本一冊丸かじり! おいしい書評ブログ

本を読むことは、心と体に栄養を与えること。読むと元気が出る、そして役に立つ、ビタミンたっぷりの“おいしい”本をご紹介していきます。

【書評】『海馬』(池谷裕二、糸井重里)

 お薦めの本の紹介です。
 池谷裕二さんと糸井重里さんの『海馬 ー脳は疲れないー 』です。

頭の良し悪しは、「海馬」が決める!

 頭がいいとか悪いということは、単純に勉強ができるとか、難しいことをよく知っているということとは違います。

「こまやかな気配り」
「いざという時の適切な対応」
「おもしろい遊びの発見」

 そのようなことを自然にできる人のことを、周囲の人たちは「あの人は頭がいい」と言います。

「頭のよさ」について考える上で、重要となるのは、「海馬(かいば)」と呼ばれる脳の中の小さな器官です。

 本書は、「よりよく生きたい」という望みが、「よりよく頭をよくしたい」という思いを生むという観点で書かれた一冊です。

 脳科学者の池谷さんとコピーライターの糸井さんの対話集という形で、「海馬」を中心に脳の機能と「頭のよさ」の関係をまとめています。
 その中からいくつか取り上げてご紹介します。

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頭のいい人って、自分のこと好きな人のことかも

 著者は、「好き嫌い」と「頭の良し悪し」はイコールで結ばれるのではないかと指摘します。
 つまり、人は好きな人のことは「頭がいい」と考え、嫌いな人のことを「頭が悪い」と考えるということです。

池谷 それはおもしろいです。「頭の良し悪し」の基準を「好き嫌い」だと考えるとすっきりしますし、当たっている気がします。
 根拠もあるんです。脳の中で「好き嫌い」を扱うのは扁桃体(へんとうたい)というところでして、「この情報が要るのか要らないのか」の判断は海馬というところでなされています。
 海馬と扁桃体は隣り合っていてかなりの情報交換をしている。つまり、「好きなことならよく覚えている」「興味のあることをうまくやってのける」というのは、筋が通っているんですよ。感情的に好きなものを、必要な情報だとみなすわけですから。
糸井 なるほど。だとすると、思い切って「ものや人とコミュニケーションがキチン取れている状態」を、「脳のはたらきがいい状態」と言ってしまってもいいのでしょうか?
池谷 いいと思います。脳のはたらきは、「ものとものとを結びつけて新しい情報をつくっていく」というのが基本ですから。
(中略)
糸井 つまり、相手の気持ちをわかってあげられる人も、センスのいい趣味を持っている人も頭がいい。運動が得意なプロ選手も、独創的なアイデアを出す人も頭がいい。みんな、脳のはたらきがいいという素敵さは変わらない、という気がするんです。
池谷 まさにそうです。

 『海馬』  第一章 より  池谷裕二、糸井重里:著  新潮社:刊

「ものや人とコミュニケーションがきちんと取れている状態」

 それが、脳のはたらきがいい状態です。
 つまり、過去の経験から得られた感情を元に、その場その場で最適な対応がとれる人が「頭がいい人」ということです。

 感情的に好きなことをやれば、海馬と扁桃体の働きは相乗効果で活発になります。

 好きなことをどんどんやること、それが頭がよくなる秘訣である。
 そのことが脳科学の観点からも裏付けられるということですね。

「海馬」は「記憶の製造工場」である

 海馬が司る機能は、「記憶」です。
 具体的に、どのような働きをしているのでしょうか。

池谷(前略)海馬の神経細胞は、だいたい1個が2万個から3万個の神経細胞と常に連絡を取っています。
糸井 すげぇ!多い。
池谷 人間の海馬の神経細胞は、だいたい1000万個ぐらいあるんです。
 脳全体の神経細胞が1000億個ぐらいの数ですから、海馬の細胞たちは、すごくはたらく少数精鋭って言いますか、よりすぐりの細胞集団なのです。
糸井 海馬は具体的に何をしているのですか?
池谷 海馬は記憶の製造工場です。ここでまた科学者らしく「ものを調べる」視点から見てみると「海馬を知るには実験で海馬をなくしてみよう」という逆視点の考えが現れてきます。・・・・海馬を手術で取っちゃった人がいるんです。
 手術で海馬を取らざるをえなくなった人や、血管が詰まって海馬に血が通わなくなった方々がいます。ですから「その人たちがどうなるかを見ればいい」と考えた科学者がいました。
糸井 海馬がなくなったらどうなってしまうんですか?
池谷 要するに、新たな記憶を製造できなくなるんです。5分くらいは憶えてるんですけれども、5分経つと忘れてしまっている。
糸井 へぇ。なんで5分は憶えていられるのですか?
池谷 短期的な記憶は長期的な記憶とは異なり、海馬を介さないで5分ぐらいだけ蓄えられるんです。だから5分は続くけれどそれ以降は何も残らない。

