本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『影響力の心理』(ヘンリック・フェキセウス)

 お薦めの本の紹介です。
 ヘンリック・フェキセウスさんの『影響力の心理』です。

 ヘンリック・フェキセウス(Henrik Fexeus)さんはスウェーデン人で、神経言語プログラミング(NLP)、ヒプノシス(催眠)、演技、マジック、心理学などのコミュニケーション・メンタル技術を習得された、人間心理の専門家です。

真の影響力は、他者を「通して」行使されるもの

「影響力」と聞くと、権力やお金などの力(パワー)思い出しますね。
 しかし、それらを濫用することは古典的な、時代遅れの「パワー」の使い方です。

 それに対してフェキセウスさんは、まったく新しい「影響力」の使い方を提案します。

 他人に影響力を与えるとは、要するに「場を支配する」ということです。しかし、私の提案する影響力の使い方は、あなたが支配者であるにもかかわらず、誰もがみな支配者のような気分になります。出し抜かれたと感じる者は誰もおらす、誰もがほしいものを手に入れたような気分になるのです(たとえ彼らがあなたに影響を受けて動いただけだとしても、です)。
 これから紹介するテクニックの数々は、実際に私たちが自然に行っている仕草やコミュニケーションを活用したものです。本書は、次の二つの原則に基いています。

●第一に、日々のコミュニケーションにおいて、相手の思考や行動に影響力を与える方法をしっかり理解すること。
 私たちの言葉、ボディランゲージ、そして思考は、いつもトリガーとなって話し相手に心理作用を引き起こします。心の仕組みを知り、心理作用を引き起こすトリガーを適切に学ぶことが、人に影響を与えるためには重要なことです。
●第二に、どのように影響するものであれ、影響力とは、他者へ敬意を持ち、他者を自分と同じくらい大切に考えているときにこそ、より効果が上がると知っておくこと。
 本書では、本当の影響力というのは、他者を「通して」行使されるものであり、他者に「対して」行使されるものではないというポイントに何度も立ち戻ります。

 つまり、影響力を持つということは、他者を巻き込んで自分が得たいものを獲得する、あるいは目標とするところまで連れて行ってもらうことですが、それが可能になるのは相手がそう望むからであり、相手を洗脳したり圧力をかけたりした結果ではないのです。
 なかには、二つの原則のうち第二の原則だけを重視してしまう人がいます。これでは、他者に気を配る人間にはなれるかもしれませんが、自分の意見を主張することができなくなってしまいます。
 一方で、第一の原則にしか気を払わない人たち(こちらのほうが多いのはおわかりですね)は、決まりきったやり方で人の心を操ろうとします。これはただちに、さまざまなトラブルを引き起こします。後味の悪いパワーの使い方を目撃したり、体育の授業のチーム分けで最後まで選ばれなかったりした経験をお持ちの方は、彼らが第一の原則しか意識しない人だったということがわかるでしょう。
 でも、両方の原則に基づいた実践的な知識を使いこなせば、あなたは必ず自分の望みをすべて、平和的にかなえることができるようになります。
 『影響力の心理』 はじめに より ヘンリック・フェキセウス:著 樋口武志:訳 大和書房:刊

「影響力」といっても、力ずくで押さえこむ、あからさまなパワーの行使ではありません。

 相手に気づかれず、すっと心の中に忍び込んで相手を操作する。
 そんな誰でも使える、より実用的な「影響力」。

 本書は、人間関係におけるストレスをなくし、その場の流れを自分の望む方向に導くことのできる「影響力」についてまとめた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「繰り返し聞いたこと」が真実になる

 私たちは、しばしば他人の考えに基づいて自分の意見を形成しています。
 すべてを自分で判断すると時間がかかるため、「多数派の意見」を取り入れ、それが最善の意見だと信じてしまうのですね。

