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【書評】『中国の越えがたい「9つの壁」』(沈才彬)

 お薦めの本の紹介です。
 沈才彬さんの『中国の越えがたい「9つの壁」』です。

 沈才彬(しん・さいひん)さんは、多摩大学大学院フェローです。

「世界一」を目指す中国に立ちはだかる“壁”とは?

 急速な経済の発展が続く中国。
 彼らの最終的な目標は、米国を抜き、世界一の経済大国になること。
 そして、中所得国から高所得国へのステップアップを果たすことです。

 ところが、沈さんは、中国の行く手には、いくつもの“罠(わな)が待ち構えていると指摘します。

 今の中国は、生産年齢人口減少、経済成長の減速、腐敗蔓延(まんえん)といった問題を行く手に阻まれつつある時期に直面している。先行きは決してバラ色ではない。
 2016年の年明け早々、株価が暴落したのは記憶に新しい。中国人民元は切り下げられ、資本の逃避が発生している。その結果、世界最高を誇る外貨準備高が急速に減っている。また、中国の将来を楽観的に捉える見方がある一方、中国経済の見通しに対する悲観的な見方も確実に増加傾向にある。
 30年以上にわたって高度成長を続けてきた中国は今、大きな曲がり角に差し掛かっていると言っていいだろう。二ケタ成長の時代は終わり、2015年のGDP成長率は6.9%にまで下降した。これは25年ぶりの低水準であった。中国経済は正念場を迎えている。この状況を受け、経済危機を起こすのではないかとと世界が注目している。中国経済が減速すれば、鄧小平が唱えた「三段階の目標」の達成も、習近平が掲げた「中国の夢」の実現も暗礁に乗り上げることになるだろう。
 中国の前に多くの「壁」が立ちはだかっていることについて疑いの余地はない。他国による自国超越を許さないアメリカの壁、南シナ海問題の壁、TPPの壁、台湾独立の壁、新疆(しんきょう)・チベットにおける少数民族問題の壁、日中関係の壁など、どの壁も乗り越えるのが困難なものばかりであり、中国が目指す世界ナンバーワンへの道は決して平坦(へいたん)ではない。

 『中国の越えがたい「9つの壁」』 はじめに より 沈才彬:著 KADOKAWA:刊

 本書は、今後の中国の進路を阻む「9つの壁」についてわかりやすく解説した一冊です。
 その中からいくつかピックアップしてご紹介します。

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「中所得国の罠」という壁

 2030〜2050年に、世界ナンバーワンの経済大国になり、先進国の仲間入りを果たす。
 この野心的な目標を挑む中国が、最初にぶつかるのが、「中所得国の罠」です。

 これまで、中所得から高所得へと上昇することができたのは、わずか13カ国。
 そのうち、8カ国がヨーロッパの国と中東産油国で、残りの5つが東アジアの国・地域です。

 これら東アジアの5つの国・地域とは、日本、韓国、シンガポール、香港(ホンコン)、台湾を指す。ただし日本は戦前から先進国だったので、発展途上国から先進国への仲間入りをしたということにならない。
 では、日本を除外した4つの国・地域にはどういう特徴があるのだろうか。それを調べた結果、いくつかの共通点が浮かび上がってきた。
 まず1つ目が、これらの国・地域がかつて植民地であった点だ。韓国と台湾は戦前、日本の植民地であり、戦後はアメリカの影響下にある。シンガポールと香港はイギリスの植民地だった。
 植民地支配にもろ手を挙げて賛同することはできないが、ただしその後の経済発展という観点から見ていくと、すべてにおいて悪かったわけではないと言うことができる。植民地支配を通して、法律などの制度的なものが導入されていくと同時に、経済成長には欠かせないインフラ設備なども整備されていったのである。高所得に転換できた4つの国・地域には、こうした共通点が存在する。
 もう1つの共通点としてあげられるのが、いずれも海洋国家・地域であるということだ。韓国、シンガポール、香港、台湾の中に大陸国家は1つもない。これも重要な共通点と言える。
 3つ目は、いずれも民主主義体制への以降に成功しているという点だ。確かにシンガポールでは依然として一党支配が続いているが、民主主義の価値観は国民の中に浸透している。中国の一部である香港も、純粋には民主主義体制下にあるとは言えないかもしれないが、制度として中国本土とは切り離されており、自由主義が認められている。要するに、独裁主義体制あるいは権威主義体制の国は1つもないのだ。
 4つ目の共通点は、人口規模が数百万人から多くて数千万人にとどまるという点である。すでに除外している日本を別にして、1億人以上の人口の国・地域は1つもない。
 これらの共通点を踏まえ、仮に中国が中所得国の罠をクリアしたとすれば、韓国、シンガポール、台湾、香港、に共通する4つの点をすべて覆すことになる。
 まずは中国は、19世紀から20世紀にかけて半植民地状態に陥ったが、完全な植民地にはならなかった。海洋国家ではなく大陸国家という点でも、他と異なる。さらには、民主主義国家ではなく、開発独裁の権威主義国家であり、共産党一党支配の国だ。加えて、13億人という世界最大の人口を擁している。
 高所得を達成した国・地域との共通点を持たない中国が高所得国の仲間入りをすれば、人類史上、前例のないことが起きることになる。果たして、そんなことが実際に起こり得るのだろうか。中国にとっては大きなチャレンジであり、今後も中国には世界中から関心が注がれ続けることだろう。

