本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『学び続ける力』(池上彰)

 お薦めの本の紹介です。
 池上彰さんの『学び続ける力』です。

 池上彰(いけがみ・あきら)さんは、フリーのジャーナリストです。
 大学卒業後、NHKに入局し、32年間報道記者としてさまざまな事件、災害、社会問題などを担当してきました。
 1994年から11年間は「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、時事の話題を丁寧に噛み砕いた説明は「分かりやすい」と大評判になりました。

「学ぶ楽しみ」を知る

 池上さんは、勉強熱心な父親の影響で、自らも若い頃に「学ぶ楽しみ」を知ることができました。

 学べば学ぶほど、視野が広がり、自分の知らないことに出合う。
 それが自分の好奇心を刺激します。
 好奇心が大きくなれば、ワクワクする気持ちに満たされます。

「知りたい」ということへの飽くなき欲求が、池上さんの元気の源であり若さの秘訣です。

 本書は、「学ぶ楽しさを知る」ためには何をどう学んだらいいのか、そのためのヒントがぎっしりと詰め込まれた一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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調べるほど無知に気づく

 池上さんがNHKを辞めてフリーになった第一の理由。
 それは、本を書く仕事が楽しくなって、二足のわらじを履くのはこれ以上無理だな、と思ったことです。

 池上さんは、経済の解説の本を書き、ニュース解説をするために勉強をしていると、そこでいっそう自分に足りないものが見えてくると述べています。

 自分がきちんとできていないのに述べるのも何なのですが、あなたも、仕事を通して勉強すればするほど、やっぱり基礎が必要だと痛感するはずです。ちょっとした夏休みや冬休み、少しでも時間があるときに関連の専門書や古典的な基本書をきちんと読んでみると、自分が何がわからないのかがわかるはずです。「わからない」とわかったことを勉強するということです。
 これは、誰にでもできることです。金融の現場で、金利の動きを常に追いかけている人が、基本にかえって、金利の決まり方や貨幣論から改めてきちんと学ぶことによって、視野が広がったり、今後の動きについての見通しができるようになったりするのではないかと思うのです。
 いま私が興味を持っているのは、人間の心理についてです。
 ビジネスの現場は人間の心理で動いています。株価の上がり下がりだって、不思議なことに、いい材料が出たから上がるとはかぎらない。思いもよらないことが起こるのは、まさに心理によるものです。人間の心理と経済行動の関係性をさぐる点での最新の理論は「行動経済学」です。こうした理論を学ぶことによって、人間の心理の不思議さがわかります。
 私たちが知りたい、学びたいと思っている森羅万象(しんらばんしょう)は、結局のところ、「人間とは何か」という究極の疑問に結びつく気もします。

  『学び続ける力』 第1章 より  池上彰:著  講談社現代新書:刊

 ニュース解説のためにこれまでたくさんの勉強をされてきた池上さん。
 しかし、経済や経済学については、いまも、改めてもう一度、本当に基礎の基礎から勉強し直したいという思いが高まっていると述べています。

 池上さんが、経済学を極めようとして行き着いた先は「人間の心理」でした。

 どんな分野でも突き詰めていくと、「人間とは何か」の究極的な疑問に結びつきます。

 そんな疑問と日々向き合うこと。
 それが「学び続けること」の本当の意義なのかもしれませんね。

批判力を持つ―大学で身につけたいこと

 2012年4月から、東京工業大学(東工大)の「リベラルアーツセンター」の教授に就任し、授業を受け持つことになった池上さん。

 リベラルアーツとは、いわゆる「一般教養」のこと。

「将来、技術的な専門家となることが多い東工大の学生に、広い視野を持ってもらうことは日本にとっても大事なことだ」

 そう感じて、この仕事を引き受けたとのこと。

 池上さんは、大学では、まず第一に「批判力=批判的に見る力を持つ」ことを身につけてほしいと述べています。

 私も大学に入ってから初めて、「参考文献は批判的に読め。すべては疑いうるものだ、という観点で勉強をしなければならないのだ」と、ゼミの指導教授に教わりました。要するに、高校では素直に本を読んで勉強するけれども、大学生になったらそれだけではだめだ。「その本がいっていることはそもそも正しいのか。いくら著名な学者が書いた本でも、その中におかしいことがあるかもしれない」と批判的に読むことが実は大事だと言われたのです。
 だから、今度は私がそう教える番だと思います。
 人間関係ですべてを疑っていると友人をなくしますけれども、少なくとも読書や学問の世界においては、とりあえずすべてを疑ってみることが大事です。研究者をめざすならなおさら、批判力を身につけなければいけない。
 批判力を身につけるのに大切なのは、何についても「引っかかるところを見つける」ことです。本も、引っかかりを見つけるつもりで読む、著者はこんなことを言っているけれど、本当かな?と思いながら読む、そうすると、ときどき「あれ?」という事に出合います。
 本当によくできた本は、内容が吟味され、論理的に書かれていますから、引っかからないものです。大胆な主張を読んで本当かな?と思っても、そうだよねと説得されていってしまいます。でも、中には、おい、ちょっと待てよ。どうしてこんなことが言えるんだ? という本もあります。
 本以外でも同じです。私自身の経験で言うと、大学時代、ゼミの先生が、他の学生が報告するのを批判しろというのです。一度、仲間の学生の報告をコテンパンにやっつけたら、「こうでなきゃいかん」と褒められました。しかし、後味もよくないし、なかなか辛いものです。同時に、学問の世界とはそういうものなんだなあと、思ったものです。

