【書評】『頭がいい人の敬語の使い方』(本郷陽二)
お薦めの本の紹介です。
本郷陽二さん監修の『頭がいい人の敬語の使い方』です。
本郷陽二(ほんごう・ようじ)さんは、作家です。
大学卒業後総合出版社勤務を経て、現在はビジネスや発想、歴史関係の書籍の著作でご活躍中です。
円滑な人間関係に不可欠な「敬語」
社会人になって苦労することの一つに、敬語の使い方があります。
敬語は、自分と相手との関係を表す大切な表現です。
使い方をちょっと間違えると、失礼になります。
人間関係を築き、仕事を円滑に進めていく。
そのためには、目上の人や先輩への気配りが欠かせません。
相手の立場になって考え、へりくだって気配りをする。
そのためのスキルとして、敬語は欠かせないものといえます。
本書は、気をつけるべき敬語の表現をビジネスシーン別に、会話例を交えて説明しています。
その中からいくつかピックアップしてご紹介します。
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「私では役不足で・・・・」の傲慢
意味を勘違いして覚えてしまっていることが多い単語の一例として、「役不足」を取り上げます。
「思わぬお役目をいただきました。私では役不足ですが、全力投球で頑張るつもりです。みなさん、ご協力よろしくお願いいたします」 非の打ちどころのないあいさつと言いたいところですが、残念ながらこれは大失態。「役不足」の使い方を完全に間違えています。「役不足」は与えられた仕事やポジションが、能力に見合っていない、能力に対して軽すぎるという意味で使う言葉です。上司が部下に対して、「今度のプランは君が中心になって進めてくれ。規模的には小さくて、君には役不足だろうが、よろしく頼む」 というように使うのなら、まったく問題ありません。(中略) ところが、大役をもらって「役不足」を使えば、意味はこうなります。「私の実力からしたら、たかがプロジェクトのリーダーなどは到底ふさわしい仕事とは思えない。もっと重要なポジションについてしかるべきなのに」 大役を与えた上司は怒り心頭。あいさつを聞かされたスタッフは、傲慢さに唖然ということになるのは必至です。
『頭がいい人の敬語の使い方』 第1章 より 本郷陽二:監修 日本文芸社:刊
この場で言いたかったのは、「私の実力以上の大役をいただいて・・・・」ということ。
このケースで使うべきだったのは「役不足」ではなく「力不足」です。
「私では力不足ですが、全力投球で頑張ります~」
このように表現すれば、問題ありません。
一字違いでまったく違った表現になってしまうんですね。
日本語の敬語の難しさを示す、いい例です。
昼のあいさつは「こんにちは」ではない
「あいさつ」がきちんとできることは、社会人としての基本です。
朝は出社して顔をあわせた人には「おはようございます」と声を掛けるのが普通です。
ちょっと悩んでしまいそうなのが、午後のあいさつです。
「午後は、やっぱりこんにちはだろう」 たしかに、午後のあいさつは「こんにちは」ですが、ビジネスの場ではどうでしょうか。たとえば、社内で同僚と出くわしたときなら「こんにちは」で問題ありません。しかし、相手が部長や常務といった上司の場合は、このあいさつでは軽すぎる気がしませんか? ビジネスの場は、ある意味でタテ社会ですから規律が要求されます。「おつかれさまです」 午後から夜のあいさつは、これがもっとも自然で適切でしょう。夜だからといって「こんばんは」は、いただけません。 一方、社外ではどうでしょうか。訪問先の受付でまず「お疲れ様です」とあいさつするのは、ちょっと場違いな感じがします。「お世話になっております」 こちらのほうがはるかに自然です。このようにあいさつには午前中と午後の使い分け、自社と他社の使い分けがはっきりとあります。正しくその使い分けできるかどうかは、ビジネスパースンとしての自覚があるかないかに直結します。
『頭がいい人の敬語の使い方』 第2章 より 本郷陽二:監修 日本文芸社:刊
これも敬語の難しさの一例です。
相手によって、上手く使い分けたいところです。
不当クレームへの対応法
電話での対応にも、敬語は不可欠です。
とくに顧客からのクレームには、真摯に受け止めることが大原則となります。
しかし、クレーマーと呼ばれる人たちからの、こじつけとしか思えないクレームは困りものです。
相手の感情を逆なでしないように、上手く対応したいところです。
何を言われようと、相手の気がすむまで話を聞くのが対応法の第一ステップです。 ひと通り聞き終えたら、こちらの言い分を伝えますが、いきなり始めるのは相手を刺激するだけ。相手の話に納得したポーズから入ります。「おっしゃることはごもっともでございます。ただ~(反論)」「お怒りになるのは当然でございます。しかし~(反論)」 この“納得フレーズ”がクレーマー対策の最高の武器です。「ごもっとも」「当然」と言われれば、相手の気持ちも静まりますし、少しはこちらの話に耳を傾けようという姿勢にもなるものです。“売り言葉に買い言葉”的な対応は火に油を注ぐだけです。
『頭がいい人の敬語の使い方』 第3章 より 本郷陽二:監修 日本文芸社:刊
敬語一つ、話し方一つで、余計なトラブルを回避することができます。
やはり、しっかり覚えて身に付けておきたいですね。
「~に差し上げて」は、相手への謙譲があやふや
最後に、ちょっと複雑な状況での敬語の使い方です。
その場にいない第三者が会話に登場すると、とたんに敬語の持っていく場があやふやになります。次の言い方はその一例です。「よろしかったら、お子さんに差し上げて下さい」 お土産のお菓子などを差し出すとき、なんの疑問も持たずに使っている言い回しですが、この言い方でいいのでしょうか。「差し上げる」は「与える」という意味の謙譲語です。謙譲しているのは誰かというと「子ども」です。お菓子を「差し上げる」のは、お菓子を受け取る相手=子どもということになります。では、お菓子を渡された「あなた(親)」に対する敬意は? この言い方にはそれが見当たりません。「あなたがお子さんに差し上げてね」という言い方になってしまい、「あなた」が「お子さん」に「差し上げる」ようになってしまいます。そればかりか、渡した側からの「あなた」への敬意を差し挟む余地がないのです。「お子さんと召し上がってください」 この言い方なら、“あなたのお子さん”に敬意を払っていることになります。
『頭がいい人の敬語の使い方』 第4章 より 本郷陽二:監修 日本文芸社:刊
この状況では、直接話している相手と、お菓子を渡す相手の両方に敬意を払った表現にする必要があります。
普段から敬語になれていないと、とっさに口に出すのは難しいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
敬語は、使い慣れていると思っている人でも、意外と間違った表現をしていることがあります。
しっかりと使いこなされている敬語は、誰が聞いても心地がいいものです。
同じことを表現するのにも、言い方次第で、天と地ほどの差が生まれるのが言葉の怖さです。
私たちも、正しい敬語を身に付けて、普段から使い慣れておきたいですね。
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