【書評】『腸内革命」(藤田紘一郎)
お薦めの本の紹介です。
藤田紘一郎先生の『腸内革命 腸は、第二の脳である』です。
藤田紘一郎(ふじた・こういちろう)先生は、感染免疫学がご専門の医師です。
「幸せ物質」は腸内で作られる
近年、人間の精神状態の良し悪しは、「幸せ物質」と呼ばれる、セロトニンやドーパミンが脳内にどれだけ存在するか、に大きく依存することが知られるようになりました。
セロトニンもドーパミンも、脳内で分泌されるホルモンの一種です。
セロトニンは、セロトニン神経から、ドーパミンは、ドーパミン神経から、それぞれ分泌されます。
ところが、それらの「幸せ物質」を作っている工場は、じつは脳ではなく、腸の中であることは、あまり知られていません。
藤田先生は、「幸せ物質」は腸内細菌の働きによって腸内から脳へ伝達される
と述べています。
脳は、すべての化学物質をガードして、外からの侵入を防ぐ働きを持っています。しかし、乳酸菌が作った小さな前駆体(脳内でセロトニンやドーパミンに変わりうる物質)はそんなガードをもろともせず、血液脳関門(BBB)から神経細胞によって脳に運ばれたのです。
セロトニンは食物に含まれるトリプトファンという必須アミノ酸から摂らない限り、体内では合成することができません。また、ドーパミンも同様に必須アミノ酸のフェニルアラニンがないと合成できないのです。しかも、これらのアミノ酸を多く含む肉類をたくさん摂取しても、腸内細菌がいない状態ではトリプトファンやフェニルアラニンがあってもセロトニンやドーパミンが増えないことがコロンビア大学のガーション博士らの研究でわかってきました。
セロトニンやドーパミンはトリプトファンやフェニルアラニンなどのアミン酸から合成されますが、ビタミンM(葉酸)、ビタミンB6、などのアミノ酸がなければ合成できません。これらのビタミン類は腸内で合成されたセロトニンやドーパミンの前駆体は腸内細菌がいないと脳に送れないのです。『腸内革命』 第1章 より 藤田紘一郎:著 海竜社:刊
腸内の環境が、それほどダイレクトに、人間の精神状態や気分を左右するのは驚きです。
腸が、「第二の心臓」と呼ばれる理由がよくわかります。
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「幸せ物質」を作り出す場所
「幸せ物質」を作り出しているのは、腸の中の「腸内フローラ」という場所です。
フローラは、草木が生い茂ったような叢(くさむら)のこと。
腸内フローラは、いわば、細菌がたくさん生息している「お花畑」のようなところです。
藤田先生は、腸内フローラの重要性について、以下のように述べています。
腸内細菌の種類は、培養できる細菌に限っただけでも100種類を超え、その数は100兆個以上になりますから、これはもう無限に近いといっても過言ではありません。重さも1〜2キログラムに達するといわれています。
胃の中の細菌は強い胃酸が影響して数は少なく、およそ1グラムあたり100ないし1000個くらいで圧倒的に腸の方が多いのです。その数の分布は小腸上部で1万個ほどですが、小腸下部では10万個から1000万個に急増し、大腸では 100億個にまで達します。この中には、ビフィズス菌、乳酸菌、大腸菌、バクテロイルズ菌、ウェルシュ菌など多くの細菌が花畑のように棲み着いているのです。『腸内革命』 第2章 より 藤田紘一郎:著 海竜社:刊
腸内を健康に保ち、腸内細菌を増やす。
そのためには、腸内フローラを清潔に保つことが、何より大事ということです。
腸内環境を整えるために重要なこと
腸内フローラを腸内細菌の住みやすい環境に変える。
そのためには、それらのエサとなる食物繊維を多く摂取すること。
また、乳酸菌やビフィズス菌が含まれるヨーグルトや健康飲料などを摂取することです。
日本の伝統食に使われるしょう油、味噌、漬物などの発酵食品。
それらにも、植物性乳酸菌などの発酵菌が多く含まれており、腸内で善玉菌が増殖する助けとなります。
さらに、藤田先生は、「よく噛むこと」の重要性も指摘します。
噛むことが、前頭前野や海馬という脳の中枢を刺激し、認知症の進行を予防したり、改善したりするのですから、噛むことの重要さを改めて思い知らされてます。それはとりもなおさず、毎日きちんとした食品を、しっかり噛んで食べることの重要さを物語っています。
ですから、スナック菓子やファストフードなどあまりよく噛まなくてもいい食品は感心しません。