  『学び続ける力』 第2章 より  池上彰:著  講談社現代新書:刊

 大学入試までの勉強は、「答えのある問題」や「点数化できる問題」について考えることがほとんどです。

 しかし、社会に出るとそのような問題ばかりではありません。
 前例のない問題、答えの与えられていない問題に直面することがしばしばです。

 そのようなときに役に立つのが、「批判的に見る目」です。
 これまでの常識や方法を疑って、別のやり方はないか、と模索することが大切になってきます。

必要なのは「組み合わせて引っ張り出す能力」

  現代は、インターネットが普及した高度な情報化社会で、必要な知識は全てネット上にあります。
 私たちは、必要なものだけ、そこから取り出すことができます。

 検索のスキルが大事になってきますが、池上さんは、「それだけではないのでは」と感じています。

 新しい発想を生み出すためには、知識を「組み合わせて引っ張り出す能力」が必要だと指摘します。

 では、どうしたら知識をつなげていくことができるのでしょうか。
 はっきりした答えはありませんが、次のようなことを心がけることで、その力がつくのではないでしょうか。
 たとえば、ある国について学ぶとき、「このケースを一般化すると何が言えるだろうか」と考えてみます。
 最近なら、チュニジア、エジプト、リビアなどの中東各国について、民主化という普遍的な概念でとらえたときに、その民主化の受け皿はあるのか、民主化をもたらしたものは何か、周囲の国の経済制裁か、革命か・・・・頭の中でそういった整理をしてみるのです。
 単に知識を集めるだけでなく、「要するにそれはどういうことなのだろうか」「ここから導き出せることは何なのか」ということを一つ一つ考えるようにしていると、ある点でAとBの例は共通している、ということが見つけられるのです。
 また、もう一つ大事なことがあります。
 それは、何かを学ぶとき、単に「事実としてこんなことがありました」だけで済まさない、そこから何が言えるのか考えてみるのです。
 たとえば、正義は勝つという結論なのか、あるいは正しいことを唱え続ける者はやがて報われるということなのか、あるいは経済制裁が有効だという結論を引き出すこともできるでしょう。もちろん、はっきりした答えなどないのですが、目の前のケースからどういう教訓を導き出すことができるだろうかという問題意識を持ちながら、歴史を学んではどうでしょう。そうすれば、見出だせるものも、より豊かになるのではないでしょうか。

  『学び続ける力』 第3章 より  池上彰:著  講談社現代新書:刊

 単なる知識の断片のつなぎ合わせは、ネットさえあれば、誰でもできることです。

 知識と知識を結びつけて、それらの共通点を探し出し、新たな味方を加える。
 そうすることで、より大きな価値を生み出せます。

 池上さんのわかりやすい説明は、このような発想を重ねることから生まれているのですね。

ネットではなく本から情報収集する利点とは?

 いまの時代、ネットでたいていの情報を簡単に手に入れることができます。
 そのような時代に、わざわざ本を読む理由はないのでは、という人もいます。

 しかし、池上さんはそのような考えに異論を唱えます。

 ネットでバラバラに得た知識では、前後関係や因果関係がわからなかったりして、以外に役に立たないことがあります。
 一方、本の形になっているものは、内容はピンからキリまであるものの、それぞれが一応、体系的に一つのまとまった世界として内容を提示しようとしています。本を読むことによって、体系的に物事を知ることができるのです。
 あるテーマについて、いったん本で、編集された順序、あるいは体系を身につけておくと、それが一つの基準になり、後で別の情報を処理するときにも、効率よく考えることができます。後であれば、ネットで断片的に情報収集しても、自分の中で整理できるようになります。
 もう一つ大事なことがあります。それは、ネットで得られる情報は、玉石混淆(ぎょくせきこんこう)だということです。もちろん、優れた第一線の専門家がブログなどで情報提供しているものもありますが、単に思いつきだったり、勘違いや思い込みで書いていたりするものも多数あります。
 それに対して、本は少なくとも著者の他に、編集者と校閲者が、書かれた内容のチェックをしています。
 他人の目ということでいえば、本の文章は、他人の目を通っているため読みやすくなっているということもあります。あなたも、自分が書いた文章について、第三者にアドバイスをもらって手を入れたら読みやすくなった、と言う経験はありませんか?
 プロの編集者や校閲者の指摘や手が入ることによって、読みやすくなったり、一定のレベルが保証されたりしている。それは本の価値だと思いますし、そういう丁寧につくられた本を、これからも大事に読みたいと思うのです。

  『学び続ける力』 第4章 より  池上彰:著  講談社現代新書:刊

 本を読むには、本を買うためのお金がかかります。

 ただ、お金がかかるものは、かかるだけの価値があるということです。
 つまり、いろいろな人の手間がかかっているということ。

 ある専門の知識を、情報として短時間にインプットできる。
 そういう意味で、本はとてもコストパフォーマンスの高い媒体といえます。

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 人間にとって「学ぶこと」はとても大事なことです。
「学ぶこと」なくして、成長することはあり得ないからです。

 ただ、人間は年令を重ねていき、社会的な立場が上がっていくにつれて、満足し、学ぶことを忘れてしまいがちになります。

 池上さんは、学ぶことに終わりはないし、成長することに限界はないことを強調されています。

 変化の激しい今の時代。
 だからこそ、常に新しい知識や考え方を吸収し、それらを自分の骨や血にしていく必要があります。

「継続は力なり」

 いくつになっても好奇心を忘れず、広い視野を持てるように、『学び続ける力』を身につけたいですね。

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