 では、どのくらいの数の賛同者がいれば、「多くの人」になるのでしょうか。

 じつは、私たちは一つの意見を何人から聞いたか、ほとんど覚えていない。代わりに、「どれほど聞き慣れているか」を重要視する。
 もし、自分の中に馴染んだ意見があるとしたら、おそらく何度も聞いたことがあるからだ。
「何百万人の◯◯は絶対に間違えない」という表現がある。これは、1927年にヒットした曲のタイトル「5千万人のフランス人は間違えない(Fifty Million Frenchmen Can’t Be Wrong)」をヒントに、さまざまな文脈で使われてきた表現だが、まさに多数派に流される過ちを揶揄(やゆ)するものである(もっと気の利いた言葉で言うなら、これは論理学で言うところの「衆人に訴える論証」というもので、大多数がそう思っているからというだけで物事を信じる誤謬(ごびゅう)の一種と定義されている)。
 もちろん、多くの人が賛成だからというだけで、自分の頭で考えなくなってしまうのは賢明ではない。だが、みんなの意見に追従することも現実には間違った戦略とは言えない。
 というよりも、有益だったからこそ、今も無意識にその戦略が使われ続けているというのが本当のところだ。結局は多数派の意見が正しいというのは事実なのだ。多数派は外で雪が降っていれば暖かい洋服を着る。多数派は司法制度を維持する。もちろん、彼らもヒトラーに投票したり、官能小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』を読んだりすることもあるが、たいていの場合は正しい選択をする。
 問題は、専門的な話になったときだ。
 いつも専門的知識を持った人々の話だけに耳を傾けていれば問題ない。たとえば原子力について、原子物理学者たちやエネルギーの専門家の意見だけを聞くならば正しい選択ができる。しかし問題は、私たちが意見の出どころを気にしないことだ。ある特定の意見をしばしば耳にしていると、私たちはそれを多数派の意見だと思い込み、従うべきだと信じ、そして、その意見を言っているのは誰なのかという疑問を抱かなくなっていく。脳の無意識分野にとっては、「このメッセージは聞き慣れている」という事実のほうが、「誰が話しているか」よりもはるかに重要なのである。
 そこであなたの登場だ。ある意見を多数派の意見だと思わせることは、たった1人でもできる。そう、何度も繰り返せばいいのだ。
 問題はどれだけ聞き慣れているかなのだから。脳にとっては、50人が1回ずつ同じことを言っても、1人が50回同じことを言っても変わらない。
 広告業界はいつも、「何度も語られた物事は真実になる」という原理に従っている。心理学の研究は最近になって、広告業界がいかに正しかったかを理解し始めている。
 つまり、人に自分の思惑通りに行動してほしいときは、できるかぎり文章や口頭でメッセージを繰り返すべきなのだ。そうすれば、「その集団における標準的な意見」をあなた1人で築き上げることができる。

 『影響力の心理』 第1章 より ヘンリック・フェキセウス:著 樋口武志:訳 大和書房:刊

 私たちは、自分が考えている以上に、周囲の人の意見に影響を受けているのですね。

 相手を自分の意図通りに動かすには、文書や口頭でメッセージを繰り返す。
 逆にいうと、私たちが耳にしたり、目にしていることは、強力な影響力を及ぼすということ。

 誰と話すのか、どんな本を読むのか、どんな番組を観るのか。
 雰囲気に流されず、しっかりと吟味したいものです。

賛同されると、「受け入れられた」と感じる

「受け入れられる」という感覚は、私たちにとって非常に重要です。
 フェキセウスさんは、相手と良好な関係を築くには相手の考え方に賛同しなければ、と反射的に思ってしまうのが人間の心理だと述べています。

