本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『幸福になる「脳の使い方」』(茂木健一郎)

 お薦めの本の紹介です。
 茂木健一郎先生の『幸福になる「脳の使い方」』です。

 茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)先生(@kenichiromogi)は、著名な脳科学者です。
 ご自身のご専門に留まらず幅広い分野で活躍されています。

幸福とは、技術の積み重ねである

 茂木先生は、子供の頃、極度の人見知りで潔癖症、自家中毒や多動症(注意欠陥多動性障害=ADHD)など、いろいろなトラブルを抱えていました。

 しかし、いつの頃からか、自分の不安感をコントロールする術を身につけて健康になり、現在では、常に上機嫌で毎日を過ごすことができるようになったとのこと。

 茂木先生は、そんな自らの体験から幸福とは技術の積み重ねであると断言しています。
 人の心の状態を左右するのは「脳の使い方」であるとし、人は思考法を変えることによって、自ら幸福にも不幸にもなることができると強調します。

 本書は、茂木先生自身の体験に脳科学の見地を加えて、どうすれば日々のストレスから解放され、幸福感を得ることができるのか、その方法について考察を重ねた一冊です。
 その中から印象に残った部分をいくつかピックアップしてご紹介します。

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他人と違うことで輝ける

「他人の不幸は蜜の味」という言葉があります。
 実際に、人間には、相手が不幸になったら自分が嬉しい、という脳の働きがあることが分かっています。

 相手の立場が上がることによって、自分の立場が上がる確率が高くなり、自分に得を招くかもしれない事態を、脳は喜びとして感じるからです。

 人が他人と自分を比較してしまう理由として、もう一つ、「ミラーニューロン」からも説明できます。

 ミラーニューロンとは、霊長類などの高等動物の脳内で働く神経細胞です。他の個体が行動するのを見ると、まるで他人がしていることを見て、自分のことのように感じる共感能力はこのミラーニューロンがあるからです。たとえば、誰かが泣いているのを見て、自分も相手の感情に共感して涙を流してしまうこともあるでしょう。これはミラーニューロンの働きなのです。
 脳内でミラーニューロンが働く時、実は人は自分と他者の比較をしています。比較することで自分の立場を捉えているのです。
(中略)
 他者との比較は至るところで起こります。オリンピックも、偏差値も、IQもすべて、人と比較することで自分の立場を捉えることができます。オリンピックで数々の金メダルを獲得したウサイン・ボルト選手の100メートル9秒58の記録が素晴らしいのも、他の人は彼より速く走ることができない」という他の選手との比較の上に成り立っている評価です。日本独特の偏差値制度も、他の受験者との比較からその人の学力を割り出す仕組みです。人類全員がIQ200だったら、IQ200の人は普通の人になってしまいます。人との比較は、人間のサガのようなものです。

  『幸福になる「脳の使い方」』 第1章 より 茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 人間の能力のある一面だけを取り出して比較すれば、必ずその優劣が生じます。

 他人と比較することにより「幸せ」を感じる限り、人と比較することによる「不幸」も必ず存在するということです。

 一方、茂木先生は、他人との差を優劣ではなく独自性やユニーク性として捉えることで「比較する脳」はよい方向へ影響を及ぼすと指摘します。

 差や違いを、「優劣」と考えるか、「独自性」や「個性」と考えるか。

 どちらを選ぶかで、自分の幸福感が決まるといえます。

本当に「欲しいもの」を見つける

 茂木先生は、東大に入学した当初は自分がエリートで、もう一生安泰だと考えていたと正直に述べています。

 心の片隅にあった「華々しいエリート街道を歩んでみたい」という隠れた願望から「東大法学部」に入り直すこともしています。
 しかし、自分の求めていたものと違うことにすぐに気づき、授業にも行かなくなってしまったといいます。

「自分はここにいたくない」と思うと同時に、自分がいかに日本の学歴社会に組み込まれて、圧迫を受けてきたかに気づき、目が覚めたと述べています。

 自分が本当に好きなこと、それは蝶であり、アインシュタインであり、物理であり、つまり世の中で「立派」と称賛されるものとはかけ離れたものであるけれども、やはり自分はそういうものが好きなのであり、そういうものに関わっていければ、それだけで幸せなんだということに気づいたのです。
 「初志貫徹」といえば聞こえはいいですが、そこにいきつくまで、私は長い道のりを経てきたことになります。小学生の頃から思っていた「科学をやろう」という方向に進む決心がついた時に、私は精神が解放され、健康になりました。それまでびくびくと目に見えないものにおびえていた生活が終わり、怖いものがなくなったのです。

 私は現在、とても健康です。健康というだけでなく、毎日を上機嫌に過ごしています。経済にたとえるならば、一人高度成長期がここ何年もずっと続いているのです。
 もちろん私だって仕事が立て込んで疲れている時期もあれば、睡眠時間が足りなくてちょっと寝不足な日もあります。聖人君子ではありませんから、人から何かを言われて落ち込んだり、憤慨したりすることもあります。けれども、トータルで一日を見ると、上機嫌でいる時間数の方が格段に多い。
 メンタル(精神面)の健康は、必ずフィジカル(肉体面)の健康に通じます。脳内の内分泌系やホルモン系はメンタルの影響を受けやすいので、一日のうち、不機嫌でいる時間帯が多かったり、不満や不安感でいっぱいな毎日を送っていれば、必ずその悪影響はフィジカルにも出てきます。それは私自身のこれまでの人生を振り返っても確実に言えることです。