 『海馬』  第二章 より  池谷裕二、糸井重里:著  新潮社:刊

 後で思い出したりするような中長期的な記憶は、すべて海馬を通してインプットされます。
 まさに、「記憶の製造工場」というにふさわしい器官ですね。

「海馬」は情報の「ふるい」である

 海馬には、もう一つ重要な機能があります。
 それは、「情報の選別」です。

池谷 脳には意識するしないに拘らず、すごくたくさんの情報が入ってきます。見ているものは、たくさんありますよね?聞こえている音とか座ったイスの感触だとか、ありとあらゆる情報が脳に常に入ってきます。
 その情報は一度海馬に送り込まれるんです。つまりいろいろな情報は海馬ではじめて統合されます。しかし、その情報のほとんどはそのまま捨てられてしまいます。
 なぜかというと、情報が整理されないまま、脳が今受けている情報をすべて記憶してしまうとしたら、数分で容量一杯になってしまうからです。人間はそのぐらいたくさんの情報にさらされています。
糸井 よく考えたらそうですよね。光の当たっている感じとかまでぜんぶ憶えてしまったらキリがないもん。だから、入ってきた情報をぜんぶ憶えちゃいけないんだ?
池谷 海馬ではじめて記憶が製造されるというのは、そういう意味です。
糸井 海馬が、これが「役に立つ情報」でこれが「役に立たないから忘れていい情報」だとか、仕分けをしたりフラグ(目印になる旗)を立てるのですね。
池谷 ええ。さらされている膨大な情報の中から、海馬は必要な情報だけを選び抜いています。結局、残された情報のほうが少ない。海馬の役割は、情報の「ふるい」です。

 『海馬』  第二章 より  池谷裕二、糸井重里:著  新潮社:刊

 私たちが「情報の洪水」に飲み込まれることなく生活ができるのも、海馬のおかげです。

 海馬の機能が高まるほど、一度に多くの外部からの情報を処理・整理できます。
 やはり「頭のよさ」には欠かせない器官だといえます。

脳の中の「やる気を生み出す場所」

「やる気を生み出す場所」は、脳内にあります。
 それは、「側坐核(そくざかく)」といい、脳のほぼ真ん中に左右ひとつずつあります。

 脳をリンゴだとすると、ちょうどリンゴの種みたいなちっちゃな器官です。

糸井 そんなに具体的な場所があったんですか、教えてくれたら、そのへん叩いてやるのに。
池谷 ははは。ところが、側坐核の神経細胞はやっかいなことに、なかなか活動してくれないのです。どうすれば活動をはじめるかというと、ある程度の刺激が来た時だけです。つまり、「刺激が与えられるとさらに活動してくれる」ということでして・・・・やる気がない場合でもやりはじめるしかない、ということなんですね。そのかわり、一度はじめると、やっているうちに側坐核が自己興奮してきて、集中力が高まって気分が乗ってくる。だから「やる気がないなぁと思っても、実際にやりはじめてみるしかない」のです。
糸井 やりはじめる前に、やる気がないのは当然なのですか?
池谷 はい。やってないから、やる気が出なくて当たり前です・・・・・この現象はクレペリンという心理学者が発見して「作業興奮」と呼ばれています。作業しているうちに脳が興奮してきて、作業に見合ったモードに変わっていくという。
 掃除をやりはじめるまでは面倒くさいのに、一度掃除に取りかかればハマってしまって、気づいたら部屋がすっかりきれいになっていた、などという経験は誰にでもあると思います。行動を開始してしまえば、側坐核がそれなりの行動をとってくれるから。

 『海馬』  第三章 より  池谷裕二、糸井重里:著  新潮社:刊

 何を始めるにも、「最初の一歩」が最も大変です。

 やる気は、やっているうちに出てくるものだ。
 それも、脳科学的に解明されているのですね。

 考え過ぎないで、とにかくやってみること。
 側坐核の機能を衰えさせない、という意味でも大事です。

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「頭のよさ」に大きな影響を与える「海馬」は、使えば使うほど機能が高まります。
 実際に、海馬の神経細胞は、大人になっても増えることが確かめられています。

 そのために必要なことは、「脳に刺激を与えること」です。

 今までに経験したことのないような情報を五感を通して送ってあげる。
 そうすることで、海馬により多くの負荷を掛けることができます。

 マンネリ化した刺激のない日常は、脳の機能を衰えさせ、「老化」を早めます。

 つねに様々なことに興味を抱ける「好奇心」。
 色々なことを吸収しようとする「向上心」。

 それらを忘れずに、新鮮な気持ちで日々過ごすよう、心掛けたいですね。

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