓄え、肥大化することで起きます。もしものときに備えてエネルギー源を蓄えておくのが役目の脂肪細胞は、放っておくと血液中の栄養分をどんどん取り込み続け、肥大化していきます。この脂肪細胞の暴走にブレーキをかけるのが、短鎖脂肪酸です。

 私たちが食事をすると、食べ物は胃を通りぬけ、腸へと入っていきます。こうした食べ物をバクテロイデスなどの腸内細菌が分解して、短鎖脂肪酸を作ります(下図1を参照)。そして、短鎖脂肪酸は、他の栄養分とともに腸から吸収され、血液中に入って全身へ運ばれていき、やがて、脂肪細胞にたどり着きます。
 じつは脂肪細胞には、短鎖脂肪酸を感知するセンサー(受容体)がついていて、このセンサーが短鎖脂肪酸を感知すると、細胞は栄養分の取り込みをやめ、暴走が止まる仕組みになっています。つまり、短鎖脂肪酸は脂肪が過剰にたまるのを防いでいるのです。
 短鎖脂肪酸の働きは、これだけではありません。交感神経にも短鎖脂肪酸に反応するセンサーがあり、感知すると全身の代謝が活性化します。具体的には、心拍数の増加や体温の上昇などが起こり、あまった栄養分を燃やして消費させる方向に働きます。つまり、短鎖脂肪酸は脂肪の蓄積を抑え、消費を増やすという両面から、肥満を防ぐ働きをしているのです。
 私たちが食事をするたびに腸内細菌たちが短鎖脂肪酸を作り出し、全身の細胞に対して「ちゃんと栄養を摂っているから、必要以上にため込まなくても大丈夫ですよ」と教えるシグナルを発信しているとも言えます。
 驚くほど理にかなったシステムを私たちは持っているのです。

 『腸内フローラ10の真実』 第1章 より NHKスペシャル取材班:著 主婦と生活社:刊

短鎖脂肪酸が肥満を防ぐ仕組み 第1章 P31
図1.短鎖脂肪酸が肥満を防ぐ仕組み(『腸内フローラ10の真実』 第1章 より抜粋)

“肥満フローラ”を“やせフローラ”に変える方法

 短鎖脂肪酸とは、酢酸(さくさん)、酪酸(らくさん)、プロピオン酸という3つの物質の総称です。
 このうち、“天然のやせ薬”としての効果が確かめられたのは、酢酸、つまり「お酢」です。

 腸内細菌は腸の中に食べ物がある間、ずっと短鎖脂肪酸を出し続けるとのこと。

 “肥満フローラ”の人は、そこから脱却することはできるのか?
 答えは、イエス。私たちは、ある方法で腸内フローラを変えることができます。
 大切なのは、「腸内細菌にエサをやる」という考え方です。
 私たちの食事は腸内細菌にとっても大切なエサです。とくに、バクテロイデスなどの短鎖脂肪酸を作る細菌たちは「食物繊維」をエサとして生きています。食物繊維のほとんどは私たち人間には消化できませんが、短鎖脂肪酸を作る細菌たちはこれを食べ、短鎖脂肪酸の原料にもしています。なので、偏った食生活が続いて食物繊維が不足すると、それをエサにしている細菌たちが減ってしまいます。これが“肥満フローラ”になってしまう原因だと考えられます。
 食物繊維といえば、野菜などに多く含まれていて、便通をよくする効果がある、という話は聞きますが、じつは腸内フローラにも大きな影響を与えていたのです。
 つまり、ダイエットしたい人は野菜を多めに食べれば、“肥満フローラ”を“やせフローラ”に変えていけると考えられます。
(中略)
 どのくらいの期間ではっきりした効果が現れてくるのか? 食生活が腸内フローラに与える影響を調べる実験は数多く行われており、実験によってばらつきがありますが、数週間程度で短鎖脂肪酸の生産量が上がってくるという結果が多いようです。
 まずは数週間、野菜をちょっと多めに食べるよう、心がけてみる。それが肥満体質脱却の第一歩です。

