【書評】『スタンフォードの自分を変える教室』(ケリー・マクゴニガル)
お薦めの本の紹介です。
ケリー・マクゴニガル先生の『スタンフォードの自分を変える教室』です。
ケリー・マクゴニガル先生は、心理学者です。
ボストン大学で心理学とマスコミュニケーションを学び、現在はスタンフォード大学で心理学の講師としてご活躍中です。
「意志力」は高めることができる!
マクゴニガル先生の今回の“講義”のテーマは、「意思力」です。
米国人が、目標を達成できない要因として最も多く挙げているのが、「意思力の弱さ」です。
「やろうと思ったことがなかなか続かない」
意志力の弱さに悩む人が多いのは、日本人も同じです。
「やるべきことはよくわかっているはずなのに、なぜいつまでもやらないのか」
そんな疑問に理論的に答えてくれる本は、これまでほとんどありませんでした。
本書は、意思力についての「最も優れた科学的な見解」と、マクゴニガル先生が講座で行った「実践的なエクササイズ」を融合した画期的な内容の一冊です。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「瞑想」が脳を鍛え、自己コントロールを強化する
意思力、つまり「自己コントロール力」を制御する。
そのために重要となるのは、「前頭前皮質」と呼ばれる、ちょうど額と目の後ろに位置する脳の領域です。
マクゴニガル先生は、前頭前皮質を鍛えるための、もっとも簡単で苦痛の少ない方法として、「瞑想」を挙げています。
瞑想を定期的に行なえば、たんに瞑想がうまくなるだけではありません。やがて、脳はすぐれた意思力のマシーンのように発達します。定期的に瞑想を行なう人の場合、前頭前皮質や自己認識のために役立つ領域の灰白質が増加するのです。
瞑想によって脳に変化をもたらすといっても、何も一生かかるわけではありません。
(中略)
ある研究では、瞑想の練習をたった3時間行なっただけで、注意力と自制心が向上するという結果が見られました。11時間後には、脳に変化が現れました。瞑想を始めた人たちの脳では、集中力を持続したり、気が散るものを無視したり、衝動を抑制したりするのに重要な領域の神経間の連絡が増加していました。また別の研究では、瞑想の練習を8週間毎日続けたところ、日常生活において自己認識の度合が向上し、脳で自己認識をつかさどる部分の灰白質の量が増えているのがわかりました。
脳がそれほどすぐに変化するなんて信じられないかもしれませんが、ちょうど重量上げをすると筋肉への血流が増加するように、瞑想をすると前頭前皮質への血流が増えるのです。筋肉に似てトレーニングに順応する脳は、もっとうまくできるようになろうとして、大きくなり速く働くようになるわけです。
ですから、もし脳を鍛えたいなら、これからご紹介する瞑想のテクニックは前頭前皮質への血流を促進するために、進化をスピードアップさせ、脳の潜在能力を最大限に引き出すには最も手っ取り早い方法といえます。『スタンフォードの自分を変える教室』 第1章 より ケリー・マクゴニガル:著 神崎朗子:訳 大和書房:刊
脳も、筋肉のように鍛えれば鍛えるほど、強くなるということです。
瞑想の効用については、以前から、色々な方が、色々な本で紹介していますが、科学的にも証明されています。
マクゴニガル先生は、瞑想を毎日の習慣にすることを勧めています。
まずは1日5分から、呼吸に意識を集中して行ないましょう。
ストレスは「一瞬」でやる気を奪う
マクゴニガル先生は、意思力とは進化によって得た能力であり、誰もがもっている本能であり、脳と体で起きている現象を対応させる能力
だと述べています。
意思力を奪ってしまう最も大きな要因のひとつは、「ストレス」です。
ストレスに対する生理機能、つまり「闘争・逃走反応」。
自己コントロールの生理機能である「休止・計画反応」。
この2つは、相反するものなので、両方同時に起こることはありません。
闘争・逃走反応も休止・計画反応も、ともにエネルギー管理のひとつの方法にはちがいありませんが、エネルギーと注意力の向け方がまるっきり逆です。 闘争・逃走反応では、本能的に行動できるように、エネルギーはすべて体に向けられ、慎重な意思決定をするための脳の領域からエネルギーを奪い取ります。いっぽう、休止・計画反応では、逆にエネルギーを脳に送ります——それも脳ならどこでもいいわけではなく、まさに自制心の中枢である前頭前皮質へ送るのです。 ストレス状態になると、人は目先の短期的な目標と結果しか目に入らなくなってしまいますが、自制心が発揮されれば、大局的に物事を考えることができます。ですから、ストレスとうまく付き合う方法を学ぶことは、意思力を向上させるためにもっとも重要なことのひとつなのです。
『スタンフォードの自分を変える教室』 第2章 より ケリー・マクゴニガル:著 神崎朗子:訳 大和書房:刊
日本人は、とくに、「ストレスや苦痛に耐えて頑張ることが美徳」ととらえがちです。