 『中国の越えがたい「9つの壁」』 第1章 より 沈才彬:著 KADOKAWA:刊

 GDPで日本を追い越し、世界第2位の経済大国となった中国。
 とはいえ、一人あたりの額では、まだまだ先進国のレベルには遠く及びません。

 中国の1人当たりGNI(国民総所得)は、ようやく約8000ドルに達しました(2015年現在)。
 国連および世界銀行が定める「高所得」の基準は、1人当たりGNIが1万2746ドル以上です。
 沈さんは、上位中所得から高所得に入るための「あと一歩」がとてつもなく高い壁だと指摘します。

 この先、中国は、経済大国として順調に成長を続けることができるのか。
 まさに正念場を迎えているということですね。

「アメリカ」という壁

 既存の超大国と新たに台頭する超大国は、必ずぶつかり合う運命にある。
 これは歴史が繰り返す事実で、「トゥキディデスの罠」と呼ばれています。

 米国と中国は、あらゆる分野において対立関係にあり、中国の成長とともに激しさを増しています。
 両国が「トゥキディデスの罠」にはまり、戦争状態に突入する可能性はあるのでしょうか。

 歴史的に見れば、臨海を超えた時点で衝突が起きてしまうように思えなくもない。だが実際に、米中がトゥキディデスの罠にはまるようなことはあるのだろうか。
 個人的な見方だが、このシナリオは成り立たないと私は考えている。その理由は、核兵器を持つ大国同士の戦争が起きた前例がないからである。
 第2次世界対戦後、米ソ冷戦は激しさを増していったが、結局、両国間に戦争は起こらなかった。アメリカもソ連も相手を壊滅するに十分な力を持っており、実際にキューバ危機のような一触即発の事態も招いたが、最終的に戦争状態には突入しなかった。アメリカやロシア(旧ソ連)同様、中国も核兵器保有国である。仮にアメリカが先制攻撃をして中国に核攻撃を仕掛けた場合、中国は確実にアメリカに対して報復攻撃を行うことになる。だが、そうなればどちらも甚大な被害をうけるため、激しく対立しても最後の最後で戦争衝突を避けようとするだろう。別の理由としては、アメリカが覇権国家から少しずつ脱落しつつあるという事実がある。それと同時に、国力自体も弱ってきており、軍事的に3正面作戦に従事する余裕がない。
 現在、世界はヨーロッパ、中東、東アジアの3ヶ所で火種を抱えている。中東ではイスラム国(IS)が出現し、アメリカは中東から完全に手を引くことができていない。ヨーロッパではウクライナ問題がくすぶっており、これにテロ問題も加わって不安定な情勢が続いている。こういう状況にありながら、東アジアにおいて中国と正面衝突するという発想は、大統領のオバマにはない。そもそもオバマが大統領選に名乗りを上げた際に打ち出した基本政策は、イラクとアフガニスタンでの2つの戦争を終結させるというものだった。この政策が国民からの共感を得て、大統領に選ばれたのである。2017年、誰がアメリカの大統領になるかによって新たな変化は生じるだろうが、現時点で中国との武力衝突に突入するという選択肢は皆無だろう。
 中国にとっても事情は似たり寄ったりであり、3つの海で作戦を展開する能力はない。3つの海とは、東シナ海、南シナ海、台湾海峡を指す。

