本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

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【書評】『ウェブで政治を動かす!』(津田大介)

 お薦めの本の紹介です。
 津田大介さんの『ウェブで政治を動かす!』です。

 津田大介(つだ・だいすけ)さんは、主にインターネット上を活動の場にされている、ジャーナリスト、メディア・アクティビスト(メディアを活性化する人という意味)です。

ウェブの活用が「政治」を変える!

 日本人、特に若者の政治離れが問題となっています。
 津田さんは、「政治」に興味がなくなってしまった理由について、「わかりにくい」という問題を挙げています。

 大手メディアは、政党内、政党間での勢力争い、いわゆる「政局」中心の報道に終始しています。
 一方、生活に直接関係のある、肝心の「政策」は、中身が深く掘り下げられずに法案化されるのが実情です。

 津田さんは、われわれは「無関心になっている」のではなく、メディアによって「無関心にさせられてきた」のだと指摘します。

 実際の生活が、どのように変わるのか。
 それが明確に見えるようになれば、「政治」へのイメージはガラッと変わります。

 津田さんは、そのための活路となるのがソーシャルメディアを中心としたウェブの積極的な利用だと述べています。

 フェイスブックやツイッターをはじめとするソーシャルメディアは桁外れな勢いで利用者が増えており、今や1500万~2000万人の利用者がいるとも言われている。現在、パソコンを利用する日本人のインターネット人口は6000万人前後であり、そのうち3~4人に1人がソーシャルメディアを使っている状況だ。
 また、近年、政治家や自治体は積極的にフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアを活用し、彼らの活動はより鮮明に可視化されるようになっている。

  『ウェブで政治を動かす!』  はじめに より 津田大介:著 朝日新聞出版:刊

 本書は、政治とウェブをめぐる近年の目覚ましい動きを追い、近未来の政治像を考察した一冊です。
 その中からいくつかピックアッしてご紹介します。

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落とされた情報にこそ、真実がある

 最近、大手メディアの記者が実名でツイッターを利用し、情報発信しようとする試みが広がりつつあります。

 社内の検閲を受けずに、ダイレクトにフォロワーに発信されます。
「報道の中立」が守られるのか、と問題視する人も多いですが、そのメリットが大きいです。

 記者の実名によるツイッター利用のメリットとは、第一に「読者との対話の回路が一つ開かれる」ことだ。今まで紙の新聞では、記事に対する意見や記者への連絡は、すべてお客様相談室のようなところで受け付けられ、そこでフィルタリングされてきた。しかし、記者がツイッターを始めることによって、書いた記事に対するレスポンスが直接本人に届くようになる。これからは「この人だったら信用できそうだ」と思う記者に一般の人が情報をリークする、といったことも起きてくるだろう。紙面に載っている署名記事とツイッターアカウントを連動させれば、直接質問が受けられるようになったり、掲載された記事の補足情報をツイートしたり、といったことが可能となる。
(中略)
 個人的に一番大きなメリットだと感じているのは、それまでだったらボツとなっていた記事がソーシャルメディアなら伝えられる、ということだ。
(中略)
 筆者が震災以降、被災地に何度も足を運び、ネットを使って伝え続けたのは、マスメディアが発信した1割、2割の情報ではなくて、そこで落とされてしまった7、8割を細切れでも伝えていくことで被災地の現実や、ディティールが浮かび上がってくるのではと思っていたからだ。
「マスメディアでは構造的に絶対できないこと」もネットを使えば、成し遂げることができる。マクロとミクロ、リアルタイムとオンデマンド。マスメディアとソーシャルメディアが双方得意な分野で補完し合うことで、新しい形のジャーナリズムが見えてくる。

  『ウェブで政治を動かす!』  第3章 より 津田大介:著 朝日新聞出版:刊

 これからの時代、情報を受け取る側も、マスメディアとソーシャルメディアの両方をうまく使うことが求められそうですね。

 ちなみに、ニューヨーク・タイムズをはじめとする海外のメディアでは、記者がツイッターやブログで情報発信する動きが昔からあり、名物記者が個人名でアカウントを取り、現地に行って取材したことを即座に書くのが当たり前になっています。

 日本も遅ればせながら・・・といった感じですね。

「ネット選挙」で何が起こる?

 津田さんは、日本の選挙は先進諸国と比べて、10年以上遅れていると指摘します。

 米国、英国など多くの先進国は、2000年初頭には、選挙時に積極的なインターネット利用が行われており、他の先進国ではソーシャルメディアやホームページ、ブログ、電子メールを駆使した、より積極的で効率的な選挙戦が実現されています。

