本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『不格好経営』(南場智子)

 お薦めの本の紹介です。
 南場智子さんの『不格好経営―チームDeNAの挑戦』です。

 南場智子(なんば・ともこ)さん(@tomochinski)は、起業家・会社経営者です。
 大学卒業後、米国の大手コンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社されています。
 1999年に同社を退社してDeNAを設立、代表取締役社長に就任。
 2011年にご主人の看病のため、社長を退任、代表権のない取締役となられています。

苦しいときほど「前のめり」になれる人

 南場さんが率いたDeNAは、モバイル事業の拡大で多くのユーザーを獲得し、10年ちょっとの間に、業界を牽引する存在となります。

 しかし、その内情は、誰か遠い他人の仕業と思いたいほど恥ずかしい失敗の経験の連続でした。

 南場さんの「チームDeNA」は、その失敗の連続を血や肉として強さに結びつけます。

 私自身も驚くほど進化した。マッキンゼー時代は、自分のことを張り子の虎だと思っていた。むこうっ気は強いが実は気にしいで、繊細。それが随分強くなった。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で、私は苦しいときほど「前のめり」になる人、と決められ、全国に発表された。その表現が正しいのかどうかわからないが、私は、苦しいときにふたつのことを意識する。
 ひとつは、とんでもない苦境ほど、素晴らしい立ち直りを魅せる格好のステージだと思って張り切ることにしている。そしてもうひとつは、必ず後から振り返って、あれがあってよかったね、と言える大きなプラスアルファの拾い物をしようと考える。うまくいかないということは、負けず嫌いの私には耐えがたく、単に乗り越えるだけでは気持ちが収まらない。おつりが欲しい、そういうことだ。
 三番目を付け加えるとすれば、命をとられるわけじゃないんだから、ということだろうか。たかがビジネス。おおらかにやってやれ、と。

 『不恰好経営』 まえがき より 南場智子:著 日本経済新聞出版社:刊

 本書は、とてもまっすぐで、一生懸命で、馬力と学習能力に富む素人集団、DeNAの「素」の姿を伝え、「ベンチャーの現実」を率直に語った一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「最大のトラウマ」がDeNAを変えた

 南場さんは、会社経営の経験もなく、まったくのゼロからのスタート。
 右も左も分からない状況の中、とにかく「前のめり」に突き進みます。

 当然、予想外のアクシデントは日常茶飯事で起こっていました。
 その中でもとくに大きな失敗、南場さんがわが社最大のトラウマであり、その後の社風や戦略に大きな影響を与えた出来事があります。

 外部に開発を委託して完了していたはずのシステムが、引渡しの当日に全く手付かずのまま放置されていたという大トラブルです。

 次の日、泊まり込んでいた村口さんがオフィスを出ていく後ろ姿を見た。疲労困憊(こんばい)の私は声をかける力もなく、ああ、村口さんも疲れただろうなと見やった。すると20分後に村口さんからメールが届いた。「事件発生から48時間が経ちました」で始まるメールはこう続いた。
「DeNAの経営陣は徐々に落ち着きを取り戻し、正しい経営判断をしはじめていると評価します。この事件は起こらないほうがよかったでしょう。しかし起こってしまいました。こうなったからには、どうやって立ち直るかが問題です。DeNAのこれからの立ち直り方に、ソニーやリクルートから真に独立した経営陣として認められるか否かがかかわっています。投資家はそのような目で見ているということを、片時も忘れずに対処してください」
「ちょっと!」と声をあげて皆を呼んだ。そうだ、掘った穴が大きいほど面白いステージになる。そう思ってやるしかないのだ。見事に立ち直る様を魅せようじゃないか。ひとつのパソコンの画面を食い入るように見入る全員のなかにこんな気持ちがむくむくと盛り上がっていった。こうして大失態の発覚から48時間後、「カッキーン!」と音が鳴るように全員が同じ方向を向き、気持ち悪いほど前向きな集団に生まれ変わった。

 『不恰好経営』 第1章 より 南場智子:著 日本経済新聞出版社:刊

 会社の存亡に関わる大トラブルを何とか乗り越えたことで社員の団結力は高まります。
 それが、「やっていける」という確かな自信につながりました。

 DeNAが短期間で急成長を遂げた理由が垣間みられるエピソードですね。

「出会い欲求」との戦い

 DeNAは、インターネットでのオークションオークションサイトから携帯向けオークションサイト(モバオク)、更には携帯向けゲームサイト(モバゲー)へと事業を急拡大していきます。