 『中国の越えがたい「9つの壁」』 第2章 より 沈才彬:著 KADOKAWA:刊

 政治やイデオロギーの分野では、激しく対立している米国と中国。
 しかし、経済の分野では、大きく依存し合っています。
 そんな事情もあり、戦争にまで発展する可能性は、今のところゼロに近いといっていいでしょう。

 起こる可能性はほとんどないが、起きた場合、世界が破滅するほどの大きな被害が生まれる。
 両国の関係は、そんなピリピリした緊張感に包まれています。

「南シナ海」という壁

 中国は、南シナ海における一部海域の領有権をめぐり、周辺国とつば競り合いを繰り広げています。
 当事者だけでなく、米国もそれに加わり、対立はエスカレートするばかり。

 この問題の根本には、南シナ海の経済的、地政学的な重要性があります。

 南シナ海は、中国、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、インドネシア、ベトナム、台湾に囲まれた海域を指す。このエリアの中で一番大きな島は中国の海南島であり、それ以外に大きな島はないが、中小の島々は数多く点在している。
 面積は356万平方キロメートルで、中国の国土面積である960万平方キロメートルの約3分の1と考えておいていいだろう。中国の領土に面している海には、渤海(ぼっかい)、黄海(こうかい)、東シナ海、南シナ海があるが、渤海、黄海、東シナ海の3つの海を足した面積の3倍に相当するため、かなり大きな海域と捉(とら)えることができる。
 南シナ海が注目されるようになったのは、海洋資源が豊富に眠っていることが判明して以降のことだ。石油と天然ガスの埋蔵量は230億トンから300億トンと見込まれ、石油だけで200億トン超にのぼるという。石油に絞れば、世界全体の12%を占めるとされ、“第2の中東”と呼ばれるほどの埋蔵量を誇っている。
 ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、インドネシアの5カ国は、すでに油田を開発し、1000以上の油井で操業している。5カ国合計の年間産油量は6000万トン。最大の油井(ゆせい)保有国はベトナムで、フィリピンがそれに続く。一方、現時点で中国が開発している油田は1つもなく、南シナ海での石油開発は遅れている。
 南シナ海が注目される別の理由は、ここが海上交通の要衝であるということだ。中国に限ると、貿易の50%、石油輸入の80%が南シナ海経由でやってくる。つまりこの海は、中国にとって生命線であると言ってもいい。
 全体として見ると、毎年4万隻の船が南シナ海を往来しており、世界全体における液化天然ガスの海上輸送の3分の2がこの海を通っている。特に、日本、韓国、台湾にとっては、石油輸入の90%が南シナ海を経由して運ばれてくる。
 これほど重要な海だけに、領有権に関する各国の主張に熱が入るのは当然だ。
 海洋面積356万平方キロメートルに対し、中国が自国海域だと主張する面積は210万平方キロメートルである。これに対し、ベトナムが主張する面積は111平方キロメートル、フィリピンは59平方キロメートル、マレーシアが14平方キロメートル、ブルネイが5万平方キロメートル、インドネシアが8万平方キロメートルで、これらの国が主張する面積を合計すると407万平方キロメートルとなる。実面積を上回っているのは、各国が主張する領域が重なっているためで、この問題は単純に解決できる状況にはない。

 『中国の越えがたい「9つの壁」』 第3章 より 沈才彬:著 KADOKAWA:刊

 豊富な海洋資源に加えて、海上輸送の要衝。
 南シナ海の領有権問題は、東アジアのパワーバランスを左右する大きな問題です。
 中国も、米国も、簡単に相手の主張を受け入れるわけにはいきませんね。

「TPP」という壁

 2016年2月、米国や日本が中心になって発足した、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)。
 TPPは、アメリカを中核とするアジア太平洋地域における経済同盟です。
 現在、日米両国の他、オーストラリア、メキシコ、カナダ、シンガポールなど、12カ国が参加。
 これらの国々の市場が合わさることで、世界のGDP36.3%のシェアを占める、巨大な自由貿易圏が誕生します。