また、噛むことは活性酸素の消去につながることも確認されています。
唾液にはカタラーゼ(CAT)、スーパーオキシダーゼ(SOD)、ペルオキシダーゼ(POD)などの酵素が含まれていますが、これらの働きによって発がん物質を抑えています。また、このうちCATとPODは過酸化水素水、SODはスーパーオキシドなどの活性酸素を消去する酵素です。『腸内革命』 第2章 より 藤田紘一郎:著 海竜社:刊
活性酸素は、免疫力を低下させ、ガンなどの生活習慣病のリスクを高めます。
それだけでなく、腸内環境を悪化させる大きな原因となります。
忙しくても、食事は余裕を持って、ゆっくりと、しっかり噛んで頂く。
それが、健康を維持する重要なポイントです。
腸内環境と免疫機能の関係
腸内環境を保つことの利点として、「免疫機能の強化」も挙げることができます。
NK細胞(ナチュラルキラー細胞)に代表される腸内で作られる細胞。
それらによって免疫機能は保たれています。
このNK細胞を含む免疫細胞の70パーセントが腸内細菌によって作られています。腸内細菌が免疫細胞を刺激し、活性化する物質を出しているのです。そして、腸内細菌は種類、数が多いほど免疫力が高まります。こう考えると、改めて腸という内臓の重要さ偉大さを痛感させられます(ちなみに、残りの30パーセントは内分泌系や神経系の刺激、笑いや運動、イメージトレーニングによって作られる)。腸内細菌はセロトニン、ドーパミンという「幸せ物質」を作り出すとともに、感染症やがんなどの生活習慣病から体を守る役割、つまり命に直結した役割をも果たしているのです。
『腸内革命』 第4章 より 藤田紘一郎:著 海竜社:刊
腸内環境の善し悪しが、病気のかかりやすさにまで、大きく関わっているということ。
見えない部分だからといって、放っておくことは出来ませんね。
アレルギーと免疫細胞の働きの関係
藤田先生は、清潔志向や抗菌志向が強まりが花粉症などのアレルギー発症者の増加とは無関係ではない
と指摘します。
従来、免疫機能が相手にして闘っていたのは、寄生虫やウイルス、細菌類などでした。これらが体内へ侵入しようとすると、免疫機能が働き、その侵入ををシャットアウトしてきたのです。
しかし、この何十年間で公衆衛生の環境は著しく向上しました。身の回りから細菌類やウイルス、微生物などがめっきり数を減らしたのです。
そこに人々の徹底した清潔志向が関与していたことは間違いありません。清潔でクリーンな生活は、快適性を求める現代人のニーズにぴったりとマッチしました。
人々はますます清潔志向を高め、その”副産物”として、かつては体の中に棲んでいた寄生虫や細菌を駆逐してしまったのです。
困惑したのは免疫細胞です。本来、攻撃すべき相手がいなくなってしまったのですから、毎日が「不戦勝」のようなものです。
しかし、これは免疫細胞のあるべき姿ではありませんから、微妙な狂いが生じ始めます。
こうして、それまでは相手にしなかった花粉やホコリを相手に闘うようになり、その結果としてアレルギー反応が起きてしまったのです。
過度の清潔志向が免疫機能を狂わしているのですから、アレルギー性疾患の患者さんが「ブーイング」すべきは、花粉やホコリなどのアレルゲンではありません。
度を越した清潔志向や防菌志向を改めるときがきているのです。『腸内革命』 第4章 より 藤田紘一郎:著 海竜社:刊
本来、人間を守るためにあるはずの免疫機能。
それが、逆に人間に害を与えることになってしまった結果が、「アレルギー」です。
清潔にすることは、もちろん大事なことです。
しかし、清潔にし過ぎるのも、問題だということです。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」
普段の生活でも気を付けたいですね。
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☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「幸せ」は「心身の健康」が土台となります。
そして、「心身の健康」は「健全な腸内環境」が基本となります。
「体にいいものを、よく噛んで」
生活習慣を変えるところから日々積み重ねていきたいですね。
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