 『腸内フローラ10の真実』 第1章 より NHKスペシャル取材班:著 主婦と生活社:刊

「野菜を食べると、健康にいい」
 昔から言われていますが、腸内フローラの観点からも、それは正しいということです。

 体型が気になる人はとくに、普段から、野菜を多く食べる習慣を身に着けたいですね。

「腸内細菌」と「脳」をつなぐ特別なルート

 腸は、人体の中では脳に次いで2番目に神経細胞が集中している臓器です。
 腸管の周りは、「腸管神経系」と呼ばれる神経のネットワークでびっしり覆われています。
 生物の進化の過程から考えると、この神経系が次第に発達していき、いつしか分離して、全身を制御するようになったのが「脳」だと言われています。

 いわば親子関係ともいえる、腸と脳。このふたつの臓器はある特別な神経を介してつながっています。通常、脳と全身は背骨の中を通る「脊髄(せきずい)」を通してつながっていますが、腸にはこのルートとは別の“直通回線”があるのです。それは「迷走神経」と呼ばれる神経です。
 迷走神経はいわゆる自律神経の一種で、普段私たちの意識にのぼらないところで、体のさまざまな機能を調整しています。とくに気分や感情に強い作用を及ぼしています。
 その実例が、うつ病患者の治療に使われる「迷走神経刺激療法」です。手術によって鎖骨の奥に電極を埋め込み、人為的に迷走神経を刺激することで落ち込んだ気持ちをやわらげるという治療法。アメリカを中心に欧米の国で行われていて、薬物治療が効かない難治性のうつ病患者に対して有効とれています。

 さて、ここまでをまとめると、腸と脳はどちらも数多くの神経細胞を持ち、それをつなぐ直通回線として迷走神経があります。腸が脳に影響を与えるルートが少しずつ見えてきました。では、そこに腸内細菌がどう関わってくるのでしょうか? (下図2を参照)
 じつは、腸内細菌には神経細胞を刺激する能力があることが、最新の研究でわかってきました。神経細胞は刺激を受けとったり、その信号を伝達するときに、ある種の物質を使います。「神経伝達物質」と呼ばれるもので、セロトニンやドーパミンなどの名前に聞き覚えがある方も多いことと思います。
 そして腸内細菌には、これらの「神経伝達物質」を作ることが明らかになってきました。
 腸内細菌が作った神経伝達物質を腸の神経が受け取ると、それは刺激として次々と神経細胞に伝わっていきます。そして、“直通回線”である迷走神経を介して、私たちの脳にも届けられます。大げさに言えば、腸内細菌は脳に対して“話しかける”ルートを持っているのです。
 こうしてみると、私たちの感情や脳の機能が腸内細菌によって影響を受ける可能性が十分にあることはわかってもらえるのではないでしょうか。

 『腸内フローラ10の真実』 第2章 より NHKスペシャル取材班:著 主婦と生活社:刊

腸内細菌と脳をつなぐルート 第2章 P141
図2.腸内細菌と脳をつなぐルート(『腸内フローラ10の真実』 第2章 より抜粋)

 セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質を、腸内細菌が作り出している。
 その事実には、驚かされますね。