   『幸福になる「脳の使い方」』 第2章 より 茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 自分の欲求に背いてやりたくないことをやることが、いかに本人にとってストレスであることか。
 それを茂木先生は、「東大法学部」という自分の本質とは全く相容れない分野に身を置いたことで気づくことができました。

「本当の自分ではない自分」を強いられるストレス。
 それは、小さい頃からの積み重ねであることが多いです。
 そのため、なかなか本人は気づきにくいものです。

安定しない

 茂木先生は、男女問わず、基本的に人間は安定すると老けると指摘します。

 若さについては面白い研究があります。それは歳を重ねると、あまり後悔しなくなるというものです。人は残りの人生が短いと思うと、後悔しても意味がないと感じるからのようです。後悔とは、「これまでの経験をもとに、これからの振る舞いを変えたところで残りの時間は短いのだから、意味がない」となるのです。
 つまり、後悔は大いにすべしということです。後悔をしている間は、まだ残りの人生が長いと感じている証拠なのですから。後悔することで、これから、自分のこれまでの人生とは違う人生を歩む可能性があるということです。
 基本的には、残りの時間がたくさんあると思っていること自体が若さです。残り時間がたくさんあるということは、その間にまだまだいろいろなことができるということ。101歳になられた聖路加国際病院の日野原重明先生は、周囲のみなさんにもお若いと言われていますが、その証拠にスケジュール帳には十年先まで予定が入っているといいます。それだけ残り時間がたくさんあると思っていらっしゃるということが、先生の若さの秘訣です。「いやぁ、私などはもう二年先はちょっと分かりませんね」と言ったら、もうそこで年齢が表れてしまう。
 「もう歳だから、新しいことなんてできないよ」。そう言う人がいますが、それはどうせ今からやっても、ものにならないと思ってしまうからでしょう。つまり、自分の人生は残り時間が少ないと思っている。少なくとも、これから何かを始めるには短いと思っている。それが守りに入ることであり、安定を求める姿勢なのです。
 もし自分の人生、残り時間はまだまだあると思ったら、「じゃあ自分自身に投資してみよう」という意欲がわくはずです。新しいことにエネルギーと時間を投資する勇気があるかないかが、若さのひとつの指標となります。

  『幸福になる「脳の使い方」』 第4章 より 茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

 日々、生き生きと若々しく生きる。
 そのためには、実際に自分にあとどれだけの時間が残されているかは関係ありません。

 自分の将来について、「今」の自分がどれだけ前向きなイメージを抱いているかが重要です。
 いくつになっても、いろいろなことにチャレンジして、大いに「後悔」していきたいですね。

「幸せ」とはソリューションがいくつもあること

 私たちは、誰もが限定された条件のもとで生きています。
 時間や空間、法律や人間関係などもそうですね。

 このような限定があることで、人間は不自由で不幸だと思いがちです。

 しかし、茂木先生は、幸せを感じるというのは、その人にとって最適なソリューションを見つけられる能力であり、技術だ述べています。

 つまり、「どうしたら解決できるだろか」「こうしたら全く別の選択肢が生まれるぞ」という柔軟な発想こそが幸せになるためには必要であり、自分にとっての最適なソリューションを見つけた瞬間こそが喜びを感じられる時だと強調します。

 たとえば、自分にはアイディアがあるけれど、それを形にする知識が足りないとします。よく陥りがちなのは、そのアイディアの実現をすべて自分一人でやろうとしてしまうことです。しかしアイディアはあっても、それを実現するための知識、能力、時間、お金のすべてが備わっている人などまずいません。そのアイディアを自分一人では実現できないからといって「自分には能力がない」と落ち込むのではなく、自分に欠けているところを補える人の助けを借りてアイディアを形にすればいいのです。人間関係を自分の一つの資産と考えて生きていく。そのような発想の転換こそがソリューションなのです。
 ソリューションは柔軟に考える必要があります。ひとつの問題に対して、解決策はひとつではないからです。
(中略)
 世の中の様々な問題に解決策がないということは、ほぼありません。知恵を絞って考えれば何かしらの案が出てくるものです。限定を不幸のもとと考えるのではなく、自分の知恵を絞るチャンスと考えてみてください。

  『幸福になる「脳の使い方」』 第5章 より 茂木健一郎:著  PHP研究所:刊

「解決法が一つしかない」と思い込んでしまう。
 その理由は、ペーパーテスト重視の日本の入試システムの弊害による部分も大きいです。

 解決法は一つではありません。
 他人の力を借りても構わないという柔軟な発想ができるかどうか。
 それが「幸せ」を感じる力の有無に直結します。

 ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスが急激に普及し、距離や時間を超えて人々がつながりやすくなった今日。
「人間関係を自分の一つの資産」とすることは、ますます重要になってきますね。 

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これからの時代は「幸せの方程式」は自分でつくれる時代になったとおっしゃっています。

 自分の人生の価値や自分の幸せを、自分自身で考えて創りだしていかなければならない時代だといえます。

「幸せの方程式」の解は一つではありません。
 それこそ、人の数だけあります。

 同じ人でも、幸せの価値観は人生経験を積むことで大きく変化します。
 つまり、「これが幸せである」というような絶対的な価値観はこの世にはないということです。

 それでも、人は「幸せ」を求め続けなければ生きていけない存在です。
「幸せ」というのは、導き出そうとしている「解」ではなく、試行錯誤して「方程式」を作り出す作業そのものにあるのでしょう。

 一番大事なことは、「幸せ」の意味を問い続け、探し続けるること。
 一日一日、一瞬一瞬を無駄にせず、精一杯生きていきたいですね。

 

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