 沈さんは、アメリカには、アジア太平洋地域における中国排除という思惑があるのは明らかだと指摘します。
 TPPの発効により、域内の国々は、大きな経済的メリットを受けることになります。
 一方、仲間外れにされた中国は、非常に大きな経済的損失を受けることになります。

(前略)TPPが実際に機能し始めれば、WTOのような既存の世界貿易組織は形骸化(けいがいか)、弱体化する恐れも出てくる。
 特にWTOの場合、現在進行中のドーハラウンドがなかなか妥結しない。こうなると、形骸化、弱体化にますます拍車がかかるだろう。
 仮にそうなれば、TPPから除外されている中国が孤立することになる。現在、アメリカとEUの間で環大西洋貿易投資パートナーシップの交渉が始まっていることを考えると、なおさら中国孤立の懸念が高まる。仮にそうなれば、中国にとって不利な状況が生じてくる。中国側から見てネガティブな点は、やはり経済損失を被るということだ。アメリカの元財務次官補で、ピーターソン国際経済研究所のシニアフェローを務めるフレッド・バーグステンによれば、現在の中国の年間貿易額のうち、350億ドルはTPP参加国に奪われるという。
 仮に将来、中国を除くAPEC(アジア太平洋経済協力)参加国すべてTPPに加わるような事態になれば、中国の貿易の損失は1000億ドルを上回ると予想されている。
 これまで中国産品は、アメリカ市場において圧倒的なシェアを誇っていた。特に、繊維、電子、皮革などの労働集約型の産業製品では中国製がアメリカ市場を席捲(せっけん)してきた。現在でもその傾向は続き、例えば、繊維製品のアメリカ市場シェアで中国は36%を占めている。ベトナムもシェアを広げてきてはいるが、それでも10%超である。
 ただし、TPPが発効されれば、中国からの繊維製品、電子製品、皮革製品といった労働集約型製造業分野の北米向け輸出シェアは、ベトナム、マレーシア、メキシコに奪われる恐れが出てくる。
 これとは別に中国にとって不都合なのは、アセアン向けの輸出である。現在のところ、ハイテク分野、技術集積分野において中国製品は圧倒的なシェアを誇っているが、TPPが発効されれば、半導体、コンピュータ、機械、携帯電話といった技術集約型製品のアセアン向け製品の輸出シェアは、日米に奪われるかもしれない。仮にそうなれば、アセアン地域との貿易でも中国はマイナスの影響を被ることになる。
 さらに考えられるのは、外資の撤退だ。TPPの規定には、原産地規則というものがある。つまり、ゼロ関税率の優遇を受けるのは域内12カ国だけであり、日本企業が中国にある現地工場で生産した製品の他のTPP参加国に輸出した場合、ゼロ関税率は適用されないのだ。
 そうなれば、ゼロ関税率の優遇を受けるために、外資系企業は中国からTPP参加国にシフトしていくという流れができる。
 中国では今、人件費の上昇に伴い、生産コストが高くなっている。そのため、すでに中国からアセアンにシフトする動きが出てきているが、TPPが発効すれば、この傾向はさらに加速するだろう。

 『中国の越えがたい「9つの壁」』 第4章 より 沈才彬:著 KADOKAWA:刊

 TPP域内の国々との貿易が大幅に縮小する。
 加えて、中国国内にあるTPP域内の国々の工場も撤退する。

 TPPが中国に与える影響は、私たちが考えている以上に深刻なものです。
 先行きはまだまだ不透明ですが、もし、TPPが機能するようになった場合、中国はどう出るのか。
 注目したいですね。

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 以前の驚異的な伸びではなくなりましたが、なお高い経済成長率を示す中国。

 順調に成長を続けて、米国に代わる覇権国家になるのか。
 それとも、途中で挫折し、数ある大国のひとつのまま終わるのか。
 はたまた、経済が破綻し、国の体制が変わるのか。
 その行く末は、日本を含む東アジア全体の未来に、大きく関わってきます。
 
 見えない大きな「9つの壁」に挑み、さらなる発展を狙う中国。
 その動向には、これからも注目していきたいですね。

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