【書評】『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』(上田比呂志)
お薦めの本の紹介です。
上田比呂志さんの『ディズニーと三越で学んできた日本人にしかできない「気づかい」の習慣』です。
上田比呂志(うえだ・ひろし)さん(@niroueda)は、大正時代から伝わる料亭に生まれ、その後、大手デパートの三越に入社、主に企画、販促、店舗開発等の業務に携わります。 三越の社内研修制度で、1年間、ディズニーユニバーシティに通いディズニーマネジメント(ディズニーウェイ)を学ぶ経験もされています。
現在は、講演や、企業研修などでのコーチングを中心にご活躍中です。
気づかいとは「他者を慮る」こと
料亭では「心」、三越では「スキル」、ディズニーでは「仕組み」。
それぞれを身につけたという上田さん。
日本にはディズニーにも超えられなかったものがある
ことに気づきます。
それは「日本人にしかできない気づかい」です。
気づかいとは、他者を慮(おもんばか)ること
です。
上田さんは、相手が「欲しい」という前にその気持ちを汲みとり、さりげない行動で示す。相手のことを思い、自分がそうしたいからそうする。これが日本人にしかできない気づかいだ
と述べています。
いくら組織という「器」がしっかりしていても、そこで働く人たちの「心」が伴わなければ、意味がありません。
上田さんは、組織やチームとして行き届いた気づかいを完成させるには、心と型と仕組み、そのすべてが必要になる
と指摘します。
本書は、数値化することのできない「気づかい」の能力を磨き、それを仕事やプライベートに生かすための方法について書かれた一冊です。 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
日本人だけが持つ「気づかいの感性」
上田さんは、日本人には、日本人しかない感性がある
と指摘します。
たとえば、他人のものであっても、脱いだ履物を揃えることができる
ということなどです。
相手を大切にする。和を大切にする。四季を大切にする。そんな感性から生まれる人への細やかな配慮や繊細な所作こそ、日本人にしかできない気づかいです。
だからこそ、ディズニーにもこの感性だけはマネできませんでした。気づかいが文化的なものであるという所以です。
ものの言い方、人への接し方、ちょっとした仕草。
気づかいは、どんな些細なことでも成立します。
でも、人を気づかおうという心がなければ、意識が自分だけにしか向いていなければ、その些細なこともできません。
気づかいとは、「心をもって正しきことを行なうこと」。
心というのは、人を思いやる気持ち。
正しきこととは、相手の意に沿っているかどうか。
つまり、「心を込めて、相手が望むことをすること」。
それが気づかいであり、日本人にしかできないことなのです。
どんな小さな行動でもいいから、心をこめて人を気づかえば人間関係がよくなり、仕事は円滑になり、どんな商売も繁盛する。
それが、橘家で学んだルールでした。『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』 第1章 より 上田比呂志:著 クロスメディア・パブリッシング:刊
気づかいにおいて、正しいことは、「相手の意に沿っているかどうか」です。
私たちは、相手に何かしようとしたとき、つい自分本位に考えてしまいがちです。
「小さな親切、大きなお世話」という言葉もあります。
相手が喜ぶ、さりげない気づかいを意識したいですね。
意識を広げ、アンテナを磨く
気づかいに必要なのは、「感性」です。
感性は、簡単に言うと「物事の感じ方」です。
上田さんは、気づかいの能力の差というのは、感性の差
であり、気づかいの感性というのは、日本人なら誰でも持っているもの
だと述べています。
上田さんは、「感性の高め方」について、以下のような方法を挙げています。
たとえば気づかいが上手になりたいと思うのであれば、気づかいのできる人をよく見て、何をしているか。どういうことを考えているのか。
じーっと観察してみるのです。
話し方ひとつとっても相づちの取り方がうまかったり、話題の広げ方が絶妙だったり、やっぱりちょっと違うところがあります。
もちろん逆の場合もあって、気づかいに意識が向かっていれば「この人は気がきいてないなぁ・・・・」ということにも気づけます。
この人のやり方はよくないから、同じことはしないようにしよう。
そう思えるかどうかも、アンテナの立て方ひとつです。
意識を変えていくと、ものの見方がガラッと変わります。
相手の立場に立ってものを考える。
そう意識して日常生活を送るだけで行動も変わってきます。
「使ったものは元の位置に戻す」「トイレはきれいに使う」「資料はわかりやすく整理整頓」・・・・たったそれだけのことですが、十分気づかいになります。
気づかいのアンテナを立て、磨いていく。