 サイトのユーザー数もうなぎ登りに増加しました。
 しかし、それに伴ってさまざまな問題もクローズアップされます。

 大きな問題の一つが「若年層の出会い目的での利用」です。
 南場さんは、事態を重く受けとめてすぐに行動を起こします。

 18歳未満のユーザーを対象にいくつかのサービスの利用を制限します。
 同時に、カスタマーサポート(CS)センターを開設し、総勢400人体制で不正利用を監視するシステムをつくるなど、対策を徹底します。

 健全コミュニティ促進委員会の開催頻度も上げ、具体的な事例を掘り下げながら対策を徹底的に協議した。春田、守安、モバゲー事業の幹部に加え、CS、システム、法務、広報のトップも出席し、決まったことはすぐに実施する体制が敷かれた。
 システム投資や人件費がかさんだが、「経営の最優先課題である。当然、利益より優先せよ」という指示を明確にし、私から直接、繰り返し社内で伝えた。規制や世論だけを理由にするのではなく、自分の子どもに使わせたいか、という視点でも議論を重ねる。そのときには、春田、守安をはじめ多くのメンバーが親になっていた。
 大小合わせ、凄まじい数の対策を実施した。これらの活動はやればやるほど効果が表れ、警察庁の統計でもモバゲーの事故件数は急激に減少し、統計対象となっている大手事業者のなかで最小の事故件数となる。モバゲーの規模はコミュニティサイトのなかで圧倒的に大きい。それでも被害児童の発生を最小限に食い止めたDeNAの成果は大きく評価され、警察庁や警視庁の関係者が次々と視察に来るようになった。なぜここまで減少できたのか、決め手は何だったのか、と問われた春田は、「気合いです」と答えている。

  『不恰好経営』 第4章 より  南場智子:著  日本経済新聞出版社:刊

 この意思決定の早さ、フットワークの軽さが、南場さんの強さです。

 世の中のニーズを敏感に感じとる感性と自分たちの進むべき方向性やビジョン。
 それがしっかりした経営をしているからこそ、できるのでしょう。

人を口説くときに心がけること

 DeNAには、多くの有能な人材が集まってきます。
 彼らを引き寄せる大きな理由のひとつは、南場さん自身の魅力です。

 DeNAが逸材を引っ張り込むのを見て、どうやって口説くのかと訊かれることが多い。が、人を口説くのはノウハウやテクニックではない。「策」の要素を排除し、魂であたらなければならない。きれいごとを言うようで気恥ずかしいが、私が採用にあたって心がけていることは、全力で口説く、誠実に口説く、の2点に尽きる。
 全力で口説く、というのは、事業への熱い思いや会社への誇り、それから、その人の力がどれだけ必要かを熱心にストレートに伝えるということにほかならない。それはもう、全力であたる。欲しい人材は何年かかってもずっと追いかける。どの経営者もやっていることだと思う。
 そして、相手にとって人生の重要な選択となることを忘れずに、正直に会社の問題や悩み、イケてないところなども話さなければならない。経営者や人事担当だけではなく、なるべく多くの社員に会ってもらって会社の実態を肌で感じてもらうのもそのためだ。まあ、これも当たり前な話。単純で恐縮だ。

 『不恰好経営』 第7章 より 南場智子:著 日本経済新聞出版社:刊

「全力で口説く、誠実に口説く」

 会社経営者だけではなく、すべての人に参考になります。

 イケてないところもすべてさらけ出して、実態を肌で感じてもらうことが大事。
 すべての人間関係に言えることですね。

 当たり前といえば当たり前ですが、それを実際にやっている人はなかなかいません。

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 今でこそ、日本のソーシャルネットワークサービス(SNS)を代表する企業として多くの人に認知されているDeNA。
 本書を読むと、創業から今日に至るまで、まさに綱渡りの連続だったことがよくわかります。

 いつ倒れてもおかしくなかった、ヨチヨチ歩きのDeNA。
 土俵際で踏ん張らせたのは、何といっても、創業者・南場さんの強い熱意と信念です。
 それなくして今日のDeNAは存在しなかったでしょう。

 ベンチャー企業の現実、楽しさや苦しさを知る上で、とてもためになる一冊です。

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