 腸内の環境を正常に保つこと。
 それがそのまま、精神面の安定につながるということです。

腸内細菌≒私たちの遺伝子の一部

 私たち人間は、腸内細菌を通じて、さまざまな能力を獲得しながら、進化してきました。

 腸は、もっとも早くから発達した臓器です。
 動物の進化は、相当早い段階から腸内細菌がいる状態で進み始め、ずっと腸内細菌と共に生きてきたと考えられています。

 著者は、「細菌ができる仕事は腸内細菌に任せる」という戦略で進化してきたのは当たり前のことだと指摘します。

 どこかの段階で自分で持っていた遺伝子を捨てて腸内細菌に任せた役割もあるかもしれませんし、そもそも腸内細菌にお任せで最初から持たなかった遺伝子もあったことでしょう。腸の中に細菌を住まわせておきさえすれば、その菌が持つ遺伝子を、まるで自分のもののように利用することができるのです。極端に言えば「腸内細菌≒私たちの遺伝子の一部」なのです
 しかも、細菌の遺伝子を利用することには、もうひとつ有利な点があります。それは、新たな遺伝子の獲得の速さです。細菌は、世代交代が早く、また、遺伝子が簡単に書き換わってしまう性質があるため、新しい遺伝子を獲得するスピードが非常に速い生き物です。そのため、人間が自分の遺伝子として獲得しようとすると何百万年もかかってしまうようなことを、ごく短い時間で行うことができます。
 また、細菌は外部から遺伝子を“とりこむ”こともできます。たとえば、日本人の腸内には、海藻を消化する細菌がいることをご紹介しました。この細菌が持っている「海藻を消化する遺伝子」は、もともと海の中で海藻を食べて生きている細菌が持っていたものだと考えられています。こうした菌は海藻にくっついていますから、日本人の祖先が海藻をたべたとき、腸内に入ってきました。細菌の場合、ある種の細菌から別の種類の細菌へ遺伝子が移動する、という現象がかなり頻繁に起こります。「海藻を消化する遺伝子」は、その仕組みによって腸内細菌の中に入ってきた可能性が高いといわれています。
 こうしていったん「海藻を消化する腸内細菌」が生まれてしまえば、あとはこの菌を代々受け継ぐだけで、日本人は海藻を消化できることになります。人間自身の遺伝子として獲得するよりも、ずっと簡単に、生きるために役立つ機能を手に入れることができたのです。
 腸内細菌の遺伝子について、ちょっと面白い話があります。腸内フローラの構成は人それぞれ違い、数百種類もの菌が、さまざまな割合で入り乱れています。ところが、遺伝子解析の技術を使って「遺伝子の機能」がどういう割合になっているかを調べてみると、不思議なことにすべての人の腸内フローラがほぼ同じ割合になるというのです。これは、一人ひとりの腸内フローラは別の“顔”をしているけれども、全体の“役割”としては同じ機能を果たしていることを示していると言えます。
 人間が持っている遺伝子の数は、2万数千個といわれますが、腸内フローラの細菌たちが持っている遺伝子の総数は、その100倍にもなることがわかっています。そのなかには、人と腸内細菌、お互いが生き残っていくために必要な遺伝子がたくさん入っているだと思うと、もはや腸内フローラは“私たちの体の一部”どころか、向こうの方が“本体”と呼ぶべき存在なのではないかという気さえしてきます。

 『腸内フローラ10の真実』 第3章 より NHKスペシャル取材班:著 主婦と生活社:刊

 人間と腸内細菌は、切っても切れない関係、まさに、「運命共同体」です。

 腸内フローラは、一人ひとり別の“顔”をしています。
 それだけでなく、その土地の風土や食習慣を強く反映しています。
 日本独自の文化を継承するうえで、腸内細菌の果たしている役割は、想像以上に大きいといえます。

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「腸内フローラ」は、近年、メディアなどでよく取り上げられるようになりました。
 健康的な生活のカギを握る、重要な要素として脚光を浴びています。

 とはいえ、腸内フローラの研究は、まだまだ始まったばかりです。
 これから、私たちの常識を覆す、重大な新事実が次々と明らかになるでしょう。

 著者は、現代医学で原因不明と思われていることのうち、かなりのものが腸内細菌と関係している可能性があるとおっしゃっています。
 今後の研究成果を楽しみに待ちましょう。

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One thought on “【書評】『腸内フローラ10の真実』(NHKスペシャル取材班)

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