 最もその動きが目立つのは、米国です。
 米国大統領選では、インターネットを通じて、全米の何十万人ものサポーターから多額の献金を集めることは“当たり前”です。

 一方、日本では、選挙の運動中(選挙告示から投票日まで)、ホームページ、ブログ、ソーシャルメディアの更新も一切禁止されています。

 しかし、近い将来、選挙でのソーシャルメディアの活用が本格的に始まることは間違いありません。

 世界的にも大幅に遅れているこうした状況のなかで、当然日本でも近年ネット選挙解禁への動きが取り沙汰されてきた。
 そもそも、われわれが政治に対して有効にコミットメントできる最も重要な機会は選挙をおいてほかにない。「ウェブで政治を動かす」という本書のテーマから考えれば、政治家や有権者が選挙期間中にネットを活用することで、市民の投票行動は変わるのかということがカギとなってくる。
(中略)
 では、そもそもネット選挙が解禁になれば、私たちにはどのようなメリットがあるのだろうか。
 まずネットを使える環境があれば、有権者は、候補者の主張や活動実績など自ら知りたいことをダイレクトに閲覧できる。例えば、候補者の政見放送や演説など、従来では時間を調べたりわざわざ外に出たりする必要があったが、動画などネットを使えばそうした時間的・場所的制約は大幅に削減される。
 そして、何より大きいのは、選挙期間中に有権者と候補者のリアルタイムな積極的交流が図れることだ。バーチャルな場ではありつつも、多くの人の目にさらされるツイッターなどの公共言論空間で、候補者のコミュニケーションスキルを吟味することができる。
 もう一つ、テレビ中継と親和性の高いツイッターのようなソーシャルメディアを利用することで、政治家同士の討論をパブリックビューングのように多くの人々と同時に楽しみ、政策に関する情報をリアルタイムに入手することができる。結果、それを元に自らの投票行動につなげていけるという大きなメリットもある。

  『ウェブで政治を動かす!』  第5章 より 津田大介:著 朝日新聞出版:刊

 ソーシャルメディアを積極的に利用して成功している政治家として、真っ先に名前が挙がるのは橋下大阪市長です。
 橋下市長は、ツイッターで90万人近くのフォロワーを獲得し、日々、自らの主張を連続ツイート(つぶやき)という形で発信し続けています。

 彼のように、自らの思想や政治哲学をソーシャルメディアを通して表現できる政治家が、今後ますます力を持つ時代になっていくことでしょう。
 それは、「顔の見える政治家」が増えるという意味で、よい方向に進むとみていいでしょう。

可視化された行政の中抜き構造

 津田さんは、ソーシャルメディアやネットの活用で、政治・行政のオープン化も進むと述べています。

 成功例として挙げられるのは、民主党が“目玉事業”として行った「事業仕分け(行政革新会議)」です。
 事業仕分けは、インターネットが政治に接続する上での、一つのケーススタディになりました。

 事業仕分けにおける最も大きなキーポイントは、各府省自らが、予算の支出先などの実態を把握し、これを国民に明らかにさせた上で、事業の内容や効果の点検を行い、その結果を予算の概算要求や執行に反映させる「行政事業レビュー」であるです。

 その内容は「行政事業レビューシート」に記載され、インターネットを通じ国民の誰もが閲覧できます。

 政策選別や行政のスリム化の過程などの行政の実態が、白日の下にさらされたことには、相当大きなインパクトがありました。

 インターネットを通じ、国民の誰もが参加できる形で、政策選別や行政のスリム化の過程——行政の実態が白日の下にさらされたことには、相当大きなインパクトがあった。
 これまで国民一人ひとりが政治に直接コミットメントする方法というと、選挙で投票することくらいしかなかった。われわれは、選挙というほとんど唯一の限定された意思表示機会を通じてしか政治家や政策に対する憤りを示すことができなかった。
 しかし現在では、事業仕分けの議論がすべてネットを通じて公開される。そしてそれを見てさまざまな意見を持つ国民がソーシャルメディアを通じて意見を発表し、議論が巻き起こっていく——その過程そのものが国民と政治との新しい「接点」となった。言い換えれば、多くの国民にとって自分の生活とはかけ離れた世界に思える政策議論がソーシャルメディア上に載ったことで、政治が“日常化”したとも言える。このことは、事業仕分けと、事業仕分けをネットで中継したことによる隠れた成果の一つだろう。

  『ウェブで政治を動かす!』  終章 より 津田大介:著 朝日新聞出版:刊

 公開されても、実際にネットを通じて閲覧するのは、国民のほんの少数かもしれません。
 しかし、閲覧される側の各省庁は、閲覧する側の目を無視するわけにはいきません。

 これまでにも増して、予算要求の中身を吟味してしっかりした理由付けをすることになるでしょう。

 政治に「常に見られている」という緊張感を持たせる。
 そういう意味でも、政治において、ソーシャルメディアやインターネットの持つ重要性が、ますます大きくなるのは間違いありません。

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 多くの人の手に行き渡っている、インターネットやソーシャルメディアといった「武器」。
 ただ、政治の分野では、まったく利用されていないのが現実です。

 だからこそ、それらの利用が一般的になることで、日本の政治に革命的な変化が起こる可能性があります。

「武器」が変わることで、「戦い方」が変わります。
「戦い方」が変わることで、実際にその場で戦う「兵士」も変わります。

 間近に迫った、ネット政治の解禁。
 閉塞感漂う日本の政治に、何をもたらすのでしょうか。
 楽しみですね。

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