しかしそれは、たんに意思力をいたずらに消耗しているだけです。
やっていてストレスのないことをすること。
自分の周りにストレスが少ない環境を作ること。
それが、意思力を保つためには重要です。
「モラル・ライセンシング」の罠
人は何かよいことをすると、いい気分になります。
そのせいで、自分の衝動を信用して、「悪いことをしたってかまわない」と勘違いすることがしばしばあります。
無抵抗の犯人に対してひどい暴力を振るう警察官もこれに当たります。
このような現象を、心理学の言葉で、「モラル・ライセンシング」といいます。
誰もがこのような「モラル・ライセンシング」に陥る危険性があります。
では、そうならないために、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
私たちは、正しいことをしたいとみずから望む人間だと感じる必要があります。モラル・ライセンシングがもたらすのは、つまるところアイデンティティの危機です。ほんとうの自分は悪いことがしたい人間だと考えていると、よいことをした自分に対して「ごほうび」をあげたくなります。そいう考え方では、自制心を発揮することは「罰則」のようになり、自分を甘やかすことが「ごほうび」になってしまうのです。 しかし、それではあまりにも情けなさすぎます。モラル・ライセンシングのワナにはまらないようにするには、「ありのままの自分が最高の自分になることを望んでいる」のだと、そして、「自分自身の価値観に従って生きていきたい」のだと、しっかり自覚する必要があります。 そのように思えれば、衝動的で怠け者で誘惑に負けやすい自分を“ほんとうの”自分だなどと思わなくなります。ごほうびにつられ、だまされるようにして無理やり目標を追いかけ、何の努力もしていないのに「ごほうび」をもらって喜ぶようなまねはしなくなります。
『スタンフォードの自分を変える教室』 第4章 より ケリー・マクゴニガル:著 神崎朗子:訳 大和書房:刊
自分の行動を善悪の判断で決め過ぎると、その「悪」だと決めつけた部分が膨れ上がります。
そして、結局は自分の望まないことをしてしまうことになります。
善悪は、自分以外から押し付けられた価値観です。
それよりも自分自身の価値観を、より重視する方が、結局は強い「意思力」を維持できるということです。
脳内の「欲望を刺激する仕組み」とは?
何か欲求を感じると、脳内で「ドーパミン」と呼ばれる物質が大量に放出されます。
そして、欲しいものを何が何でも手に入れなければ済まなくなります。
ドーパミンの働きで注意力は全てそこへ向けられ、それを手に入れること、あるいは繰り返し行うことしか考えられなくなってしまうのです。 これは生まれつき備わっているサバイバル本能のようなものでしょう。そのおかげで大昔なら、木の実を見つければ飛びついたので飢え死にすることもなく、パートナーを誘惑するのを面倒がって人類の絶滅を加速するような事態も避けられました。進化にとっては人間の幸福感など関係ありませんが、人間に生き延びる努力をさせるために、幸福の予感が利用されてきたのです。 つまり幸福の「予感」は人間が狩りや採集で食べ物を手に入れ、せっせと働き、繁殖相手を探すように仕向けるための脳の戦略だったのです。 けれども、私たちが現在おかれている環境は、人類の脳が発達してきた大昔の環境とは非常に異なっています。ひとつ例を挙げてみましょう。私たちが脂肪分や糖分の高い食べ物を見たり匂いをかいだりすると、ドーパミンが大量に放出され、そのせいでやたらと大量に食べたくなってしまいます。食料が乏しい環境においては、これは非常に役に立つ本能です。 しかし、食料があり余っているばかりか、ドーパミン効果を最大限に引き出すように仕組まれた環境では、ドーパミンが出るたびに衝動に従っていては、長生きをするより肥満になることはまちがいなしです。
『スタンフォードの自分を変える教室』 第5章 より ケリー・マクゴニガル:著 神崎朗子:訳 大和書房:刊
現代社会は、ドーパミン効果を引き出そうとする仕掛けが、至るところにあります。
テレビのCMなどはその最たるものですね。
人間の脳には、「欲望を刺激する仕組み」がある。
そのことを自覚して生活することが大切です。
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脳の仕組みや機能の研究は日進月歩で、次々に新しい事実が明らかになります。
本書を読むと、「ここまで進んでいるのか」と本当に驚かされます。
日本でも、さまざまな分野ではびこっていた「根性主義」が改善されつつあります。
しかし、世界はさらに先を行っています。
「意志が強い」は、生まれつきの才能ではなく、脳のトレーニングしだいでいくらでも鍛えられる。
本書の内容が浸透し、そのことが常識となる世の中が早く来ることを願います。
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