 この作用は非常に強力で、人に賛同してもらうと「受け入れられた感じ」がするだけでなく、賛同してくれた相手に対する好感度も上がる。そして当然、人は好感を持った相手のほうが、話を聞く気になるものだ。
 もし顧客や同僚に(もしくは、恋い焦がれる相手に)何かを受け入れてほしければ、自分のことを好きになってもらうところから始めるといい。iPhoneを売ろうとしている場合でも、相手の考えを変えようとしている場合でも同じだ。
 まずは、相手の考えに賛同することで、自分の話を聞いてもらいやすくするのが手っ取り早い。だから、最初に相手に意見を言ってもらってから、「わかります」と切り出そう。陳腐に聞こえるかもしれないが、我慢して読み進めてほしい。そのように切り出したら、ちょっと間をおいて、こちらの賛同が相手に伝わるのを待とう。それから、自分の主張したいポイントについて話し始めるのだ。
「わかります、iPhoneは高いですよね・・・・・ということは、つまりそれだけ良い製品だということです」
 では、相手の言っていることに賛同できない場合はどうすればいいだろう? 問題ない。相手の発言のどこに賛同しているかをはっきりさせなければよいのだ。相手の意見そのものには反対でも、どこかしら賛同できる部分は必ずある。
「仰っていることはわかります・・・・・だからこそ・・・・・」
「仰っていることは、実際わかる部分もあります・・・・・だからこそ・・・・・」
「細かい点についてはよくわかります・・・・・ということはつまり・・・・・」
 もしくはシンプルに、
「基本的にはわかります、そして・・・・・」
 くらいでも、いい。
 もちろん、「わかります」という言葉を使えば、自動的に誰もがあなたを好きになり、あなたの言うことになんでも賛同するようになるというわけではない。
 しかし、スタートとしては上々だ。ほとんど労を要することもなく、好意を得ることができる。

 『影響力の心理』 第2章 より ヘンリック・フェキセウス:著 樋口武志:訳 大和書房:刊

 フェキセウスさんは、このような言葉のトリックは、ゲームでいうパワーアップ・アイテムに似ていると述べています。
 つまり、使えば使うほど、そして上手く組み合わせるほど、強力になるということです。

 ちょっとした心掛けで、大きな効果を生む会話のテクニック。
 ぜひ、マスターしたいですね。

「助けてあげた人」を好きになる心理とは?

 フェキセウスさんは、相手を思惑通りに動かす際に役立つテクニックは、ひとえに「相手に助けを求めること」だと述べています。

 後ろ向きに聞こえるかもしれないが、相手を思惑通りに動かす際に役立つテクニックとは、ひとえに「相手に助けを求めること」である。
 ほとんどの人は、断られると思い込んで、人に助けを求めない。しかし、多くの研究からわかっているように、実際は、断られると思い込んでいるにすぎない。実際は私たちが考えるより、人は親切なのである。
 私たちがこのことに気づいていない原因は、助けを求めるという行為にかかる「社会的プレッシャー」を考慮に入れていないせいだ。人は、できることなら誰のこともがっかりさせたくないと思っている。その誰かが目の前に立っているなら、なおさらだ。ノーと言わなければならないときの気まずさやストレスなら、誰でも知っているだろう。あなたに限らず、誰しも人の頼みを断るのは難しいと思っているのだ(少なくとも普通の共感能力を持っている人なら、ほとんどがそう感じる)。
 しかし自分が助けを求める際は、ノーと言ったときの「相手の気まずさ」より、イエスと言ったときの「相手の負担」のほうに注意を向けてしまいがちだ。相手の時間や労力のことばかり考えて、断ったら相手が感じるであろう「気まずさ」のことは忘れてしまうのである。
 多くの場合、相手にかかる時間と労力は、助けを断ったときに失う社会的代償(あの人は不親切な人ね、と思われること)に比べれば大したことはない。
 また、私たちは頼み事の大きさを気にしているが、それは違う。簡単なことなら引き受けてくれるだろうと思いがちだが、大切なのは、断ったときに失う社会的代償がどれほど大きいかであって、頼み事の大小はほとんど関係ないのだ。
 助けを求めるとき、私たちは自分が受ける恩恵と同じくらい相手が犠牲を払っている考える。誰かにプロジェクトに協力してもらったら、その人は本来別のことをしているはずの時間を使って手伝ってくれたのだ、申し訳ない、と思いがちだ。しかし、これは間違っている。実際は、頼まれた側は楽しんで協力していることも多い。
 私たちはただ、断られた経験を記憶の中で誇張してしまう傾向があるだけなのだ。しかも実際よりひどく誇張して記憶しているため、何かをお願いするのをためらってしまう。これでは損だ。私たちは文化的に相手を助けるようにプログラムされている。たとえそれが、今やっていることを中断して手伝うものだったり、面白くなさそうなことであったりしても、だ。