そう難しいことではありません。『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』 第2章 より 上田比呂志:著 クロスメディア・パブリッシング:刊
気づかいも、やはり、マネるところから入るのがよいということ。
関心を向けた事柄については、自然と目や耳に入ってくるものです。
「気づかいのアンテナ」を、忘れずに立てておきたいですね。
感情に呑まれそうになったら、一歩引く
気づかいをできる人を育てたい。
他の人を動かしたい。
そう思うのなら、感情や行動を含め、まずは自分をコントロールすることを覚える必要があります。
自分をコントロールするには、「情熱的な心」と「冷静な頭」の両方を持つことです。
とはいえ、人間というのは、感情や欲によって突き動かされる生き物です。
相手が感情的だと、自分も巻き込まれそうになることもあるでしょう。
そのようなとき、上田さんは、「一歩引いてみる」ことを実践しています
たとえば三越時代、クレーム対応をすることがマネージャーの役割でしたから、いろいろなお客様の対応をしていました。 怒れば怒るほど、「そもそものの原因」を当のお客様でさえ忘れてしまうということがよくあるのですが、そういう時ほど対応する側には冷静さが必要となるのです。「これだけ怒っていらっしゃるということは何を訴えたいんだろう?」と考えてみます。 一歩引いて分析してみて「こういうことでお叱りを受けているんですね」と言葉で整理してみると、「そう、そういうことだよ」と、お客様も腑に落ちます。 怒りや失望といったマイナスの感情に飲まれないためには、まずは自分をコントロールすること。決して人をコントロールしようとは思わないこと。 そして冷静に、しかし情熱をもって人や事にあたることです。 気づかいというのは、そうした日々の姿勢から生まれる「大人の嗜み」なのです。
『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』 第4章 より 上田比呂志:著 クロスメディア・パブリッシング:刊
「情熱的な心」と「冷静な頭」が必要。
スポーツの世界ではよく言われる言葉ですが、ビジネスの世界でも当てはまります。
自分の感情との折り合いをつけられない人が、他人を気づかう気持ちを持てるはずがないですね。
「自ら知る者」は、人を怨まず
人間は、自分のことがわかっているようで、わかっていません。
一体何が得意で、何が不得意なのか。どんな性格なのか。
人のことならわかりますが、自分のこととなると本当に難しいです。
相手へ気づかいをするうえでは、「自らを知ること」は欠かせません。
上田さんは、古代中国思想家の荀子の言葉、「自ら知る者は人を怨まず」を引用し、その重要性を説いています。
他人を羨み、自分にないものを数え始めると人に対して批判的になったり、何をしても卑屈な態度になったり、キリがありません。 すると人間関係も悪くなり、またそれに悩む。ストレスは増える一方です。 そうではなく、もっと素直になった方がずっと楽になります。 自分の持っているものを知り、その上で相手の持っているものを認めること。 そうすると、人を怨むこともなくなります。 気持ちが変わるだけで、行動や物事の吸収力が変わってくるのです。 それが結果的に、仕事や人間関係をより円滑にします。 たとえばスピーチにしてもプレゼンにしても乾杯のあいさつにしても、「気のきいたことをやってやろう」と意識し過ぎると、かえってうまくいかないものです。 それよりも大切なのは、「自分が本当に伝えたいものは何か?」を明確にすること。 形はつたなくても、「よかったよ」と言われるものができあがります。 自分の気持ちや、自分のできること、自分のできないこと、それらをはっきりさせることが気づかいの第一歩だと思うのです。
『日本人にしかできない「気づかい」の習慣』 第3章 より 上田比呂志:著 クロスメディア・パブリッシング:刊
気づかいの最初のステップは、「相手を認めること」です。
相手の長所を認めて、敬意を払って対応する。
それが気づかいの感性を磨くコツです。
「自ら知る者は人を怨まず」
肝に銘じておきたい言葉です。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「気づかい」とは、日本が古くから培ってきた、空気のようなものです。
だから、日本で育った人であれば、その感覚は必ず備わっています。
上田さんは、「日本人にしかできない気づかいの心」は「和」の心。それは自尊心を持ち、己を磨いていくことで育っていくもの
だとおっしゃっています。
日本人にしかできないことは、世界に出たとき、独自の武器になります。
当たり前のことを当たり前に、しかもさりげなく。
そんな気づかい上手な人を目指したいですね。
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