 『影響力の心理』 第3章 より ヘンリック・フェキセウス:著 樋口武志:訳 大和書房:刊

 日本人はとくに、遠慮深い人が多く、相手に助けを求めない傾向があります。

 ちょっと勇気を出して人に頼むことで、自分が楽になるし、頼んだ相手に喜んでもらえる。
 まさに、一石二鳥ですね。

 人に頼み事をする際にもっとも大切なのは、「タイミング」です。
 フェキセウスさんは、相手が疲れきってしまう前に頼むよう心がけようとアドバイスしています。

 朝一番、「おはよう」の挨拶と一緒に、頼み事をひとつ。
 ぜひ、試してみたいですね。

怒っている相手に対処するときに大切なこと

 怒っている相手を、問題解決へ向け、会話を思い通りに進める。
 フェキセウスさんは、そのための方法を以下のように、ステップごとにまとめて紹介しています。

●――ステップ1
 例えば新しく入ってきた同僚が怒っているとしよう。その場合、まず何があったかを聞く。彼女の言うことを注意深く聞き、話し終えるまで待とう。「最悪よ、永遠にできあがってこないんじゃないかというくらい時間をかけて、ようやくできあがってきたと思ったら、全部黄色だったの!」彼女が明らかに間違っていたり、偏った意見を持っていると思っても、とにかく黙って聞こう。

●――ステップ2
 彼女が言い終わったら、先ほど学んだように、自分の理解が正しいか確かめたいと言って発言を繰り返そう。いら立ったり非難したりするように聞こえないよう、心から思いやる調子で、相手の感情にも言及しながらこう言おう。「私の理解が正しければ、あなたはできあがったものが全部黄色だったから怒っているわけだね」

●――ステップ3
 実際はこれに対して、最初の説明とは違う別の説明が返ってくることが多い。「そうなの。だけど黄色だから怒っているんじゃなくて、他のプロジェクトにかける時間を奪われたことに怒ってるの」この発言をもう一度繰り返して、この奥にさらに別の原因がないことを確かめよう。「ということは、このプロジェクトだけに時間を奪われていることが問題なんだね?」

●――ステップ4
 彼女の真意が2人の間で共有できたと思ったら、次はより建設的な方向、両者にとって有益な解決策を考える方向へと彼女の意識を導こう。「そのプロジェクトに時間がかかりすぎて他のことに手がつけられないのが問題だとしたら、他の仕事にかかる時間を減らせるか確認してみるといいかもしれないね。そうすればプロジェクトも再び軌道に乗るかもしれない」

●――ステップ5
 最後に、その問題に関するあなたの意見を伝えよう。つまり、相手が話し始めたときから言いたかったことを、最後の最後まで待ってから言うのだ。最後まで待つと、ステップ1から4までの間に、彼女は落ち着く時間を持つことができる。また、ステップ2や3で得た情報に基づき、彼女は意見を変える機会も得られる。さらに、共感的に話したことで、相手が防御的になるのを避けることができる。ステップ1で相手の話を遮ると、逆の事態を招いてしまう(多くの人がやってしまうことだ)。そんな事態を回避しながら、問題を解決する手助けとなる言葉もかけることができる。「個人的には、この種の作業を伴うプロジェクトは、これくらい時間がかかるものだと思うけど、今後、この規模のプロジェクトをやるかどうかは、よく検討する必要があるかもしれないね」

 『影響力の心理』 第4章 より ヘンリック・フェキセウス:著 樋口武志:訳 大和書房:刊

 相手が感情的なとき、つい、こちらもヒートアップして、言い争いになりがちです。
 そんなときこそ、冷静に、相手の言い分を最後まで聞いてあげる、心の余裕を持っていたいものです。

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 パワーとは、常に「周りの人から与えてもらうもの」です。
 フェキセウスさんは、自信を持ちながらも威張ることのない人にだけ、パワーを与えるものだとおっしゃっています。
 
 権力の座にある人には、多くのパワーが周りから集まってきます。
 だからといって、あぐらをかいてそのパワーを搾取するばかりだと、いずれ枯渇し、その座を奪われることになります。

 一方、本書にある影響力の活用法は、相手が進んで自分にパワーを与えてくれるように仕向けるためのものです。
 私たちも、それらを活用して、さりげない一言で人を動かす、コミュニケーションの達人を目指したいものですね。

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2 thoughts on “【書評】『影響力の心理』(ヘンリック・フェキセウス)

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